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アルモアの星伝説  作者: トド
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第九話 マードラの遺跡 その一

早朝ジュダの街を出た俺達は、アーズの村を目指して出発した。

アーズの村までは、慣れた者でも7日はかかるそうだ。

深い森をいくつも越え、五つの橋を渡り切った所にアーズの村があるという。


俺達はこの辺りを詳しく書いた地図をもらっていたので、それを見ながらアーズの村までのルートの確認をした。

するとエレナが地図の中に、小さく✕印の入っている場所が四か所ある事に気づいた。


「あら?この印は何かしら?」


エレナがその印を、一つ一つ指でツンツンしながら不思議そうに首を傾げた。


「✕印って言う事は、たぶん危険な場所なんじゃないのかな?」


俺はこの印の場所は無視して、アーズの村へ行くことを提案したが、「いや、いや!これは何か特別な意味がもあるんじゃねえのか?ちゃんと調査する必要があるぜ!」とネイルが言う。


調査と言うと聞こえはいいが、もちろん彼の狙いは、ジュダの王が隠したという財宝が目当てなのは言うまでもない。


で、どうするか話し合ったところ「とりあえず最初の印の場所を確認してみよう」という事で話がまとまった。


最初に立ち寄ったのは、ジュダから南に下った場所にある1つ目の橋を渡り、そこから東に進み、深い森を突き切った場所にある✕印であった。

森の中では、使い魔やゴブリンが頻繁に出現したが、もはや俺達の脅威ではなかった。

俺達のレベルが上がったのも大きいが、驚いた事にエレナが思い出したトルネードの魔法が超強力なのである。何せリサのファイアを敵全体にぶち込んだぐらいの威力を持っていたのだ。

この魔法を初めて見た時、その威力に驚いたネイルが、こっそり俺に聞いて来た。


「エレナちゃんって、本当は何者なんだ?誰にも言わねえから教えろよ!」


それはこっちが聞きたいセリフであった。


森を抜け、橋を越えた所が×印の位置であったが、そこには小さな庵がポツンとあるだけだった。

しかも残念な事に扉には鍵がかかっており、開ける事も、だれが住んでいるのかさえも確認する事ができなかった。

だがリサが言うには、この庵には結界が張られ、外部からの攻撃や魔物の侵入を防いでいるので、ここに住んでいる人は高度な魔法技術を持つ人、つまり賢者ではないか・・・と。

事の真相は分からないが、こんな辺鄙な場所に住んでいるのなら、普通の人でないのは確かだろう。

しかし、これで✕印には何か特別な意味がある事が分かったので、調査の対象に含むことになったのである。


次の印の場所は、その庵から北に上がった険しい山が延々と連なる一角であった。

山と山に挟まれた細い道が延々と続き、山から吹き降ろす風がビュービューと音を立て、俺たちの体温を容赦なく奪っていく。

我慢してしばらく進んで行ったが、いつしか不気味な霊気が漂い始め、さらに荒涼とした大地に吹き荒れる砂塵で前が見えなくなって来たため、途中で引き返す事にした。

ネイルはトレジャーハンターの勘で、ひょっとするとこの先が死者の谷ではないか?と言っていた。


残りの二つの印はアーズの村を越えた場所にあり、今の俺たちはガルダインさんの依頼を優先する必要があるため、打ち切って目的地のアーズの村へと急いだ。


アーズの村は、田園風景が広がるのどかな田舎の村だった。

ここを拠点に、明日からマードラの遺跡を探索するのだが、その前にこの辺りの情報を集めて整理してみた。


この村で得た情報は、ほとんど財宝に関するもので、それを目当てに大勢のトレジャーハンター達が訪れているようだ。

中でも死者の谷にあると言われる財宝の情報が多く、一説ではマードラの城が戦で落ちた時、ジュダの王は莫大な財宝をどこかの洞窟に隠したそうだが、それが死者の谷だと言われているそうだ。今までたくさんの冒険家がそれを捜しにこの地へやって来たのだが、まだ誰もそれを見つけた者はいないらしい。


何でも死者の谷には王の呪いが掛かっているらしく、たとえ見つけることが出来ても、洞窟へ足を踏み入れた者は奈落の底に落とされ、けして生きては帰れないそうだ。

財宝の中にはすごい伝説の剣があると聞き、俺は少し心が動いたのだが、奈落の底に落とされるのはちょっと困る。

残念だけど、ここはあきらめた方がよさそうだ。


それともう一つは、村の北にある火山にも、すごいお宝が隠されているという話。

そのお宝を手に入れるには、火山の近くに住む賢者の知恵が必要らしいが、まだ誰も会った事はないらしい。


村の人たちの話では、とにかくこの辺りは宝の話で持ち切りだが、まだ何も見つかっていないので、単なる作り話かもしれない・・・・という事だった。

確かに、噂話が独り歩きしている可能性も十分考えられた。


そして肝心のマードラの遺跡だが、村に来ていた同業者トレジャーハンターから面白い話を聞くことが出来た。


オレ達がミューゼの書を探しにここへ来た事を話すと、キングラムの財宝を狙っているのか?と聞かれた。

その同業者の話では、何でもミューゼの書には、キングラムの秘宝の事が記されているらしいのだ。

自分たちもキングラムの財宝には興味はあるが、それを狙えるだけの実力がまだ付いていないので、残念だが手が出せない・・・と言っていた。


この話を聞いて大喜びしたのが、もちろんネイルだった。

ここへ来てからは財宝の話ばかり、それだけでもテンションが上がっているのに、キングラムの財宝となると、そこらのお宝とは比べ物にならないほど貴重な物に決まっているのだから。


次の日の朝、マードラの遺跡へと向かったが、ネイルのやる気とは対照的に、リサはもうこの世の終わりかのような顔をしていた。

心配したネイルが、リサに声を掛けた。


「おめえ、大丈夫か?ほら、オレのお守りをやるから元気出せよ」


そう言うと、リサにお守りを渡した。

これはジュダの酒場で、店のカウンターの中にいたバニーちゃんから貰ったお守りで、ネイルが俺達に自慢していた物だった。

リサは嬉しそうにお守りをポケットにしまうと、少しだけ元気になったようだった。


歩くこと一時間半。

マードラの遺跡は、いかにも戦場跡といった感じで、とても嫌な雰囲気の場所であった。

壊された建物にツタや雑草が絡みつき、いたる所に白骨が転がっている。

ここへ来るまでは元気だったネイルも、さすがに神妙な顔つきで辺りを見回していた。


古城の正面にある大きな鉄の扉には鍵が掛かっていた。

ネイルはポケットから赤い結晶石を取り出すと、おもむろに鍵穴にはめ込んだ。

すると扉全体から赤い光が拡散されたかと思うと、ガチャン!!と大きな音を立て、重い扉が開いた。


ギギギギ・・・・・・イ・・・・。


中を覗くと、広々とした石畳の空間があるが、暗くて先の方まで良く見えない。

中に入ると一面蜘蛛の巣だらけで、そして何やらかび臭い匂いが充満している。

それだけでも気が滅入ってしまうのに、お化けまで出るとなると、誰も寄り付かないのは当たり前であった。


少し進むと、正面には恐らく玉座へと続くであろうと思われる、大きな階段があった。

その階段を登り切った所に、大きく頑丈な鉄の扉があり、ここにも鍵が掛かっていた。

ネイルは赤い結晶石を鍵穴に入れようとしたが、何故かこの扉には鍵穴が付いていなかった。

不思議に思い周りをよく調べてみると、扉の左側の壁に周囲を装飾された四角いプレート(凹み)があった。どうやら、ここに何かをはめ込むと、扉が開く仕組みになっているようだ。


階段を降りて元の位置まで戻り、そこから通路を西に進むと、扉があったが、その前に何か人影のようなモノが見える・・・。

薄暗くてよく見えない・・・のではなく、それは鎧を着た兵士だ。

体が透けているからよく見えないのであった。

つまり、やっぱり居たのだ、兵士の亡霊が・・・。


「ひええ~~~~~っ」


リサが恐怖で悲鳴を上げた。


「おめえ、やっぱりお化けが怖いんだろ?だったら無理せず帰っていいよ」


ネイルが心配してそう言ったが、リサは無言で首を横に振っている。

さすがは暗黒魔導師総帥の孫だけあって、そこはプライドが許さないようだ。

だけどよく見ると涙目になっているし、歩き方がゼンマイ仕掛けの玩具のようにカクカクしていて変だった。

そんなリサの肩に手を置き、エレナは優しく声を掛けた。


「私が絶対にリサには近づかせないから、安心していいよ」


リサはうん、うん、と頷き、エレナの袖をつかんでついて行く。


鎧を着たガイコツ兵が、薄い緑色のモヤモヤとした光芒を放ち、扉を背にして立っていた。


「あれって、骨と皮だけの屍だろ?本当に動くのか?」


ネイルがそんな事を言いながら、そろり、そろりと間合いを詰めて行くと、俺たちに気づいたのか、兵士の亡霊はこちらを見て薄ら笑いを浮かべた。

そして次の瞬間、扉の中から二体の亡霊が現れ、一緒になって俺たちを襲ってきた。


俺とネイルは、リサが本調子ではないので、その分をカバーしようと全力で立ち向かった。

その時である。


グオーーーーーッ!!!


大きな火球がオレとネイルの横をかすめ、先頭の亡霊を直撃!!そのまま後ろの扉まで吹き飛ばした。


すでに攻撃に入っていたオレとネイルは「えっ?」と思ったが、勢いが止まらずそのまま攻撃を開始。

エレナのトルネードの魔法も敵に大きな打撃を与え、ほとんど攻撃を受けないまま殲滅させることが出来た。


「おい、おい、リサ!いくら怖いからって、魔力の調整が出来ないと危ないぜ」


ネイルがリサに文句を言った。


「ちゃんと調整しているもん!」


「えっ?」


俺やネイルが驚くのも無理はなかった。

さっきの魔法は、ファイアのレベルが上がった、ファイアⅡだったのだ。

今までのファイアの三倍の威力がある、強烈な炎だった。


魔法を使う者にとって、レベルが上がるという事は、とても大事なことなのだそうだ。

魔法のレベルが上がると、より強力な魔法が使えるようになるが、ただ単純に魔力の消費量に比例するのではないらしい。

つまりリサのファイアⅡは、ファイアの三倍の威力があるのだが、消費する魔力はファイアの二倍になっただけなのだ。

少し魔力の消費が上がるだけで、より強力な魔法を発動する事が出来るので、レベルアップはとても大切で、嬉しい出来事なのだそうだ。

ただ、今の彼女はお化けが怖くて、それどころではないだろうけど・・・・。

で、このファイアの魔法はレベルⅢまであるそうだ。

たぶんその上もあるかもしれないが、このファイアに関しては、それ以上レベルを上げる必要はないらしい。

なぜなら、暗黒魔法には”禁断の超魔法”というのがあって、そちらの習得を目指す方が絶対に良いのだそうだ。

俺は魔法に関しては知識が無いので、リサに素朴な質問をしてみた。


「ファイアは敵単体を攻撃する魔法だけど、レベルが上がっても、エレナのトルネードの様に敵全体を攻撃する魔法にはならないのかい?」


リサは、魔法の種類が違うので、そうならないと言った。

炎系の全体魔法には”フレアー”という魔法があるそうで、今度リサが受ける昇級試験に合格すると、この魔法が使えるようになるのだそうだ。


「これ以上強くなったら、もう手が付けられなくなるじゃねえか・・・」


味方にとっては嬉しい話だが、ネイルは違う意味で恐れているようだ。


扉を開けて中に入ると、頑丈な鉄格子に守られた広い牢獄の部屋になっていた。

鉄格子の間に扉が三か所あり、真ん中以外の両サイドの扉には、兵士の亡霊が立っている。

俺たちは恐る恐る真ん中の扉まで行き、扉を開けてみたが、やはり鍵が掛かっていた。

扉のプレートには”宝物庫”と書かれている。


「ちっ、やっぱやるしかないな!」


覚悟を決め、俺たちは左の扉の亡霊に攻めかかった!

敵は二体だったが、どの程度の強さか調べるため、攻撃パターンを決めて攻撃に入った。リサには、まず左の一体にファイアの魔法で攻撃。

エレナはトルネードの魔法で全体を攻撃。

ネイルはムチで全体攻撃。

俺は剣で左の敵を斬る。

この一連の攻撃で、左の敵を倒す事が出来た。

次にもう一体へは、リサがファイアⅡで攻撃。

後の三人は、武器での攻撃を仕掛ける予定であったが、リサのファイアⅡだけで倒してしまった。

この間、敵の攻撃を二回受けたが、大した怪我ではなく、ヒールの魔法一回で全快できる程度の負傷であった。


扉を開けて中に入ると、広々とした牢獄には無数の白骨死体が転がるだけで、特に期待できるような物は何もなかった。

ただ兵士の亡霊が二体フラフラとさまよっていたので、攻撃を仕掛けた。ひょっとしたら何か隠し持っているかもしれないからだ。


今度はエレナの魔法を使わず、リサのファイアの魔法だけで戦ってみたが、さすがにこれでは簡単に倒す事が出来ず、敵の攻撃を四回も受けてしまった。

もし一人が集中して受けてしまうと致命的な怪我になりかねないので、やはりエレナのトルネードと、リサのファイアⅡは必要なのだった。


次は右側の扉の亡霊を倒し、牢獄の中に入ったが、ここも何もないただの牢獄であった。

そして二体の兵士の亡霊がさまよっていたので、攻撃を仕掛けたのだが、残念ながら兵士の亡霊は何も期待できる物は持っていなかった。

この戦いが終わった時点で、エレナの魔力が残りわずかとなったため、今日は一旦引き上げる事にし、俺達は遺跡の外に出た。


外に出るとリサが急に元気になって、ニコニコと笑顔を振りまいている。

ここから出られた事が、よほど嬉しかったのだろう。

その横でネイルもニヤニヤと笑っている。


(ギョッ!!)


リサの笑顔はすごくチャーミングで可愛いのだが、いい歳した男のニヤニヤ笑う顔なんて、あまり気持ちのいいものではない。


・・・と言うより、気持ち悪い!!不気味だ!!


「おい、ネイル!なにをそんなにニヤニヤしているんだよ?」


「ほんと!まだ何も見つけていないのに・・・」


エレナは不審者を見るような目でネイルを見ている。

リサはこの時ようやく、自分の横でニヤニヤ笑っているネイルの顔に気づき、ビクッ!!と驚いて、思わず、すっ転びそうになった。


「へっ、へっ、へっ・・・・実はな・・・」


「へっ、へっ、へっ・・・・」


「いや、今はまだいいや!」


そう言うと、ニヤニヤしながら歩き出した。


「なんだ、気持ち悪いな・・・」


気にはなったが、どうせネイルの事だから大した事ではないだろう・・・。

そう決めつけ、オレ達はアーズの村へ戻った。


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