第八話 黒の賢者からの依頼
「なんと!!ネルソンがドルドガの村に!?」
リサから事の顛末を聞いたガルダインは、意外な話に少し驚いた様子であった。
「うん、あっと言う間に全部の魔物をやっつけちゃったよ!」
「そうか、それはよかった。しかし、やはり王の派遣した兵士たちは間に合わなかったのだな?危ないところじゃった・・・」
ガルダインは眉間に深いシワを寄せて唸った。
「でも、ここにいる皆もがんばったんだよ!ね、ネイル!」
「お、おう!オレ達も結構頑張ったよな、アレン!!」
「うん、あともう少し遅かったら、今頃エレナやリサ達は・・・」
ガルダインは、そう話すリサの仲間たちを見て、リサに催促した。
「リサ、この頼もしいお前の友達をワシに紹介してくれぬか」
リサは改まって俺達の方を振り向き、塔の主を紹介してくれた。
「あのねみんな、リサのおじいちゃんの名前はガルダインって言うの。この塔に住んでいるのよ」
ネイルは引き継いでリサの言葉を補足した。
「ガルダインさんは、通称”黒の賢者”と呼ばれ、暗黒魔導師の総帥であり、そのルーツは、アルモアの伝説に出てくる三人の勇者の一人なんだぜ!」
「えっ!じゃあ、あの白の賢者ネルソンと言う人と同じ・・・」
「あのね、おじいちゃん!ネイルの隣にいるのがアレン。ドルドガ鉱山で働いていて、爆弾使いの名人なの。剣の腕前もすごいのよ!!」
「で、その隣がエレナ。お姉ちゃんはね、事故で記憶を無くしちゃって、自分の名前以外なんにも思い出せないの。かわいそうでしょ?」
そこまで話すと、リサはある重要な事を思い出した。
「あ、そうだ!!あのね、あの魔物どもったら、エレナを狙っていたのよ!」
リサの言葉におどろいたガルダインは、アレン達に尋ねた。
「何じゃと、それはどういう意味じゃ?今回各地で起こった事件は、若い女性を連れ去ろうとしていたと聞くが、ドルドガの事件だけは、特定の女性を狙っておったと言うのか?」
ネイルはガルダインの問いに答えて、「そうなんですよ、ガルダインさん。ここにいるお嬢さんを狙っていたみたいなんですよ。」
「で、オレの思うのには・・・」
「あんたはそれ以上喋らなくてもいいの!!」
リサが慌てて止めた。
「エレナさん、と申されたの・・・。自分が魔物どもに狙われることに対し、何か思い当たる節はござらぬか?」
「・・・・・・・」
答えられないエレナを見て、ガルダインは他の者に尋ねた。
「ふむ、では他の者に聞くが、魔物がこの娘さんを狙った理由は何だと思う?
魔物との戦いの中で、何か気づいた事はなかったかの?どんな些細な事でもよいぞ」
その時アレンがある事を思い出した。
「そう言えば、確かあいつら、
ミコ・・・・。たぶん神に仕える巫女の事だと思うけど、巫女を捜せ・・・。巫女を殺せ・・・・って言っていたな・・・」
ガタッ!!
アレンのその言葉を聞いた途端、エレナが急に立ち上がった!
顔が蒼白になり、目の焦点が合わずに身体がガタガタと震えている・・・・。
アレンはエレナの態度が急変したのに驚いて、声を掛けたが、エレナには聞こえない。
アレンの言葉がきっかけとなり、フラッシュバックを引き起こしたのだ。
「巫女を・・・・・捜せ・・・・・・」
今エレナの目に見えているのは、激しく燃えさかる赤い炎だけであった。
その炎がユラユラと陽炎の様に揺らいでいる。
他のものは何も見えない・・・・。
その炎の向こうで、誰かが声を出して叫んでいるようだが、それも分からない。
<巫女をさがせ!!風の谷の巫女を捜せ!!テローペの巫女を捜せ!!!>
<巫女は殺してはならぬ!!!!巫女に怪我を負わしてはならぬ!!!>
<巫女を捕まえろ!!!・・・・それ以外の者は皆殺しにしてしまえ!!!!>
「風の谷・・・。テローペの巫女・・・」
エレナがうわごとの様につぶやく・・・。
「ハッ!!」
そして今度は、はっきりとした口調で叫んだ!
「風の谷テローペ!!!」
「アレン!私の生まれ育った所はテローペ!!風の谷テローぺよ!!」
*エレナは風の魔法トルネードを思いだした。
「エレナ!!記憶が戻ったんだね!!!」
アレンは慌ててエレナに駆け寄った。
「あ!」
「・・・・ううん、これだけしか思い出せないの・・・・」
「そうか、でも、少しでも思い出せたんだから、きっと今に全部思いだせるよ!良かったねエレナ」
「うん!ありがとうアレン」
「おじいちゃん、テローペって知っている?」
「テローペ・・・。う~む・・・。聞いたことがあるような気がするのじゃが。はて、思い出せぬわ」
「そっか・・・。おじいちゃんが知らないのなら、きっと遠い国なのね。あ、そうそう、お姉ちゃんたちなんだけど~。魔物に狙われているから、この街に来てもらったの。おじいちゃん、守ってあげてね」
ガルダインは大きく頷き、そして話を切り出した。
「その事なんじゃが、リサよ!お前も含め、ここにいる皆に頼みたい事があるのじゃ」
「えっ?おじいちゃんがリサ達に?」
「そうじゃ、事ここに至っては、もはや秘密にする事は得策ではない。皆にこの事実を知ってもらい、協力してもらわねば、このお嬢さんを救うことは出来ぬ事態となったのじゃ」
「皆も今度の魔物騒ぎで、何か異変が起こりつつあることは、薄々と感じておると思うが、事態は深刻なものとなった」
「実は伝説の魔王が復活したのじゃ!!」
「えーーーーーーっ!!!」
皆が一斉に声を上げた。
「だが、魔王が復活する事は、魔王を倒した時から既に分かっておったのだ。今から二千年も前からの・・・」
アレンはガルダインに尋ねた。
「どうして魔王が復活する事が分かったのですか?
もしかして、本当は魔王を倒していなかったのですか?」
「いや、魔王を倒したのは間違いない。だが、それは魔王の実体だけで、魂は滅んではいなかったのじゃ!」
「そこで時の人々は、魔王を完全に滅ぼす方法をあみ出したのじゃ!魔王が再び肉体を取り戻し、蘇った時のためにな・・・」
そう言うと、ガルダインは魔法で一冊の本を出現させた。
「この本にその方法が記されておる。全部で三巻からなる、キングラムの黙示録じゃ」
「キングラムの黙示録!?」
「その本の話は聞いたことがあるぜ!オレ達トレジャーハンターの間では、値のつけようのない伝説のお宝だ」
「そうじゃ。魔王を倒した三人の勇者に手渡された伝説の黙示録。これには魔王を倒すのに必要な、二つの魔法の事が記されておる。だが困った事に、この二つの魔法のある場所と、使う方法を記した第三巻の行方が分からぬのじゃ」
「じゃあ、魔王を倒す魔法は使えないのですか?」
アレンは恐る恐る尋ねた。
「そうじゃ!しかし、このまま放っておいたのでは、魔王の支配する闇の世界になってしまう!何としても黙示録を探し出し、魔王を永久に葬り去らねばならぬ!そのために、お前たちの力が必要なのじゃ!」
ガルダインはここまで話すと、アレンをその鋭い目で直視した。
「アレンと申したな。お前さんは、爆弾使いの名人と言うではないか。ぜひその腕をワシに貸してほしいのじゃが、いかがかな?」
「これからワシがお前たちに頼むことは、その技術を持つ者でなければ無理な事じゃからな」
アレンは即答した。
「わかりました。それがエレナを救う事になるのなら!
俺に出来る事があれば何でも手伝います」
ガルダインは、アレンの頼もしい言葉に頷くと、
「うむ、では頼むとしょう。
アレンよ!ジュダの街から南に行くと、”マードラの遺跡”がある。
そこにある古い書物を持ち帰って欲しいのじゃ」
エレナが尋ねた。
「古い書物?それが、その・・・黙示録の第三巻なのですか?」
「いや、いや。そんな簡単に見つかると苦労はせぬよ。はっ、はっ、はっ・・・」
「実は第三巻を持つと思われる、もう一人の勇者の事は何一つ分からんのじゃよ。
そこで、その時代の事を調べたいと思っておるのじゃが・・・」
「ここで少し、この世界の時代の事を説明するとしよう・・」
そう言うと、半分眠っていたネイルを一括した。
「ネイル!目を開けておるか?!」
慌てて飛び起きたネイルを確認すると、ガルダインは話を続けた・・・。
この世界の歴史を大きく分けると、三つの時代に分けることが出来た。
第一期と呼ばれるのが、キングラムの栄えた黄金の時代と言われており、魔王が現れた暗い時期もあったのだが、それでも魔王の恐怖の去った後、この国はさらに永きにわたり栄え続けた。だが、栄華を極めた国は必ず衰退の道を歩むもの・・・。
やがてキングラムの強大な権力も弱まり、この広大な大陸を三人の王に譲り、自らは辺境の地へ隠れたのである。
第一期の黄金の時代は、キングラムの衰退と共に終わり、第二期の銀の時代が訪れるのだが、この時代は三つに分かれた国同士が争う戦乱の時代であった。
ジュダ、ソーネリア、ドリガンの国が互いに争い、その覇権をめぐって戦う長い戦乱の時代であった。だが、その長き戦いもようやく終わりの時を告げる。
暗黒魔法を極めるガルダインの一族と、聖魔導士を束ねるネルソンの一族とがソーネリアの王に協力し、再び国を一つにまとめ、この戦乱の世を終わらせたのである。
「それじゃあ今の時代は、キングラムに代わってソーネリアがまとめる第三期なのですね」
アレンが尋ねた。
「うむ、その通りじゃ。では、話を現在に戻そう」
「第一期の終わり頃に、ミューゼという有名な吟遊詩人がおった。その者は生涯をかけ、キングラム王家に伝わる伝説を一冊の本にまとめたのじゃ。
その本はミューゼの死後、人から人へと渡り、第二期の終わり頃にジュダの王に献上されたと聞く。ここから南にあるマードラの遺跡は、第二期に栄えたジュダの王が住んでおった城じゃ。」
「ミューゼの書があれば、伝説のキングラムの事や、第三の勇者の謎が解けるかも知れぬのじゃ。危険な場所だが、この仕事はお前たちに頼まねばならぬ。なぜならワシは急いでソーネリアへ行き、王やネルソンと会わねばならぬからじゃ。もたもたしておっては、取り返しのつかぬ事態になってしまう」
そこまで一気に話すと、ガルダインはアレン達に向き直った。
「アレンよ、後は頼んだぞ!」
「ネイルよ!お前に依頼した赤い結晶石は、マードラ遺跡の探索に必要な物じゃ。無くさぬようにな!!」
と、締めくくった。
「ええっ!!?オ、オレも行かなきゃならないんですか?」
ネイルは驚いてガルダインに聞き直した。
「何じゃ?嫌なのか?」
ガルダインは威圧するように、鋭い目でネイルを睨んだ。
「い、いや・・・。別に嫌じゃないですけど、まだ報酬も頂いていないし、それにオレ、ちょっと行きたい所もあるんで・・・」
ネイルの声はだんだん小さくなり、最後の言葉はほとんど聞こえない。
「報酬の5000ゴールドは、リサに渡しておこう。行きたい所があるのなら、この仕事が終わってからにすればよいのじゃ!」
「そ、そんな~~~」
さすがのネイルも、ガルダインを相手にこれ以上は何も言えず、ガックリと肩を落とし、渋々引き受けるのであった。
トボトボと去っていくネイルの後ろ姿を見送ったガルダインは、立派な髭を手で撫でながら、何やら難しい顔で思案していた。
「風の谷・・・テローペの巫女・・・・」
塔の外に出ると、ネイルがアレンに話しかけた。
「おいアレン、大変な事になったな。
お前、簡単に引き受けたけどよ、マードラの遺跡は恐ろしい所らしいぜ!」
「え!?恐ろしいって、一体どんなふうに?」
ネイルは白目をむいて、恐ろしい顔をして見せた。
「出るんだよ!アレが・・・」
このネイルの話に即座に反応したのは、好奇心の塊リサだった。
「アレって何さ?」
ネイルは手で首を絞める真似をし、さらに苦しそうな顔をして、
「アレって、アレに決まっているだろ! お ・ ば ・ け !だよ!!」
「ええ~~~っ!!!お、おばけ~~~~~っ!!!」
「うそ!?」
エレナもさすがに驚いて、ネイルにその訳を聞いた。
「あそこは昔、戦争でたくさんの兵士が死んでいったからな・・・。
それにジュダの王というのが欲深いヤツでよ。自分の宝を取られるのが嫌で、城を荒らしに来る連中を襲うんだってよ!」
「ひぇ~~~~~~っ!!」
リサが青い顔をして悲鳴を上げている。
「じょ、冗談だろネイル」
アレンも、ちょっとビビッたようだ。
「ま、オレもよその墓荒ら・・・いや、トレジャーハンターから聞いた話だからな。
本当の事は分からねえよ。とにかく、マードラの遺跡に行く前に、街で情報を集めなきゃな」
「で、情報集めと言えば、当然人の集まる酒場だろ?」
ネイルはそう言うと、さっさと酒場へ向かって歩き出した。
俺たちも一緒に行こうとしたが、その時リサが固まっている事に気づいた。
「リサ、どうしたんだい?大丈夫かい?」
「あわわわ・・・・・・」
子ども扱いされるとキレるリサだが、さすがにお化けは苦手らしい・・・・。
このへんは、やっぱりまだまだ子供のようだ。
街の酒場では、ネイルはかなりの顔利きのようで、店の女性たちからもモテモテの大人気であった。
確かにネイルは美男子で、ニヒルな大人の雰囲気を持っている。それに平気で女性を口説く特技を持っているので、そんな事が出来ないアレンにとっては、ちょっと羨ましく思ったりもするのだが・・・。
そのネイルのお陰で、情報の収集はスムーズに行う事が出来た。
街の情報をまとめるとこうだ。
*マードラの遺跡は昔この国を治めていた王の城で、荒らしに来る者を王の亡霊が襲うらしい。
*マードラの遺跡に入った者は、みんな呪われて生きて帰れない。
*マードラの遺跡の近くには、アーズという村がある。
*マードラの遺跡の近くに死者の谷と呼ばれるところがあり、そこにはすごい宝が隠されているらしいが、その入り口を見つけた者はいない。
*マードラの遺跡の近くには、ジュダの王様が隠したすごい財宝が眠っている所がある。たくさんのトレジャーハンターが捜しに行ったけど、だれも戻ってこない。
とまあネイルの言うように、ろくな噂は無かった。
とりあえずアーズの村を探索の拠点にする事で話はまとまり、俺達はもらった報酬で、武器や防具を強化する事にした。
ネイル トレジャーハンター
武器 トゲのムチ
エスケープ 洞窟の中などから外へ脱出
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%の回復させる
リサ 魔法使い
武器 ウイザード・ロッド
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力の10%を回復させる
ファイア 敵単体に炎属性のダメージを与える
エレナ テローペの娘
武器 クロスボウ
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力の10%を回復させる
リカバー 味方全体の体力を30ポイント程回復させる
トルネード 敵全体に風属性のダメージを与える
アレン 鉱山の青年
武器 鋼の剣
ヒール 味方単体の体力を40ポイント程回復させる
キュアー 毒状態を回復する
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力の10%を回復させる




