最 終 話 アルモアの星
アレンが魔王と闘っていた頃、ネルソンは夕闇迫る嘆きの塔の最上階にいた。
「くそっ!ゾルドの魔法書は一体どこにあるのだ!!
これほど探しているのに、なぜ見つからぬ!!黙示録第三巻に書かれていた事は、偽りだったのか!!?」
「いや、そんなはずはない・・・・。
まだ見落としている所がきっとあるはずだ・・・・」
塔の最上階で、血眼になってソルドの魔法書を探すネルソン。
やがて奥まった玉座の間に、美しい女性の石像がある事に気づいた。
「むっ!これは・・・・。なんと、まるで生きているようだ・・・」
「う~~~~む、これは普通の石像ではない!」
そしてネルソンは気づいた。
「イリヤ王妃!!!」
「なんと・・・・。魔王の呪いで石像にされたという伝説は誠であったか・・・・」
「おや!?なんだ?王妃が手に持っている物は・・・」
「こ、これは!!」
イリヤ王妃が大切そうに胸に抱いていたのは、一冊の本であった。
「ゾルドの魔法書!!」
ネルソンが叫んだその時、何者かの声が後ろから聞こえてきた・・・。
「なるほど・・・・。
ゾルドの魔法書を見つけても、どうする事も出来ぬとは、こういう意味であったか」
ガルダインはジェイドの言葉を思い出し、そうつぶやいたのだ。
「やはり来たか、ガルダイン!
しかしここには2万のワシの軍隊が・・・」
「いや、それは愚問であったな。
貴様がここに居ると言いう事は、つまり・・・そう言う事なのであろう」
振り向いたネルソンは、相手が何者であるか、それをよく理解していたのだ。
「ネルソン。ゾルドの魔法を手に入れ、一体何をしようというのじゃ」
ガルダインは、ネルソンの真意を確かめようと尋ねた。
「ふん!知れた事を・・・・。ワシがこの世界を統一し、キングラムを再建するのよ!」
「愚かな奴よ!そのために、我らが一族の主に弓を引くとは・・・」
「金の時代の主だ!いまさら謀反と言われる覚えはない!!それに、ゾルドなど無くとも、貴様らごとき、恐れるに足らぬわ!」
ネルソンは攻撃の態勢に入った。
「馬鹿な奴。邪悪な心を持った聖魔導士の魔力が、このワシに通じると思うのか!!」
ガルダインはネルソンの愚かさを罵倒した。
「だまれ!我が魔力の恐ろしさを、とくと見せてやるわ!!」
かくして伝説の勇者の血を引く、英雄同士の戦いが始まった。
だが、結果は既に見えていた。
攻撃を極めた暗黒魔導師の総帥に、邪悪な心を宿した聖魔導士が勝てる訳は無かったのだ。
ネルソン本人も、それは初めから分かっていたのであろう。
激しい攻防の末、聖魔導士の奥義である召喚魔法で呼び出した、最強のドラゴンナイトを倒されたネルソンは、吐血してその場に倒れた。
「見事だ・・・・」
ネルソンは満足そうにガルダインを称賛した。
「ネルソン・・・。貴様のその力、正しき道に使えば、我らで魔王を倒せたかもしれぬ・・・」
ガルダインはネルソンの力を惜しみ、そう告げた。
「ワシにはもう、伝説の勇者を名乗る資格はなかった・・・。
貴様の手で魔王を倒してくれ・・・・」
「さらばだ、ガルダイン」
「さらばじゃ、ネルソン」
ネルソンは自ら消滅の魔法を唱え、その生涯を終えた・・・。
ヒュ~~~~ッ・・・・・・
一人の稀代の英雄が消えたのを惜しむかの様に、悲しい音を立て、塔の中を風が吹き抜けた・・・。
「さて、急ぎアレンの所へ戻らねば。無事であってくれればよいが・・・」
塔の階段へ急ごうとするガルダインの背中に、美しい女性の声が響いた・・・。
「お待ちなさい・・・・」
驚き振り返るガルダインの目には、こちらへ歩いて来る美し女性の姿が・・・。
「な、なんと!!あなた様はイリヤ王妃!!
そうか!!魔王の呪いが解けたのじゃな!!では!アレン達が魔王を!!」
「あなたは・・・」
「イリヤ様、私はアルモア王と共に魔王と戦ったヴェルガの息子(末裔)でございます」
片膝をついて、ガルダインが答えた。
「ヴェルガ殿の・・・・・」
「そうです。魔王との戦いから、すでに二千年の時が過ぎ去ったのです・・・・。
あなた様は、今まで魔王の呪いで石像に・・・」
そう説明するガルダインに、イリヤは頷いた。
「存じております・・・・」
「なんと、知っておられたですと?」
「魔王の呪いで、石にされてしまった我が身ですが・・・・。
意識はかすかにあったのです・・・・」
「なんと!意識があったと・・・。
では、アルモア王の事も・・・・・」
「アルモアが星になった時・・・。石にされた我が身を、どれほど嘆いた事でしょう・・・」
イリヤは当時を想い出し、悲しい顔でガルダインに話した。
「混沌とした意識の中で、わたくしの中で何かが弾け・・・・。そして消え去りました・・・・。それからわたくしは、心さえも、冷たい石の中に閉じ込められてしまったのです・・・」
「そうでしたか・・・・・」
ガルダインはイリヤの心中を察し、険しい顔で答えた。
「ガルダイン殿・・・・。わたくしの呪いが解けたと言う事は、魔王は滅んだのですね?」
「イリヤ様・・・・。実は、その事でお願いがあります」
ガルダインはイリヤに深々と頭を下げた。
「まぁ、わたくしにお願い・・・・ですか?
なんでしょう?」
「実は、このワシにゾルドの魔法を教えていただきたいのです」
「ゾルドの魔法を?」
「そうです。魔王との戦いで、一人の若い娘の命が失われました・・・。
ですから、ゾルドの魔法でその娘の命を救いたいのです・・・」
「ガルダイン殿・・・。あなたはゾルドの魔法をご存知なのですか?」
「ゾルドの魔法は、死者を蘇らせる魔法と聞いております」
「その通りです。ゾルドは、死者に命を吹き込む魔法です。
自分の命と引き換えに・・・・・」
「なんと!自分の命と引き換えに、相手の命を助ける・・・。身代わりの魔法ですと!!?」
「そうです。わたくしはもしもの時、ゾルドの魔法をアルモアに使うつもりでおりました。そのため、魔王に石にされてしまったのです・・・・」
「なんと、そうでしたか・・・・。
人の命の重みを、魔法の力で変える事などは出来ぬという訳ですな・・・。
ネルソン・・・・。貴様は、なんと愚かな事を・・・・・」
ゾルドの魔法の真実を知ったガルダインは、それを覚悟でイリヤに願い出た。
「イリヤ様・・・・。ワシはもう十分生きました。この命、未来ある若者に譲りたいと思います。ぜひ、ぜひ、ゾルドの魔法を教えてくだされ」
「分かりました。では、わたくしをその娘の所へ案内して下さい」
魔王が消滅した時点で、魔物との戦いは終わりを告げた。
塔の前で戦っていた魔物が、一斉に逃げ出したのだ。
後日の報告の中には、その逃げ出した魔物に混じって、ドリガン兵と思われる巨体の男と、その男の前を走る二人の兵士を見かけたという報告もあったが、それは定かでは無かった。
そして主だった者たちは、ここ暗黒の塔の頂上に集結していた。
「何と言う事だ・・・。魔王を倒したというのに・・・。
この様子では、アレンもどうにかなってしまいそうだ・・・」
エレナの前で泣き崩れているアレンを見て、ボルグは何もできない自分を嘆いた。
「くっ!出来るものなら、この私が代わってやりたいが・・・」
ジェイドもボルグと同じ考えであった。
ここに集う者たちは、みな魔王を倒した事よりも、目の前の悲しみに打ちひしがれていた。
「やはり、魔王を倒したのじゃな!!」
「ガルダイン殿!!」
そこにいた全員が振り返った。
「おじいちゃん!!」
リサはガルダインを見ると、抱きついてわんわん泣き出した。
「リサよ!ようやったの!!」
「うえ~~~ん!だけどエレナが~~~~!!」
「お前たちには、ハマンの魔法の事を話さなかったからな・・・」
「だが、安心するがよい!!巫女様の事は、このワシにまかせておけ!!」
ガルダインはリサの頭を優しくなでながら、そう言った。
「えっ!ほ、ほんと?おじいちゃん!!」
リサは驚いてガルダインを見上げた。
「ガルダイン殿。あなたがここに来たと言う事は・・・」
ジェイドはガルダインに嘆きの塔の事を尋ねた。
「うむ。ネルソンとは決着がついた・・・。
奴も勇者の末裔として、潔い最期でした・・・」
「そうですか・・・。彼を失った事は、同じ道を歩んできた者として残念でなりません」
ネルソンは道を誤ってしまったが、ジェイドはそれでも彼を稀代の英雄と認めていたのである。
「ところでガルダイン殿。今しがたお孫さんに申していた話は、どういう事ですかな?」
ボルグが尋ねた。
「うむ、それは・・・・」
「それは、わたくしがお話しいたしましょう・・・」
「あ、あなた様は!!?」
ガルダインの後ろから現れた、他を圧倒する高貴なオーラを放った美しい女性に、皆驚いて声を上げた。
「おじいちゃん、この人だれ?」
「イリヤ王妃じゃ!」
「イリヤ王妃!!??」
誰しも驚くのは無理もなかった。
「な、なんと!!イリヤ王妃ですと?」
特にイリヤ王妃の妹の末裔である、ジェイドの驚き様は想像を絶するものであった。
そしてちょうどその時、兵士に連れられたサーナ王妃と、エミリアが到着した。
「お話は、ガルダイン殿から聞きました。
魔王を倒した・・・・。わたくしの妹、マイヤの息子とはどなたですか?」
「あそこにいるアレンです」
ボルグが、エレナの横で嘆き悲しむアレンを指さした。
「ああ・・・・。これは、なんとした事でしょう!
これはまるで・・・・。あの日、魔王の呪いで石にされた時の、わたくしと、アルモアの姿ではありませんか!!」
そう言うと、イリヤはアレンの元へ向かった。
「マイヤの息子、アレンよ・・・。もう嘆くのはおやめなさい」
「あなたは・・・・」
「わたくしはイリヤ。あなたですね、わたくしを魔王の呪いから解き放ってくれたのは」
「イリヤ王妃!?」
「アルモアが亡くなってから、すでに二千年という、気の遠くなるような永い時が過ぎ去りました・・・・」
「あぁ、だけど・・・・。あなたはアルモアの意志を受け継ぎ、魔王と戦ってくれましたね」
「わたくしは、あなたの誠意に答えなければなりません・・・・」
「イリヤ王妃・・・」
「アレン、悲しむのはおやめなさい。あなたの愛する人の命、わたくしが救ってさしあげます」
「えっ!それは誠ですか?」
「イリヤ様!!ま、まさかあなた様がゾルドの魔法を!?」
ガルダインは慌ててイリヤに尋ねた。
「ガルダイン殿。あなたはこれからも、この国の平和のために必要な御方です」
「し、しかし、イリヤ様・・・・」
「わたくしにとって、二千年という月日は、あまりにも遠く、とても埋める事の出来ない隔たりとなりました・・・」
「あれほど栄えたキングラムも、今では伝説として語られています。
わたくしの悲しみは、解き放たれた今でも、だた、ただ、深まるばかり・・・」
「イリヤ様・・・・」
「この二人は、あの日のわたくしとアルモアの姿・・・。
同じ悲劇を繰り返してはなりません」
そう言うと、イリヤは静かにゾルドの呪文を唱え始めた・・・・。
イリヤの体から暖かい光があふれ、その光がエレナの体を包んでゆく・・・。
そしてイリヤ王妃は静かにその場に崩れるように横たわった。
「イリヤ王妃!!」
アレンが叫んだその時、エレナが静かに目を開いた・・・。
「アレン・・・」
そうつぶやくと、エレナはゆっくりと立ち上がった。
「エレナ!」
「アレン!」
見つめ合い、そしてしっかりと抱き合う二人。
その姿を見たサーナとエミリアは、お互い手を取り合って奇跡を喜び、リサは嬉しさのあまり、わんわん泣きだした。
ネイルは、慌ててテンガロンハットで自分の顔を隠している。
ここに集う者たち全員が、イリヤ王妃の起こした奇跡に深く感謝し、王妃の前に跪いて祈りを捧げたその時、もう一つの奇跡が起こりました。
イリヤ王妃の体がキラキラと光り輝き、そしてたくさんの小さな星屑へと姿を変えて、空高く舞い上がって行ったのです。
するとそれまで明るく輝いていたアルモアの星が、急に激しく瞬いたかと思うと、その光の中からアルモア王の凛々しい姿が、幻影となって現れたのです。
そして星屑となったイリヤも、眩い光と共に、その美しい姿を現しました。
「イリヤ・・・・」
「アルモア・・・」
お互い見つめ合うアルモアとイリヤ。
「待っていたよ、イリヤ・・・」
「アルモア・・・。わたくしも、この時が来るのをどれほど待ち望んだことでしょう・・・」
「さあ、おいでイリヤ」
「はい・・・・」
二人は手を取り合い、光り輝くアルモアの星へと帰って行きました。
そして二人の姿が星空に消え去った直後、アルモアの星のすぐ隣に、小さな青い星が瞬き始めました。
まるでアルモアの星に寄り添うように・・・・。
夜空に燦然と輝く、赤くて大きな星アルモア・・・・。
星になったアルモアは、今もなお、空の上からこの国の平和を守り続けていると、伝えられているのです・・・。
おわり
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
はじめて書いた小説なので、おかしな点もたくさんあったと思います。
出来れば次回に生かしたいので、気づいた点があれば何でも結構ですので、ご意見をお待ちしております。
今後の事は活動報告に書きますので、よろしければ一読してください。




