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アルモアの星伝説  作者: トド
32/38

第三十二話 風の谷テローペ

ビュ~~~ッ!!!


強い風がうなりを上げて、荒涼とした谷間を勢いよく走り抜けてゆく。

アレンたちは今、風の谷の大穴の前に立っていた。


「ようやくここまで来たね!」


大穴を見つめていたアレンが仲間に声を掛けた。


「ええ、ここまで来るのは大変だったわ・・・」


エレナが感慨深くつぶやいた。


「あぁ、だがオレたちは戻ってきたぜ!キングラムの三種の神器を全て手に入れてな!!」


ネイルは不敵な笑顔で答えた。


「アレン!早く、早く!」


リサは早くテローペに行きたくて仕方がないようで、ピョンピョンと飛び跳ねながらアレンを急かした。


「よし、やろう!ネイル、手伝ってくれ」


そう言うと、二人はガニメードの水がめをしっかりと固定できる岩場に設置し、大穴に向けて水を流し込んだ。


「この大穴を、お前の力で湖に変えてくれ・・・」アレンは水がめに念じた。

片手で持てる大きさの水がめが、アレンの意志によりどんどんと巨大化してゆく。

そして滝のような勢いで大穴へ水を落とし込んで行った。


ドドドドドド・・・・・。


岩に当たって跳ねあがる水しぶきが、谷に吹き付ける強烈な風で舞い上がり、美しい虹を作り出した。

リサは大きな目をパチクリさせながら、その様子をじっと眺めている。

エレナはそんなリサを笑顔で見ながら夕食の準備を始め、アレンとネイルは、風に飛ばされないよう洞窟の入り口にテントを張って、野営の準備に入った。


翌朝目を覚ますと、目の前の大穴は、朝日を浴びて赤く輝く湖へと変わっていた。

ガニメードの水がめは、役目を終えていつの間にか元の大きさに戻っている。

アレンはガニメードの水がめを袋にしまうと、今度は氷の杖を取り出した。


「よし!お前の力で湖を凍らせてしまえ!!」


アレンは氷の杖を湖面に突き立てた。


ピシ、ピシ、ピシ・・・・・・。


大きな湖が、みるみる内に凍り付いてゆく。


「よし!出発だ!!」


十分な厚さに凍った湖の上を、アレンたちは悠々と進んで行った。


風の谷の大穴を抜け、両側に断崖絶壁が迫る狭い谷を進んで行くアレンたち。

その様子を崖の上からジッと見ている一匹の魔物がいた。

一見妖艶な女性だが、その両腕は美しい羽に覆われ、足には猛禽類の鋭い鉤爪を持つ魔物、ハーピーだった。遠くの獲物をも捕らえる鋭い目で、アレンたちを見ていた。


「あぁ!あ、あれはなんや?」


「うわっ!うわっ!うわっ!あれは人間やんか!?」


「これは、えらいこっちゃ!えらいこっちゃ~っ!!」


ハーピーは大慌てで、バタバタと谷の先へと飛んで行った。


ハーピーの向かった谷の先には、崖っぷちに大きな岩がいくつも連ねて置いてあった。

もし谷を通る者がいたら、この岩を落として始末するために用意されていたのだ。

その岩の並ぶ場所で、ゴブリン、使い魔、ゾンビら3匹の魔物どもが、町から盗んで来た酒を飲んで盛り上がっていた。

ハーピーはその仲間の元に降り立つと、大声で喚き散らす。


「こらっ!こらっ!こら~~~っ!」


「あ、親分!親分もどうです、一杯!」


帰ってきたハーピーを見るなり、ゴブリンが真っ赤な顔で酒を勧めた。


「こらっ!こらっ!こら~~~っ!!酒なんか飲んどる場合とちゃうでぇ~!!」


大声で喚き散らすハーピー。どうやらこの魔物どもの親分であるらしい。


「きた!きた!きた~~~っ!!人間がきたで~~~~っ!!」


「うっそぉ~~~~~っ!!!」


驚いて親分の顔を見る3匹の魔物たち。


「な、な、なんで?湖にはクラーケンがいたんじゃないの?」


ゾンビが親分に尋ねた。


「あの谷の大穴はどうして渡ったの?人間って空飛べるのか、親分?」


今度はゴブリンが親分に質問する。


「ほ、ほんまやなぁ~~~。一体どないして来たんやろか?」


それまで勢いよく喚いていたハーピー親分は、二匹の子分に質問されて固まってしまった。


「・・・・・・・・・・・・」


「お酒ちょうだい!」


「あいよ!」


固まっている親分を放置して、ゴブリンは使い魔にお酒のお代わりを催促している。


「ぎゃははは・・・・。親分もどうです、一杯?」


すっかり酔っぱらっているゾンビは、質問したことなどすっかり忘れて親分に酒を勧めた。


「おおっ、す、すまんなぁ・・・」


「ぐび、ぐび、ぐび・・・。ぷはぁ~~~~~っ!!」


「おぉ!さすが親分!見事な飲みっぷり~~~~っ!!」


一気に飲み干す親分に、子分たちは大喜びで喝采を送った。


「きゃははは~~~~っ!な、なんだか喉がかわいちゃって~~~っ!!」


「おかわり!!」


魔物たちが酒で盛り上がっている頃、アレンたちは最後の洞窟を抜けようとしていた。その洞窟を抜けるとハーピーたちが酒盛りをしている崖下へ到着する。

ここは昔、キングラムが敵を迎え撃つための要塞として使用していた洞窟で、そのためかなり複雑な地形をしていた。アレンたちは、敵の待ち伏せに備えて慎重に進んで行く。

そしてようやく出口に差し掛かった時、突然そいつは現れた。


バチッ!ジジッ・・・。ジジッ・・・。


空間に激しいプラズマが発生したその直後に空間が裂け、魔王の使いキュバスがその姿を現した。


「ぐふふ・・・。待ちかねたぞ、テローペの巫女!」


突如現れた恐ろしい悪魔は、耳元まで裂けた赤い口をゆがめて不敵に笑った。


「な、なぜ、私の事を・・・」


いきなり自分の事を言われたエレナは、驚いた様子で魔物に問い返した。


「ずいぶん捜したぞテローペの巫女・・・」


「まさかあの戦いの中から、生きて落ち延びていようとはな・・・」


そう言うと、キュバスは目を細めて不気味に笑った。


「あの戦いって、いったい・・・」


戸惑うエレナをかばい、前に出たアレンは一喝した。


「お前は何者だ!!」


「我が名はキュバス!偉大なる魔王の名の元、すべての魔物を統括する闇の将軍である!

ぐふふ・・・・。しかし、クラーケンとヒュドラを倒したのが、こんな連中だったとはな・・・。まったく、情けない話しだ・・・」


「貴様!一体テローペで何をした!!風の谷を塞いだのは貴様の仕業か!!」


不気味に笑うキュバスに、アレンはさらに追及する。


「冥土のみやげに教えてやろう。火山を噴火させ、テローペの道を塞いだのは大魔王ギーガ様だ!!!」


「大魔王ギーガ!!?」


アレンたちは、ここで初めて敵対する魔王の名前を知った。


「ぐふふ・・・・。キングラムの地に巫女の一族を閉じ込め、殲滅させるためにな・・・」


「なんだと!貴様、俺の父さん達を・・・」


激昂するアレンの言葉を、キュバスは高笑いしながら遮った。


「ぐわっ、はっ、はっ、はっ・・・。だが、直接手を下したのは我らではない」


「なにっ?!」


「愚かなものよ・・・人間とは・・・。

さあ、巫女をこちらへ渡してもらおう。その身を引き裂き、大魔王ギーガ様に捧げるためにな・・・」


「そんな事させてたまるか!!!」


激しい戦闘が始まった。

キュバスは二体の魔物を呼び出し、後ろでアレンたちの戦いを見ている。

巨大な釜を武器にする死の宣告人と、キュバスの同族である使い魔が召喚された。

死の宣告人は大釜を振り回しながら、怪しい霧を発生させ、アレンたちの魔法を封じ込めようとする。

キュバスの使い魔は鋭い爪を武器に、ガードの魔法で防御力を上げ、さらに闇の宝玉を使って肉弾戦で挑んできた。

アレンはその二体を見極め、即座に仲間へ戦術を指示する。

キュバスの使い魔とは持久戦となる恐れがあったため、魔法を封じ込めようとする死の宣告人を先に倒す戦術で挑んだ。


アレンはキュバスの使い魔と一騎打ちの形にするため、息もつかせぬ猛烈な攻撃を加えて死の宣告人から引き離した。

ネイルは死の宣告人の正面に立ち、大釜にムチで応戦。エレナは魔法を封じ込められた場合を想定し、最初から魔法は一切使わず、アテナの強弓で急所を狙い撃ちする。

エレナはこの弓矢を手に入れた当初は、一本の矢しか顕現出来なかったが、今では一度に三本の矢を出現させる事が可能となっていた。


リサはキュバスを見た瞬間に異常な強さを察知して、奥の手であるブラックホールの魔法は隠し、ここでは炎の魔法を操り、キュバスの使いと死の宣告人の二体を同時に攻撃した。

さすがにこの二体は強かったが、キュバスが戦闘に加わることをしなかったので、作戦通りに死の宣告人を先に倒し、その後に使い魔を葬ることに成功した。

だがアレンたちが戦慄したのは、キュバスが最後まで手を出さなかった事だ。

仲間が殺されるのを平然と見ているキュバスに、アレンたちは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「みんな気をつけろよ!こいつは今までの敵とは格がちがうぜ!!」


ネイルはそう言うと、最大級のマジックバリアで仲間たちを包んだ。

アレンもガードの呪文で仲間を守る。


「ぐふふ・・・。では、そろそろ始めよう」


キュバスはそう言うと、魔力を全開で放った。


グギャーーーーッ!!!


吹き荒れる魔力が波動となってアレンたちを襲う。

アレンが瞬きをした一瞬の隙に間合いを詰め、強烈な一撃を加えるキュバス。

その一撃を剣で受け止めたアレンが、衝撃で吹き飛ばされた。

追い打ちを掛けようとするキュバスを、ネイルのムチが阻止する。


ピシーーーーッ!!!


キュバスの足にヒットした一撃が動きを止めた。

攻撃の邪魔をしたネイルを先に始末しようと、キュバスが体を反転させた瞬間、エレナの放った矢が心臓を直撃する。


キーーーーン!!


だが矢は乾いた音を響かせて、あらぬ方向へ弾き飛ばされてしまった。

キュバスの身体を覆う、透明のシールドに阻まれたのだ。

ネイルの渾身の一撃も、この分厚いシールドに阻まれ、動きを止めただけにすぎない。

だが次の瞬間、リサの放った炎の舞いがキュバスに直撃した。

これでシールドを吹き飛ばしてくれれば・・・と、エレナとネイルは期待したが、吹き飛ばされたのはリサの炎であった。

キュバスのシールドを透過して吹きだした波動が、リサの炎を拡散させてしまったのだ。


「なんだこりゃ?!こいつには打つ手がねえのかよ?」


ネイルがそう愚痴った瞬間、次のリサの攻撃がキュバスを襲った。


先ほどの巨大な炎の塊とは真逆の、高速で回転させた細長い矢のような炎を、一点を狙って連続で発射させている。

だが高度な魔力の操作が必要なのか、7つほど連続で発射すると、次の魔力を練り上げるのに少し時間が掛かっているようだ。


「ネイル、エレナ!リサの作戦に賭けるぞ!!」


リサに考えがあると直感したアレンは、剣を中段に構えると、脇を締めてキュバスに身体ごと突撃した。

リサが狙った一点に集中し、素早く突きを繰り出す。

ネイルがアレンの攻撃の援護を行い、エレナは神業ともいえる卓越した技術で、寸分たがわず矢を一点に打ち込んでゆく。

再びリサの攻撃が始まると、エレナは最大の回復魔法でアレンとネイルの治療に努めた。

キュバスの繰り出す攻撃を避けても、その斬撃で皮膚が裂け、ダメージも蓄積するのだ。

エレナの治癒魔法で体力はカバー出来ても、受けた傷を完全に治すことは出来ない。この戦いが長引くと、直撃を受けずとも出血によるショック死もありえる状況だったのだ。


ミスの許されない緊迫した戦いが続いたが、ついに終わりの時が訪れた。

エレナの放った矢が、キュバスのシールドに小さな穴を開けたのだ。リサはその瞬間を見逃さなかった。


「すべてを飲み込め!ブラックホール!!」


リサは火炎射撃と同時に準備しておいた、ブラックホールの魔法を発動させた。

リサの声に驚いたアレンとネイルは、慌ててキュバスから飛びのいた。

だが、見た目には何の変化も起きていなかった。

何が起ころうとしているのか分からない二人は、キュバスの反撃に備えて身構えたまま、周囲の変化を窺っている。


「ぐふふ・・・・。何の魔法かと思えば、ただのハッタリであったか・・・」


「もう遊びは十分だ!そろそろ本気で・・・・・ぐっ!・・・・」


変化はキュバスの体内で起こっていた。

重力の一点が体内で発生し、キュバスの身体を作っている組織の細胞を、猛烈な勢いで飲み込んでゆく。


「こ、こんなバカな・・・。この者達はいったい・・・何者・・・・・」


グギャーーーーーッ!!!


キュバスは壮絶な断末魔を残し、跡形もなく消え去った。


「こ、これは一体・・・」


「お、おい、リサ!あいつは一体どこへ行ったんだ?」


アレンとネイルは何が起こったのか分からず、リサに説明を求めた。


そんなのん気な事を言っている二人だが、実は身体中血だらけで、立っているのも不思議なほどであった。

キュバスが大技で勝負を仕掛けて来なかったのは、この状態の二人を見て悦に浸っていたからだ。もっといたぶってから殺してやろうと、勝負を先延ばしにした残忍な性格が、結局は我が身を滅ぼす要因の一つになったのだ。


エレナとリサは慌てて二人に駆け寄り、急いで治療を施していく。


「いでででで!!!」


「お、おぃ、もっと優しく出来ねえのか?!」


消毒液で傷だらけの体を拭かれ、痛みでのたうち回る男二人。

慌てて逃げ出そうとするネイルを、炎の壁を作って逃がさないリサ。

這って逃げようとするアレンを、エレナは後ろからがっちり羽交い絞めにして逃さない。

消毒液漬けにされた二人は、さらに止血薬を塗りたくられ、包帯でミイラのようにぐるぐる巻きにされてようやく大人しくなった・・・と言うか、力尽きたようだ。



「ここいら一帯に起こった火山の爆発は、魔王ギーガの仕組んだ罠だったんだ!!」


「つまり、キングラムの血を引く者達の存在が、魔王にとって脅威だったんだな。だからテローペを外界から遮断して、殲滅しようとしたんだ」


「ハマンの魔法を使う、テローペの巫女が怖かったのね!」


アレン、ネイル、リサは事の真相をこれで解明できたと思ったのだが・・・。


「だがよ、あのキュバスの野郎、なんか気になる事を言っていたな・・・」


「直接手を下したのは自分たちじゃないって・・・。これ、どういう意味かな?」


ネイルとリサの疑問に、アレンもしばらく腕を組んで考えていたが、「分からない・・・。ともかく、テローペに行けばハッキリするさ!!」

そう答えるしかなかった。



その頃谷の崖上では、魔物たちが酒盛りを続けていた。


「ぎゃははは~~~~~っ!!」


ハーピー親分も、すっかり出来上がっているようだ。


「あっ! ぶるぶる・・・。お、おしっこ・・・・」


ゾンビが漏らしてしまいそうな仕草で、慌てて突っ立った。


「こらっ、こらっ、こらっ!ここでするな!!あっちでやれ、あっちで!!」


今にもちびりそうなゾンビを、親分は怒鳴りつけて追っ払った。


よたよたと千鳥足で、おしっこをしに崖っぷちにきたゾンビだったが・・・。


「あんりゃ~?誰かこっちへ来るぞ~?」


アレンたちに気づいたゾンビは、親分に向かって報告した。


「おやぶ~~~ん!誰かこっちへ来ますよ~~っ!!」


「ぎゃ~~~~~~っ、はっ、はっ、はっ!!」


「おやぶ~~~ん!誰かこっちへ来るって!!」


力を入れて叫んだので、すでにゾンビのズボンはビショビショになっていた。


「ぎゃ~~~~~っ、はっ、はっ、はっ!!」


「ありゃ?親分、あいつ何か言ってますぜ?」


気づいたゴブリンが親分に知らせたが、親分は全く気にもかけない。


「こらっ!こらっ!こら~~~っ!はよ、こっちへ来て飲まんか~~~っ!!」


「あ~~、すっきりした・・・」


「あ、そうだ・・・親分、誰かこっちへ来ますよ?」


「ぎゃ~~~~~~~っ、はっ、はっ、はっ・・・・・・はぁ?」


「はっ!!! あわわ・・・。し、しまった!忘れてた!!」


アレンたちの存在を思い出したハーピーは、大慌てで子分たちに命令する。


「こらっ、こらっ、こら~~~~~っ!!お前ら、さっさと岩を落とす支度をしろっ!!」


アレンたちが洞窟を出て、谷を50メートルほど進んだところで、いきなり大岩がアレンたちのすぐ後ろに落ちてきた。


ドガーーーーーーーン!!!


「うわっ!!これは一体!!?」


「しまった!罠だ!!」


間一髪で難を逃れた一行は、慌てて50メートルほど先まで谷を突っ走った。


崖の上では親分が喚き散らしている。


「こらっ、こらっ、こらっ!はよ次の岩を落とさんかい!!」


「そんな事言ったって親分。慎重に爆弾に火を付けないと、こっちが吹き飛んでしまいますよ!」


ゴブリンがワタワタと用意をしている。


「アホ!アホ!アホ~~~~~ッ!!!くずくずしてたら逃げられるやんか!!

え~~~い!!どけ、どけ、どけ~~~っ!」


親分はそう言うと、全部の爆弾に火を付けた。


「うわっ!お、親分!!」


「そんな一度に付けたら」


「やばいんで、ないかい?」


3匹の魔物が口々に喚いたが、既に後の祭りであった。


ドッカーーーーーーーーン!!!!


「なんだ、なんだ!?いま崖の上の方ですごい爆発があったぞ!!」


ネイルが驚いて上を見上げた。


「一体どうなっているの?」


リサもビックリして上を見上げている。

アレンは先ほど落下してきた岩が、道を完全に塞いだのを確認していた。


「まずいな・・・。落石でもう元に戻れなくなってしまった!!」


「それより、ここにいたらまた岩が落ちてくるかも・・・」


「よし、こうなったら先へ進むしかない!行こう!!」


心配するリサの言葉にアレンは頷き、先を急いだ。


アレン達が谷を抜け出た頃、後を追ってきたグローたちが落石の場所までやってきた。


「隊長、大変です!大きな岩が道を塞いで、先へ進む事が出来ません!!」


谷の狭い道を塞ぐ大岩を見て、ディックが慌ててグローに報告した。


「なに、岩が道を塞いでいる!?またあいつらの仕業か?」


「隊長どうします?このままじゃ、奴らに置いてかれてしまいますよ?」


「もしテローペの巫女に何かあったら、オレ達ネルソン様に・・・・」


ディックとパットが心配してグローに尋ねた。


「う~~~~む・・・。この先は確か、テローペの凱旋門に行き着くはずだったな・・・」


グローは腕を組んで考え込んでいる。


「やっぱり奴らはテローペに行くつもりなんですね!?ちょっと、マズいんじゃないですか?」


パットが意味ありげにグローに進言した。


「む、むっ!こうなったら一先ず城に戻り、例の道を通って行くしかないな・・・」


「あ!なるほど、その手がありましたね!!」


グローの意見にパットたちは即座に賛同した。


「よし!急いでドリガンへ戻るぞ!!」


グローが来た道を戻るよう命じようとしたその時、爆風で吹き飛ばされて落ちて来たハーピー親分が、グローの頭に直撃した!!


ガ~~~~~~ン!!!


「うわっ!?なに?」


慌てて飛びのくパットとディック。

見るとグローとハーピーが白目を剥いて倒れている。


「死んだ?」


「かな?」


パットが杖でグローを突いたが、返事は返ってこなかった・・・・。




その頃ドリガンの城では・・・。


大会議室にいたソーネリアの王の元へ、一人の兵士が急ぎ足で報告に来ていた。


「申し上げます!!ついに王の道が開通いたしました!!」


「なんと!!王の道が通れるようになったと!?」


報告を聞くなり、フラム王は思わず椅子から立ち上がった。

ちょうどその時、暗黒魔導士総帥のガルダインと従者のマリー、ドワーフ王ボルグと護衛のドワーフ兵もフラム王の前に報告に訪れた。


「王よ!いよいよ伝説の魔王との決戦の時がまいりましたな」


ガルダインは王にその時が来たことを告げた。


「おぉ!そなた達。いや、ご苦労であった!!この度の事は、そなた達の力添えが無ければ成せぬ業であった。改めて礼をもうすぞ!!」


フラム王はガルダインとボルグの顔を交互に見て、大きく頷いた。


「王よ!これでいつでも伝説の地、キングラムへ行けますぞ!!」


ボルグはこの日が来るのを心待ちにしていた事を、王に告げた。


「むむ!はるか昔・・・。この国の礎を築いた偉大なるキングラム!是非ともこの目で見たいと思っておった!では早速、兵を揃えるといたそう!」


その時、フラム王の言葉を遮る者が現れた。


「お待ちください!!」


そう言って王の前に進み出たのは、王の道開通の知らせを受けて駆け付けた聖魔導士ネルソンと、配下のラテス将軍であった。


「おぉ、これは!この度はそなたにもいろいろと世話をかけた!礼を言うぞ!」


フラム王はネルソンの顔を見ると、労いの言葉を掛けた。


「なんの、礼には及びませぬ。王に使えるのが臣下の務めです。

それより王様、今日はもうすぐ日が暮れます。皆も疲れているでしょうから、今夜はゆっくりとくつろぎ、明日の朝一番で出立してはいかがでしょう?ささやかではございますが、王の道の開通を祝い、酒宴の用意もしておりますれば・・・」


そう王に進言した。


「うむ、それも一理ある。未知の地へ赴くには、それなりの準備も必要じゃからな・・・。

どうかな諸君!ここはネルソン殿の好意に甘えては?」


「そうですな!では、お言葉に甘え、ご馳走になるとしますかな」


フラム王の提案に、ボルグも賛同した。


その返事を聞いたネルソンは満足そうに頷くと、「うまい酒を用意してあります。今宵はゆるりと語らい、明日への英気を養いましょう!では、どうぞこちらへ・・・」

そう言うと自ら先頭に立ち、酒宴の席へと案内した。



谷を抜けたアレンたちは、遠くに轟く雷鳴を気にしながら、テローペの町へ急いでいた。

西に真っ黒な雲が現れ、雨気をはらんだ強い風が吹き始めたのである。

何とか日が暮れる前に目的地へ到着したかったアレンたち、急ぎに急ぎ、そして今、長い旅の終着点であるテローペの町の入り口に立っていた。


町の入り口にそびえ立つ凱旋門が見えると、エレナはそこまで一人で駆けだした。

そして門の前でみんなに向き直ると、両手を挙げて大きな声で叫んだ。


「アレン!みんな!テローペへようこそ!!ここはテローペの凱旋門。テローペの町の入り口よ!!」


「テローペの凱旋門!!?」


それは見事なレリーフに飾られた、美しくも立派な城壁であった。その両側には巨大な戦士の像が立ち並び、周りには美し水を湛えた堀が輝いている。

これは町とか言うレベルではなく、まるで豪華なお城の入り口のような作りだ。

さすがは長きに渡ってこの世界を支配して来たキングラム。まさに権力の象徴ともいえる壮大な建造物であった。


「いつもは頑丈な扉が閉まっていて、沢山の兵士が護衛しているんだけど・・・」


以前と様子が違うのか、ちょっと戸惑いを見せるエレナではあったが・・・・。


「そうだわ!きっと私の帰るのを待ってくれているんだわ!さあ、行きましょう!テローペはとても美し町よ!!」


そう言うと、エレナは一人で駆け出した。


「ちょ、ちょっとエレナ!一人で行っちゃ危ないよ!!」


アレンが慌てて呼び止めるが、エレナはもうそれどころではなかった。


「あぁ!間違いないわ!!この風景・・・。谷から吹き降ろす風の感触・・・。

ここはテローペ! 私の生まれ育った町!!ついに帰って来たのね!」


懐かしい風景を見て、エレナは心を躍らせながら先へ急いだ。


そして小高い石垣の手前で立ち止まった。


「思い出したわ!この先には私のお家が・・・・。お母様・・・」


エレナは石垣の階段を上って行った。そして・・・・。


「こ、これは!!!」


ガガーーーーン!!

ゴロゴロゴロ・・・・・・。

突如激しい雷鳴がとどろき、冷たい大粒の雨が地面を叩きつける・・・・。


「こ、これが・・・・。私のお家・・・・」


「ひどい・・・・。なぜ・・・・」


「一体誰が・・・・。こんなひどい事を・・・・・」


目の前には破壊され、焼き崩れた無残な姿の屋敷が、降り始めた雨に打たれていた・・。

茫然と立ち尽くすエレナの目には、辺りを真っ赤に染め上げる激しい破壊の炎がゆらゆらと揺れている・・・。




巫女を探せ!!風の谷の巫女を捜せ!!


テローペの巫女を捜せ!!!


巫女は殺してはならぬ!!!


巫女に怪我を負わしてはならぬ!!!


巫女を捕まえろ!!!


それ以外の者は皆殺しにしてしまえ!!!



激しく揺れる炎の中を逃げ惑う人々の悲鳴・・・・。

女も子供も容赦なく襲う、人とも魔物とも判別できない黒い影・・・・。

エレナはあの日の出来事を、鮮明に思い出したのだ。

そして阿鼻叫喚に包まれた炎の揺れは徐々に収まり、その声の主は姿を現した!!!


聖魔導士ネルソン!!!!


エレナは今、すべての記憶を取り戻した・・・。


”ハマン”の魔法を思いだした・・・。



「エレナ!!」


アレンが追いつき、呆然と立ち尽くすエレナに声を掛けた。


「エレナ!!大丈夫かい!!?」


「こ、これは一体!!」


アレンは目の前の屋敷に気づき、言葉を無くした。


「こりゃ、ひでえ・・・。町中がメチャクチャじゃねえか・・・」


ネイルが周りの様子を見て、その場に立ち尽くした。


「きっと魔物の仕業ね!!」


リサの言葉にエレナは振り向き、そして冷たく言い放った。


「いいえ、違います!これは魔物の仕業ではありません!」


「えっ!」


「テローペの町を襲ったのは・・・。聖魔導士ネルソンです!!」


「な、なんだって!!?ネルソンが!!??」


エレナの言葉に、アレンは思わず自分の耳を疑った。

だがエレナは淡々と話しを続ける。


「そうです。ネルソンは、キングラムの黙示録第三巻を奪いに来たのです!」


「黙示録第三巻!!」


「そう。ゾルドの魔法を手に入れるために・・・・」



「エレナ・・・。記憶がすべて戻ったんだね・・・・」


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