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アルモアの星伝説  作者: トド
31/38

第三十一話 死者の谷

滝を出たアレンたちは、そこから船を置いて炎の洞窟へと向かった。

そして今、炎の洞窟の前に立つアレン。手には氷の杖を持っている。

洞窟の中に入ると、地面から染み出すマグマの炎と熱気で、息をするのも苦しい。

奥に見える二体の女神像がその熱気で揺らいで見える。


「まさに灼熱地獄だな・・・」


そうつぶやくアレンに、エレナが手で顔をパタパタ仰ぎながら頷いた。


「よし!やれアレン!!」


お宝を前に、待ちきれないネイルがアレンを急かす。


アレンは氷の杖を、炎が噴き出す地面に突き立てた。


キーーーーーン!!


あれほど燃え盛っていた地面が、見る見る内に白く凍って行く。


「すげえな!!」


ネイルは恐る恐る地面を確認した。

そして問題なく通れることを確認すると、一行は二対の女神像の間にある地下への階段を下りて行った。


地下の洞窟はそれほど広くは無かったが、道は三つに分かれていた。

所々炎が噴き出していたので、それを氷の杖で冷やしながら先へ進んで行く。

三つに分かれたそれぞれの道の先に宝箱があり、目的の”妖精のランプ”は真ん中の最奥に置かれていた。


左の道には古代の金貨が入った宝箱が、右の道には空っぽの宝箱があった。

古代金貨の入った宝箱を見たネイルは、


「よぉ、ここらでちょっと一休みして、パ~ッと街に・・・・」


「そんな重たい宝箱は邪魔だから、ここに置いていくんだからね!」


リサがネイルの言葉を遮ると同時に、三人はさっさと出口に向かって歩き出した。


「おい!お前ら、おかしいだろ?!これだけの金貨があれば・・・」


一人残されたネイルは、慌ててポケットに詰めるだけの金貨を詰めて、慌てて後を追いかけて行く。


「ここは氷の杖が無ければ入れないから、誰も金貨を取らないよ・・・」


ブツブツ文句を言うネイルを宥めて、俺たちは次の目的地へ向かった。




「ヒィ、ヒィ・・・ハァ、ハァ・・・・」


アレンたちが洞窟から出てしばらくすると、グロー達三人が急いでやって来た。


「くそ~っ!あいつら、今度はこんな所で何をしていたんだ?」


鼻水を垂らしながらやってきたグローが、ハァハァと息を切らして文句を言っている。


「この前は氷の谷みたいな寒い所にいたと思ったら、今度はこんな熱い所にいたりして・・・。あいつら一体、何をしているのでしょうね?」


剣士のディックがグローに尋ねた。


「そんな事、このオレ様が・・・へーーークション!!!くそっ!あいつらのおかげで風邪をひいちまったぜ!」


グローはくしゃみで出たツララのような鼻水をズズッと吸い上げ、顔を真っ赤にして怒鳴った。


「とにかく、絶対に奴らを見失うなよ!!何しろ、ネルソン様からすごく重要な任務を授かっているんだからな!!」


「へ、へ、へ・・・。隊長!その任務が成功すれば、すごいご褒美がもらえるんですよね?」


聖魔導士のパットがニヤニヤと笑いながらグローに尋ねた。


「ふっ、ふっ、ふっ・・・。オレ様がご褒美をもらえるだけじゃないぞ!このオレ様が将軍にでもなりゃ、お前たちも数千人の部下を持つ隊長になれるんだぜ!」


「やったーーーーー!!」


グローの言葉に大喜びし、二人の副隊長は慌ててアレン達の後を追いかけて行った。

その様子をニヤニヤしながら見ていたグローだが、突然地面から吹きだした炎が、彼の尻を直撃した。


「うわっ、ちっ、ちーーーーーー!!」

グローは絶叫しながら、どこかへ向かって突っ走って行く。

そして氷の杖の効果を失った洞窟は、再び炎の支配する洞窟へと戻っていった。



アーズの村へテレポートしたアレンたちは、そこで1か月分の食料や生活用品を調達し、西の山岳地帯を大きく迂回して最南端にある賢者の元へ向かった。

妖精のランプを手に入れたら、必ず来るように言われていたのである。


「おお!妖精のランプを手に入れたのか!!やるではないか!それでは、よい事を教えてしんぜよう!」


俺たちの顔を見て喜んだ賢者は、死者の谷の攻略に関する重要な話を聞かせてくれた。


「死者の谷には、死の回廊という所がある。ジュダの秘宝は、その回廊の先にあると言われておるのじゃが・・・。その回廊を渡るには、闇の道を通らねばならぬのじゃ。

その道を一歩間違えれば、そこで一巻の終わりじゃ!死者の待つ、混沌とした闇の世界へ落ち、二度と生きて帰ってはこれぬのじゃよ」


その物騒な話を聞いた途端、リサが慌てて質問した。


「ちょっと、ちょっと!その闇の道って、どんな道なの?」


「その名の通り、何も見えない真っ暗な道じゃよ」


平然と答える賢者に、ネイルが驚いて聞き直した。


「おい、おい!真っ暗な道を間違わずに進むなんて無茶だぜ!!何か良い方法はねえのかよ?」


ネイルの質問に、ニヤッと笑って賢者が答えた。


「闇目じゃ!」


「や、やみめ!?なんだそりゃ!?」


「死者の谷に住む魔物じゃよ。そいつの持っているプラズマボールを奪うのじゃ!」


「プ、プラズマボール?」


賢者の答えに、エレナがさらに質問した。


「プラズマボールって何ですか?それを奪って、どう使えばよいのでしようか?」


賢者はエレナの質問に頷き、説明してくれた。


「プラズマボールは発光体じゃ。それを回廊のポストに入れれば、通るべき道が記されるのじゃよ」


それが一体どういう仕組みになっているのか、実際に行ってみないと分からないと判断したアレンは、「わかりました。闇目を倒し、奪ったプラズマボールを死の回廊で使えばよいのですね?」

そう話をまとめて賢者に確認した。


「そうじゃ!死者の谷は恐ろしい所じゃ。くれぐれも気を付けて行くのじゃぞ!!」


そう言うと賢者はアレンたちに手をかざし、体力と魔力を上限まで回復してくれた。

そして、いよいよ最後の神器を手に入れるべく、アレンたちは死者の谷へ向かった。


砂塵の舞う死者の谷。その扉の前に立ったアレンは、ゆっくりと仲間を見回した。

「大丈夫さ!以前死者の谷へ来た時より、俺たちは断然強くなった!」

そう言ってアレンはニッコリと笑った。



ネイル     トレジャーハンター

武器      一撃のムチ/ライトウイップ/エルフのムチ

装飾品     流星のイヤリング(さまざまな力を秘めたTハンターのイヤリング)

エスケープ   洞窟の中などから外へ脱出

レイズ     戦闘不能から復活させ、体力を10%の回復させる。

キュアーⅠ~Ⅲ 戦闘不能以外の状態異常を全て回復する

テレポート   行ったことがある街などに瞬間移動する

マジックバリア 味方全体をバリアで包み、魔法の攻撃から身を守る

パワーアップ  味方単体の攻撃力を上げる


リサ      暗黒魔導士

武器      ミスリルロット

装飾品     アトラスの腕輪(さまざまな力を秘めた賢者の腕輪)

レイズ     戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる

ファイアⅠ~Ⅲ 敵単体に致命的な炎属性のダメージを与える

フレアーⅠ~Ⅲ 敵全体に致命的な炎属性のダメージを与える

ドレイン    敵単体の体力を吸収する。

神の雷     封印されし大魔法 敵単体に雷属性のダメージを与える

不気味なダンス 敵全体の魔力を吸収する

紅蓮の炎    エレナとの合成魔法。敵全体に死に至る大ダメージを与える


エレナ     テローペの巫女

武器      アテナの強弓

装飾品     ネレイドの腕輪(毒、沈黙、混乱を回避)

レイズⅠ Ⅱ  戦闘不能から復活させ、体力を50%回復させる

祈り      戦闘不能から復活させ、体力を100%回復させる

リカバーⅠ~Ⅲ 味方全体の体力を220ポイント程度回復する

トルネードⅠ~Ⅲ 敵全体に致命的な風属性のダメージを与える

ダイヤモンドダスト 敵全体に冷気属性の大ダメージを与える

ブリザード   ダイヤモンドダストとトルネードの合成魔法

        敵全体を凍結させる


アレン     マイヤの騎士

武器      アイスブレード/ドラゴンブレード

装飾品     タイタンの腕輪(さまざまな力を秘めた戦士の腕輪)

ヒールⅠ~Ⅳ  味方単体のHPを全回復する 

キュアーⅠ~Ⅲ 戦闘不能以外の状態異常を全て回復する

レイズ     戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる

ガード     味方全体の防御力を上げる




ギギギ・・・・・・ガシャン!!


錆付いて重い死者の谷の扉をアレンは開いた。

中は真っ暗闇で、全く何も見えない。それだけに、異様な重々しい妖気が辺りに漂っているのがヒシヒシと体に伝わってくる。

アレンは手に持っていた妖精のランプに明かりを灯した。

薄い緑ががった光が周りの暗闇を一瞬に吹き飛ばし、目の前が明るくなった。


「おぉ!すげえぜ、このランプ。俺たちの持つ携帯ランプよりずっと明るいぜ!」


暗闇の恐怖から解放されたネイルが、大喜びで先頭を進む。

そしてほんの数十メートル進んだ所で扉を見つけ、急に文句を言いだした。

その扉の横には、何かをはめ込むように作られた仕掛けがあったのだ。


「なんだ!またこの仕掛けかよ!まったく技がねえな~!!」


「そ、それ・・・。一体誰に言っているの?」


ぼやくネイルにアレンが尋ねた。


「おっ!?誰にって・・・。そりゃ、おめえ決まってんだろ!!この仕掛けを作ったヤツにだよ!!」


「でも、技がないって・・・」


「あれだろ?マードラの遺跡の時みてえに、また紋章のカケラを集めるんだろ?」


「たぶん、そうだと思う。だってここはジュダの王家の墓だし・・・」


アレンが頷いた。


「みろ!手抜きじゃねえか!!技もなにもあったもんじゃねえ!!」


「まあ、まあ・・・。そんなに怒らないで、とにかく探しましょうよ紋章のカケラ・・・」


「そう、そう。早く見つけて先へ行こうよ」


このままじゃ先に進めないので、エレナとリサが怒るネイルを宥めた。


「・・・・・・・。ま、いいか、この方が分かりやすいしな・・・」


「そう、そう。三つ集めればいいんだから。ねっ!」


「仕方ない、カケラを探すか・・・」


ネイルも渋々エレナの意見を聞き入れ、探索を開始した。


しばらく道なりに進むと、分厚いプレートが壁に取り付けられている場所があった。

プレートには”ジュダ王家の墓を荒らす者に、災いあれ・・・”と刻印されている。

それを見たネイルが、「何言ってやがる!お宝ってのはよ、人が使ってこそ価値が出るものなんだぜ!墓場まで持って行ってどうするんだ!!」と、また怒りだした。


まぁ、墓泥棒からすれば、それは正論かもしれないが、墓を荒らすと言われるのは、あまり気分の良いものではない。出来れば早く目的を達成してここから出たいとアレンは思うのだが、このダンジョンは、今まで探索したどのダンジョンよりも広く複雑な迷路になっており、しかも、ネイルのエスケープは強力な結界で使えないため、アレンたちは今まで味わったこともない苦戦を強いられる事になるのであった。


あまたの魔物と戦いながら、隅々まで迷路を調査した結果、ようやく隠された通路を見つける事が出来たのは、探索を始めて7日目であった。

そこから迷宮を作っている壁の上によじ登り、上から全体を調べてみると、谷の中心に5か所から砂が滝のように流れ落ちている場所を見つけた。

どうやらこの場所がダンジョン攻略の突破口のようだ。壁の上からはその場所まで行けないので、再び下に降りて流砂の滝を探し歩いた。

ようやく目的の場所へ到着する事が出来たのは、それから三日の後だった。


「やっとここまで来る事が出来たな・・・」


勢いよく流れ落ちる流砂を見ながらアレンがつぶやく。


「あぁ、もう魔物との戦いもうんざりだぜ!」


ネイルが愚痴るように、このダンジョンは魔物の巣になっており、出現率がどこよりも高かったのだ。

主な魔物はガーゴイル、キマイラ、そして闇目だった。

闇目とは、麦わら帽子を被ったずんぐりむっくりの魔物で、こげ茶色の肌に大きな目玉。そして歯並びの悪い大きな口が特徴の、すばしっこい魔物だった。

勝てないと分かると、慌てて砂をかけて逃げるため、怖くはないが簡単には倒せない相手なのである。しかも倒しても必ずプラズマボールを持っている訳ではなく、所持率は30%以下のため、ここまで来るのに入手した数はたったの2個であった。


「さて、どの流砂から調べる?」


「あぁ、だったら一番東側から順番に行くか?」


どうせ全部調べるならいつものように・・・と、アレンの質問に答えるネイル。エレナとリサも異論はないので、東から順番に行くことになった。


「よし!行くぞ!!」


アレンの掛け声で一斉に流砂の滝に飛び込んだ。


流れ落ちた先は、巨大な地下迷宮だった。

うんざりするような広大なダンジョンを歩き回り、見つけた宝箱は3つ。

そのいずれにもプラズマボールが入っていた。

最南端にあった出口で1階に戻った俺たちは、次の流砂を調査するため、再び滝のある場所へ戻った。


東から2番目の滝を流れ落ちた先は、蟻地獄のトラップが仕掛けられた部屋だった。

その部屋に入った場所と、そこから7メートルほど下の階段で降りた場所の二か所に、小さなスイッチが付いていた。

階段下のスイッチの所に降りてみると、そこから高さ3メートル程の所に出口と思われる開口部があり、その開口部のさらに上2メートルの所にも6か所の開口部があった。


「なんで二か所にスイッチがあるのだろう?」

不審に思った俺は、ネイルがスイッチを押そうとしたのを止めた。


「エレナ、上のスイッチの所へ行って、俺が合図をしたら押してくれないか?」


エレナとリサが上のスイッチの所へ行くのを待ってから、下のスイッチを押してみた。


「ネイル、スイッチを押してみてくれる?」


プチ!


ゴゴゴゴ・・・・・・・。


ネイルがスイッチを押すと、轟音と共に6か所の穴から砂が勢いよく流れ出て来た。


「うわっ!砂に埋もれてしまうぞ!!」


ネイルが慌ててスイッチを押すが、砂の流れは止まらなかった。

思った通り、上のスイッチが停止ボタンだったようで、慌ててスイッチを押そうとするエレナに、俺はまだ押さないように言った。

エレナとリサは、砂に埋もれていく俺とネイルを心配そうに見ている。

砂が3メートルの高さにある開口部まで達した時、俺はエレナに止める合図をした。


プチ!


シュ~~~ッ・・・・・。


怒涛の勢いで流れていた砂が止まった。


「大丈夫!?」


首まで砂に埋もれた俺とネイルを、リサとエレナが慌てて掘り起こしてくれた。


「ペッ!ペッ!」


口の中まで砂が入ってしまったが、うまい具合に出口の位置まで砂が積り、俺たちはこのトラップの脱出先で、宝箱の中から紋章のカケラを手に入れる事が出来た。


東から3番目、真ん中の滝を流れ落ちた先は、何にもない小さな部屋だった。

部屋には出口と思われる扉が一つあったが、その扉は錆付いて全く動かない。

爆弾を仕掛けてみたが、扉はビクともしなかった。

これ以上爆弾の威力を上げると、部屋そのものが崩れ落ちてしまいそうだったので、爆弾での脱出はあきらめた。


周りを見回すと、扉とは逆方向の崖の上に、大きな丸い岩があるのに気づいた。


「ねえ、ねえ。あの岩を落としたらこの扉に直撃するんじゃ・・・」


リサが大きな岩を指さしてそう言った。


確かにあの大きな岩なら、この錆付いた扉を吹き飛ばすかもしれない。しかし落ちた瞬間に避けないと、岩の下敷きになってしまう危険なミッションであった。

これが出来るとしたら、岩の下を吹き飛ばす事の出来る俺かリサの二人だが、これを提案したリサがどうしてもやるというので任せる事にした。


他の者は部屋の隅で待機しているが、吹き飛ばした岩の角度で転がる方向が変わる恐れがあるので、気は抜けない状態であった。


リサは臆する事なく身構えると、神の雷を見事に岩の下に落とし、岩を真っ直ぐに転がすことに成功した。

ものすごい勢いで落ちてくる岩を、紙一重で避けるリサ。


ドッカーーーーーン!!!


狙い通りに落ちてきた岩は、見事直撃して扉を吹き飛ばした。

大成功である。

そして出口の部屋の宝箱から、紋章のカケラの二つ目を手に入れたのだった。



東から4番目の滝を流れ落ちた先は、一番初めに落ちた地下のダンジョンだった。

ここは既に探索済みだったので、さっさと出口へ向かいたいのだが、何しろ下が砂地のために足を取られ、歩くのだけでかなりの体力を消耗してしまう。

しかも魔物が頻繁に出現するため、ここから出る時にはフラフラの状態になっていた。


翌日。いよいよ最後の流砂の滝を落ちる。

滑り落ちた部屋には、巨大な石像が3体並んでいた。そして中央には大きな石碑があり、西端の壁には出口らしきものが見える。

だが今いる場所と出口との間には巨大な亀裂があり、このままでは行くことが出来ない。また、亀裂の向こう側にも巨人の像が1体立っていた。


「なんだ、また胡散臭い部屋にたどり着いちまったな・・・」


ネイルが憂鬱そうに話すが、恐らくここが最後のトラップのはず。ここで3つ目の紋章の欠片が手に入れば、後は死の回廊へ行き、最後の三種の神器”ガニメードの水がめ”を頂いて終わりなのだ。

死の回廊の恐ろしさをまだ知らないアレンは、簡単に考えていた。


「あともう少しだ!ファイトだネイル!!」


そう言ってアレンは石碑の前に立った。


石碑には”王家の宝を望む勇気ある者あらば、その意思を三度示すべし”と書かれている。


「何だこれ?意味が分からないな・・・」


腕を組んで考えるアレンに、横からリサが元気な声で「分かった!!」と、答えた。


「おっ!なんだ今日のリサは冴えているな!!」


ネイルが感心してリサを見ていると、トコトコと石碑の前に立つと同時に、大きな声で3回叫んだのだ。


「お宝ちょうだい!!」


「お宝ちょうだい!!」


「お宝ちょうだい!!」


唖然とした顔で見守る俺とネイル。

エレナはそんなリサを、まるでかわいい妹を見るような目で、ニコニコと微笑んで見ている。


「・・・・・・・・・・・・」


だがリサの願いはむなしく、何も起こらなかった。


「もう!これは一体どうゆうこと?!!」


癇癪を起したリサは、横に立っていた巨人像を杖で叩いたり、蹴り飛ばしたりしている。そして三発目の蹴りが巨人像の股間にヒットした瞬間、それまで微動だにしなかった巨人が、大声で吠えた。


「グオー-―――ッ!!!」


「うわ!おめえ、そんな所を蹴とばすから・・・」


ネイルがリサに文句を言ったが、リサはびっくりして、その場にひっくりこけている。

エレナが慌ててリサを抱きかかえ、巨人像から引き離した。


動きだした巨人像は、迷うことなくアレンたちに向かって襲いかかる。

この巨人像も今まで対戦したゴーレムと同じく、強大な力と体力を持っていたが、今の4人の敵では無かった。

力は強大でも、そのスピードではアレンたちにかする事も出来ない。

巨人像のコアを破壊すると、何事も無かったように、ただの石像に戻っていった。


残り2体の巨人像も、3度攻撃を与えると目を覚ました。

同じ要領で戦って倒すと、何故か亀裂の向こう側にいた巨人像が反応し、こちらに向かってゆっくりと移動して来た。そして亀裂の手前まで来ると、そこで動かなくなった。


「おっ!途中で止まったな・・・」


「何だ、つまんない!そのまま進んで亀裂に落ちたら良かったのに・・・」


ネイルとリサが残念そうに話している。


巨人像の止まった場所は、位置的には一番亀裂の幅の狭い場所なので、俺たちは間近まで行って巨人像を観察してみた。

体長はこちら側の3体よりも若干高く4~5メートルと言ったところか・・・。

この巨人像の大きさなら、うまくこちらへ引き倒せば亀裂をまたぎそうな気がした。


「あの巨人像をこちら側に倒して、橋の代りに使えないかな・・・」


アレンがそうつぶやくと、ネイルがそれに反応した。


「よし!オレ様に任せろ、ムチであの石像を絡めてこちらに引き倒してやるぜ!!」


ネイルの入手した一撃のムチは、ネイルの意思によって長さを自由に変える事が出来る特性を持っていた。ここから巨人像までは4メートル程度、この距離なら問題なく届く範囲だったのだ。


「いくぜ!」


ネイルはムチを一振りし、巨人像の首に絡ませ引き倒そうとした。ところがその時、何と!巨人像が急に動きだし、その怪力で逆にネイルを引き寄せた。


「どひゃ~~~~っ!!」


亀裂の向こう側に引き寄せられたネイルは、巨人像と一騎打ちとなった。

アレンたちはネイルを援護しようと攻撃を試みたが、ネイルに当たってしまう事を恐れ、うかつに手を出せないでいる。


素早さは誰よりも優れているネイルなので、巨人像の一撃を食らう心配は無かった。

ただ問題は巨人像を倒すまで彼の体力が持つかどうかであったが、それはアレンたちの取り越し苦労に終わった。


ムチで攻撃する事20合。ネイルは巨人像がうまく亀裂の橋になるように動きを計算しながら戦い、見事にそれをやってのけた。

歓声を上げる3人。

当分の間ネイルの自慢話を聞くことになるが、それはどうやら覚悟しているようだ。


亀裂の間にはまった巨人像を橋代わりにし、アレン達は向こう側に渡ることに成功した。

そして通路を抜けると、宝箱の中にある紋章のカケラを入手した。


「よし!これで3つの紋章の欠片を手に入れたぞ!!」


はめ込まれた紋章が黄金色の眩い光を放った。


ガシャン!!

大きな音と共に扉の鍵が開いた!


恐る恐る入った部屋の中は、床に透明なクリスタルが敷き詰めらた長い通路になっていた。

その透明な床から見える下の様子は、見るもおぞましい混沌としたカオスの世界であった。

得体のしれないドロドロとした何かが、うめき声を上げながら渦を巻いて流れている。

よく見ると苦しみ歪む人の顔にも見える、何とも恐ろしい光景であった。

その正体が何かは分からないが、ここに落ちたら間違いなく命はないだろう。


「な、何なんだよこれは・・・。地獄の底・・・って、きっとこんな感じだろうな・・・」


さすがのネイルもこれには顔を青くしている。


「アレン気をつけて!床のあちらこちらが抜け落ちているわ!!」


渦巻くカオスに気を取られていた俺は、エレナの声に驚いて歩みを止めた。

目を凝らして前を見ると、エレナの言う通り、床の無い所がたくさん見える。

俺たちの緊張が一気に高まった。何故ならクリスタルの床は驚くほどよく滑るのだ。

歩みを止めても、2~3歩先までするすると進んでしまうのである。

透明な床が抜け落ちているのかどうか、判断が遅れればそれが命取りになるのだ。

地獄の様な光景は見たくはないが、床の有無を見極めるためには下を見なくてはならない。

既にエレナとリサの顔色は真っ青で、口を押えてえずきそうになっている。俺は二人に目を閉じる様に言い、俺はエレナの肩を、ネイルはリサの肩を支えながらゆっくりと、その抜け落ちた床を見極めながら一歩一歩慎重に進んで行った。


クリスタルの通路を抜けた先に、死の回廊があった。

そこまでの距離は僅か200メートル程度であっただろうが、死の回廊に着いた時には神経を使い果たし、既にヘトヘトの状態であった。

だが、本当の恐怖はこれからだった。

何故なら、ここから先には透明なクリスタルの床すらも無く、混沌と広がるカオスの世界に、小さなクリスタルで出来た島が所々に点在しているだけなのだ。


そのクリスタルで出来た小さな島の上には、賢者の言っていたポストだけがあり、もちろん島と島をつなぐ通路などは一切見えない。


「おい!一体何の冗談だよこれは!!」


周りを見渡しながらネイルが吠えた。

アレンは今自分たちの居る場所に1つだけあるポストに近づくと、持っているプラズマボールの数を調べた。

全部で6個ある・・・。

目の前に見える島の数を数えただけでも、全く足りないのは明らかだったが、取り敢えず、試しにポストにプラズマボールを入れてみる事にした。


「今からこのポストにボールを入れてみるから、どうなるかよく見ていてね」


そう言うとアレンはポストにプラズマボールを入れた。


バチッ!・・・ジジッ・・・ジジッ・・・。


何もない空間に光が走り、一瞬だが道が見えた。


「えっ!たったこれだけ?」


ボールを入れたポストと、目の前にあるポストまでの空間が一瞬だけ光ったのだ。

アレンは恐る恐る、今光った何もない空間に足を下した。


「あっ!立てる!!」


アレンはネイルたちにその場から動かないように指示すると、そのまま何もない空間を歩き、前のポストのある小島まで進んだ。

そしてそこからまた元の場所まで歩いて戻って見せたのだ。


「もっとプラズマボールを集めなければ、この死の回廊を渡るのは無理だな・・・。

せめて後10個ぐらいは集めないと・・・」


思わず顔を見合わせる仲間たち。

そしてリサは目をキラキラと輝かせながら、ネイルに向かって言った。


「ねぇ、ネイル。あなたがエスケープの魔法で私をここから出してくれたら、何でも言う事を聞いてあげるわよ!」


「・・・面目ねえ・・・・」


アレンたちはこれから7日間、死に物狂いでプラズマボールを集めるのだった。


20個のプラズマボールが集まった。

果たしてこれで行けるのだろうか?アレンたちは何もない空間に降り立ち、最初の島へ渡った。そこから順次ポストへプラズマボールを入れ、光が示す島へと渡って行った。

そしてついに手持ちのプラズマボールが残り1つになった時、目の前に対岸と思える広い場所が見える小島にたどり着いた。

この島のポストに入れたプラズマポールが、目の前の対岸に向かって光れば到着である。

だが、もし左右の島に光ると、そこで行き詰まってしまう事になる。

アレンは祈りながら、最後のプラズマボールをポストに入れた。


バチッ!・・・ジジッ・・・ジジッ・・・。


「やった!前の空間が光ったぞ!!」


無事に死の回廊を抜けた先には、祭壇を設えた小さな部屋があった。

そこには神秘の光を放つ“ガニメードの水がめ”と、”ジュダの秘剣”が祭られていた。

そして祭壇の壁に彫られた魔人の顔を爆破すると、死の回廊からの出口が出現したのだ。


「よぉ!これでキングラムの三種の神器をすべて集めたな!!」


ネイルがニヤッと笑った。


「じゃあ、これでテローペに行けるのね?」


リサがアレンに尋ねた。


アレンはリサの問いに頷くと、みんなに向かって大きな声で宣言した。


「うん、テローペに行き、そしてすべての謎を解き明かすんだ!!

テローペで一体何が起こったのか。エレナがどうして船でドルドガへ来たのか!

そして何より、エレナの記憶を取り戻さなきゃ!!」


「テローペの巫女の記憶を!」


「え~~~っ!!?」


「エレナが・・・」


「テローペの巫女かよ・・・」


リサとネイルが驚いてエレナを見た。


「う、うん。まだはっきり記憶が戻っていないから、確かじゃないんだけど・・・。

私の手首にあるアザが、テローペの巫女の証みたいなの」


「いや、何となくそんな気がしていたぜ。そこらの娘さんとは、ちょっと違う感じがしていたから・・・」


ネイルはあっさりと納得している。


「エレナすご~~~~い!!じゃあ、あの魔王を倒す事の出来るハマンの魔法を使えるの?」


リサは勿論エレナなんだから、テローペの巫女でも当然だと思っている。

それよりも気になるのは、やはり魔法の事であった。


「それが・・・。まだ思い出せないの・・・」


「テローペの町で何が起こったのか?どうして私が船でテローペの町を出たのか・・・。それさえ思い出せば、きっとすべての記憶を取り戻せると思うんだけど・・・」


エレナはそこまで話すと、少し間を開け、戸惑いながら答えた。


「だけど・・・。なぜだか分からないけど、すごく怖いの・・・。

記憶が元に戻ることが・・・」


「きっと何か、思い出したくない辛い事があるんだね・・・・。

でも大丈夫だよエレナ。今はオレ達がついているから!!何があってもキミを守ってみせるさ!!」


アレンの言葉にネイルもリサも頷いた。


「そうだ!テローペで何があったか知らねえが、このオレ様が行って、きっちりカタをつけてやるぜ!!」


「どんな敵が来たって、エレナには指一本触れさせないもん!!」


「ありがとう、みんな!」


エレナは心強いみんなの言葉に、嬉しそうにほほ笑んだ。


「よし!みんなテローペに行くぞ!!」


「おう!伝説の魔王って野郎を、ぶっ倒してやろうぜ!!」


「さんせーーーっ!!」





「おっ!ここは何だ?」


グローが怪訝な顔をして、開かれたままの扉をジッと見ている。


「あいつら、えらく盛り上がっていましたね。この中には何かすごく良い物があるんですよ・・・きっと!」


聖魔導士のパットが答えた。


「なに?すごく良い物?間違いないだろうな?」


「でなけりゃ、あんなに盛り上がりませんよ!」


剣士のディックもパットの意見に同調した。


「・・・・・・・・・・・・・・」


用心深く扉を疑視していたグローだったが、欲深い彼がそのまま見ているだけで我慢できるはずが無かった。


「よし!ちょうど扉も開いているし、ちょっと入ってみるか・・・」


恐る恐る中に入るグローと副隊長の二人。


ガーーーーーン!!


三人が中に入ったとたんに、音を立てて扉が閉まった。


「うわわ・・・・。な、なんじゃココは!?」


いきなり狼狽えるグロー隊長。


「ひえ~~~~~~っ!!た、た、た、隊長!暗くて何にもみえませ~~~~ん!!!」

慌てふためくディックとパット。


ドン!!


「あだ~~~っ!!こ、こ、こ、こら!!押すな!!!」


急いで外に出ようとするグローに、二人の副隊長がぶつかった。

もうどっちが出口なのか、それすら分からなくなっているようだ。


「ああっ!た、た、た、隊長!!あ、あれは何でしょう?」


「なんだ?どうした?暗くてな~んにも見えんじゃないか?」


「ほ、ほら、あれ!!何か光っていますよ?2つある・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「うわっ!!あれは目玉だ!!」


グオ~~~~~~~~~!!


「ぎゃ~~~~っ!!」





それからしばらくして、アレンたちは雪の中にいた。

風の谷へ行く前に、もう一度氷の谷へ来ていたのだ。

もちろん目指す場所は地底湖の洞窟である。

あの奇妙な建物が立っていた地底湖は、今は無限のツボで水を抜いてしまっている。

したがって上下二つの入り口のある建物の、上の入り口には入ることが出来ない。


アレンは地底湖の前に立つと、ガニメードの水がめを傾けた。

すると水がめからは、尽きる事なく水がいくらでも流れ出てくる。


「すごいな!いくらでも水が出てくるよ」


アレンはその様子を感心しながら見ているが、ネイルはちょっと不満のようだ。


「すごいけどよ、ちょっと少なくねえか?これじゃぁ湖が一杯になるのに何日かかるんだよ?」


言われてみれば確かにそうだ。アレンは心の中で、もう少したくさん出て欲しいと願った。

すると水がめはその意を酌むように、どんどん大きくなって行く・・・・。


「うわっ!どんどん大きくなって行くぞ!!」


アレン一人では支えきれなくなり、慌ててネイルが助けに入った。


「ストーップ!!ストーップ!!」


慌ててアレンがツボの膨張を止め、二人掛かりでツボを地面に固定すると、さらに大きくなるよう念じた。


ツボはどんどん大きくなり、湖にはものすごい勢いで水が溜まっていく。

ものの1時間もすると、以前のように水を湛えた湖に戻ってしまった。

ガニメードの水がめは、アレンが念ずると一瞬で元の小さなツボに戻っている。


そして今度は氷の杖を使い、湖面を凍らせたのである。

これで上にあった入り口へ入ることが出来るようになった。


そこで見つけたのは、ブラックホールの呪文を覚える事が出来る“重力の本”であった。

リサがピョンピョン飛び跳ねて大喜びしたのは言うまでもない。

谷を出た一行は、ネイルのテレポートでドリガンへ飛び、そこから船で星見の塔へと向かった。




勉強嫌いなリサが星見の塔に籠って三日が経った。

ひょっとしたら知恵熱を出して倒れているのではないだろうか?エレナはリサの事が心配でならなかった。


一方ネイルは、リサが勉強に付いてゆけず、癇癪を起して大暴れしているのでは・・・と、ビールを片手にニヤニヤと笑っている。ちなみにこのビール、ダイヤモンドダストの魔法でギンギンに冷やしてもらっているので、ネイルは超ご機嫌であった。


アレンは、リサが覚えた魔法でうっかり塔を破壊してしまうのではないかと、心配そうに星見の塔を見上げていた。


そんな心配をよそに、リサは頭にハチマキを巻き、ものすごく真剣な眼差しで天文学者の講義を聞いていた。もしマリー先生が今のリサの姿を見たなら、きっと驚きのあまり腰を抜かしている事だろう。


「宇宙にはたくさんの星があるが、質量の大きな星が死を迎える時、星はどんどん膨張して大きくなって行くんだ。だけど星は元の姿に戻ろうと、中心に向かって収縮する力が働く。この力が重力さ」


「だけど一旦死を迎えた星はどんどん膨らみ、やがて大爆発を起こしてしまうんだ」


「え~~っ!星が爆発しちゃうの?」


リサが星の大きさをどのように理解しているのかは不明だが、一応真面目に話を聞いているようだ。


「その通り、これが超新星爆発さ!だけど、何もかも消し飛んでしまう訳じゃないんだよ。星は爆発して姿を無くしてしまうけれど、そこに重力だけが残ってしまうんだ!」


「えっ?重力って・・・。星を元に戻そうとしていた力の事?」


「そう!中心に引き付けようとする力だけが残る・・・。それがブラックホールだ!」


「へえ~~~っ・・・」


「ブラックホールは光さえも吸い込んでしまう、恐ろしい力を持っているんだよ」


「す、すごい・・・」


「この重力を操る魔法、それがブラックホールの魔法さ!」


「そうなんだ!!分かった!!」


何と驚くことに、あの勉強嫌いのリサが、ちゃんと天文学者の理論を理解していたのだ。

そして、それが証拠にリサはブラックホールの魔法を覚えたのである。


星見の塔に籠って四日目の朝、リサがニコニコしながら出てきた。

セリーズ河に停泊していた船の中から外の様子を見ていたエレナが、それに気づいて急いでリサの元へ駆け寄る。


「リサ、お疲れ様!!」


迎えに来てくれたエレナに、リサは猛ダッシュで抱き着いた。


「どうやら、ちゃんと覚える事が出来たようね?」


そう尋ねるエレナに、リサは実際にブラックホールの魔法を披露してくれた。


停泊している船のすぐ横にある大木に照準を合わせ、リサが魔法を唱えた。

すると目には見えない巨大な渦巻きが突如空間に現れ、その大木を一瞬の内に飲み込んでいく・・・。

あっという間に、大木は跡形もなく消滅してしまった。


「うえっ・・・。ダメだ、ビールを飲みすぎたのかな・・・・。いま目の前にあったでっかい木が消えたように見えたぞ・・・」


ネイルが二日酔いの青い顔で、アレンに向かって何やらゴチャゴチャと言っている。


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