第二十話 ドワーフの王ボルグ
レゼムに戻った俺たちは、街で得た情報を整理してみた。
*悪魔の沼の宝欲しさにたくさんの人間が来たが、生きて帰った者は一人もいない。
*悪魔の沼に入れば必ず死ぬ!そうならないようにドワーフの王ボルグが扉に鍵をかけた。
*ボルグ様に会いたいなら、ボルグ様と仲の良い者に頼むしかない。
*悪魔の沼には、ヒールⅢという本があるそうだ。
*悪魔の沼にはエルフのムチというすごい武器があるそうだ。
俺は情報を一つ一つ読み上げていった。
するとそれまで酒を飲みながらよそ見をしていたネイルが、最後の情報にいきなり食いついた。
「なに!?悪魔の沼にはエルフのムチがあるって?
そりゃ絶対に行かなきゃなんねえだろ!!」
「いや、だから・・・。
そのために努力しているんじゃないか!」
「おっ、そ、そうか! ならいいや!」
(今頃かよ!この情報を聞いた時、あんたも一緒にいただろ?!まったく、本当に人任せなんだから・・・・)
「ねえアレン、ボルグ様に会いたいなら、仲の良い者に頼むしかないって・・・。
それって、セロ様よね?」
不意にエレナがそう言ったので、俺はちょっと面食らった。
「えっ!そうなの?」
「え~~っ?!
だってレゼムの町のお爺さんも、南の関所の警備の人もそう言っていたじゃない!
アレンも一緒に聞いていたでしょ?」
「そ、そう言えば、そんな事を言っていたような・・・」
「もう、アレンたら、まったく人任せなんだから・・・」
「さすがはエレナちゃんだな!
アレン、おめえはもっとしっかりしなきゃだめだぜ!」
「・・・・・・・」
(あんたにだけは言われたくないよ)
次の日、俺たちは賢者セロの庵にいた。
「おお、お前さん達か、どうじゃな調子は?」
「実は困った事が起きたのです」
「なに、なに、困った事じゃと?」
「それでお願いに来たのですが・・・」
エレナがセロに事のいきさつを説明した。
「悪魔の沼にあるロイヤルストーンを捜したいのですが、ドワーフ族の人たちが入り口の扉にカギをかけて、沼に入れてくれないのです。
何とかならないでしょうか?」
「ふむ、ふむ、ドワーフ族のぉ・・・。
なら、恐らく入れてはくれんじゃろう・・・」
そう言うと、しばらくの間難しい顔をして長い顎鬚をいじっていたが、二度ほど大きく頷くと、
「よし、よし、ワシはドワーフ族の王、ボルグ殿の事をよく知っておる。
わしがボルグ殿に頼んでやろう」
そう言うと木箱の上に紙を置き、サラサラと手紙を書いてくれた。
「ふむ、ふむ、ふむ・・・と。
これでよし!さあ、この手紙をボルグ殿に渡すがよい。
きっとお前さん達の頼みを聞いてくれるじゃろ」
そう言うと、一通の手紙をエレナに持たせてくれた。
俺たちはお礼を言うと、早速ネイルのテレポートでドワーフの街へ飛び立った。
要塞都市の門を警護している衛兵に、ドワーフ王への謁見を願い出ると、
「お、なんだ、お前たち人間じゃねえか?今日はボルグ様の機嫌が・・・。
なに、なに?セロ様の手紙を持ってきただと?本当か?
よし、ちょっとここで待っていろ!!」
そう言うと門の中に入って行った。
しばらくすると衛兵が戻ってきて、俺たちを案内してくれた。
中に入ると、洞窟とは思えないほど立派な建築構造で、しかも想像を超える広い空間の中に、街がすっぽりと納まっていた。
天井も驚くほど高く、圧迫感など微塵も感じない。これが本当に閉鎖された要塞なのかと疑うほどであった。
王の間はこの街の一番奥にあるのだが、そこまでの長い長い通路の両脇には立派な噴水の泉が連なり、泉の中には大理石で作られた美しい彫像が何十体も並んでいる。
この彫刻の像は、この国の歴史を再現しているそうで、王様に謁見に来る来賓を飽きさせない作りになっていた。
そして謁見の間にたどり着くと、警備している兵士たちが口々にアレンたちに忠告した。
「いいか?ボルグ様は近頃機嫌が悪い!変な事を言うと命の保証はねえぞ!!」
「お前ら、くれぐれもボルグ様の機嫌を損ねないようにな!
何しろ怒ると手が付けられねえんだから!!」
「なんか、すごく脅してくるな・・・」
俺はネイルにそうつぶやくと、ネイルはニヤッと笑い、小声でこう言った。
「ドワーフ族はチビだが、力は恐ろしく強いらしいぜ。
とくに王のボルグは、怪力無双の化け物だって話を聞いたことがある。
何でも昔ドラゴンが襲来した時、そいつの尻尾をつかんで振り回し、岩に叩きつけて殺した事があるそうだ」
と、ネイルまで脅してくるので、さすがに俺は少し緊張してしまった。
横にいたエレナも、顔が少し強張っているように見える。
ただ、リサだけはいつもより偉そうな態度に見えた。
恐らくドワーフ族の身長が、自分と同じかそれ以下の者がほとんどなので、優越感に浸っているのではなかろうか?まぁ、これはあくまでも俺の推測なのだけど・・・・。
バァーーーン!!
重厚な扉が開かれ、俺たちはドワーフ王の前へ案内された。
多くの護衛兵たちが立ち並ぶ中、中央の玉座には白金の分厚い甲冑を着た、筋骨隆々のまるで岩の様な男が座っていた。
厳つい兜を目深にかぶり、白い立派な髭を蓄えた眼光の鋭い男は、強烈な覇気を放っていた。まさしくネイルが言う通りの怪物である。
その怪物が、俺たちを一瞥した後おもむろに口を開いた。
「ワシがボルグだ!お前たちか、セロ殿の手紙を持ってきたというのは」
「そうです!」
「よし、手紙を見せてみろ」
俺は前に出て一礼をし、セロから預かった手紙をボルグに渡した。
「う~~~む、なるほど・・・。
これは間違いなくセロ殿の手紙だ。
だが、どうも信じられん! 手紙には、お前たちにドワーフの鍵を渡し、沼に入ることを許可してやってくれと書いてある」
「その通りです。
俺たちは、悪魔の沼にあると言われるロイヤルストーンが欲しいのです」
「なに!ロイヤルストーンだと!?」
そう言うと、ボルグは俺たちを鋭い目で見渡した。
「今までたくさんの人間どもが、沼にある宝を盗みにやってきた。
だが、それを手に入れた者はまだおらぬ!沼から無事に帰った者もな・・・・。
ワシらはそれを見かね、沼の入り口に扉をこしらえたのだ!!
お前たちが沼に入り、無事に生きて帰ることが出来るとは、到底思えん!
見たところ、まだ子供もおるではないか!!」
「あ~~~~っ!私の事言ってる~~~~っ!!」
リサの顔が真っ赤になって、プ~ッと膨れた。
それを聞いた周りの護衛兵たちからは「クッ、クッ、クッ・・・」と、笑いをこらえる声が漏れてきた。
そしてボルグは畳みかけるように大声で怒鳴った。
「あきらめて、このままさっさと帰ってしまえ!!」
するとそれまで黙って聞いていたネイルが、ニヤニヤと笑いだした。
「へっ、へっ、へっ・・・。
あんた、この子の恐ろしさを知らないようだな?」
「何だと!?」
「甘く見ていると、とんでも無い目にあうぜ?
何しろ子供は手加減を知らねえからな!」
ネイルの話を聞いたボルグは、大声で笑い飛ばした。
「ガッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・・・・。
おい!聞いたか!?甘く見るなと言っておるぞ!」
ボルグの言葉に、周りの護衛兵たちも一斉に大声で笑いだした。
そしてその中の一人がボルグの言葉に答えた。
「誠に、話になりませんな!
今までこの沼に挑戦した人間どもは、この者達よりもはるかに屈強な奴らばかりでしたぞ!!この者たちが、沼から生きて帰るのは絶対に不可能です!!」
「ガッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・・・・。
われらドワーフ族は背こそ低いが、力は強く、みな勇敢な戦士だ。
どうやら人間も、ノッポよりチビの方が強くなったと見える。
ガッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・・・・」
そう言うと、ボルグは腹を抱えて笑った。
俺はヤバイ!と思ってリサを見たが、時すでに遅し。
強烈な炎の玉がボルグの座る玉座の真上を直撃した!
ドッカーーーーン!!
ものすごい爆音と共に、玉座の上2メートルの高さの壁が大破して吹き飛び、大きな穴が空いた。
ドワーフ達のバカ笑いも一瞬で消し飛び、護衛兵たちは顔を青くして武器を構えた。
「へっ、へっ、へっ・・・。やると思ったぜ!」
ただ一人、ネイルだけがニヤニヤと笑っている。
逸る護衛兵を制し、頭上の大穴をまじまじと見たボルグは、
「なるほど、暗黒魔法か?しかも、かなりの腕前だな・・・」
そして振り返り、大穴を空けた張本人をギロリと睨むと、
「しかし、王の部屋の壁を吹き飛ばすとは、このチビめ、なかなかやるではないか!!」
「自分もチビのくせに!チビって言うな!!」
リサが言い返すと、ボルグは愉快そうに声を上げて大笑いした。
「ガッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・・・・。
言ってくれぜ!!さすがはセロ殿の見込んだ者達だ!!
よし、分かった!!お前たちにドワーフの鍵を貸してやろう!」
「やった!!」
俺はホッとして剣の柄から手を離した。
「だが、鍵はワシらの大切な物だ!お前たちの用が済めば、必ず返してもらわねば困る」
「勿論、鍵はロイヤルストーンを手に入れたら必ずお返しします」
「うむ。それでは、ドワーフの鍵を貸してやる代わりに、お前たちの大切な物を二つここへ置いていけ」
「わかりました。じゃ、大切な物を二つ預けます」
「よし!話は決まった!宝箱を用意しろ!!」
ボルグの命令で護衛兵が宝箱を用意すると、アレンはその中に“緑の結晶石”と“イリヤの涙”を入れ、そしてボルグからドワーフの鍵を受け取った。
「ロイヤルストーンは、悪魔の沼の洞窟の中にある。
だがあの沼は毒の沼で、歩くたびに体力が消耗してゆく。
気を付けて行くのだぞ!」
「はい!では、しばらく鍵を借りていきます」
そう言うと、アレン達は王の間を後にした。
アレンが部屋から出て行くと、何故かボルグは難しい顔をして唸っていた。
「う~~~~~~~む・・・・」
「ボルグ様、何か?」
「やはり奴らに鍵を渡すのはマズかったですか?何なら今から我らが始末して・・・」
護衛兵の一人が不振に思い、恐る恐るボルグに尋ねると、
「いや!実はあの青年、どこかで会ったような気がするのだが・・・。
はて、一体どこで会ったのか?
う~~~~む、どうしても思い出せぬ・・・・」
ボルグは顎に手をやり、必死に考え込むのであった。
一方アレン達は、ドワーフの街で悪魔の沼へ挑む準備を始めた。
この街には、ドワーフ族が採取するミスリルという特殊な金属で出来た武器や防具が売られていた。
価格は驚くほど高いが、軽い上に鋼を上回る強度を持っており、またこの金属の加工には高度な技術が必要なため、ここでしか手に入らないのだ。
それと鉱物を採取する技術にも長けており、それに使用する火薬の調合にも優れ、その技術を使って作った“戦闘用の爆弾”も売っているのだ。
以前は多くの冒険者たちがこれらを求めてこの街を訪れていたそうだ。
だがボルグ王の機嫌が悪くなってからは、他種族との交流は一切途絶えてしまっている。
なぜ機嫌が悪くなったのか、街のドワーフ達の情報を得て原因を知ることが出来た。
一年前、ボルグ率いるドワーフの軍隊は、テローペに向かう準備をしていたそうだが、出発間際になって突然火山が爆発し、例のカルデラ湖が出現して行けなくなってしまったそうだ。
それ以来、テローペに行く方法を必死に探しているのだが、未だに見つける事が出来ず、それがボルグの機嫌の悪い要因になっているのだそうだ。
なぜテローペに行こうとしていたのか、その理由を聞くことは出来なかったが、以前賢者セロから聞いた、ドワーフがカルデラ湖を渡ろうとした話を思い出した。
もしアレンたちが湖の怪物を倒せば、ドワーフ達もテローペに行くことが出来るだろうが、その目的が分からない以上、この件は絶対に話さないよう、アレンは他の仲間たちへ念を押した。
ネイル トレジャーハンター
武器 いばらのムチ
装飾品 星のピアス(睡眠・暗闇を回避)
エスケープ 洞窟の中などから外へ脱出
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%の回復させる
キュアー 毒状態を回復する
キュアーⅡ 毒、暗闇、沈黙、睡眠を回復する。
テレポート 行ったことがある街などに瞬間移動する
マジックバリア 味方全体をバリアで包み、魔法の攻撃から身を守る
リサ 黒の魔法使い
武器 ミスリルロット
装飾品 ネレイドの腕輪(毒、沈黙、混乱を回避)
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる
ファイア 敵単体に炎属性のダメージを与える
ファイアⅡ 敵単体に強力な炎属性のダメージを与える
フレアー 敵全体に炎属性のダメージを与える
ドレイン 敵単体の体力を吸収する。
不気味なダンス 敵全体の魔力を吸収する。
エレナ テローペの娘
武器 ミスリルボウ
装飾品 ネレイドの腕輪(毒、沈黙、混乱を回避)
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる
レイズⅡ 戦闘不能から復活させ、体力を50%回復させる
リカバー 味方全体の体力を30ポイント程回復させる
リカバーⅡ 味方全体の体力を80ポイント程回復させる
トルネード 敵全体に風属性のダメージを与える
アレン 鉱山の青年
武器 ミスリルソード
装飾品 ネレイドの腕輪(毒、沈黙、混乱を回避)
ヒール 味方単体の体力を40ポイント程回復させる
ヒールⅡ 味方単体の体力を120ポイント程回復させる
キュアー 毒状態を回復する
キュアーⅡ 毒、暗闇、沈黙、睡眠を回復する。
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる
ガード 味方全体の防御力を上げる。




