第二話 出会い
「ヘックチョン!!」
「おっと!こりゃまた、どこかでこのオレ様の噂話をしているようだぜ。
きっと、かわい子ちゃんだな・・・。え~~っと、たぶん・・・・・・」
腕を組み、斜め上を見つめながら、ニヤニヤと考え込んでいるこの男・・・・。
背がとても高いのが特徴で、190センチは優に超えていると思われる。体格も良く、金色の髪にテンガロンハットが良く似合う、細面のかなりの美男子であった。
ただ蛇の様な長いムチを肩に掛け、なにやらとても危険な匂いのする、一風変わった男でもあった。
「・・・・・・・ま、いいか!」
思いついたのか、あきらめたのか。
それとも、途中でどうでも良くなったのか。男は向きを変え、青年に話しかけた。
「なぁ!爆弾使いの先生よ!」
「先生だって?さっき言っただろ」
「俺の名はアレンだ!」
「おう!そうだったな!!」
「どうだい?アレンさんよ!こんな鉱山なんかでチマチマ働いてねえで、オレと組まねえか?オレのトレジャーハンターの腕と、あんたの爆弾使いの技術があれば、いい仕事ができるんだがな~」
「いや、いいよ。俺は今の仕事で満足しているから」
アレンという青年は、彼の誘いを即答できっぱりと断った。
「おい、おい。冗談だろ?こんな薄暗い陰気な場所で鉱石を探す仕事に満足だなんてよ~。
男だったら、ドカンと大きい仕事やってよ!人生楽しまなきゃ!!そうだろ?アレンさんよ?!」
「・・・・・」
浮かない顔をしているアレンを見て、簡単には落ちないと思った男は・・・。
「ま、いいか・・・。オレはしばらくこの村の宿屋にいるからよ!気が変わったら訪ねてくれ。オレの名はネイル!蛇使いのネイルだ!!」
「じゃあな、待っているぜ!」
そう言って引き揚げて行った。
鉱山の村ドルドガ・・・。
海に面した小さな村で、ここにある鉱山では昔から良質な鉄鉱石や、銅、スズなどが取れ、村人の多くはそれらの発掘と精製で生計を立てていた。
村の様子はというと、一攫千金で大儲けした!!という浮いた話もないが、飢えて食うのにも困る・・・と言う事もない。
言わば平々凡々な生活を送っている、のどかな田舎の村だった。
そんな田舎の村に、少し前から「なんか怪しい男が、お宝を探しに来ている・・・」と言う噂が流れていたが、それが先ほどのネイルであった。
このネイルと言う男は、人の探索が及ばない危険な遺跡や洞窟などに入り、財宝を探し出す事を生業としているトレジャーハンターである。
通常トレジャーハンターとか、冒険者と呼ばれる者たちは、その危険な仕事柄、最低でも4人以上のメンバーでチームを組んで活動するのが当たり前となっている。しかし何故か彼は一人でさすらっており、つまり普通の規格に当てはまらない、ちょっとヤバイ男なのであった。ただ今回はどうしても爆弾を使う者が必要だったようで、仕方なくこの村で仲間になる者を捜していたようだ。
ネイルは村に入ると、早速村の者たちに”爆弾が使えて、腕っぷしが強い奴”の名前を聞いて回った。
すると10人が10人とも、声を揃えて「アレン」と答えたのである。
これはもうアレンという奴を仲間にするしかないな・・・。
ネイルはそう思ったのだが、ちょっと気になる事もあった。それは「アレン」と答えた後、これも10人が10人とも「うふふ・・・」と笑ったのである。
解せぬ笑いである。
ここは荒くれ者の多い鉱山の村、誰もが認める腕っぷしの強い奴となると、かなりヤバイ奴のはず。なのに、どうして「うふふ・・・」なのか?オレをからかっているのか?
気になったが、とにかくアレンという奴に会ってみようと決心したのだ。そしてもし誘いを断るようなら、叩きのめしてでも仲間にするつもりであった。
で、先ほどアレンに会った訳だが、さすがのネイルもこれには驚いた。
何と!女の子と間違えてしまうほど美人というか、かわいい顔をしているのだ。
何をどう贔屓に見ても、決して強そうには見えない。
それどころか、間違って口説きそうになってしまったのは、ここだけの秘密である。
(ちっ!村の奴らが笑う訳だぜ・・・・)
出鼻を挫かれたネイルは、仕方なく一旦引き下がることにしたのである。
「変わった男だな・・・。一体どこから来たんだろう?」
アレンは、鉱山の現場から出て行くネイルの姿を見送りながら、そんな事を考えていた。
するとネイルと入れ替わりに入り口からやって来た現場の監督が、
「おいアレン!そろそろ仕事を上がるぞ!お前今日も彼女とデートなんだろ?彼女、お前の事迎えに来ていたぞ!」と告げた。
「えっ、ほんと?」
「あぁ!今あいつは客人と話し中だと言ったら、いつもの場所で待っているってよ!」
「早く行ってやれよ!もうすぐ日が暮れるぜ!最近夜は物騒だからな」
そう言うと、監督は元来た道を帰って行った。
アレンは急に緊張した面持ちで、ブルブルッ・・・と身体を2~3度震わせた後、両手で自分の顔をバシ!バシ!っと二回叩いた。
そして「よ、よーーーし!!今日こそ、絶対彼女に俺の気持ちを打ち明けるんだ!!」
そう言って鼻息荒く、大股で出口に向かって歩きだした。
アレンが去った後、誰も居なくなった鉱山はし~んと静まり返り、静寂な時がこの場を支配していた。坑道から滴り落ちる水滴の音だけが静かに響く・・・・。
それはいつもと変わらない光景だった・・・はず!
なのに突然その静けさを破って異変が起きた!!
バコン!という鈍い音と共に、坑道の壁の岩がパラパラと床に落ちる。
ドカン!!!
続いて大きな音と共に壁が崩れ落ち、開いた空洞から二つの赤い目が不気味に光った。
そして次の瞬間、おぞましい姿の魔物が続々と這い出て来たのだ。
そのころ海の見える丘の上では、背がすらりと高く、栗色の長い髪を潮風になびかせた、気品のある、それでいて少し儚げな、とても美しい娘が夕陽を見つめて立っていた。
まるで天から舞い降りた、美の女神かと疑うほどの美しさだ。
アレンが丘に駆け付けると、足音に気づいた娘が、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「あ!アレン」
「ごめんよエレナ。ちょっと人が訪ねて来て・・・。ずいぶん待たせちゃったね」
「ううん、気にしなくてもいいよ、ここは景色もきれいだから、時間なんて気にならなかったわ」
そう言うと、彼女はニッコリほほ笑んだ。
「景色?何を見ていたんだいエレナ」
そう聞かれ、エレナは空を指さして答えた。
「あのピカピカ光るお星様よ!えっと・・・。あの星の名前は何だっけ・・・」
星の名前を答えようとして、それが思い出せずにいるエレナを見てアレンはつい、笑ってしまった。
「は、は、は・・・。
あんな有名な星の名前まで忘れちゃったのかい?」
アレンがそう言うと、エレナは急に悲しそうな顔をして、黙り込んでしまった・・・。
「あ!!ご、ごめんよエレナ!!」
アレンはしまった!という顔で、慌ててエレナに謝った。
そして初めてエレナと出会った時の事を思い出したのだ。
彼女の名前はエレナ。彼女と初めて出会ったのは、俺の父と母が旅に出てから、3か月が経った頃だった・・・。
その日、村の近くの海岸を歩いていると、遠くから船がこちらに近づいて来るのが見えた。
それは漁師が乗るような船とは違い、見た事もない立派な船だったので、気になった俺は、船がたどり着いた場所へ行ってみる事にしたのだ。
船に近づくにつれ、無数の矢や剣が刺さっているのが見えた。きっとどこか遠い国で戦争があったのだろう・・・。そう思い、恐る恐る船の中を覗いてみると、何と、そこに一人の女性が倒れていたのだ。
意識を失っていたが、息のあるのを確認した俺は、慌てて村へ助けを求めに走ったのだった。
幸い発見が早かったため、彼女は一命を取り留めた。だけど、代わりに記憶を失ってしまったのだった。自分の名前以外は、何も思い出せない。自分は一体誰なのか?どこから来たのかさえも・・・。
それに何だか、いつも何かに怯えているような感じだった。
そんな彼女を見ていると、何だかつい気になって・・・。
気が付くと、いつも彼女の所に足が向いていた。初めのうちは心を閉ざしていた彼女も、やがて俺の話に耳を傾けてくれるようになり、二人はよくこの丘でおしゃべりするようになったんだ・・・。
ごめんよエレナ。
あの星の名前はね、アルモアって言うんだよ。
「アルモア!!」
「そ、そうだよ。どうしたんだい?そんな驚いた顔をして?」
「聞いた事あるの・・・・その名前。何か、とても大切な事・・・・。
でも・・・・・」
「思い出せないんだね?」
アレンは心配そうにエレナを顔を覗き込んだ。
「あ、そうだエレナ!
あの星のおとぎ話を聞かせてあげようか?」
「え!お、おとぎ話?」
「そうさ、アルモアの星の伝説。俺、小さい頃母さんからよく聞かされたんだ」
「アルモアの星の伝説・・・。
教えて、アレン!私も聞きたいわ!」
アルモアの星の伝説。
それは、遠い遠い昔のおとぎ話・・・・。
夜空にひときわ大きく輝く、赤い星にまつわる伝説です・・・。
はるか昔、この広大な大陸はキングラムという国が治め、人々は平和に暮らしておりました。
ところがある日、地の底より強大な魔王が現れ、神々が封印していた魔物を地上に解き放ってしまったのです。
たちまち地上には恐ろしい魔物があふれ、平和だった世界を闇と恐怖の世界へと変えてゆきました。
だが、キングラムの若くて勇敢な王アルモアは、三人の勇者と共に魔王と戦い、激しい戦いの末、ついに魔王を打ち倒したのです。
ところが、この戦いの最中悲劇が起こりました。
アルモアの愛する妻、美しいイリヤ王妃が魔王の呪いで石にされてしまったのです。
アルモアは幾日も幾日も嘆き悲しみました。このままではアルモアは、悲しみのあまり死んでしまうのでは・・・・。誰もがそう思いました。
その時です。アルモアの姿をみて哀れに思った神々は、彼の姿を星に変え、天高く夜空に上げたのでした・・・・。
夜空に燦然と輝く、赤くて大きな星アルモア・・・・。
星になったアルモアは、今もなお、空の上からこの国の平和を守り続けていると、伝えられているのです・・・・。
アレンが話すアルモアの星の伝説を、エレナはとても熱心に聞いていた。
そんな彼女を見ていると、アレンはエレナの役に立てた事がすごく嬉しくなり、とても幸せな気分になるのでした。そしてその時、ふと思い出したのである。
ここへ来る前に誓った事を・・・・。
(はっ!?ど、どうしょう。な、なんか俺たち、今すごくいい雰囲気なんじゃ・・・。
こ、これって告白する絶好のチャンスだよな?)
そう思うと、急に喉がカラカラになり、心臓も今にも飛び出しそうなほどドキドキと・・・。
(こ、困ったな・・・・)
(ハッ!困ってどうするんだ!!)
時間にしては一瞬であったかもしれないが、彼の心の中で壮絶な葛藤が起こり、そしてついに決心したのだった。
(よ、ようし!が、がんばれ俺!エレナに俺の気持ちを打ち明けるぞ!!)
(いち、にの、さん!で、思い切って言うんだ!!)
(いち)
(にの)
(さ・・・)
ドッカ~~~~~~~ン!!!!!
突然、大きな衝撃音が響き渡り、木々に止まっていた鳥が一斉に飛び立った!
「うわっ!なんだ!今の音は!!!」
「何かしら?ねえアレン、行ってみましょう!」
俺とエレナは、急いで音のした方へ向かった。
そして、そこで目にしたものは!!
なんと!大木に引っかかり、クルクルと目を回している少女の姿であった。
俺は、近くの農家から梯子を借りて来て、その少女を助け出した。
見た所、怪我はしていないようだったが、念のため声を掛けてみる。
「大丈夫かい?」
すると少女は俺とエレナにニッコリとほほ笑み。
「うん!もうぜんぜんOKよ!!
あのホウキ!今度見つけたら、ぜ~ったい風呂の焚き木にしてやるわ!!」
などと、意味不明な事をつぶやいた。
本当に大丈夫なのだろうか?俺は少し心配になったのだが・・・。
エレナも不思議に思ったのか、少女に尋ねている。
「ホウキ?ねえ、どうして木の上にいたの?」
「へっ、へっ、へ~。ちょっとね・・・」
と、ニコニコ笑って答えている。
笑顔の良く似合う、とてもかわいい女の子だが、ますます心配になった。
「ところでキミ。この村じゃ見かけないけど、どこから来たの?」
「ジュダ!」
俺の質問にさらっと即答する少女。
「ふ~ん・・・。ジュダか・・・」
「ええ~~っ!!ジュ、ジュダー!!?」
俺はビックリして飛び上がった。
「どうしたの?ジュダって聞いて驚いたりして?」
エレナが不思議そうに俺に尋ねたが、普通の者はジュダと聞けば誰でも驚くものなのだ。
「エレナちょ、ちょっと」
少女から少し離れた所までエレナを誘い、俺は簡単に説明した。
「人から聞いた話なんだけどさ、ジュダって暗黒魔導師の街なんだって」
「暗黒魔導師?・・・暗黒魔導師って?」
「恐ろしい攻撃魔法を専門に使う、すごくヤバイ魔法使いなんだよ」
俺はエレナに、昔戦争でジュダに攻め込んだ何万という軍隊が、一瞬で燃やされて殲滅した話や、集団発生した魔物の群れを、たった一人の魔法使いが、全ての魔物の生き血を吸い取り、殲滅させたという話を聞かせてあげた。
「あの子、何しにこの村へ来たんだろう?」
エレナはそんな俺の顔を見て、あきれたように笑った。
「うふふ・・・。何言っているのよアレン。あの子がそんな怖い女の子に見える?」
そう言うと少女の所へ戻って尋ねた。
「ねえ、名前は何て言うの?」
「リサ」
「そう、リサって言うの。私の名前はエレナ。そして彼はアレンって言うの」
俺は少しビビりながらも、リサに自己紹介をして、今後の事を聞いてみた。
「ねえリサ。ここまでどうやって来たのか知らないけど、ジュダまでどうやって帰るつもりなんだい?」
「う~~~ん。もうホウキはどこかに行っちゃったから、歩いて帰る」
「でも、ここからジュダまでだと・・・。
そうだな~、歩いて帰るとなると半月はかかりそうだよ」
そう言うと、初めて事の重大さに気づいたのか・・・。
「えーーーーっ!!!!うっそーーーー!!!」
「ど、ど、ど、どうしょう!?おじいちゃんに叱られちゃうよ~」
涙目になって地面にしゃがみ込んでしまった・・・・。




