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アルモアの星伝説  作者: トド
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第十九話 砂漠の賢者

 次の日、俺たちは賢者セロの庵を訪ねた。


「おお、お前さん達か、どうであった?」


「はい、おかげで緑の結晶石を手に入れる事ができました」


俺はセロに緑の結晶石を見せた。


「おお!そうか!緑の結晶石を手に入れたのか!!

さすがワシの見込んだ者達じゃわい!!」


「よし、よし、それではまず、ガラガ砂漠に住む賢者を訪ねるがよいぞ。

きっと無限のツボの事を教えてくれるじゃろう」


「はい、ありがとうございます!」


「分からぬ事があれば、またここを訪ねるがよい。

しっかりやるのじゃぞ」


そう言って俺たちを送り出してくれた。


セロの庵を出ると、すぐにリサが聞いて来た。


「ガラガ砂漠ってどこにあるの?どうやって行くの?」


「確かガラガ砂漠って、ソーネリアの街の遥か南にあるんだよね?」


俺はジュダからソーネリアへ行く途中の橋の袂にあった、大きな道しるべにそう書かれていたのを思い出した。


「でも、レゼムからソーネリアへ行く船はもう出ていないわよ。

陸路は危険で行けないって、町の人たちも言っていたし・・・」


エレナがそう言うと、


「おい、おい!誰か忘れてんじゃないの?」


ネイルはニヤニヤしながら、テンガロンハットをクイッと指で押し上げた。

彼が自慢するときの得意のポーズである。


「ネイル、ソーネリアの街までテレポートできるのかい?」


「フフン! そんなの訳ねえよ!!

オレ様はレゼムの町、ソーネリアの街、ジュダの街、アーズの村、そしてドルドガ村の看板娘たちとは、とてもいい仲なんだぜ!!」


(嘘つけ!魔法陣のプレートに座標を刻印してもらっただけじゃないか!!)


だが口に出して言うと、すねて言う事を聞かなくなるので、ここはグッと我慢だ。


「じゃあ、頼むよ」


ソーネリアの街までテレポートした俺たちは、砂漠の旅に必要な物を用意するため、この日はジムリさんの宿屋で一泊した。

そして今回の旅で最も重要である、精密な地図を入手する事が出来たのだ。


地図を提供してくれたのは宿屋のジムリさんで、何でも彼は宿屋をする前は旅の行商人だったそうだ。

俺の父との出会いもその頃の話で、ジムリさんはとても懐かしそうにその時の事を話してくれた。


その頃のジムリさんは手広く商いをしていたそうで、行商のためのキャラバン隊もかなり大掛かりな物だったらしい。

ドルドガ村で仕入れた上質の鉱石をソーネリアまで運ぶ途中、一行がアルメス山脈に入った時、盗賊の群れに取り囲まれたそうだ。


キャラバン隊は十二名の用心棒を雇っていたが、相手は悪名高い屈強な大盗賊団で、その数も三十人はいたらしい。

極悪非道な連中であったため、荷物と金を差し出しても命の保証はない、さすがに覚悟を決めたそうだが、そこへ運よく俺の父であるジェイドが、母のエミリアを伴って現れたという。


状況を瞬時に判断した父は、キャラバン隊と盗賊の間に悠々と割って入り、母をキャラバン隊に預けると、ジムリさんには手出しは無用と言い、落ちていた木の棒を拾い、アッと言う間に盗賊全員を叩きのめしたそうだ。

キャラバン隊の用心棒たちも、そのあまりの強さに圧倒され、加勢する事も忘れて見とれていたという。


後で分かった事だが、剣を使わずに木の棒で戦ったのは、母が子供(俺)を身ごもっていたため、血なまぐさい殺伐としたシーンを見せたくなかったのだそうだ。


若い頃の父は、母と共に色々な場所を転々と回っていたのだが、母が身重であることが分かったたため、しばらく落ち着ける場所を探すため、ここに来たのだそうだ。

その話を聞いたジムリさんは、身重の母のために馬を一頭差し出し、ドルドガの村へ行くことを勧めたのだという。

それ以来、行商でドルドガを訪れた時は、必ず俺の両親と会っていたのだそうだ。

俺は若き日の父と母の話を初めて聞き、人と人との縁というのは、実に不思議なものだと感心したのだった。


次の日、ジムリさんからもらった地図を頼りに南に移動し、二日かけて砂漠の入り口へたどり着いた。

この砂漠はとても広大で、一旦足を踏み入れると周りには目標となる物がなく、方向感覚がマヒしてしまう。

それに日中は照り付ける陽射しに体力を奪われてしまうので、陽が落ちてから星の位置で方角を確認しながら進んだ。

しかし夜は昼間と真逆で、空気が乾燥しているため気温は0度近くまで下がり、これはこれで過酷な旅であった。

またこの辺りはワーウルフが縄張りにしており、頻繁に俺たちを襲って来たが、空には満月が明るく地表を照らしてくれていたため、戦闘はやりやすかった。これが新月だったら苦戦していたに違いない。


砂漠を旅して五日目、ようやく砂漠の中央にオアシスを発見した。

綺麗な水が地表から湧き出て、その周りには緑の樹木が茂っている。

そして地図に記されているように、そこには白く美しい立派な神殿が建っていた。


「おぉ!すげえ!!こりゃ見事な神殿だな!!」


ネイルは見るなり駆け寄り、黄金色に輝く立派な扉を押したり引いたりしているが、全く微動だにしなかった。


「チッ!赤でも緑でもここの扉は開かねえぜ!!」


ネイルは悔しそうに扉を睨みつけている。


「やっぱり砂漠の賢者の知恵を借りなければダメみたいね。

でも、このオアシスに賢者の庵が無いとなると・・・・」


エレナは地図を見ながら、西の方角に目を移した。


「アレン、ここから真っすぐ西へ行くと、砂漠に隣接する川があるんだけど、生活するのなら砂漠と川に挟まれたこの場所が最適だと思うの・・・」


確かに水が無ければ、いかに賢者と言えども生きては行けないだろう。

俺たちはエレナの意見に従い、西に向かって進んだ。


そして三日目には砂漠を出て、樹木の茂る川の畔に賢者の庵を発見した。


「エレナすご~い! あったね、賢者のお家!!」


「よし!じゃあ、緑の結晶石を使ってみるぜ!!」


ネイルが扉の鍵穴に結晶石をかざすと、扉全体が緑色の淡い光を拡散し、カチャッという音と共に扉が開いた。

恐る恐る家の中に入ると、白髪の老人が背を向けて本を読んでいたが、静かに本を閉じるとこちらへ向き直った。


「おや?こりゃ、珍しいのう。このような辺鄙な所に来客とは・・・。

さて、さて、一体何の用じゃな?」


「はい、キングラムの三種の神器のある場所を教えてもらいたくて来ました」


俺は一歩前へ進むと、そう答えた。


「三種の神器とな?さて、さて、三種の神器の場所とはのう・・・」


老人は長いあご髭を手でしごきながら、何の話か?と言わんばかりの様子で答えた。


エレナはその様子を見ると、アレンからミューゼの書を受け取り、すかさず答えた。


「私たち、ミューゼの書なら持っています!」


「なに、なに!?ミューゼの書を持っておるじゃと!?

そりゃ、本当かの?」


「はい、これに・・・」


そう答えて、驚く老人にミューゼの書を手渡した。


「おお!いや、いや、これはまさしくミューゼの書じゃ。どれどれ・・・・」


老人は、しばらくミューゼの書を読んでいたが、


「う~~~~む。よろしい!それでは教えてしんぜよう!

このガラガ砂漠にある神殿には無限のツボが奉納されておる!」


「やった!それがあれば、湖の水を無くすことが出来るぞ!」


俺は思わずガッツポーズを取った。

だが老人は、喜ぶ俺たちを制してこう言った。


「まだ喜ぶのは早いぞ。神殿の扉は封印されておるのじゃ。

それを解くには“ロイヤルストーン”という結晶石が必要じゃ!」


ピョンピョン飛び跳ねていたリサが、ピタッと止まって老人に尋ねた。


「そのヨーヤルスットンって、どこにあるの?」


「な、なんじゃ??スットンではなく、ロイヤルストーンじゃよ」


「そうそう、それそれ!どこにあるの?」


「うむ、ロイヤルストーンはのお、悪魔の沼にあると言われておる」


「悪魔の沼って、どこにあるの?」


リサは遠慮なしにどんどん質問するが、屈託のない性格と愛らしい仕草が老人受けするようで、砂漠の賢者も快く質問に答えてくれた。


「悪魔の沼は、ここから西に行った所じゃが、とても恐ろしい所でな、今はドワーフの王が入れぬように、扉にカギをかけたと聞いておるぞ」


「じやあ、悪魔の沼には入れないのですか?」


エレナが心配そうな顔で尋ねた。


「うむ、そう言う事じゃ。

それにワシもあの場所へ行くのはやめた方が良いと思うがの・・・」


「だけど、俺たちはどうしても無限のツボが必要なんです」


「うむ、それならばドワーフの王に会い、沼の扉を開けるように頼むしかないのう・・・。

じゃが、ドワーフ王のボルグ殿は、なかなか気難しい王での、一筋縄では行かぬぞ!」


「とにかくそのドワーフ王に一度会ってみます」


「そうか、では気を付けて行くのじゃぞ!」


砂漠の賢者にお礼を言うと、俺たちはレゼムへテレポートした。

そこから南の関所を越え、森の遺跡を抜けて西へ進み、ラコス川の流れに沿って南に進むとドワーフの街に到着する。

工程的には二日の旅だが、さすがに砂漠を歩き続けてきたので、かなりきつかった。

しかし街へ着いてしまえば、ネイルが座標を刻印してテレポート出来るようになるので、俺たちは疲れた体に鞭打って、ドワーフの街まで歩き続けた。


レゼムの町を出て二日後、ようやく目的地のドワーフの街へ到着した。

ドワーフの街は、山の岩肌に巨大な洞窟を人工的に作り上げた要塞都市であった。

洞窟の入り口は二か所あり、一つは王の住む要塞都市と、もう一つは巨大な地底湖の入り口で、そこには立派な庭園が設えられ、広々とした空間に並んだ灯篭からは、赤や緑といった色とりどりの美し光を放ち、湖面に流れ落ちる大小五つの滝を幻想的に映し出していた。

初めてここを訪れた者は、誰もがその美しい光景に息を呑んだに違いない。


そして街の西外れに問題の悪魔の沼があるのだが、そこには頑丈な鉄の扉にカギが掛けられて、先へ進む事は出来なかった。


俺たちはドワーフの王に会いたいと、要塞都市の門を守る衛兵に願い出たのだが、返事は実にすげないものだった。


「お!めずらしいな!!人間がこんな所まで来るなんて。

けど、今ボルグ様は機嫌が悪い!誰ともお会いなされねえ!命のあるうちに、とっとと帰んな!!」


しかし、そう言われて簡単に引き下がるわけにはいかない。

俺はしつこく交渉してみたが、髭もじゃのドワーフの衛兵は、不愛想な顔でハエでも追うように、さっさと帰れの一点張りであった。


「ダメだ、これじゃ話にならない!」


俺がエレナとリサにそう愚痴をこぼしていた所に、ネイルが血相を変えて走って来た。


「おい!ここは一体どうなっているんだ!?」


「どうかしたのかネイル?」


俺は驚いて、憤慨しているネイルに尋ねた。


「どうしたも、こうしたもねえぞ!!

居ねえんだよ!!ここには!!」


「一体何が居ないのさ?」


リサが怪訝な顔をしてネイルに尋ねた。


「街の看板娘がいねえんだよ!!!」


「えっ?じゃあ、テレポートの座標の刻印が出来ないの?」


エレナも心配してネイルに尋ねると、


「いや、それは出来るのは出来るのだが・・・・。

その役をしているのが髭もじゃのおっさんなんだぜ!!

信じられないだろ?こんな事は絶対に許せねえ!!!」


そう憤慨しているネイルに、リサがブチ切れた。


「あんた、一体何が目的なのさ!!」


そう言うと、俺に向かってネイルを指さし、とんでもない事を聞いて来た。


「燃やしてもいい!?」


許可を求めるリサの手の平には、炎の塊がメラメラと燃えている。


「いや、いや、それはマズイだろ?!」


俺とエレナは慌ててリサをなだめつつ、ネイルには座標に刻印してもらったらレゼムへ戻って飲もうと説得し、何とかこの場をしのいだのだった。


次の日、ネイルのテレポートでドワーフの街へ行き、出来る限りの情報を集めた。

要塞都市の中には入れないので、地下湖やその周辺のドワーフに話を聞いたのだが、ここで一つ大きな収穫があった。


地底湖で情報を集めながら、一番奥のフロアへ移動した時の事だ。

ここのフロアは地底湖の中で一番大きなフロアで、五つの滝が一望でき、また飛沫が掛かるほどすぐ間近に滝を見る事が出来る絶景の場所だった。

そして滝から一番近い場所には立て看板が設置されており、それには“危険!ここから向こう側に飛び移るのはやめましょう!!”と書かれていた。


「これって、ここから向こうの滝の方へ行けるってことだよね?」


俺は滝の方からこちら側を見ると、どんな景色になるのか興味が湧いたのだ。


「やれると思うが、失敗して落っこちたら笑い者だぜ!」


ネイルはニヤニヤしながらそう答えた。

リサもやりたそうにしていたが、エレナだけは反対だったようだ。


「ダメよアレン!それをしちゃあダメって看板に書いてあるんでしょ?!」


しかし俺はもうやる気満々になっていたので、


「すぐに戻るよ!」


そう言うと、助走を付けてフロアの欄干から向こうの岩場に大ジャンプで飛び移った。

見事に成功すると、ネイルはピューピューと口笛を鳴らし、リサはパチパチと拍手をして喜んでいる。

ただエレナだけが腕を組んで浮かない顔をしていたが、俺が手を振ると機嫌が直ったようで、ニッコリ微笑んでくれた。


俺はそこから奥の一番大きな滝に向かって岩場を駆けあがり、滝のすぐ近くから周りの景色を楽しんでいたのだが、ふと足元に目をやると、草むらの中に宝箱らしき物があるのが見えた。

近づいてよく見ると、やはりそれは小さな宝箱であった。


「あっ!なんだろう?」


拾って開けてみると、中には美しい装飾の施された本が入っていた。

一目見ただけで貴重な魔法の本であることが分かったので、俺は急いで皆の所へ戻り、リサにお宝を鑑定してもらったのだ。


リサとエレナが興味津々で宝箱の中を覗いた。

そして本を取り出し、二人でまじまじと見ていたが、リサが突然大きな声で叫んだ。


「すご~い!!これ、ダンスの本じゃん!!」


エレナが驚いて目を丸くした。


「えっ?それって、相手からマジックパワーを奪い取る超魔法の?」


「うん、不気味なダンス!!」


「おめえ、すげえお宝を見つけたな!!

もう一度行って他のを探して来いよ!!」


「いや、もうないって!

っていうか、今度はあんたが行ってくればいいじゃないか!」


「バカ!ここからジャンプするなんて、そんなガキみたいな事ができるか!!」


「ガキで悪かったな!!」


俺とネイルが言い争っていた時、エレナの慌てる声が聞こえた。


「あっ!!ダメよリサ!!」


「え~~い!どけ!どけ~~~っ!!」


見るとリサがローブの裾をたくし上げて、猛烈な勢いでこちらへ走ってくる。ジャンプしようとするのをエレナが必死に止めていたのだ。


「おわっ!!おめえ、そりゃ絶対に落ちるだろうが!!」


ネイルも俺も慌ててリサを止めに入り、なだめて何とかやめさせたのだが・・・。


「もう!アレンがあんな危ない事をするから!!」


後でエレナからこっぴどく叱られたのだった。


で、この不思議なダンスは、マジックパワーの消費量が一番多いリサが覚える事になった。

ドレインとこの不思議なダンスを覚えたリサは、自給自足でガッツリ戦えるようになったので、ある意味無敵の少女が誕生したと言えるかもしれない。




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