第十八話 ポコの三人組
遺跡の外に出ると、ネイルが真っ先に口を開いた。
「よお!やっと手に入れたな。
けどよ、その緑の結晶石ってのは、一体何に使うんだ?」
「ああ、これはね。賢者の庵の扉を開く鍵なんだよ」
俺がそう答えると、リサの目がキラッ!と輝いた。
「賢者のお家の扉をこれで開ける事が出来るの?」
「そうよリサ。
この結晶石で賢者の扉を開けてね、三種の神器のある場所を教えてもらうの」
「さ、三種の神器?そりゃ一体何なんだエレナちゃん!」
お宝の匂いを嗅ぎつけて、ネイルがその話にパクッ!と食いついた。
「えっとね~、キングラムに伝わる究極の秘宝で・・・・」
エレナの説明をネイルとリサが食い入るように聞いているが、ここでは落ち着いて話が出来ないので、俺はエレナに待ったを掛けた。
「ここで立ち話も何だし、一旦レゼムの町へ帰ろうよ。
それから落ちついて説明するよ」
「おお、そうだ!!パブで祝杯あげんの忘れてたぜ!!
おし!早くレゼムの町へ帰ろうぜ!」
「私もお腹が空いたよ~」
リサも今回はネイルの意見を素直に受け止めたようで、急ぎ足でネイルの後を追いかけて行った。
「アレン、よかったね!緑の結晶石が見つかって!!
これからも頑張ろうね!!」
俺もエレナと一緒に遺跡の外へ向かった。
魔法妨害の干渉を受けない遺跡の外壁を出た所で、ネイルがレゼムの町までテレポートを発動した。
「うわっ!!き、消えた!!!」
アレン達が一瞬で消えたのを見た二人組は、慌てて木陰から飛び出してきた。
「お、おい、見たか?あいつらお宝を手に入れたみたいだぞ!」
ガボが興奮してトントに言った。
「すごい!!あいつら、本当はメチャクチャ強かったんだな!!」
トントは公園でアレン達に絡んだ時の事を思い出し、青ざめた顔をして言った。
「よし!!このことをキララに報告だ!!」
二人は一目散に駆けだした。
「え~~~~っ!湖が出来てテローペに行けないって?」
口の周りをケチャップだらけにしたリサが、ビックリして大きな声を出した。
(その顔を見た俺の方がビックリだよ)アレンは心の中でそうつぶやく。
「おまけに、その湖にはすげえ化け物が住み着いているって!?」
ネイルはそう言うと、ビールを一気に飲み干した。
「そうなの!私見たんだから、その化け物!!」
エレナがその時の様子を身振り手振りで説明した。
「よし!やめよう!!その道はあきらめて、ドリガンの“王の道”を行こうぜ!」
ネイルは即決した。
リサはそれを聞くと、怒ってフォークに突き刺したソーセージを振り回した。
「なに言ってんのさ!せっかく緑の結晶石を手に入れたのに!!
あんた、それでもトレジャーハンターなの?!」
ネイルはしばらく考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「お姉ちゃん、ビールおかわり!!」
「あほっ!!」
「お!な、何だおめえ!大人に向かってあほとは何だ!あほとは!!」
「おい、おい!ここで暴れるのはやめてくれよ。
特にリサ!お店の中では絶対魔法は使わないでくれよ!!」
俺は慌ててリサに釘を刺した。
その時、色の黒いサングラスを頭に掛けた男と、背の低い小太りの男、それに金髪のショートカットの女の子が店に入って来た。
そして金髪の女の子がズカズカとテーブルの前に立ち、アレンに向かって話かけた。
「あんた達だね、遺跡からお宝を手に入れたっていうのは?」
「あっ!この人たち!!」
フォークからすっぽ抜けたソーセージを探していたリサが、男二人に気づいた。
「あっ!おめえら!
ははーーーん、オレたちに仕返しか?まだ懲りてねえみたいだな!!」
立ち上がろうとしたネイルを見て、二人の男は慌てて止めた。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ!」
「そ、そうだよ!今日は話があって来たんだよ!!」
「あっ!アレン。あの人たちは・・・」
エレナが二人の男に気づき、肘で俺に合図した。
気づいた俺が二人を睨むと、何故か二人は震え上がって下を向いてしまった。
(あれっ?今日はえらくおとなしいな?この間の威勢はどうしたんだろ?)
不思議そうに二人を見ていると、そんな事はお構いなしに、金髪の女の子はアレンに話しかけた。
「実は、あんた達の腕を見込んで、頼みたい事があるんだよ」
「俺たちに頼みたいこと?」
怪訝な顔をして俺が尋ねると、金髪の女の子は切実な顔をしてこう言った。
「私たちの村を助けて欲しいんだ」
「えっ?村を助けるって?」
エレナは驚いて聞き返した。
それを聞いていたネイルは、
「おい、おい!おめえら、何を調子のいい事を言っているんだ!
そこにいる二人は、オレ達に喧嘩をふっかけて来たんだぜ!!
勝手な事を言うんじゃねえぜ!」
ネイルの言葉に、「そうだ!そうだ!」と言いいながら、リサはやっと見つけたソーセージにブスリとフォークを突き立てた。
「いや、俺とエレナの場合はそうだけど、ネイルとリサの場合は、ちょっと違うんじゃないの?まぁ、俺はあまり詳しい事は知らないけど・・・・」
そう言うとネイルは上を向き、リサはフォークをテーブルの下に落としてしまった。
「その事なら謝るよ」
「楽しそうにしている連中を見ると、つい腹が立って・・・・」
二人の男は、深々と頭を下げて謝った。
「楽しそう?おい!!それはちょっと違うだろ!!」
ネイルだけがまだ納得しかねているようだ。
「二人の事は、私からも謝るよ!
それに、タダでお願いしているんじゃないんだ!お金も用意してあるんだ!!」
そう言うと、金髪の女の子はお金を俺に差し出した。
「5000ゴールド用意してある。
これで俺たちの頼みを引き受けて欲しいんだ」
「あんた達トレジャーハンターなんだろ?」
二人の男はアレンに何度も頭を下げて頼み込んだ。
「いや、トレジャーハンターはそこのネイルだけで、他の者はそうじゃないんだよ。
それに、俺たち今は大変なんだ。遺跡の宝も、どうしても必要だったから手に入れただけで、危険な事を仕事にしている訳じゃないんだよ」
「そんな事言わないで、頼むよ。
あんた達にしか頼めない仕事なんだ!お金なら、あと少しくらいなら・・・」
金髪の女の子も、必死にアレンに頼み込んでいる。
「悪いけど、お金の問題じゃないんだ。
俺達先を急いでいるんだよ」
「そ、そんな~」
泣きそうな顔をしている女の子を見て、エレナがアレンに声を掛けた。
「ねえアレン、何か事情がありそうだし、お話だけでも聞いてあげたら?」
「えっ!?
キミがそう言うなら、まあ、話を聞くだけなら・・・」
「え!私たちの話を聞いてくれるのかい?」
「うん、だけど聞くだけだよ。まだ引き受けた訳じゃないからね」
「ありがとう!私の名前はキララ。そして・・・」
「オレはガボって言うんだ。オレはトント。よろしくな!」
「私たち、ドリガンの北にあるポコって言う村から来たの!」
「へ~~~っ。ドリガン!ずいぶん遠い所から来たんだね・・・」
俺はそう言ったが、まだ行った事もないので、実際はどれほど遠いのか、それすら見当がつかなかった。
「ドリガンって言えば、聖魔導士ネルソンの治める国だな」
(そう言えば、ネイルはネルソンの顔を知っていたようだし、恐らく行ったことがあるのかも知れないな・・・)
アレンはネルソンと言う名を聞いて、ドルドガ鉱山での事を思い出した。
「そう!アルモアの星の伝説に出てくる勇者の末裔、ネルソン様の治める国さ」
キララは目を輝かせてそう言った。
「ネルソン様は、とてもいい領主様だよ」
ガボも口を揃えてネルソンを自慢した。
キララ達は俺たちにドリガンの国の事を説明してくれた。
「ドリガンは大陸の北にあるので、冬は雪が多く、土地も痩せている貧しい国なんだ」
「おれ達の村も農業が中心で、冬の間は雪で畑仕事が出来ず、食べて行くのがやっとの生活をしていたんだよ」
「ところがネルソン様は、そんなオレ達のために、仕事を作ってくれたんだ」
「仕事を?」
「ああ、鉱山の仕事を始めたんだよ!7~8年前からね」
「ふ~~ん・・・」
鉱山で働いている俺には、何となく興味のある話だった。
「仕事の無い冬の間、村の若者たちを全員そこで働かせてくれるんだ。
おかげで村の暮らしはずいぶん楽になったよ」
キララは嬉しそうに話してくれた。
だがその話を聞いて、ネイルは腑に落ちない様子でキララに尋ねた。
「そりゃ、結構な話じゃねえか。
で、そんな立派な領主様の国に住んでいて、村を助けろってどういう事だ?」
それまで明るく話していたキララが、急に険しい顔つきになった。
「実は、私たちの村の近くの洞窟に、すごい化け物が住み着いてしまったの」
「え? 化け物?」
ガボが怯えた顔で言った。
「頭が無数にある、恐ろしい魔物なんだ。
村に駐屯している兵士たちも、まったく歯が立たないんだ!!」
「それで俺たち、助けを求めにこの町までやって来たんだよ」
ネイルはますます浮かない顔をして聞いた。
「それなら領主のネルソンに頼めばいいじゃねえか!
奴の腕なら、魔物の一匹や二匹、どって事ねえだろう!?」
「それが・・・。ネルソン様の派遣した討伐隊が負けちゃったのよ・・・」
「なんだ?しまらねえ連中だな・・・。
それなら、もう一度しっかりした奴を派遣してもらえばいいじゃねえか!」
するとトントが、沈痛な面持ちで、
「それがさ、討伐隊の隊長をしていたグローって奴が、魔物と戦って逃げ帰ったのを知られたくないから、嘘の報告をしたんだ」
「無事に退治しました・・・ってね」
キララは唇を噛みしめながら、悔しそうにそう言った。
「ええ~~~~~~っ!!!!」
「なんて、いい加減なのかしら?!」
エレナは呆れた顔をしてアレンを見た。
「それなら、直接領主に訴えれば?」
俺がそう言うと、キララは・・・
「それが、王の道の復旧作業に忙しくて、ネルソン様はお城にはいないのよ・・・」
「城の兵士に言っても、グローの奴が根回ししていて、俺たちの話を取り合ってくれないんだ」
「何とかするにも、村の若者たちはみんな鉱山に働きに行っていて、村に残っているのは年寄りや子供ばかりで・・・」
ガボとトントも、困り果てた顔でそう話した。
「ひでえ野郎だな、そのグローって野郎は!!」
さすがのネイルも、これには頭に来たようで、いつになく厳しい顔で怒鳴った。
「ひど~~~い!!そんな奴、絶対に許せない!!
わたし、おじいちゃんに話してみる!!」
リサなど憤慨して、注文したハンバーグにフォークを突き立てている。
そのリサの発言にキララが尋ねた。
「おじいちゃんって?」
リサは怒った弾みで今度はハンバーグを下に落としたので、代わりにエレナが答えた。
「ガルダインさん。
リサのおじいちゃん、ジュダの領主なの」
「ええ~~~~~っ!!!!」
「この子チビなのに、そんなすごい女の子だったのか!!」
あまりの驚きに、トントはつい口を滑らせてしまった。
「チビは関係ないでしょ!!」
「ひ~~~っ!!!」
リサが拾ったハンバーグを自分に投げつけると思ったトントは、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「けど、ガルダインさんもネルソンと一緒に王の道へ行っているんだろ?
連絡つくのかよ?」
ネイルがリサに尋ねた。
「あっ、そうか~~~」
「じゃあ、俺たちがやるしかないね」
キララは驚いてアレンの顔を見た。
「え!?じゃあ、引き受けてくれるのかい?」
「こんな話を聞いたら、断れないよ」
最初は一刻も早くエレナをテローペに連れて行きたくて断っていたのだが、エレナも俺を見て頷いたので、俺はこの厄介な問題を引き受ける事にしたのだった。
「やったーーーー!!!」
キララ達三人は、手を取り合って喜んでいる。
その時、お店に一人の女性がバタバタと入って来ると、カウンターの客に向かってこう言った。
「ねえ、ねえ、みんな聞いたかい!!?
ソーネリアとドリガンの国境の通路が、魔物に襲われたんだって!!」
「え~~~~~っ!!!」
キララは慌ててその人に聞いた。
「ねえ!それは一体どういう事」
ガボも驚いて尋ねた。
「詳しく教えてくれよ!」
「さっき町の兵士たちが話していたんだけどさ、ソーネリアとドリガンを結ぶ通路が魔物に破壊されて、通れなくなったそうだよ」
その情報にキララは絶句した。
「そんな!!なぜあの道が・・・」
キララ達は、小舟を調達してソーネリアへ渡り、そこからドリガンへ帰るつもりでいたのだ。
「今さ、王様たちはドリガンにある“王の道”って言う所を通れるようにするため、働き手や物資をドリガンに輸送しているのよ。
それを快く思わない何者かが、邪魔をしたんじゃないかって」
「魔王の仕業か・・・。それとも別の・・・・」
「とにかく、今あの地は大変な騒ぎだよ。
なにせ、ドリガンに渡った人たちは、ソーネリアに帰れないんだから・・・」
女性の情報を聞いたネイルがキララ達に向かって言った。
「えれえ事になったな。
ドリガンに行けなきゃ、村を救うどころか、おめえらも帰れねえじゃねえか」
「私たち、ここからドリガンへ行く方法がないか、調べてみる!
だからアレンさん、さっきの話・・・」
俺はキララの言葉に頷いた。
「うん、心配しなくていいよ。その時は力になってあげるから!」
「本当かい!?あ、ありがとう!!」
「やったぜ!トント!!」
「よ~~し!絶対村へ帰る道をみつけるぞ!!」
こうして俺たちはポコから来た三人組と、魔物を退治する約束を交わして分かれた。




