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アルモアの星伝説  作者: トド
16/38

第十六話 賢者セロ

俺が目を覚ますと、エレナはお湯を沸かしてコーヒーの用意をしてくれていた。


「おはようアレン! よく眠れた?」


「おはようエレナ、キミこそよく眠れたかい?」


「ええ、アレンが守ってくれていたから、ぐっすり眠れたわ!」


エレナはそう言って、コーヒーを注いでくれた。

俺が夜明けまで見張りをしていたのを知っていたようだ。


朝はゆっくり眠っていたので、丘を降りてカルデラ湖に着いたのは、陽もだいぶ高くなってからだった。

カルデラ湖の周りは切り立った絶壁になっており、湖の奥へ行ける道は人が一人通れるだけの狭い岩場であった。

ゴツゴツとした溶岩の道を進み、湖の半ばぐらいに差し掛かった時だった。

前を歩いていたエレナが急に立ち止まった。


「アレン見て、あそこに誰かいるわよ!」


エレナに言われ目を凝らして見ると、確かに湖の一番奥に人らしき姿が見える。

杖を持った老人のように見えたので、俺たちは警戒する事もなく先へ進んだ。


近づくと、立派な白い髭を蓄えた、かなり高齢の老人が湖を眺めていた。

俺たちでもここまで来るのが大変だったのに、どうしてこんな所に・・・。

不思議に思った俺は、すぐさま老人に声を掛けた。


「おじいさん、こんな所で何をしているのですか?」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・・。

あれじゃよ!あれを見ておるのじゃよ」


そう言うと、老人は湖の一点に向けて杖を指した。

見るとその場所には、湖の底でうごめく不気味な大きな影が見える。


エレナは驚いて声を上げた。


「え!? あ、あれは何?」


エレナの問いに、老人はあっさりと答えて見せた。


「あれはクラーケンじゃ!魔王の降ろした恐ろし魔物じゃよ!」


「ええ!?魔王の手下だって?」


俺は驚いて、老人に聞き直した。


「あの・・・。おじいさんは誰ですか?

どうしてそんな事を知っているのですか?」


エレナは老人にその理由を尋ねた。


老人はエレナの顔を見ると、愉快そうに笑って答えてくれた。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・。

ワシの名はセロといってな、この谷の入り口に一人で住んでおる変わり者じゃよ」


(あっ!この人が賢者のセロ様)


俺とエレナは同時に顔を見合わせた。


「さて、さて・・・・。今度はお前さんたちの番じゃぞ。

見たところ旅人のようじゃが? ただの旅人が、このような危険な場所までやって来るとは思えんがの・・・」


セロは楽しそうな顔をして、俺たちに質問してきた。


「俺たち、テローペに行く途中なのです」


「でも、私たち道が分からなくて・・・」


「何と!!おまえさん達、テローペに行くというのか?」


「はい、この谷へ続く道を進めば、きっとテローペに着くと思って、ここまで来たのですが・・・」


「ふむ、ふむ・・・」


「でも、道も無くなってしまっているし、これでは先に進めないわ」


エレナが困った顔で答えた。


セロは何度も頷いてから、


「なるほどのう・・・。

ところでおまえさん達、間違ってもこの湖を泳いで渡ろうとしてはならぬぞ。

この湖に足を踏み入れでもすれば、たちどころにあのクラーケンの餌食となってしまうからの」


そう忠告してくれた。


「誰か渡ろうとした事があるのですか?」


そんな無茶をする人はいないだろうと思ったが、試しに聞いてみた。

するとセロは、沈痛な面持ちで頷いた。


「うむ、実はこのカルデラ湖が出来たばかりの頃、ドワーフの軍団が渡ろうとしたのじゃよ・・・」


「えっ!!」


「ワシの忠告を聞かずに、筏を組んで湖に出たのじゃが、一瞬で湖の底に引きずり込まれてしまったわい」


それを聞いた俺とエレナは、思わず絶句してしまった。

しかし、ここを何とかしなければ、テローペに行くことは出来ないのだ。


「おじいさん、あの化け物を何とかする方法は無いのでしょうか?」


「ふむ、水の中ではアレに勝てる者など一人もおらぬ!

ここから先へ進みたくば、この湖の水を何とかすることじゃのう」


「え~~~っ!何とかするって言っても・・・。

どうすればいいの?アレン」


「お、俺に聞かれても・・・・。どうすればいいいのかな?」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・。

お前さん達、仲が良いのう。よし、よし、それではワシが良いことを教えてやろう」


「えっ!?この湖の水を無くす方法があるのですか?」


エレナは目をパチクリさせて、セロの顔を見た。


「ふむ、一つだけある。

だが、それには二つの物がいるのじゃが・・・」


「二つの物ですか?」


「さよう、しかしこの二つの物を手に入れるのは、クラーケンを倒すのに匹敵するほど難しい事なのじゃ」


「教えてください!」


「ふむ、まずはジュダの国へ行き、マードラの遺跡にあると言われるミューゼの書を手に入れる事じゃ!」


「あっ!!!」


俺が急に大声を出したので、エレナは驚いて転びそうになった。


「大変だ!俺、ミューゼの書をリサに渡すのを忘れていたよ!!」


「えっ!!そ、それじゃ、ミューゼの書は?」


「ほら!ここに・・・」


俺はエレナにミューゼの書を見せた。


「うそ!!」


エレナも目が点になっている。


「な、な、なんじゃと?おまえさん達、ミューゼの書を持っておるじゃと?」


俺たちの会話を聞いていたセロは、まさか・・・という顔をして、こちらを見ている。


「そうなんです」


エレナはやっちゃった・・・という顔でセロに振り返った。


「ほらっ!」


俺はセロにミューゼの書を渡した。


「こ、こりゃ驚いたわい。やはり、ただの旅人ではなかったようじゃのう・・・。

ふむ、ふむ・・・。ここで立ち話もなんじゃ。

よし、よし、今からワシのあばら家へ来るがよい。話はそれからじゃ」


そう言うとセロはテレポートを発動させ、俺たちは一瞬でセロの家まで吹き飛んだ。

セロの家の中には、炊事場と暖炉と本棚、それに机代わりの木箱とベッドがあるだけの質素な暮らしだった。


セロは木箱の上にミューゼの書を置くと、俺たちにこの谷の話をしてくれた。


「今から1年ほど前じゃ。ここいら一帯の火山が噴火してのう。地盤が沈下した所に川の水が流れ込み、あのような湖が出来てしもうたのじゃ。

そして、そこにあの魔物が住み着いて、谷は完全に閉鎖されてしもうたのじゃ」


「それじゃ、やっぱりあの湖を越えなければ、テローペには行けないのですね」


「うむ、そういう事じゃ」


「それで、さっきおっしゃっていた2つの物の、あと一つは何なのですか?」


エレナは木箱の上のミューゼの書に目を落とし、セロに尋ねた。


「ふむ、ふむ、その話じゃが、お前さん達、なんでミューゼの書など持っておるのじゃな?」


「頼まれたんです。暗黒魔導師のガルダインさんに」


「調べたい事があるから、取ってきてくれって・・・」


「お前さん達あっさりと言うのう、あれを手に入れるのは大変じゃったろうに・・・」


「そうか、あのガルダイン殿がのう・・・・。

ふむ、ふむ、ならば、お前さん達ならやり遂げる事ができるかも知れぬの」


セロはひとしきり感心してから、本題に入った。


「よし、よし、それでは教えてやろう。後のもう一つは緑の結晶石じゃ」


「緑の結晶石・・・ですか?」


エレナが尋ねた。


「あの、赤い結晶石ならあるんですけど、それではダメですか?」


「ふむ、ふむ、赤い結晶石のぉ・・・。それでは、各地に住む賢者の家の扉は開かんのぉ」


「賢者の家の扉ですか?」


エレナは大きな目を、さらに大きくして尋ねた。


「そうじゃよ、娘さん。湖の水をなくすには、”キングラムの三種の神器”のひとつ、”無限のツボ”が必要なのじゃ。それを手に入れるには、賢者たちの知恵が必要なのじゃよ」


「無限のツボ!?」


「三種の神器って?」


俺とエレナは意味が分からず、オウムのように繰り返した。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・。まあ、まあ、そうせかさずとも。

よし、よし、それでは説明してやろう。昔、キングラムには不思議な力を秘めた三つのアイテムがあっての。一つは、先にも言った”無限のツボ”と呼ばれるものじゃ。

このツボはのぉ、いくら水を注いでも、まるで底が抜けているかのごとく、決して満たされる事のない、不思議な力を持つ魔法のツボじゃ。

銀の時代に、これを手に入れたソーネリアの王がの、誤って湖に落としてしもうたのじゃ・・・。するとどうじゃ!それまで、なみなみと水をたたえておった巨大な湖が、あれよ、あれよと言う間に、砂漠になってしもうたそうじゃぞ」


「湖が砂漠に・・・・。すごいわ!」


「どうじゃ、すごいじゃろ!

そして、もう一つは”ガニメードの水がめ”と呼ばれる、水がめじゃ。

この水がめはのぉ、いくら水を使っても、次から次へと水が湧き出し、決して尽きる事のない神秘の水がめじゃ」


「永遠に水がなくならない、水がめ・・・・」


「そうじゃ、キングラムが遠征するときは、必ず持って行ったアイテムじゃ」


「そして最後が”氷の杖”じゃ。

この杖は、どんな物でも凍らせてしまう杖での。その威力は、たとえ灼熱の溶岩でさえも、瞬時にして凍らせると聞く」


「すご~い!三種の神器って、不思議な物ばかりね~」


エレナは感嘆の声を上げた。


「ふむ、ふむ、そうじゃろ、そうじゃろ。

この三つの神秘なる力を持って、偉大なるキングラムはその国土を広げて行ったそうじゃ。いかなる天然の要塞も、この神器の前では、まるで歯が立たなかったというぞ」


「じゃあ、この三つのアイテムを揃えれば、行けない所は無いという訳ですね」


俺はセロに尋ねた。


「ふむ、ふむ、そうじゃ、そうじゃ。テローペに行くには、この神秘なる物の力が必ず必要となるはずじゃ。

どうじゃな?お前さん達に集める事ができるかな?」


「はい、集めます!俺とエレナは、どうしてもテローペに行かなければならないので」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・。

そうか、そうか。それには、各地に住む賢者たちの知恵を借りねばならぬ。

緑の結晶石を手に入れ、山や野に隠れて暮らす賢者達の庵を訪ねる事じゃ。

そしてミューゼの書を見せるがよい!きっと力になってくれるじゃろ」





一方その頃レゼムの港には、リサとネイルの姿があった。


「わ~~~い!着いた、着いた!!」


リサは嬉しさのあまり、ピョンピョン飛び跳ねている。


「おい、おい。あんまりはしゃぐなよな、みっともねえから」


「よ~~~し!!早くアレン達を捜さなくちゃ~~~!!」


「お、おう!あいつらならきっと酒場・・・」


ネイルの話には耳も貸さず、リサは一気に駆けだした。


ドピューーーーーン!!!!


「こらーーーーーっ!!人の話は最後まで聞けーーーーっ!!」


ネイルは腕を振り上げて怒鳴ったが、すでにそこにはリサの姿はなかった。



リサは公園の噴水の前に立って、キョロキョロと辺りを見回していた。


「あの二人、いったいどこへ行ったのかな~~~」


「そうだな~。オレならきっと酒場にいると思うぜ」


リサに追いついたネイルが、はぁはぁ肩で息をしながらそんな事を言っている。


「あの二人がそんな所でジッとしている訳ないでしょ!!」


「町の人に聞いてみよっか?」


「情報集めなら、酒場に行くのが一番だぜ!!」


諦めの悪いネイルであった。しかしリサはネイルの話なんて聞いていない。


「ネイル、あそこにいる二人連れに聞いてみてよ」


リサの視線の先には、公園の石柱にもたれているサングラスを頭に掛けた色の黒い男と、背の低い小太りの男がいた。


「おめえ、オレの話をぜんぜん聞いてねえだろ?

それに、なんでオレが行かなきゃならねえんだよ!!」


「当たり前でしょ!!私が聞いて、もし口説かれたりしたらどうすんのよ!」


「おめえ、大人をバカにしているのか?!」


「早く!!行って来てよ!!」


「まったく、人使いの荒いヤツだ!大人を何だと思っているんだ!!」


結局何を言ってもリサには通用せず、ブツブツ文句を言いながらリサの言いなりになるネイルであった。


「おい!兄ちゃん」


ネイルはサングラスの色黒の男に声を掛けた。


男はネイルの顔をチラッと見ただけで、


「・・・ふん!」


と鼻を鳴らして知らん顔をしたのだが・・・。


ボカッ!!


その瞬間、鈍い音がして、男は地面に転がっていた。

ネイルの鉄拳が男の頭に炸裂したのである。


「あいたーーーー!!てめーっ!!何しやがんだーーー!!」


男は頭を抱え、地面にうずくまっている。


「ちょっとネイル!あんた何やってんのよ!!」


その様子を見たリサは、慌ててネイルの所へ駆け寄った。


「この野郎、オレ様のことを軽く無視しやがったんだぜ!!」


殴られてさも当然という顔で、ネイルはリサに話す。


「そんな事ぐらいで、人を叩いてどうすんのさ!!」


リサは男に向かって謝った。


「すみません。この人ちょっと変わっているんです」


「うるせえ!ガキは引っ込んでろ!!

お前ら、俺たちを怒らせるとどうなるか、分かってんだろうな!!」


背の低い小太りの男がネイルに吠えた。


ネイルはニヤッと笑うと、


「ほ、ほう・・・。どうなるんだ?教えてくれよチビ!!」


「あーーーーっ!お前、俺にチビって言ったなーーー!!」


「それがどうした、チビ!!」


面白がって相手を挑発するネイル。


「あーーーーっ!また言った!

くっそーーーっ!なんだい!お前の彼女の方がチビじゃないかーーー!!」


頭に来た男は、怒りに任せて言ってはいけないことを口にしてしまった。


「か、か、か、彼女だと?!!てめえ、どこに目をつけて・・・・」


と、ネイルが言うよりも早く、リサが癇癪を起した。


「誰がチビなのさ!!せっかく私が謝ってあげているのに!!」


「もう、頭にきた!!!」


そう言うと、二人組めがけて真っ赤な炎が渦を巻いて襲い掛かった!


「ぎゃ~~~~~っ!!」


「あぢぢぢぢぢぢ~~~~~~!!!!」


お尻に火が付いた二人組は、悲鳴を上げながら走り去った。


「あほ~~~~っ!!チビ、チビって言うな~~~!!」


その逃げ去る相手に、リサは大声で罵声を浴びせかけている。


「やっぱり、チビって言葉は使わない方が身のためだな。子供は手加減を知らねえから・・・」


ネイルは腕を組んで一人で頷いている。




賢者セロは、エレナと俺に三種の神器の使い方を教えてくれた後、


「もし緑の結晶石を手に入れる事が出来たら、またここへ来るがよい」


そう言うと、魔法で体力と魔力を全快にして送り出してくれた。


「セロ様、どうもありがとうございました!」


お礼を言うと、俺たちはレゼムの町へ向かった。

そして来た時と同じ道を戻り、南の関所で休憩するためテントに入った。

すると、何と!そこには椅子に座ってジュースを飲んでいるリサがいたのである。


「あっ!!!!」


「わ~~~~~い!!やっと見つけた~~~~!!」


リサは猛ダッシュでエレナに抱き付いた。


「驚いた~~!!

一体どうなっているの?」


エレナは驚きのあまり目を白黒させている。


「わ!わ! みんなどうしてここへ?」


驚いて突っ立っている俺に、ネイルが文句を言った。


「どうしたも、こうしたもねえよ!おめえら、ミューゼの書を持っているだろ」


「そうなんだ、リサに渡すのを忘れてたんだよ。

あ!じゃあ、わざわざそれを取りに?」


俺がリサにミューゼの書を渡そうとすると、慌てて手を振って、


「おじいちゃんがね、アレン達と一緒にテローペを捜せって!」


「え?じゃあ、また一緒に旅が出来るのね!よかったね、アレン!」


「うん、みんなと会えて心強いよ。これで、きっとテローペに行けるね」


俺とエレナは手を取り合って喜んだ。


「よし!それじゃ再会を祝して、パブで一杯やろうぜ!!」


そう意気込むネイルだったが・・・。


「何のん気な事を言っているのよ!さっきパブでビールを飲んだばかりじゃないの!!」


リサに言われてネイルは速攻で撃沈した。


しかしその事でリサがある事を思い出した。


「あ、そうだ!あのね、さっきパブで緑の結晶石って言う宝物が、ここから南に行った遺跡にあるって聞いたよ」


「そうなんだよ。実はその緑の結晶石はどうしても必要なんだ」


アレンの言葉にエレナが補足した。


「あのね、それがないとテローペには行けないのよ」


「ふ~~~~ん。そんなに大事な物なのか~~~」


「よし、じゃあ、祝杯はその緑の結晶石を手に入れてからだぜ!」


ネイルは見事な立ち直りを見せた。そして無論、お宝となるとやる気満々なのである。


「よ~~~し!がんばってお宝を取るぞ~~~!!」


こうして最強のパーティは、再び結成されたのであった。



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