第十二話 王都ソーネリア
ミューゼの書を持ち帰った俺たちは、すぐに魔法使いの塔へ向かった。
会議室では、若い魔導師のリックが俺たちの帰りを待っていた。
「あ、皆様お帰りなさいませ」
「あれ?おじいちゃんは?」
「ガルダイン様は、ただいまソーネリアのお城におられます。
皆様にも、至急ソーネリアのお城へ来るようにとの伝言です」
「なんだ、つまんないの!
せっかくおじいちゃんにミューゼの書を見せてあげようと、急いで帰ってきたのに!」
リサはリックにブーブー文句を言っている。
リックは、まぁ、まぁ・・・と、リサをなだめていたその時、背後からその人が現れた。
「リサ様!!お待ちしておりましたわ!!」
その声を聞いた途端、リサの顔からサッと血の気が引き、一瞬にして固まるのが分かった。
そして直立不動の姿勢のまま、カタカタと音を立てながら回れ右をし、その声の主を見た。
そこには鬼の形相のマリー先生が立っていたのである。
「ひえ~~~~っ!!」
そう叫ぶと、リサはヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
腰が抜けてしまったのだ。
「リック!
リサ様をそこの椅子へ・・・・」
そう言うと、マリー先生は指定した正面の椅子に腰かけ、スラリとした長い足を組み、リサが席に着くのを待った。
リックはリサを支えて椅子に座らせると、
「わ、わたしは用事があるので、これで失礼します・・・・」
そう言うと、そそくさとその場から逃げ出した。
今のリサは、まさに蛇に睨まれたカエル状態であった。
マリー先生を前に、信じられないほどしおらしい姿を見せている。
ここからマリー先生の長いお説教が始まるのだが、俺たちは心配ながらも、ただ見ている事しか出来なかった。
「リサ様!わたくしはガルダイン様より、あなたの教育係を命ぜられているのです。
それが何を意味するのか、お分かりですか?!」
「は、はい・・・」
リサは恐る恐る返事をした。
「はい!?
いま、はいとおっしゃいましたか!?」
「い、いいえ!」
リサは慌てて訂正した。
「いいえ!なのですか?!」
マリー先生は厳しい声でリサに確認すると、リサは慌てて
「はい! いいえ!!」
と答えた。
もうなんと答えていいのか、リサの頭はパニックになっているのかもしれない・・・。
「いいですかリサ様!!数ある魔導師の中から、このわたくしが教育係に選ばれたと言う事は、将来はガルダイン様に代わり、あなたがこの暗黒魔導師の”総帥”となる事を、ガルダイン様が望んでおられるかも知れないと言う事です!!」
「はい・・・」
リサは蚊の鳴くような小さな声で返事をした。
「暗黒魔導師の総帥という称号が、どれほどの重みを持っているのか、リサ様!考えた事がおありなのですか!?」
「はい・・・」
「はい!?
いま、はいとおっしゃいましたか!?」
「い、いいえ!」
「いいえ!なのですか?!」
「はい! いいえ!!」
リサは泣きそうな顔で答えた。
「いいですかリサ様!暗黒魔導師の総帥とまでは言わずとも、偉大なる総帥であらせられるガルダイン様の血を引いているご一族ならば、毅然とした態度を見せなくてはなりません!」
「はい・・・・」
「それなのに、リサ様の日常からは、その態度の片鱗すらうかがえないから、わたくしは怒っているのです!!」
「はい・・・・」
「授業には平気で遅刻してくる!」
「はい・・・・」
「授業中に居眠りはする!」
「はい・・・・」
「机に落書きはする!」
「はい・・・・」
「途中で勝手に帰ってしまう!!」
「はい・・・・」
お説教が始まってから30分が経った・・・・。
「リサ、大丈夫かしら?心配だわ・・・」
エレナは心配そうに見ている。
「あいつ、だいぶ弱っているみてえだな。
あんな美しい先生の説教なら、オレなら何時間でもオッケーだぜ!!」
ヘラヘラ笑いながら言うネイルに、俺はちょっとカチンときた。
「あんたなら、今頃は真っ黒焦げにされているよ!」
そう言ってやると、ネイルは・・・。
「うわっ!そうだ、忘れていたぜ!!彼女は暗黒魔導師だったんだ!!
危ねえ、危ねえ~」
(こいつ、一体何を企んでいたんだ・・・)
それからさらに30分が経った・・・・。
「いいですか、リサ様!開祖である大魔法使いダイロス様から、あの伝説のアルモア王と共に魔王を討伐した、偉大なる暗黒魔導師ヴェルガ様。
その後三代を経て現在のガルダイン様に至るまで、脈々と受け継がれてきたこの・・・・」
バタッ!
リサはとうとう目を回してしまった。
「ふ~っ、仕方ありません。
今日はこれぐらいにしてさしあげましょう」
そう言うと、マリー先生はリサを起こして言った。
「リサ様、今から昇級試験を行いますので、こちらへ」
リサはヨタヨタとマリー先生の後ろを付いて行った。
「あんな状態で大丈夫なの?試験に合格するの?」
エレナはリサが心配でならなかった。
「あいつは戦闘の天才だからよ、あのぐらいが肩の力が抜けてちょうどいいんじゃねえか?」
相変わらず無責任な事を言うネイルであった。
しかし、ネイルの言う事は間違っていなかった。
ドルドガの廃鉱からマードラの遺跡まで、実戦で鍛え上げたリサの戦闘は、今回の昇級試験など全く問題ではなかったのだ。
試験会場である試練の部屋で、無数に放たれているプニプニという、宙に浮いている凶暴なクラゲを全滅させ、見事”黒の魔法使い認定書”を手に入れた。
そして、無事にフレアーの魔法を伝授されたのだ。
リサの試験も無事に終わり、俺たちは魔法使いの塔を出た。
「しかし、人使いがあらいな~。
今度はソーネリアの街まで行かなきゃなんねえのか」
ネイルがぼやいた。
「ねえアレン、ソーネリアの街へ行くんだったら、ほら!宿屋をしている、えっと・・・アレンのお父さんが言っていた・・・」
「あ!そうだ!!宿屋のジムリさん!!」
「誰、その人?」
リサが尋ねた。
「父さんの友達みたいなんだけど、オレもまだ会った事ないんだ」
「アレンのご両親・・・。1年前に旅に出たまま帰ってこないのよ」
エレナがリサに説明した。
「え~~~~っ」
「それって、一大事じゃん!」
リサは目を丸くして驚いている。
「それでね、もし帰りが遅いようなら、ソーネリアで宿屋を営んでいる、ジムリって人を訪ねるように言われていたのに、彼、ずっとその事を忘れていたんだって。
まったくのん気なんだから!」
エレナは腕を組み、あきれたような顔をしてアレンを見た。
「ふ~~~ん」
リサもエレナの真似をして、腕を組んでアレンを見た。
「ちょうどいいじゃねえか。宿屋なんだし、ソーネリアに着いたら寄ってみようぜ」
ネイルの言葉にエレナは頷き、
「きっとご両親の手掛かりがつかめるわ。行きましょ、アレン」
「お母さん達の居場所が分かるといいね!」
リサも嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねながらついて行く。
試験に合格したのが嬉しいのか?それともマリー先生から解放されたのが嬉しいのか?
先ほどまで目を回していたのが嘘のようだ。
ジュダの街からソーネリアの街までは、道がきれいに整備されている。そのため徒歩でも三日で行けるのだが、リックが三頭立ての馬車を用意してくれたので、夜通し駆けて翌日の昼過ぎには到着する事が出来た。
ここはさすがに王都だけあって、驚くほど美しい街並みがお城まで延々と続く、巨大な都市であった。
アレンは街の入り口から見える立派なお城を眺め、ポカンと口を開けたまましばし見惚れていたが、ネイルに急かされて早速お城へと向かった。
しかしお城では門の衛兵に、今大事な会議中だと言われ、取り合ってもらえなかった。
そこで父から聞いていたジムリという人を訪ねるため、宿屋を探す事にしたのである。
ここは大きな街なので、宿屋の数も半端ではなく、格安のボロい宿屋から、謁見のために訪れる王侯貴族たちが利用する、格式の高い立派な宿屋までピンからキリまであった。
とりあえず、お城から近い順に探すことにし、街の案内図を確認した。
一番ここから近い宿屋は、大きな噴水のある公園の横にあったので、簡単に見つける事が出来たのだが、さすがに多くの旅人が訪れるお城の近くの宿屋だけあって、とても大きくて立派な建物だった。
玄関を入ると、天井には美しいシャンゼリアが光輝き、部屋の調度品など、どれを見ても目を見張る豪華な物ばかりである。
「おい、アレン!お前の親父さんの友達だろ?
絶対にこの宿屋じゃねえよ!
だってお前の家、平屋のボロ屋じゃねえか!!」
「うるさいな!
俺だってそのぐらい分かっているよ!」
俺とネイルが言い争うのをしり目に、エレナがフロントの女性に尋ねた。
「すみません、ここにジムリという方はおられますか?」
するとフロントの女性は、
「ジムリ・・・ですか?ジムリは私の父ですが、あいにく今は留守にしております。きっと港に行ったのだと思いますわ。
すみませんが、また後程おいでください」
「へっ?」
俺とネイルは顔を見合わせた。
宿屋は簡単に見つかったが、肝心のジムリさんが留守なので、俺たちは時間つぶしのため、とりあえず港へ行ってみた。
港では、魔物が増えて海の安全が守れないため、今日のレゼム行の船を最後に、しばらくの間運行が中止されると騒いでいた。
港の待合室にいた男は、「今日でこの港も閉鎖になるので、レゼムの町にいる娘を迎えに行くのだよ。もう、あそこにいるのは危険だからね」と話してくれた。
また乗船券を買っていた娘さんは、「レゼムの町には母親がいるんです。いくら言っても町を離れないから、私が連れに戻るのです」と、沈痛な面持ちで話してくれた。
街の老人に聞いた話では、西の地から町や村を捨てて、ここへ避難してくる人も多いそうだ。
(いったい西の地では、何が起こっているのだろう・・・)
そんな事を考えていると、ネイルが俺の肩を叩いた。
「よし、アレン!船の運航が中止になるのは分かったから、今度は酒場で情報を集めようぜ!」
(こいつ、本当にお気楽な奴だな!!)
こんな情勢だから、酒場もすたれている・・・と思ったのだが、何の事は無い、酒場は大勢の人で賑わっていた。
「みんな一人じゃ不安だから、ここに集まってくるんだよ!」
ネイルはそう言うと、早速ビールを注文している。
店の中での話題は、やっぱり魔物の事や、船の事など巷の噂話が中心だった。
ソーネリアからレゼムの町の交通機関は、全て船であった。
海には巨大な魔物が多く生息し、外洋に出るのは危険極まりないのだが、ソーネリアからレゼムは内海であるため、それほど危険では無かったのだ。それに比べて陸路は、魔物が多く生息する深い森や湿地帯を通らなければならないので、誰も利用しないのである。
だから船が使えなくなると、皆の生活にも大きな影響が出てしまうのだ。
「今日出航する船で、レゼムの町の人たちがソーネリアへ避難してくるそうなのよ。なんか大変な事になって来たわね」
若い娘さんたちは、甘いカクテルを飲みながらそんな話をしている。
ちょっとセレブな感じの女性は、ワインを飲みながら、
「ジュダの領主様と、ドリガンの領主様が、お城で王様と話をしているなんて・・・。きっと何か重大な出来事があったのよ。ちょっと前に、魔物が若い娘を誘拐する事件もあったしね。恐ろしい事が起こらなければいいけど・・・」
「あぁ、あの一件ではオレも苦労したぜ!」
と、横に座っている男と話をしている。
その女性の肩に手を回し、ビールを飲んでいる男をよく見ると、ネイルであった。
「えっ?!ちょっと、あんた!!なにやってるのよ!!」
「いててて・・・!!」
リサが慌ててネイルの耳を引っ張って連れ戻した。
酒場を出た後も、街を歩きながら色々と情報を集めて回った。
とにかく港が閉鎖されてしまうと、もうレゼムには行けなくなるそうなのだ。
歩いて行けないのか聞いてみたが、”ガラガ砂漠”や、”悪魔の沼”を越えなければならないから、命がいくつあっても足りないと言っていた。
その話の中に出て来るガラガ砂漠の事で、少し気になる話を聞くことが出来た。
ソーネリアの南にあるガラガ砂漠は、昔は大きな湖だったそうだが、それがある日突然、砂漠になってしまったそうだ。
そして、そのガラガ砂漠には大きな神殿があるが、鍵がかかっていて誰も入った事がない・・・という話。
「お宝の匂いがプンプンするぜ!」
ネイルがこの話に食いついたのは言うまでもない。
情報も一通り集めたので、最後に武器屋と道具屋に寄ってから、宿屋へ行くことにした。
お金も結構貯まったので、武器と防具は店で一番高価な物を買い、装飾品は俺が装備していたネレイドの腕輪をエレナに渡し、俺は星のピアスを、そしてリサにはエレナとお揃いのネレイドの腕輪を買った。
ネイル トレジャーハンター
武器 いばらのムチ
装飾品 星のピアス(睡眠・暗闇を回避)
エスケープ 洞窟の中などから外へ脱出
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる
キュアー 毒状態を回復する
テレポート 行ったことがある街などに瞬間移動する
Mバリア 味方全体をバリアで包み、魔法の攻撃から身を守る
リサ 黒の魔法使い
武器 魔導師の杖
装飾品 ネレイドの腕輪(毒、沈黙、混乱を回避)
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる
ファイア 敵単体に炎属性のダメージを与える
ファイアⅡ 敵単体に強力な炎属性のダメージを与える
フレアー 敵全体に炎属性のダメージを与える
エレナ テローペの娘
武器 グレートクロスボウ
装飾品 ネレイドの腕輪(毒、沈黙、混乱を回避)
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる
レイズⅡ 戦闘不能から復活させ、体力を50%回復させる
リカバー 味方全体の体力を30ポイント程回復させる
リカバーⅡ 味方全体の体力を80ポイント程回復させる
トルネード 敵全体に風属性のダメージを与える
アレン 鉱山の青年
武器 バトルソード
装飾品 星のピアス(睡眠・暗闇を回避)
ヒール 味方単体の体力を40ポイント程回復させる
ヒールⅡ 味方単体の体力を120ポイント程回復させる
キュアー 毒状態を回復する
レイズ 戦闘不能から復活させ、体力を10%回復させる




