7話
魔王討伐の旅にすぐ出かけることにしたコウキ達だが、流石に今すぐにと言うわけにはいかない。旅の準備をしたバッグはコウキの家の中で、他にもコウキは両親に置き手紙を書くなどする必要があった。
とどのつまり、一度コウキの家へ帰る必要があったのだ。
「遅くとも夜までには村を出て……そうね、西に行って霧の森で訓練する?」
「そうだね。お手柔らかに頼むよ?」
霧の森とは、村から普通の人間が歩いて丸一日かかる位のところにある森のことである。
その名の通り、常に濃い霧がかかっており、その中からゴブリンやオークなどのモンスターが出てくる。まさに修行にはうってつけと言えた。
余談だが、彼らが住んでいるのはレバンという王政の国である。人大陸の東端にあり、一二を争う大国である。
「それはコウキ次第ね。どんどん鍛えるわよ。」
冗談めかして笑うアリスだったが、コウキはその中にまだ悲しみを垣間見た。少しづつ、傷を癒やしていくしかないと思いながら、コウキは言葉を返す。
「勘弁してくれ。と言いたいけど、戦う相手が相手だからなぁ。」
「そうね……絶対に、仇は取る。」
話している間にコウキの家に着き、コウキが出発を早める旨と元気で、といった内容を書くと、二人は荷物を持ち、村の入り口へと急いだ。
「ん?アリスにコウキか……今日は大変だったな。」
アリスを見ながらそう言ったのは、村の入り口で見張りをしていた男だ。
「はい。もう大丈夫です。」
「……そうか。それで、こんな時間にどうした?」
「今日の戦いで力不足を実感して……広い場所で少しでも訓練しようと思って」
「成る程……本来ならあまり良くないが……二人なら大丈夫だろう。」
内心で嘘をつくことに罪悪感を覚えながら、アリスはすらすらと言葉を紡ぐ。その結果、二人は職業をもらう前から外で狩りや観察活動をしていたこともあり、許可が出る。
「「ありがとうございます。」」
そして二人は揃って礼をすると、真っ直ぐ進んでいくのであった。
村を出て、無言で歩くこと三十分程。コウキはふと疑問に思ったことを聞いた。
「今更だけど、何で真っ直ぐ来たの?西は村を出て右方向だよね?」
「……本当に今更ね。ただの追跡防止よ。出て行ったことがばれると、面子の問題で誰かが追ってくるかもしれないし……でも、そろそろ曲がりましょうか。」
そう言われるとコウキは納得し、素直に頷いた。
その為、アリスのばつの悪そうな表情には気が付かなかった。
そのまま二人は街道を進む。魔王の復活によりモンスターの活性化が見られているというのに、不思議な程に静かで、何も起きなかった。
(何も起きない?いつもならゴブリンの三匹や四匹位なら出てもおかしくないのに……)
平和なことであるはずがコウキにはそれを通り越していっそ不気味に感じられた。そしてそれは、隣を歩くアリスにも同じことだったらしく……
「ここまで何も出てこないなんてことある?森に何か異常でもあったのかしら」
コウキとしては自分がどれほど戦えるか分からない状態なのでそんな異常になど付き合ってられない、と思っているのだが、同時に何が起きているのか知りたい好奇心が疼いているので相反する感情に板挟みになってしまう。
「で、どうする?このまま森に入るのか?」
結局、アリスに決定権を委ねることにした。そんなコウキを見て、何を考えていたのか気付いたらしい。アリスはくすくすと笑い始めた。
それは、アリスが両親を殺されてから初めて浮かべた笑みだった。その笑みに安堵し、同時に少し見惚れてしまったコウキは複雑な顔をしてアリスの決定を待った。
「入るわよ。もしかしたら魔王に繋がっているかもしれないし、気になってるんでしょ?何があるのか」
その言葉で決定され、二人は森へ入っていく。そのまま奥へと進み、濃い霧の中、やはり出てこないモンスターに首を傾げていると……
「グアァ!!」
何者かの悲鳴が聞こえ、二人はその方向に進む。
たどり着いたところには、五メートルを超える巨大な人型のモンスター、オーガの死骸であった。至る所から血を流し、食いちぎられている部位もある。
「……オーガって、騎士団の分隊が二つ位で倒せるか倒せないかってところだった気がするんだけど。」
「……えぇ、そのはずよ。」
食いちぎられている箇所があることからもモンスターだろうと予想するコウキだが、肝心のそのモンスターが見当たらない。どこにいるのかと探して辺りを見回し、爛々と輝く瞳と目が合う。ほぼ同時にアリスもその持ち主に気が付く。
それは、
「……狼?」
二メートル程の狼であった。
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常人であれば間違いなく何も見えないであろう暗闇。そんな中を彼は一切迷うことなく進んでいく。そして、突如立ち止まり、膝をつく。その事に彼は苦々しく思い、目の前の相手を超えて見せると強く思う。
「チッ、いきなりプレッシャーをかけてくるな。」
「そんな事を言われてもな、スパービア、君はいつか俺を超えるんだろう?この程度何でもないはずだ。」
そう言われ、顔を不機嫌そうに歪めるスパービア。そこへ、
「だからいつも言っているんだ。不遜が過ぎると。このお方を超えるなどと……預かり物に振り回されているのではないか?」
唐突に聞こえる女の声。それには不機嫌さが如実に現れているが、同時に気安さも多分に含まれている。
それと同様、
「ふん、お前こそ“嫉妬”に振り回されているように見えるがな。」
スパービアの声にも気安さが宿る。……不機嫌そうな声からは殆どの者が感じることが出来ないだろうが。
だが、それを感じ取れる者が一人、
「ハハハ、君たちはいつも仲が良いな。全然集まらない他の奴らとは大違いだ。」
そう言って、笑い続ける。
「ふん、そうかい。」
「そ、そんな事はありません。私はいつでも貴方様一筋です!」
「ありがとな、インウィディア。……で?スパービア。勇者はどうだった?」
緩んだ空気を引き締めるような声、物理的な圧力すら感じさせるそれを、気にもせず
「まぁ、もらったばかりにしては上出来だろう。……アリスとか言ったか?アイツの戦闘センスは中々のものだ。」
声を発するスパービア。
「ふむ。種は間違いなくまいたんだな?」
「あぁ、勿論。」
「そうか、君がそれ程褒めるなら中々のものだろうな。これは面白くなるか?」
すると、スパービアを評価する声に、少し拗ねたように返す女。
「そ、そういえば。イレギュラーはどうするのですか?」
「そいつもいたねぇ!ククク、全く今回は面白くなりそうだ。」
楽しげな声。それに同意するかのような雰囲気の二人。企みは、まだ始まったばかり。
場面が変わり、人は変わらない場合空白。場面と人が変わる場合には~~~で今後区切ります。わかりづらかったらすみません。




