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50話

 アガン達が店の外に出た頃。コウキ達は王都の外に出ていた。


「いや、やっぱりおかしいと思う。」

 舗装された道から少し外れた木陰の下。ポツリと呟いたのはコウキ。


「そうかな?私は別にいいと思うけど。」

「あぁ、俺も同意見だ。」

 そう返した友人の説得を諦め、頼みの綱の相棒を見たコウキの目に映ったのは、その彼女の苦笑と、隣でにこやかに笑う発案者だった。


 そもそも、彼等が何故王都の外に出たのか。それはまだトマスとアガンが店内で話し合いをしていた頃まで遡る。

 とは言え、大仰な言い方をしたが、簡単な話である。

 久しぶりに会ったアリスとコウキ。勇者となった友人の強さを冒険者となった身としては見てみたい、とトールが発案し、コウキが抵抗したもののトールの勢いに引っ張られる形で全員外まで出てきたのだ。


「まぁまぁ、昔からお前らが狩りをする時には偶について行ってたじゃないか。別にその時と同じだろ?」

「いやまあそうだけど……僕の職業分かってるよね?鑑定士だよ?君たちより余程弱いと思うよ。」

「それは無いだろうな。お前らは昔から天才的と言うか何と言うか……とにかく、アリスもコウキも俺たちより強いだろうな、確実に。」

 コウキの抵抗も虚しく、トールとジンに言いくるめられ、彼らは近くの林の方へと歩いて行く。


 林の中へと入ったコウキ達。偶に見かけるゴブリンを屠りながら歩いていた。


「ゴブリンしか出てこないわね……」

「うん。これじゃあアリスちゃん達の強さなんて分からないよ……」

「ミル、ゴブリンが多いのは問題だが、強い魔物が少ないこと自体は良いことだぞ。」

「そうだよ。それにさっき言った通り僕はそんなに強く……な!?」

「お、おい、どうしたコウキ?」

「……あれは、トロルかしら?」

 愚痴るミルをジンとコウキが宥めようとしていると、急にコウキとアリスが林の一点を見つめる。いや、睨み付ける。


「トロル!?そんなのがこの林にいるの!?」

「おいおい、普通は深い森にしか出てこない筈なんだが……」

「そもそも、僕らにはトロルがいること自体分からないんだけどもね。」

 トール達は先程までの暢気さなど嘘のように緊張感を高め始めた。

 それもそのはず、トロルとはベテランの冒険者がパーティを幾つか組んでようやく互角。精強な軍でも、八人程で編成される分隊単位ではまず立ち向かうことは不可能であり、前にコウキ達が見たオーガなどよりも強い魔物である。

 トール達だけでは全滅は不可避だっただろう。


「丁度いいわね、コウキ。」

「え?あ、成る程。」

「ミル達はそこで見ててくれるかしら。」

 形だけ疑問形で話すアリス。語尾が上がっておらず、これは実質命令に近いだろう。


「分かった。見せてくれるんだね。」

「そう言うことよ。」

「ありがとう、アリスちゃん、コウキ君。」

「あぁ、二重の意味で助かる。」

「違いないな。」

 緊張感を霧散させはしないものの、身体からある程度力を抜き、コウキ達から離れるトール達。




「グオ?ガアアァァァ!」

 その目にアリスの姿を認めたトロルが叫び声を上げながら彼らに迫ったのはそれからすぐ後の事。


「予想通り突っ込んできたわね……!」

 トロルの持つ棍棒を避けながらアリスが呟く。

 次の瞬間にはアリスを囮として自分は隠れていたコウキが藪の中から飛び出し、トロルの首筋目掛けて飛び上がり、斬り付けた。


「硬い……!」

 彼の持つ長剣はトロルの首筋に確かに当たった。しかし、それだけである。首の皮を数枚切ったかも知れないが、トロルにとってそれは痛みを感じるほどのことでもなかった。

 しかし、痛みは感じずとも衝撃は感じる。とても機敏とは言えない動作ではありながらも、予想外の硬さに驚くコウキが着地した所へと腕を振り回す。

 それをコウキは軽々と避けた……筈だった。


「んなっ!?」

 バックステップで避け、次の攻撃へと体勢を整えようとしたコウキを、急に大きくなった拳が襲う。

 尻餅をつくようにして躱した彼は、転がってその場を離脱する。


「そうか、トロルは体の大きさを自由に変えられるんだった。」

「見れば分かる、わ!」

 トロルの身体全体が肥大化したことを確認したアリスは、コウキの方に意識を割いたトロルの腕に強く斬り付ける。


「ぐがアァァ!?」

「今よ、コウキ!」

「分かった、鑑定“解析”!」

 コウキの頭を中々の量の情報が駆け巡る。それでも尚、顔色一つ変えなかったのはこの旅の一つの成長と言えるだろう。


「……駄目だ、アリス。」

「どうしたの?」

 痛みに呻くトロルがそれを怒りへと変えるまでの僅かな時間、彼らは会話する。


「どこを攻撃しようとしても巨大化して耐え切るか、小さくなって避けられると思う。少なくとも完全に意識外からの攻撃、じゃないと反応さ、れるよ!」

「それは、困った、わね!」

 途中から声が途切れるのは、興奮したトロルが襲い掛かったからだ。トロルの腕には肉を少し切るほどの傷があった。


「傷の大きさも体の大きさと同じように変化するみたい。」

「中々に大変ね。普通はどうやって倒すの?」

「物量でとにかく攻撃して少しずつ倒すらしいよ。」

「……なら、とにかく動きを止めないといけないわね。『土よ、その者の下より離れ、落とせ』」

 トロルの単純で無差別な攻撃に慣れ、余裕を持ち始めた二人は相談し、アリスが落とし穴を作る。

 余談だが、土魔法はあくまで土と一般的に分類されるものを操る魔法であり、金属を操ることはできない。その為、落とし穴の中は、


「ガアアァァァ!?」

 操れなかった金属片が落ちており、踏むと突き刺さって大変痛い。これは完全にアリスもコウキも、そしてトロルも予想外であった。


「うーん、土魔法だと土しかあやつ……」

「コウキ!まずはこのトロルを……えっ?」

 声を上げたアリスの目に映るはもがくトロル……ではなく十メートルを超えるほどに巨大化し、落とし穴を破壊したトロルだった。

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