48話
「トールにミル、それにジンまで!?どうして此処に?あと、そのお爺さんはどなたかしら?」
「ア、アリス。幾らなんでも流石に認識くらいはしてあげようよ……」
「そう?じゃあ、アガンもどうしたのかしら?」
先程までの雰囲気も消え、思わず今までのように会話するコウキとアリス。その様子からはその事に気付いているとは感じられない。
「変わってないな、二人とも。」
「そうだね。相変わらずアリスはアガンがあまり好きじゃないんだね……」
ジンが笑みを深めて話しかけ、ミルがそれに苦笑しながら反応する。
「坊や達、此処では他の通行人の邪魔になるじゃろう。場所を変えて話すべきではないかのう。」
「それもそうですね。どこか食事処でも探しましょう。丁度日も真上に来そうですしね。」
老爺が諭すと、今度はトールが反応する。
そのやり取りに、未だ不機嫌そうにそっぽを向いているアガン以外の全員が、自分達がどれほど通行の邪魔になっていたか気付き、赤面する。
「何してるんだい、行こうよ。」
固まったコウキ達に、トールが声をかけるのであった。
コウキとアリスに、トール達を加えた七人は、近くにあった食堂で話をしていた。
席は円形になっており、コウキ達二人とトール達が固まって座るのを見て、アガンが鼻を鳴らしながら老爺とジンの間に座る。
「アリスちゃん達と食事なんて久しぶりだね。」
「そうかな、まだ別れてから二月くらいしか経ってないでしょ。」
「それ、結構長い期間だと思うんだが。」
食堂に移動する前の会話をすっかり忘れて話に興じるコウキやミル達に、アリスが胡乱な目を向ける。
「コウキ……貴方、覚えてるのかしら?」
「え?何を?」
「このお爺さんが誰なのかとか、皆んながどうして此処に居るのかとか。まず聞くことがあるでしょう?」
呆れて溜息を吐くアリス。それを見て、トールがクスリと笑う。それに被せるようなタイミングでジンとミルもニヤニヤと笑い、アガンが鼻を鳴らす。
「な、何よ……?」
そう言って戸惑うアリスは、しかし自分が注意したのがコウキだけである事にはさっぱり気付いていなかった。
そこに、老爺が話しかける。
「若いカップルを見るのも良いのじゃが、確かにお嬢ちゃんの言う通り、自己紹介が先じゃのう。」
「カ、カップル!?」
「なんじゃ違ったのか。まぁ良い。さて、儂の名前はトマスじゃ。職業は魔法使い。サブールの街でギルドマスターをしておる。宜しく頼む、勇者達よ。」
「え……」
思わず口をついて出た叫びをあっさりと無視されたコウキは、次のトマスの発言でまたも驚愕する。
アリスは既にカップルという言葉でフリーズしていた。
(そういえばラファニアさんは副ギルドマスターだったっけ。それにしたってなんであの時いなかったのかとか、何故今此処に居るのかとか疑問が多いけど。)
目の前の老爺がギルドマスターであるという事実に唯々驚くコウキ……となる筈もなく、
「あの……」
「なんじゃ?」
「少し質問しても?」
「勿論良いぞ。」
「あ、それは待っ」
「では一つ目ですが…………」
途中アリスが止めようとしたものの、時既に遅し。コウキの質問攻めは始まってしまった。
最終的に、十年程前にギルドマスターになる前はかなり上位の冒険者として活動していたこと。
今も気が向くと旅に出て身体を動かしていること。
勇者達に会ってみたいと思い、アリスと同郷であるトール達とサブールの街で出会うと強引に言いくるめてパーティに参加したこと。
等々、色々なことを聞き出して、コウキが満足した時には、トマスは疲れ果て、それ以外の面々は呆れ顔であった。
「ところで、どうしてアリス達は此処に?勇者はもう出発したって聞いたけど。」
しばらくして、トールがした質問である。どうやらトマスが聞き込みをしたらしい。
「あー、うん。何というか……」
「簡単に言えば殺人事件が起きたのよ。」
口を濁すコウキに対し、アリスはあっさりと言う。
「さ、殺じ……むぐぅ。」
叫び出しそうになったミルの口を抑えるジン。他の面々も驚きを隠せず、終始無関心を貫いていたアガンでさえ口が半開きになっている。
「それはいったいどういうことかのう。勇者の口から殺人などと言う言葉が出るとは。」
「……あまり口外しないで頂けるのならばお話しします。……勿論、みんなも。」
いち早く復帰し、年の功を見せつけたトマスに対し、言ってしまった以上仕方ないと言う開き直りだろうか、コウキが提案する。
「儂は勿論良いぞ。」
「俺たちも大丈夫。」
一も二もなく頷くトール達にコウキ達は苦笑し、説明を始める。




