47話
王都からバラサールの街までは行きは二週間とかからない道のりだった。これは一般的な旅人が移動するよりか何日か早い程度である。一方、一度王都へ戻ると決めてからは王都へ着くのに一週間とかからなかった。
当然である。勇者であるアリスと、鑑定士という非戦闘的な職業であるにもかかわらず鍛えて一般的な戦士などよりも強くなったコウキが周りを気にせず本気で移動しているのだから。
にも関わらず、コウキの体感としては寧ろ帰りの方が倍の時間かかっているように感じていた。それは相棒であるアリスも同じであった。
理由としては一刻も早く王都に着きたいという願望、義務感。そして、
「……友人は、ちゃんと信じないと駄目だよ。やっぱり。」
「……時には疑わなければならない事もあるわ。盲目的に信じるのは良くない……」
ふと口をついて出たコウキの何気ない言葉に、アリスが反論する様に小声で、しかし聞こえるように返す。
この光景から分かる人はわかるだろう。ゼルスの処遇についての意見の食い違いである。
コウキは返答されると思っておらず、また、その言葉を吐き捨てるような言い方にに。アリスは、思わず口に出た自分の気持ちにお互い動揺してしまっていた。
「い、行くわよ。もう城門には入ってるのだから。」
気まずげにアリスが言う。
今彼らが居るのは王都の入り口。先程貴族用の門を通り、警備兵に挨拶したところである。
「……うん、分かった。」
コウキの返答もいつもに比べると雲泥の差である。
実は、彼らは長い付き合いでありながら喧嘩というものをしたことがない。いや、この言い方は語弊がある。正確には喧嘩はしたことがあるものの、その全てが戯れあいで済ませられるような内容だったのだ。……当時から剣も魔法も使えた二人の戯れあいは周囲からすればとても微笑ましいと呼べるものでは無かったが、それはこの際関係ない。
要するに、どうすれば良いのか分からないのだ。お互い考え方は違えどゼルスに対して親愛の情を抱いているが為、それは余計に顕著になってしまう。
「「……」」
お互いに相手をチラチラと見合いながら隣り合って王都内を歩いて行くコウキ達。不意に周りの通行人の流れに逆らうように止まったままの気配に気付き、前方に意識を向ける。
「なぁ、お嬢ちゃん。デートの相手がそんな奴じゃつまんないだろ。俺と一緒に来ない?」
「お前の顔じゃ無理だろ。な、隣の奴も今声かけて来た奴もほっといて二人で……あれ?」
コウキ達に絡んだ二人目の男が最初に居た男に牽制し、アリスが居た方を見つめると、そこには誰も居ない。
声をかけた二人の男が後ろを振り向けば、そこには男達を避けて両端を通り、また合流したコウキ達の姿。
「おい、聞いてんのか?」
初めの男が声をかけるも二人とも足すら止めない。
「テメェら、人が下手に出てれば良い気になりやがって。」
目を怒らせた初めの男がアリスの肩に手を掛けようとする。同時に、二人目の男も視線を下卑たものに変え、コウキへと掴みかかる。明らかに最初からグルだったのだろう。
しかし、どちらの手も目標を掴むことは許されない。
アリスもコウキも目の端で男たちを捉えると互いに地面を蹴って距離を置き、アリスは左足で足払いし、体勢を崩した所を右足で腹を蹴り込み、コウキは掴みかかろうと伸ばされた手の手首を掴み、思い切り引っ張ると、拳をアリスと同じく腹に革の鎧の上から叩き込んだ。
二人の男は、それぞれコウキとアリスの足下で、激しく咳き込みながら悶絶することとなった。
痛みに呻く男達をそのままに、二人は無言で歩いていく。
王都に入って二十分。二人が王城へと着実に歩を進めていると、二人にとって聞き覚えのある……どころか、大変懐かしい声が響く。
「あれ、コウキにアリスじゃあないか!」
「ホントだ!アリスちゃんにコウキ君、久しぶり。」
「おい、あんまり騒ぐな。周りに迷惑だ。」
その声を聞き、コウキとアリスが驚きと嬉しさに満ちた顔でそちらを見、次の瞬間怪訝な顔をする。
そこには、コウキ達の三人の村での友人。それに、苦々しく顔を歪めた村長の息子。そして、知らない老爺がニコニコとして立っていた。




