44話
「……死体?旦那様の、死体だって!?」
最初に反応が返ってきたのはコウキ達よりもまだ幼いであろう少年。格好から使用人だと考えられる。
「ジール!失礼よ。」
どことなく嬉しそうに言った少年に向かい注意する一人のメイド。彼女は未だ少し受け入れられていないように見える。
彼らの遣り取りが周りの使用人達の時を動かし始める。途端に騒がしくなり、コウキ達は苦笑いを浮かべる。
「申し訳ありません、勇者様、相棒様。息子はまだ幼く、見習いのものでして、礼儀がなっていないのです。どうか、私のいの……」
「ちょっと待って、その先は言わないでください!」
「え、えぇ。別に気にしたりしてないわ。寧ろその方が自然よ。」
どうやら少年の母親であるらしいメイドが、息子が無礼な行動をしたと考えたらしい。自らの命で許しを願おうとして、コウキ達に止められていた。
「オホン。さて、伯爵の遺体は応接室の隣にある部屋にあったわ。一応回収してきたのだけれど……」
そこで区切り、周りを見渡すアリス。
「……成る程、それではその部屋について話すべきでしょうな。その部屋は旦那様が隠し財産を入れてある、いえ、生前入れていた部屋で御座います。存在を知っているのは旦那様を除けば執事長の私、それにメイド長、それに旦那様が入る姿を覗いていたこのジールのみでしょう。」
「え、僕、母さんに言っちゃったけど。」
「……では、そこのメイドのケリーもですね。それでも、この四人でも部屋への入り方を知っている者はいませんが。」
微妙に疲れた顔になって言う執事長。先程まで代表としてアリスと話していた執事である。
コウキはジールが使用人として大丈夫なのかそこはかとなく不安になったが、その思いを思考の隅へと追いやると、執事長を見つめる。
「コウキ様。疑われる気持ちも分かりますが、これも事実です。鑑定士に頼んで“真偽判定”して貰えば分かります。」
「あ、いや、どうしてそんなに弁明する様に話すのかな、と。そう思っただけです。」
「はい?犯人が私達の中にいると疑っておられるのではないのですか?」
見つめ合う二人。すると、コウキは隣から苦笑が漏れるのを視界の端で見つける。
「もう、コウキったら。説明してあげなさいよ。……私達は犯人と思しき魔人と戦闘したわ。今までに戦った魔人の中でもトップレベルの強さで、逃がしてしまったのを追いかけている途中、伯爵は殺されたようね。だから、もしこの中で犯人と呼べる者が仮にいるとすれば、それは逃してしまった私達よ。」
苦笑した人物はそのまま説明をし、その最後の言葉にコウキは重く頷く。
しかし、アリスとコウキの危惧したような反応にはならなかった。
「そうですか……魔人が。方々に手を出していたようですからね、旦那様は。どこかで恨みでも買っていたのでしょう。」
「……私達を、罵ったりはしないのか……?」
「まさか。勇者様方が必死で戦ったことなど見れば分かります。これでも私は戦士の職業持ちで、少しは戦えるのですよ……それに、モルド伯爵には拾って頂いた義理はありますが、それだけです。」
思わず聞いてしまったアリスに律儀に答える執事長。
今度はその言葉にコウキが反応する。
「拾って頂いた義理?募集されて集められた訳ではないのですか?」
「えぇ、私達の元の主人はルード伯爵です。あの方が貶められて以降、私達の主人は対外的にはモルド伯爵です。」
「ルード伯爵様だったらこんな事にはならなかっただろうなぁ。」
執事長が質問に答えていると、またもジールが話し始める。
「!……そう言ってはいけません、ジール。」
「いや、まぁジールの言うことも一理ありますよ。」
「確かにね。」
咄嗟に母親のメイドが叱るも、他の若い使用人達が同意し、それ以外の使用人達も俯いたりとコウキ達と目を合わせようとしない。
すると、執事長がため息を吐き、言う。
「……確かに、あの方は聡明でしたし、三人のご子息もそれぞれ秀でた点がありました。その点ではこのような事にはならなかったでしょうが……勇者様方が理解があるからと言ってあまり他人に話してはいけませんよ、ジール。」
その言葉に黙ったジール。同時に、コウキ達も戸惑いを表情に出していることに気付いた執事長。
「?どうされました、アリス様、コウキ様。」
「少し、三人の息子ですか?」
「はい、確かにご子息は三人でしたよ。」
「失礼しました。四兄弟と聞いていたので。」
「それは変ですね。あの方には庶子もいませんでしたし……」
「そうですか、ではその人の勘違いでしょう。ありがとうございます。」
少し、いや大分動揺しながらコウキはお礼を言った。




