34話
雲に空が覆われた昼下がり。しかし、雨は未だ降っていない。
そんな空の下、コウキとアリスは街道を進んでいた。
「そういえば、次は何処へ向かおうかしら。」
不意に、アリスは呟く。
「え、まさか決めてなかったの!?」
衝撃の発言に驚きの声を上げるコウキ。
彼らは半日前に王都を出発し、それからずっと歩き続けている。既に次に向かう先は決めてあると、そうコウキは思っていたのだ。
「えぇ、北から出たから分かってると思うけど、私達の目的地は魔大陸だから北へ進んで船に乗らないといけないわ。」
「そうだね。」
「で、どの港から出るかによってどこを経由するかも変わるじゃない?」
「うん。」
「だから、コウキが何を見たいか、何を体験したいかによってそのルートを考えないとと思って。」
「僕?」
まさかここで自分の希望を考えられているとは思わなかったのだろう。コウキは反射的に聞き返す。
「何でまた?」
「私の、というかこの旅の目的はスパービアとか言っていた男と魔王に対する復讐でしょ。でも、それって私がしたいことで本来ならコウキは付き合う必要はないのよね。」
「いや、僕は……」
「分かってるわよ、コウキ自身も怒ってるし、そして私を応援したいと心から思ってくれてることは。でも、それとは別にコウキとしては色んなことに対して好奇心があるでしょう?だったら、目的地に行く途中はコウキの希望を考えたいと思ったのよ。」
「アリス……ありがとう。」
アリスの想いを聞き、素直に礼を言うコウキ。それに対して虚をつかれたのだろう。アリスは照れたように目を逸らし、言う。
「まぁ、ついでよついで。それにスパービアをおびき出せるかもしれないし。一石三鳥ってやつよ。」
「分かった分かった。でもありがとう。」
照れ隠しに言った言葉に隠された気に病むなと言うメッセージにも気付き、もう一度礼を言うコウキに、今度はアリスは顔を背けた。
「で?結局どんなルートで行くの?」
暫くの時間をおき、漸く自分の方を向いたアリスに、コウキが話しかける。
どこか嬉しそうな声なのは自分の好奇心を満たせる可能性があるからか。
「取り敢えず遠回りをしないルートは三つあるわ。一つ目はこのままレバンの中を突っ切って北端のシタワグルに行くルート。」
「シタワグル……あぁ、確かレバン国内で一番大きな港町か。」
「二つ目はシャマラン半島の方へ行ってその辺りの小国で港を探す方法。」
「シャマラン半島?どこだっけ、それ。」
聞き覚えのない単語に首を傾げるコウキ。
「え?この大陸最北端の場所じゃない。」
「それ、もしかしてショモライ半島のこと?」
「そんな名前なの?確かに響きはどことなく似てるわね。」
「いや、逆にどこでそんな名前を覚えたの?」
「えーと、あ、確かテレス様から聞いたんだ。」
「テレスさんが?」
思いがけない人物の名に、目を見開くコウキ。
「そうよ。確かテレス様が言ってたのよ。人大陸の最北端のシャマラン半島にはいつか行きたいって。」
「テレスさんが!?」
数秒前と同じ台詞を叫ぶコウキ。その声に込められた驚きは先程の比ではない。
「何で?」
「分からないわよ。もののついでに呟いただけみたいだし。」
「ふーん。」
コウキとしては気になるものの、大人しく引き下がることにしたらしい。
話題を本題に戻した。
「それで、三つ目は?」
「戻すのね……最後は帝国に行って港を探す方法よ。」
「帝国、ダグ帝国か。正直行ってみたい気持ちはあるけど、大丈夫かな?」
その疑問にアリスは、何がとは聞かない。
それは、彼女自身杞憂していたことでもあるからだ。
「分からないわ。あの国は昔からレバン王国を敵対視してるもの。普通なら勇者の私達に手を出すとは思えないけど、私達は王国からあんな宣言を出されてるから。」
蜜月関係にあるとみられても仕方ない、とアリスは言った。
「あの時は気付かなかったけど、他国に僕達との関係をアピールするのも狙いの一つだったのか。」
「そうね。……一つ、我が儘を言って良い?」
「勿論。」
「自分で提案しといて何だけど、一つ目の選択肢無しにしない?」
「……理由は?」
「利用されてるのがむかつく。」
アリスの迷いの全く無い言い方に、コウキは苦笑する。ただ、コウキとしてもそれには同意だった為、否やは無い。
当然、
「まぁ、良いよ。」
了承するのであった。
「良いの?」
「うん。僕も同じ気持ちだし。」
「そうなの。じゃあ、二つ目と三つ目はどっちが良い?」
「帝国は怖いからね。やっぱり二つ目かな。テレスさんが何を気にしていたのかとかも気になるし。」
コウキとしては神が何故、半島の名前を間違えたり、行きたがっていたのか知りたかっただけだった。
しかし、コウキの言葉の何かがアリスの地雷を踏んでしまったらしい。
「そう。そんなにテレス様が気になるんだ。」
「え?うん。いや、テレスさんって言うか。」
「気になるんだ。」
真顔でアリスに詰め寄られ、たじたじになるコウキ。
(端正な顔立ちの人って、怒ると怖いよね。)
そんな風に現実逃避しながら、どう怒りをやり過ごすか考えるのであった。




