33話
その日、天界は荒れていた。いや、それは既に日常の風景だった。何百年、何千年と前からの。
コウキは、この天界の風景を美しいと称した。それは、正解でもあり間違いでもある。
テレスとダールの居る場所、そしてある一箇所のみはその美しさを保っていられたのだ。……天界は広く、故にテレスとダールの領域も広い為コウキは気付かなかったのだが。
そんな自分達の領域を久しぶりに離れ、二人はある人物の元へと移動していた。
そこは、まるでジャングルのように樹々が生えていて、蔦が建物に絡みつき、廃墟のようであった。
「ご機嫌よう、とでもいうべきですか?カレネ。」
「あら、私よりも神としての格が下なのだから様を付けるべきでは?テレス。」
「あの人にそういうのはやめるよう言われたのでは?」
「っ!……まぁ、この辺にしておくわ。」
目的の人物に会った瞬間、その人物と言い争いを始めるテレス。そんな二人を見てダールはため息を吐く。
「そうですね。今日はこの辺でやめて下さい。俺達は質問があって来たんです。」
「あぁ、思い出したわ。……転移者、この言葉に聞き覚えはありますか?」
ダールの言葉に用件を思い出し、真剣な表情で聞くテレス。
その回答は、
「転移者?あぁ、別世界から来た人間のこと?そりゃ知ってるわよ。だってこっちに来させたのには私も一枚噛んでるし。」
テレス達の予想通りのものだった。
だが、予想通りだからとは言え、
「なっ……少しはその影響がどれだけ、むぅぅぅ。」
「落ち着け、テレス。」
カレネの言い方に激昂しかけたテレスの口を無理やり押さえて止めるダール。そして、今度は自分が話し始める。
「ですが、カレネ。あなた方は神として自分の行動にどれほど影響力があるのかを考えるべきだと思いますよ?」
「分かってるわよ。でも結果として面白い体質になってるじゃない。ここのところ面白いことが無かったから丁度いいと思ってたけど予想以上ね。」
「はぁ、だからその面白い体質とやらで厄介なことになってるんですよ?ただでさえ今は魔王が復活したばかりだというのに。」
「そんなの勇者が何とかするでしょ。」
暖簾に腕押し、糠に釘とばかりに人の話を聞かないカレネ。そんなカレネに対し、ダールが内心頭を抱えていると、彼女は思い出したように言う。
「あ、何で分かったの?私が転移者に関わってるって。」
「転移者なんて魂に直接干渉しないと出来ない芸当でしょう?それが出来るのは輪廻転生による魂の循環を司るあなただけです。」
「褒めても何にも出ないわよ。」
「褒めてません。……はぁ、あの人だったらこんなこと絶対しませんでしたよ。」
「しないでしょ。だって神なのに人間や動物にも配慮するとか……意味分からない。しかも古株だからってそれを押し付けて来たし。」
「あなたねぇ……!」
「え、ちょっと。」
「おい!やめろテレス!」
自分が世話になった人物を貶され、拳を握りしめたテレスに詰め寄られ、焦るカレネ。それも当然、神が倒せない魔王を、倒す為の勇者から神となったテレスは、かなり強く、少なくともカレネでは歯が立たないのだ。
また、ダールに止められたテレスも怒りは収まらず、
「ダール、もう帰ろう。」
「あ、うん。ではさようなら。」
まだ顔が真っ青なカレネを残したまま、二人は去っていった。
自分達の領域に戻ったテレス達は暫く無言のままだった。
やがて、ダールが口を開く。
「さて、やはりあの女も一枚噛んでいた訳だが、どうする?」
「どうにもしようがないでしょう。あんなでも私達より格が高いんだし。」
「そもそも、俺達以外の神は、何というか下界の生物を見下してるんだよな。」
「本当に、あの人が居てくれたら良かったのに。」
しみじみと、自分達の領域以外で唯一綺麗な方向を見つめて言うテレス。
「確かにな。でもそれは無理だ。あの人は、今仲間と眠ってるんだから。」
「分かってるわよ。……神になってみてはじめて分かったわ。魔王の気持ちが。」
「そうだな。こんな状況だからな。ただ、下界でやった行為は許されねぇが。」
そう言いながらも、ダールの声色はそんなに怒ったものではない。魔王が何を思ったか、、それが理解出来るからだ。
だからこそ、思う。
「魔王ゼルス。アリスとコウキと一緒にいて、きっと楽しいだろう?こんなこと、終わらせようぜ。」
かつて倒した宿敵に、そう投げかけるダールであった。
テレス・ダールの様子です。ちょっと停滞していましたが、主人公の旅は次回から続きを書きます。




