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32話

 翌日、コウキはアリスと二人で王都の散策をしていた。因みに、ゼルスは馬に蹴られたくないと言って一人で出かけている。


「安静にしてろって言われて、歩き回るのって良いのかな……?」

「大丈夫よ。それに、なんだかんだで王都の観光をしてなかったじゃない。」

「そういう問題ではないと思うんだけど。」

 そう言いながらも、コウキの頬は緩む。

 元々、村で育ち、街に出るということがなかったコウキやアリスにとって、街には興味深いものが多かったからだろう。

 アリスも普段の勇者としての引き締まった顔ではなく、年相応の笑顔であった。……あるいは、コウキと二人きりだったためかも知れないが。


「まぁ、偶には魔王なんて忘れて遊ぼうか。暫くは下手に体を動かすことも駄目だろうし。」

「あら、私は別に体を動かせるわよ。」

「でも、それはそれとして遊びたいんでしょ。」

「そうよ、悪い?」

 コウキの軽口に、開き直ったアリス。そしてコウキは笑いながら首を横に振った。

 そのままじゃれあいながら移動する二人は、アリスの美しさに見惚れる人が続出したのも気にせずに大通りを歩いていく。


 そして、コウキは気付く。


「そういえば、周りの人がハンタについて噂してるね。」

「えぇ、まぁ、あれだけの騒ぎを起こしたのよ。当然でしょう。」

 嫌そうな顔で頷くアリス。彼女にとってハンタはしつこい上に攻撃の効きづらい嫌な奴、という認識だった。

 それを何となく表情から察し、同情の余地は無いと思いながらもコウキは再度、口を開く。


「結局、どうなったの?あの男。さっきからまた牢に入ったとか、逃亡中だとか色んな噂が聞こえるんだけど。」

「……少なくとも捕まったという話は聞かないわね。逃げられたら相当厄介よ。」

「とは言っても、僕たちが協力できることじゃ無いし。」

「そうね。国王達が自分達で何とかするでしょうね。」

 国王に宣言を上手く誤魔化されたことにコウキから後で聞いて気付いたアリスは未だ怒っている。その結果、口調が冷たくなっていた。


「あ、あはは。自分で何とかすると言えばゼルスはどうするんだろうね。」

 アリスの声が怖くなって慌てて話題を変えたコウキ。

 そんなコウキをジト目で見た後、アリスは口を開く。


「ゼルスというと、私達が王都を出た後ゼルスが一人でどうするのか、かしら?」

「そうだね。ほら、僕達は結構な額のお金とか貰ったけど、ゼルスは無いし。」

「確かにそうね。日雇いの仕事でもしながら観光するのかしら?」

「そうだな。今のところ、そのつもりだ。」

「「えっ?」」

 突如聞こえた声に、コウキとアリスは揃って後ろを向く。

 噂をすれば影とばかりに現れたのはゼルスだった。


「適当に歩いてたら、二人を見つけたから近づいてきたんだ。それで、何故俺の話を?」

「まぁ、会話の流れでね。これからどうするのかと思って。」

 流石にハンタと国王の話題で気まずくなったとは言えず、曖昧に濁すコウキ。


「ふむ。そうか。まぁ、さっきも話した通り、俺は暫くは働きながら観光するさ。」

「そうなの。でも、せっかく会ったんだし今日は三人で観光するわよ。」

「え?いや、俺は……」

 最後まで言わせてもらえず、言いたい事を言い終えて歩いていくアリスの背中を追いかける以外に選択肢を失くされるゼルス。

 そんなゼルスに憐憫の眼差しを向けながらコウキは先にアリスを追いかける。


「デートの邪魔をしたくなかっただけなんだが……」

 というゼルスの声を残して。




 


 彼らが王都観光を楽しんだ数日後。

 病院で担当医のレルからもお墨付きを貰ったコウキは、その日に王都を出ることに決めた。


「お世話になりました。」

 その言葉をレルや宿屋の主人に伝え、コウキとアリスは王都の出入り口へと向かう。付き添いとしてゼルスも一緒だ。


「俺からすればアリスやコウキに世話になったな。」

「そう?僕は何もしてないけど。」

「私は戦闘をした位かしら?でも、元々その予定だったんだし、別に良いわよ。」

「僕はむしろ色々話せて楽しかったよ。」

「そうね。私もよ。」

 コウキとアリスにそのように言われ、照れるゼルス。


 思い出話に花が咲くうちに目的地に着いてしまった。

「じゃあ、ここでお別れだな。ありがとう。」

「いや、そんな今生の別れみたいに言わない欲しいわね。でも、こちらこそありがとう。また会いましょう。」

「そうだよ。また、会えるよ。だから短い間だけどありがとう。それにこれからもよろしくね。」

 その言葉にゼルスは嬉しそうな顔を見せ、その後、すぐに下を向く。

 それを見たコウキ達は泣くのを我慢しているのかと思う。実際には少し違い、まるで憂いを残した覚悟、そんな表情であったのだが。


 数秒後、顔を上げたゼルスにその表情の余韻は一切なく、彼らは手を振り合って別れるのであった。

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