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31話

 コウキが意識を取り戻したのは、彼の意識が下界からなくなってから三日後の事だった。

 目を開けたコウキは、状況認識もままならないまま、横からの涼やかな声にベッドの上でそちらを向く。


「あ、コウキ!大丈夫なの?」

「え?うん、多分?というか、起きたばっかりじゃ分からないけど。」

「ふふふ、その様子なら大丈夫そうね。それにしても、起きたばかりにしては、いやに意識がはっきりとしてるわね。三日も寝てたのに。」

 アリスのその言葉に、コウキは自分の認識との相違に驚く。それも当然。コウキの感覚では、ドロールの攻撃後、すぐに天界にいて、その後三十分程でこちらの世界に帰ってきたのだ。


「えっ?僕、そんなに寝てたの?」

「夢でもみてたのかしら?これでも心配したのに、ちょっと損した気分ね。」

「それは酷いよ。」

 お互いに軽口を言って笑い合う。それは彼等の日常が戻ってきたことを意味していた。


「オホン、えっと、ちょっと良い?少し状態を確認したいのだけれど。」

 アリスとひとしきり笑ったコウキは、反対側から聞こえた声に驚く。

 そちらには、完全に声を掛けるタイミングを失ってしまったゼルスと、見知らぬ女性がいた。


「私はあなたを担当する医者のレル。よろしくね。」

「成る程、そうでしたか。よろしくお願いします。それで、僕の怪我は?」

 女性の説明に納得し、自分の怪我について聞くコウキ。


「うーん。私が現場に着いてすぐにあなたは気を失ったから、先に体の外傷を治したのよ。それからは意識を取り戻す為の回復魔法も効かなくて……三日間もそのままだったのだけれど、今声がして見に来たのよ。」

「分かりました。ありがとうございます。」

 恐らく、意識だけが天界に行っていたから回復魔法が効かなかったのだろうと思いながらお礼を言うコウキ。

 その様子に何か言いたげなレルだったが、それはゼルスに遮られる。


「コウキ。一応聞いておくが、特に身体に問題は無いんだよな?」

「うん。動いてないから多分だけど。」

「そうか。いや、ほら、あの女って前に戦ってた奴だろ?きっと。確か苦戦してたし、何か特殊なことをされてないかと思ってな。」

 後半、少し照れながら言うゼルスに対し、コウキはそれだけ心配してくれていたのかと嬉しく思う。




 その後、レルはひとしきりコウキを検査した後、暫くは安静にするよう言い残すと出て行った。

 部屋にはコウキとアリス、そしてゼルスの三人だけになり、コウキは口を開く。


「僕さ、寝込んでた間天界に行ってたかもしれないんだ。」

 かもしれない。と付けたのは、コウキ自身半信半疑であったからである。


「天界?っていうと神様の住むあの?」

 そう聞くアリスは、ひどく驚いた顔をしていた。そして同時にゼルスも驚いた、というよりも青ざめた顔をしていた。


「そう。もしかしたらただの夢かも知れないけどね。」

「いえ、天界という言葉は私が勇者になって神から聞いて初めて知ったから……そんなに一般的じゃないと思うし……どこかで聞いたことあるの?」

「ううん。夢で初めて聞いたよ。」

「記憶に無いだけという可能性も無きにしも非ずだけど、それなら本当に行っていた可能性は高いと思うわ。」

 コウキとアリスは、青ざめているゼルスのことが気になったまま話を続けるが、遂に耐えきれなくなってコウキが聞く。


「おーい、ゼルス。どうしたの?」

「……ん?あぁ、何でもない。俺の全く知らない単語が出てきたからな、少し考えていただけだ。」

「なら良いけど。」

 そう言いながらもコウキは納得していない。

 そしてそれはアリスも同じだった。


「でも、急に真っ青になったわよ。本当に大丈夫?」

「あぁ、何も無いよ。……それで、その天界というところはどういう場所なんだ?」

「……私は夢現に見ただけだからはっきりとは分からなかったけど綺麗な場所だったわね。」

「そうだね。そこでダールさんとテレスさんに会ったんだ。」

 ゼルスの発言を訝しく思いながらも質問には答えるアリスとコウキ。

 そしてそのまま会話は続く。


「コウキ、貴方ねぇ。神様にさん付けってどうなのよ。」

「いや、先輩みたいなものだって言ってたし。とても気軽に話しかけてくれたから。」

「はぁ、もう良いわよ。それで、何があったの?」

 諦めたようにため息を吐きながら続きを促すアリスに釈然としないものを感じながらも、コウキは天界であったことを説明する。




「成る程ね。私が神様と話せるのはそういうことだったの。」

 コウキの話を聞き終わったアリスの一言目である。彼女はどうやらコウキの身に起きたことを夢だとは思っていないようだ。


「ふむ。まぁ、恐らく現実のことなのだろうな。俺は体験したことがないから分からないが。」

 そういうゼルスもコウキの言葉を疑うことは無い。その事に喜びを感じつつ、コウキは三人での時間を楽しむのであった。

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