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30話

 コウキが次に意識を取り戻した時、コウキの眼前には彼が未だかつてが見たこともない建物や植物のある風景が広がっていた。

 また、見たことがないという意味ではその美しい景色もだろう。人間としての輝かしい美しさという意味ではアリスで見慣れているコウキであったが、このように文化と自然の調和がとれた美しさは見たことがなかった。


 (ここは?こんな場所が王都にあれば本で読んだりしてもおかしくない筈だけど。……それに、さっきまでアリスと一緒にいた筈なんだけど。)


 周りのものを鑑定したりして調べたいという欲求が湧いてくるも、その前に近づいてきた気配に気付き、そちらを向くコウキ。

 そこには、二十代ほどのまだ若い男がいた。


「失礼ですが、ここは?」

 そう聞いたコウキに驚いたような顔をする男。

 そして、


「あー、質問に質問で返して悪いが、お前、今代の勇者の相棒のコウキか?」

「……えぇ、その通りですけど……?」

 逆に質問をされ、何故自分が知られているのか、と混乱するコウキ。


「ふむ。何故ここに?と聞かれても分からないんだろうな。おおよその予想は出来るが……まぁ、先に自己紹介だ。俺はダール。先代勇者の相棒、言ってみればお前の先輩だ。そして、ここがどこかという質問だが、答えは天界。神の住む場所だ。」

「……ちょっと待って下さい。あなたが先代勇者の相棒で。」

「あぁ。」

「ここは神様が住む天界。」

「そうだ。」

 ダールの言葉に混乱し、理解に苦しむコウキ。思考をまとめようとしているせいか、その顔はひどく歪み、変顔になってしまっていた。


「ブッ。……お前の気持ちは分かる。どうして自分がここに居るのか、だろう?」

 コウキの顔に吹き出したダールは、即座に笑いを収めて話し出す。


「まぁ、これは予想だが、お前に神気が移っている可能性がある。神気は分かるか?勇者や一部の神官が纏っているもので、元は神の力の一部みたいなものだな。」

「成る程。その神気によって、ここに来た、という事ですか?」

「あぁ、多分な。とは言っても、意識だけだろうが。肉体に縛られた状態でここには来れない。因みに勇者アリスの夢や神官の神託も意識のみをこの世界に呼ぶ事でやっているんだ。」

 分かるか?と聞かれ、曖昧に頷くコウキ。気になっていた神気の説明もあり、一部納得したのだが、どうしても気になることがあったらしい。


「でも根本的な疑問として何故、僕に神気が?僕は勇者でも神官でもありませんが。」

「それは、恐らく勇者とずっと共にいたからよ。」

 コウキの質問に、急に背後からの声が答える。

 驚いて背後を見ると、そこにはにこやかな女性。


「私はテレス。先代の勇者よ。」

 端的な自己紹介をし、テレスはコウキの正面にまわる。


「だが、テレス。コウキのことを解析したが、神気の気配はあるが、神気そのものは無さそうだぞ。」

「そうなの?じゃあ、何故かしら。気配があるという事は彼がこちらに来た原因は神気で間違いなさそうだし。」

 コウキそっちのけで話し始めたテレスとダール。しかし、コウキとしても興味深いのでそのまま黙って聞いている。


「考えられる可能性としては、勇者に触れていた?」

「触れていたとしても、神気は基本精神に宿るものだから、それだけが原因とは言い切れないと思うわよ?」

「ならば触れ合った状態で心が一つになったという可能性は?」

「!……その可能性は十分にあるわね。」

 そこまで聞けば、コウキとしても思い当たることがある。


「そういえば……確かにここで気がつく直前までアリスと抱き合って、多分考えていることは同じだったと思います。」

 その言葉を聞き、納得したような、微笑ましいような、複雑な表情を浮かべるテレス達。

 

 その表情の意味に気付いたコウキは慌てて釈明する。


「いや、違いますよ。その直前にドロールにお腹を刺されちゃって、それで心配したアリスに抱きつかれたんです!特に何かそういう訳じゃ……」

 そこまで言って、言葉を切るコウキ。テレス達が自分を見る目が明らかに変わったからだ。


「ドロールに刺された?あの、悲嘆か?」

 さっきまでと違い、真剣な眼差しで聞くダール。思わずその迫力に押されたコウキを見て、すぐに柔らかい眼差しに変える。


「あ、すまん。いや、その戦いを俺たちは観測出来なかった。だから、また魔王の邪魔が入ったのかと思ってな。」

「いえ、魔王はいなかったと思いますよ?僕を刺してすぐにいなくなりましたし、個人的な復讐のようだったので。」

「そうだとすれば、八魔将の力が強まっているのか?神の干渉を退けるほどに?」

「いえ、それにしてはアリスから聞いた情報とは一致しないわよ。」

「ならば何らかの原因が他にあるのか。」

 またも、二人の世界に入り始めたテレス達。そこへ、もう一度コウキは声を掛ける。


「あの、それって魔力を使って僕たちを見てるんですか?」

「うん?まぁ、そうだね。神気だけだと難しいから魔力も使って観測してるよ。」

「じゃあ、もしかしたらあいつが原因かも知れません。」

「あいつ?誰かしら。」

「ハンタとか言うやつです。解析では転移者とか魔力無効体質とか出ていました。」

 その話に目を見開く二人。


「待て、転移者?それに魔力無効体質だって?」

「いや、それ以前に魔力無効なのにどうやって鑑定したの?」

 彼女達二人としては、コウキの話は無視し得ないものだった。

 転移者や魔力無効体質という単語は気になるものではあるが、それ以上に魔力無効体質という明らかに魔力を通した干渉が通じなさそうな体質に鑑定が可能というのは、彼女らの脳裏にある可能性を生じさせた。


「取り敢えず、魔力無効体質に関してはいつもよりも強く念じたら突破出来ました。ただ、転移者と魔力無効体質の正体は分かりません。」

 その言い方に、テレス達二人は更に驚きを大きくする。だが、それを表情に出すことは無い。


 そうこうしてる内に、コウキの身体が薄くなってきた。


「え?えっと、これは?」

「それは下界に戻る合図だな。……あぁ、そうだ。良いことを教えてやるよ。鑑定士についてもっと知るんだ。そうすればこれからに役立つはずだ。」

「そうね。頑張ってね。」

「はい。分かりました!」

 コウキの姿が消失する。

 それを確認したテレス達は、小さくため息を吐く。


「彼がこの領域まで至れるかもしれないというのは朗報だが……転移者、か。」

「恐らくだけど、あの人達でしょうね。」

「あぁ、まずは話を聞いてみるか。」

 そして、二人は移動を始めた。

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