3話
かがり火に照らされて、村の広場は夜であると言うのに人の識別が容易な程の明るさであった。
コウキは広場の中央に立つ村長を見て立ち止まった。すると、タイミングを見計ったかのように村長は話し始めた。
「今日は、今年十五になった子供達に神が祝福を下さり、職業を与えられた祝うべき日。本来なら魔王復活の件もあるが、勇者が誕生したことでその心配も無くなったも同然。皆には楽しんでもらいたいがその前にやるべきことがある。……大神官殿!」
「はい、これから勇者の相棒となるべき方の名を発表します。その名は……」
広場を緊張が包む。特に男衆は自分がアリスの相棒にならないかとそわそわするものが殆どで、落ち着いているのは早く鑑定を試してみたいと思う心を鎮めるため、深呼吸を繰り返していたコウキと、何故か優越感に満ちた笑みを浮かべるアガンのみであった。
「その名は……アガン。村長の息子、アガンです!」
その宣言に対し、広場は沸いた。だが、男衆が落ち込む姿とアリスが驚き、次の瞬間憤怒の表情を浮かべる姿、そしてコウキが身体に不思議な感覚を感じ、次に放った言葉で静まることになる。
「鑑定……“真偽判定”!」
そう言った途端、コウキの身体を寒気が走る。
(この感覚は……前に本で読んだのと同じだ。)
そう、寒気の正体は真偽判定の結果を表すもの、結果は『偽』であった。
「わ、私の言葉を疑うのですかっ。」
「お、おいマジかよ。」
「真偽判定っ。」
「け、結果はどうだ?」
大神官が青ざめた顔で発した叫びは、他の人の声でかき消された。
「……っ。『偽』だと、おい、どう言うことだ!」
「私も『偽』よ。大神官様説明をお願いします。」
コウキが何か言う前に、コウキの『真偽判定』を聞いて同じように『真偽判定』した鑑定士達が大神官を詰り始めた。
「そ、そんな筈はない!嘘を言うな!」
「嘘じゃないはずよ。」
その声に皆が振り向くと、先程までコウキの発言に驚いていたアリスの姿があった。
「ど、どう言うことだ?」
慌て過ぎて敬語が崩れていることにも気付かず大神官が聞くと、
「だって、私は神に相棒はコウキにすると言われたもの。」
その言葉はもうこれ以上ないと思える程に大神官の顔を赤くし、一気に青ざめさせた。
「……申し訳ございません。実は、村長からのし……」
「何だってそんな嘘をついた!もう相棒は決まってしまったぞ」
大神官の告白は、村長に遮られた。
「仕方がないからアリスの相棒はアガンがやるしかない。全く、迷惑な嘘のお陰で神の決定と違う結果に……」
「何故勝手に決めているのですか?神からはコウキだと聞いたと先程言いましたが?」
「だが、聞いたのはお前だけだろう、アリス?それは簡単には信じられないな。」
何としても息子とアリス……いや勇者をくっつけたい村長としては、多少強引でも息子を相棒にする必要があった。
「ならもう一度神託をすれば良いですよね?」
「ふん、この村に神託を行える神官はあの大神官だけだ。もう一度あの嘘つきにやらせるのか?」
この時、アリスの相棒だと言われフリーズしていたコウキはやっと復活した。
「ちょっと待てアリス。僕が相棒?一体何の冗談だい?」
「そのままの意味よ。後で説明するわ。……村長、一人いますよ。ミル、お願いできる?」
置いておかれたコウキは憮然としていたが、アリスは敢えて無視してこの村で二人目の神託の才能を持つ神官となったミルに話しかけた。
「い、いいよ。」
こうなっては村長も何も言えず、ただ神託の為に祈るミルを悔しげに見つめるだけであった。
そして祈りは終わり、ミルはこうコウキに告げた。
「おめでとう、相棒だったよ。」
と。




