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27話

 コウキ達がそれを知ったのは、翌日、王城から人が派遣されてきた為だった。


「ハンタが脱獄した、ですか?」

「はい、昨日は確かに牢に入っていたのですが、今朝兵が交代しに行ったところ、元々居た兵は死んでおり、ハンタの居た牢が外側から破壊されていました。明らかに何者かの手を借りたようですが……それが誰なのかも、何処に行ったのかも全く不明です。」

 アリスと王城から連絡に来た女の会話を聞き、思わず天を仰ぐコウキ。その隣では、ゼルスが苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 殆ど直接は喋っていないゼルスでもあいつが自由の身になったと考えると嫌なのか、とコウキは妙なところでハンタに感心する。


 その間も会話は続く。


「ハンタはアリス様達のことを狙っている可能性が高いです。ですので、彼が捕まるまでは気を付けてください。」

「分かりました。わざわざありがとうございます。」

「いえ、こちらの落ち度ですし。……それより、アリス様、私などに敬語を使う必要はありませんよ。」

「でも、貴方の方が年上ですし。癖でどうしてもなってしまうんです。」

「ですが……いえ、分かりました。アリス様がそれでいいのなら。」

 最後は少し苦笑した女は、そのまま王城へと戻って行った。


 コウキは、女が去った方角を心配そうに見つめていたアリスに声を掛ける。


「僕達に接触したからって、ハンタに狙われるとは限らないよ。」

「そうだな。そもそも俺達の居場所が分かってるなら、あいつはすぐに突っ込んできそうだが。」

「そうね。それは分かってるんだけど……」

 励ますコウキとゼルスにアリスはやはり心配そうな表情を崩さない。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 時は遡り、早朝。

 王城の地下牢で、青年は物音を耳にして起きる。

 日が殆ど差さないのでこの地下牢の住人に時間感覚は無いことが多いが、彼は昨日入ったばかりでまだそれが残っていた。

 だからこそ、監視の交代には早いのではないかと思い、目を開けて飛び込んできたのは、監視員二人が倒れ込む姿と、恐らくそれをやったと思われる人物二人。


「何者だ?」

 思わずそう声を上げたハンタに、立っていた二人が気付き、近づいて来る。

 

 思わずハンタが後ずさったのも無理はない。彼らは……それは男女二人組であるように見えた、はハンタを倒したアリスと同等の力を持っていると、そうハンタの本能が囁いていたからである。

 この辺り、アリス達との邂逅では出てこなかったが、二か月の間で王都でも有数の実力者まで成長した男としての勘が働いている。


「あらあら、そんなに怖がられるのは悲しいわね。」

「ふむ、力を込める必要は無いですよ。私達は貴方に協力しに来たのです。貴方はただ勇気を出して行動するだけ……分かりますか?勇者様。」

 勇者、と言う言葉を聞き、見る間にハンタの顔は強張る。

 それを即座に見てとった男は猫撫で声を出す。


「私達は馬鹿にしに来たのではありません。先程も言った通り協力しに来たのです。あの偽物の勇者を倒すためにね。」

「偽物の勇者……あの女か。お前達は……俺が本物の勇者だと信じているのか。」

 その質問に彼らは笑みを深くする。その表情に、ハンタは背筋が凍るような気がする……が、気のせいだと言い聞かせ、わざと強気な笑顔を見せる。……引きっつていたが。


「勿論そうよ。でも、まだ貴方がこの世界に来てから時間は殆ど経っていない。だから、あんな偽物に負けてしまったのよ。」

 さらりとハンタが転移者であることを言うが、ハンタにとってそれは自分の頭の中では当たり前のことで違和感を抱かない。


「因みに私達はここへ来る前、彼女達を偵察してきました。その際こんな光景を目にしましてね。

虚栄の(インビテーションオブ)誘い(ヴァニティ)』」

 そう言いながら男がパチン、と指を鳴らす。


 すると、そこには等身大のアリスとコウキの姿。だが、それらは幻影。彼らは口を開き、

『弱かったわね。なんと言ったかしら、ハント?』

『あんなのが勇者をだったなんてな。信じられないよ。』

『あら、今は私が勇者になり変わったから大丈夫よ。ねぇ、コウキ。』

『どうしたの?』

『私、あんなのが近づいてたなんて嫌なのよ。だから、ね?』

『しょうがないな。』

 そう言いながら、幻影の二人は抱き合う。


 ここにゼルスが登場しなかったのは、単純にゼルスはそこまでハンタの邪魔をしなかったので恨みをあまり買っていなかったこと。また、無断行動とはいえ二人が自分達の上司をこんなところで使いたくはなかったと言うのがある。


「おい。止めろ、止めろぉ!」

 自分のことを馬鹿にしながら二人の世界に入る幻影に、ハンタは自分の気持ちを弄ばれた、とアリスに対し思う。


「さて、どうです?今のままの貴方では彼女には勝てません。ですが、装備などで勝てる可能性は上がるのですよ。」

「幸い、私達にはそれを用意できる力がある。ここは私達を信用してくれないかしら?」

 怒涛の話はハンタに考える隙を与えない。

 

 その為、ハンタの思考は短絡的になり……

「分かった。協力感謝する。」

 返事を聞いた二人は、待ってましたとばかりに檻を破壊し、武器を置く。

 そして、またも幻影を発動させ、認識できなくさせて王城を移動してから王都に彼を放逐するのであった。


 

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