23話
「なぁなぁ、君。俺と一緒に来ない?」
「え?あ、え?」
「あぁ、そうだ。俺はハンタ。勇者だ。君の名前は?」
ここは王都。冒険者ギルドの前の通り。そこでは一人の青年が制服を着て女性に声をかけていた。
周りからの諦めたような視線に気付くことなく、いや気付こうともせずに青年は声をかけ続ける。
青年が何者なのか。それを語るには時を二か月程前まで遡る必要がある。
「おい、邪魔だ、退けよ佐田。」
「ひぃっ。わ、分かった。」
ここは日本のどこか。高等学校、所謂高校の放課後の教室。そこでは一人の気弱そうな男子生徒が大柄な男子生徒に押されて転んでいた。
気弱そうな生徒の名は、佐田叛詑。二か月後にコウキ達の世界の王都にいる人物である。
彼は地元での評判はお世辞にも良いとは言えない高校の二年生。一年生の頃に所謂いじめっ子と呼ばれる男子生徒に目をつけられてから、今に至るまで暴力やカツアゲなどさまざまな件の被害者になってきた。
そんな彼は、いつしかラノベにハマり、現実世界とは違う自分を想像してはいじめに耐えるようになっていた。
「ん?なんじゃこりゃ?『異世界転生した高校生はチートを……』ダハハハハ!何、お前自分が弱いからってこんなの読んでんのか?」
転んだ拍子に思わず落としてしまった本のタイトルを見たいじめっ子に笑われた叛詑。
「べ、別に何を読んだって良いじゃないか!」
それはここ最近ではしなくなっていた抵抗。
だが、それに対する返答は、
「ぐぅっ。」
「何を生意気に口聞いてんだよ!!」
殴打。そして蹴り。
顔、腹、脚etc……身体中を打撲された叛詑は床に倒れ込む。叛詑は口の中を切り、血の味を味わうことになった。
倒れ込んだまま口と腹を押さえた叛詑は、ビリビリという音を聞く。嫌な予感をがした叛詑が上を向けば、自分の本が破られている様子が見える。
「っ……」
何かを叫ぼうとした叛詑。しかし、声は出ない。代わりに腹が痛んだらしく、先程よりも強く腹を押さえて顔を更に顰める。
そんな叛詑に上から降ってくる声。
「俺はな、お前が、想像の中でも、強くなろうとしてるのが、気にくわねぇんだよ。叶うわけもねぇ夢を見るんじゃねぇよ。分かったか?」
そう言うと、別れの挨拶がわりとばかりに腹に蹴りを入れ、去っていく男子生徒。
叛詑は悶絶し、もはや意識すら手放しそうになる。そうならなかったのは今までに何度も痛みを堪えてきた経験があったからだというのは幸運か不運か。いや、この場では確実に不幸であった。何しろ意識のある限り痛みを感じ続けるのだから。
周りの生徒達はやり過ぎではないかと思いながらも動こうとは思わない。それがきっかけで自分が標的になりたくはないからだ。
そのまま放って置かれ、三十分程。ようやく痛みが引き始めたのか、体を起こした叛詑は重い体をば引き摺るようにして教室を出、家路を進む。
叛詑の気持ちを嘲笑うかのような、綺麗な夕焼けが余計に叛詑をイライラさせる。それと同時に自分が、自分だけが世界から置いていかれているような感覚がして、虚しさをも覚える叛詑。
通学する為毎日上る歩道橋が、いつもよりも辛く思えた叛詑は、ふと下を通るトラックを見て、思う。
落ちたら、死んだら、解放されるのかな、と。
不意に、異世界転生、という言葉が頭を過ぎる。 しかし、それと同時に先程自分が浴びせかけられた言葉を思い出し、それが叛詑を後押しした。
気が付けば、叛詑は薄暗い通りにいた。
光の刺す方に出てみれば、人通り。その誰もが叛詑の目から見ればおかしな格好をしている。いや、普通の服に見えるものを着ている人もいたのだが、細かく見ればどこかおかしかった。
更に、見覚えのない街並み。学校の教科書で見た中世ヨーロッパの街並みと似ていると思う叛詑。
叛詑はそこまで思考し、急に停止する。自分が何をしたのかを思い出し、最初に思い浮かんだ単語は異世界転生。正確には転移なのだが、それを興奮している叛詑に思いつけと言うのは少し無茶だった。
そう、叛詑は興奮していた。既に異世界転生という言葉に付き纏っていた負のイメージは拭われていた。
動きを止めている叛詑に訝しげに視線を向ける人々。それは、叛詑が着ている制服がもの珍しいというのもあるのだろう。
「おい、そこの……坊主?何か変な服着てるけど、邪魔だから動いてくれないか?」
叛詑に話しかけたのは鎖帷子を着た男。今までの叛詑ならばびびってしまっていただろう。
だが、異世界転生したと思い、興奮している叛詑にはそんな感情は無くなっていた。
「おうおう、分かった。」
異様に高いテンションでそう返された男は、少し唖然として、頭を振りながら歩いて行った。
テンションの上がった叛詑は、その勢いのまま自分について考え始める。
彼の読むラノベの中では、主人公が転生した後勇者になっていた。また、チートやハーレムのルートを辿っていた。即ち、同じように転生した自分も同じような勇者になるのだ、と。
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そして今、佐田叛詑は過去の自分を捨て、勇者ハンタと名乗り、冒険者活動をしている。
自分の読んだ小説の結果を求め、過程を飛ばして進もうとしている。
そして、ハンタは目も覚めるような美少女と、その周りにいる青年二人を見て、自分こそが彼女に相応しい、いや、彼女こそが自分に相応しいと考える。
邂逅が、始まる。




