22話
コウキ達一行は、ドロールとの戦闘後は特に何の問題もなく(神からのお告げやゴブリンやコボルトなどの弱いモンスターとの戦闘はあったが)王都へ向かう道中にある最後の村へと着いた。
「ん?坊主達、新米の冒険者か?頑張れよ。」
勘違いしたらしい村の見張りらしき男に声をかけられながら、その勘違いを解くこともなく村の中へ入るコウキ達。
「あ、雑貨屋と食料品店の場所を聞いておけば良かったね。」
「そうね。でも、探しながら歩けば良いでしょ。それに、」
「歩き回れば噂話とかも聞こえてくるかもしれないから、だろ?」
今ゼルスが言った通り、コウキ達が村へと入ったのは雑貨や食料を買う為だけでなく、王都の情報を集めるという意味もあった。
「ここは王都から一日と離れていないからな。王都の情報は色々入ってくるはずだ。」
元々これを提案したのはゼルスである。
職業を貰っているとはいえ、まだ子供が三人で王都に行くのだ。勇者だと広まる前に面倒事が起きるのは簡単に予想できたのだ。
しかし、井戸端会議に耳を澄ませてみても、行きでは特に何の情報も得られない。
そのまま辿り着いた食料品店から出ようとした彼らはそこの店主の女に呼び止められる。
「あ、そうだ。そこの子達、ちょっと待ちなさい。」
「え?何でしょうか。」
何故呼び止められたのか分からず、何か失礼なことでもしたのか、と考えるコウキ。
「そう緊張しないで。お前さん達、これから王都に行くんだろう?」
「はい、そのつもりです。」
「そうかい。じゃあ、冒険者には気を付けた方が良いよ。」
「冒険者、ですか?」
何故?という気持ちが思い切り顔に出たまま復唱するコウキ。
「正確には冒険者の中の一人の男に、だな。何かおかしな格好をした奴で、強引な手口で女を口説いているらしい。」
「そんなことをすれば憲兵や警備兵に止められるんじゃないのか?普通。」
「それがねぇ、冒険者としては凄く強いらしくて……しかもその男は勇者を名乗ってて、何故か職業鑑定出来ないから抵抗力が強すぎるのだろうってことで保留扱いらしいわよ。」
その言葉に一番動揺したのは勿論アリスである。
しかし、すぐに立ち直ると笑みを浮かべて礼を言う。
「教えて頂きありがとうございます。」
「良いのよ。お嬢ちゃん美人さんだから、気をつけるのよ。……それにあなた達も男なんだからちゃんと守るのよ?」
その言葉にコウキ達は全員が苦笑いを浮かべる。
普通に考えてアリスのことを知っていれば守られる対象が逆であるということは明白だからだ。
しかし、それを言うわけにもいかず、
「あ、はい。分かりました。」
「あ、あぁ、分かってる。」
二人しておかしな反応を返すことになるのだった。
その後、雑貨屋にも行った三人は、どうせ王都までは一日掛からないのだからと、宿屋で一泊することにした。
「やっぱり、宿屋、というか街中ではモンスターの心配をしなくてもいいから楽だよな。」
「そうだね。流石に毎晩見張りをするのは少しキツかったから。」
部屋に入って早々、コウキに話しかけ始めるゼルス。何だかんだ言ってもやはりモンスターというのは、戦えないゼルスからすれば怖い物だったのだろう。
因みに、部屋は男子組とアリスで別れている。アリスが同じ部屋でもいいと言わなかったのは、ゼルスが居たからか学習したからか……
「で、だ。どう思う?」
突然の目的語の無い問いかけ。だが、何について聞いているのか、コウキにはすぐに分かった。
「冒険者、でしょ。」
「そうだ。」
食料品店に行く前は気付かなかったのだが、この村の人間は偶に冒険者、や勇者という言葉を使っていた。
「うーん。噂は結構聞いたけど、大体が変な服を着て勇者を名乗る女好きって感じだよね。」
「あぁ、服や女好きは言ってみればどうでも良いが……勇者を名乗ると言うのは……」
「普通、すぐばれるよね。」
「よほど自分の抵抗力に自信があってばれないと思っているのか……もしくは本当に勇者なのか。」
その言葉は、コウキを驚かせるに値するに充分であった。
「アリスが勇者じゃないって言うのか?」
その声には、僅かだが確かに、怒気が含まれていた。それは、幼馴染みを疑われたのかと言う思いと、それ以上に自分の鑑定を信用できないのかと言う思いによるものである。
「それは違うさ。現にコウキもゲイルさんも職業鑑定してるんだ。お前達二人の鑑定を誤魔化せるならそれこそ勇者か魔王位しかいないだろ。そうじゃなくてだ。今代は勇者が二人なのかもしれないって話だ。」
「君は僕とゲイルさんを何だと思っているの……?まぁ、いいや。でも、勇者が二人もいるならあらかじめ神様から通告から何かが来てもおかしくないと思う。」
さらっと化け物のような扱いをされたことに疑問を覚えつつも、ゼルスの意見に対しては反対するコウキ。
「やっぱそうか。じゃあ、何者なんだ?そいつ。」
「変な騒動にならなきゃ良いけど。」
二人は、そう言いながら寝る態勢に入る。
だが、襲いくる可能性の高いトラブルのもとのことを考え、コウキは中々寝付けなかった。




