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20話

 ある程度魚を釣ったコウキとゼルスは、その後三人でローテーションをし、最終的な釣果はコウキが7匹、アリスが4匹、ゼルスが4匹であった。

 

 初めて釣りをした上、途中考え事をしていたらしきゼルスも、何とかアリスと同じ数を釣り上げたらしい。


「それにしても少し釣り過ぎたかな。」

「そうかしら?でも、明日の朝までもたないものね。」

「焼けば良いんじゃないのか?」

 魚を釣り過ぎたかと悩むコウキとアリスに何気なく言うゼルス。

 焼くことを完全に失念していたコウキ達は目から鱗といった様子で

「「成る程。」」

 と呟いた。





 焚き火の周りを仲の良い友人と三人で囲んで座り、釣ったばかりの川魚を焼いて食べる。コウキはその時間を、魔王のことなど忘れて素直に楽しいと思えていた。

 そしてそれは、アリスやゼルスにとっても同じであるらしい。特にアリスは数日前に見せた大泣きの表情がまるで嘘のように、穏やかな笑みを見せていた。


「おぉ、美味しいな。この魚。」

「まぁ新鮮だし、自分で釣った分余計美味しく感じるのかもしれないね。」

 因みに魚は、毒の類がないか事前にコウキとゼルスによって解析されている。


「そう言ったら元も子もないないでしょうに。……実際その通りかも知れないけど。」

「人のこと言えないじゃん。」

「先に言ったのはそっちでしょ。」

「まぁまぁ、落ち着けって。」

 コウキとアリスが口喧嘩するも、お互いに本気ではなく、じゃれあいのようなものであり、短い付き合いではあるがそれを分かっているゼルスにしても本気では止めない。


 道中でドロールに遭遇したからなのか、三人の関係性は出発前よりよほど親密になっていた。……戦闘中ゼルスは隠れていたが。


 やがて、全員が二匹程魚を食べ終わり、残った魚を背嚢に仕舞うと、アリスが口を開く。


「……さて、今日出会ったドロールのことだけど……どう思う?」

「そうだな。八魔将とか言ってたし、あいつの仲間は全部で八人いるってことは分かるな。」

「そりゃそうでしょう。八魔将なのに九人とかいたら笑っちゃうわよ。……コウキは?」

「もしかして、と思うことはあるよ。だけど……」

 そこで言葉を切ってゼルスの方を見るコウキ。その目は信用していない……と言う訳では勿論無い。


「これ、推測を重ねることによってゼルスが巻き込まれるかも知れないから……」

「コウキ。」

 ゼルスを巻き込めない、と判断したコウキに対し、ゼルスは怒りを含んだ声を出す。


「俺は別に、巻き込まれたって迷惑だなんて思わない。そもそも今、俺はお前らに守ってもらってる状態だ。役に立てることが少ない以上、側から見ててどう感じたかとか推測で役に立てるならむしろ喜ばしいくらいだしな。」

「でも、それは今だけでしょ!これに巻き込んだら下手したら核心を突くことを推測して魔王にずっと狙われることに……」

「いや、そもそも勇者と共に行動してるんだから何もしなくても狙われる可能性だってあるだろう?」

「そ、それは……」

 言葉に詰まるコウキ。そこに水を差したのは、沈黙を保っていたアリスだった。


「コウキ、もう諦めよう。」

「え?アリス、だけど……」

「ゼルスの言ってることは間違ってないし、どっちにしろ狙われるかもしれないなら、少しでも相手のことを知っている方が良いかもしれないわ。」

 アリスにまでそう言われ、渋々と引き下がるコウキ。


「さて、話を戻して、コウキ。」

「はあ、分かったよ。ドロールは自分のことを『悲嘆』って言ってたよね。」

「そうね。」

「てことはさ、他の八魔将も感情由来の二つ名を持ってるんじゃないの?」

「そうかもしれないけど……それがどうしたの?」

「アリスさ。もしかして戦闘中、死ぬかもって思わなかった?」

「思わない訳ないでしょ。実際殺されかけたんだし。」

 そう告げるアリスの顔は苦々しい。


「そうだよね。僕もだんだん押されてるのを見て、不味いかもって、思ったし。だけどさ、その後僕が参戦したら何故かだんだん弱体化したよね。」

「そういえば……もしかして、それが感情由来だと言うの?」

「うん、絶望とかって悲しみに繋がる感情だから、僕がそれをなくしたことによって弱体化したのかもって思ったんだ。」

 そう告げるコウキの顔は、未だ疑問を抱いている。


「成る程ね。でも、最初からかなり強かったわよ?正直、弱体化した位の強さだったら私一人でも倒せたもの。」

 そのアリスの疑問こそが、コウキも抱く疑問である。


 だが、それに答えを出したのが、

「なぁ、最初にあれが出てきた時、なんか悲しくなった気がするんだが。」

 ゼルスだった。


「っ!そうか、どうやってなのかは分からなかったけど、何故か急に悲しくなった。それがドロールを強くしていたのかもしれない。」

「あぁ、そういえば、私もなったわね。成る程、あれが原因なのね。」

 そう言ったアリスを凝視するコウキ。勇者と言う強い精神的な耐性を持つ者まで感情に影響を受けるとは思えなかったのだろう。


 その後も話し合いは続いたが、何かそれ以外に考えも思いつかず、夕食はお開きになった。

 

 その晩、ゼルス、アリス、コウキの順に見張りをすることに決め、コウキはテントに入った。




「起きて、コウキ。見張りの交代の時間よ。」

「ふわぁぁぁ、分かったよ、アリス。」

 そう言って、コウキはアリスと交代する。


 コウキは焚き火の前で座ると、未だ閉じようとする自分の目を擦り、何とか起きていようとする。

 そのまましばらく経ち、特に何も起きないので、コウキは昨日のことを回想していた。


 (昨日は本当に疲れたな。やっぱりドロールとの戦闘がなぁ。魔王はあれより強いんだろうし、そもそもアリスの両親の仇の、スパービアって言ったっけ?にしてもアリスが瞬殺された、いや殺されて無いけど何も出来なかったらしいからドロールよりも強いんだろうからな。僕も強くなる必要があるか。)

 

 勢いの衰えてきた火に、近くに纏めて置いてあった木を投げ込むコウキ。しかし、火はなかなか勢いを取り戻さない。


 (でも、鑑定士が強くなる為にはどうすれば良いんだろう。やっぱり魔法を使えるようになるべきかな。)

 どうすればいいのかという迷い、今まで好奇心を満たしながら生きていたコウキにとって、何か具体的なことを解決する方法を考えるのは慣れていたが、強くなるという抽象的なことの解決策はなかなか見つからないものだった。


 つらつらとそんなことを悩んでいたコウキ。

 すると、まだ空は暗いままにも関わらず起きてきたらしいアリスと目があう。


「おはよう。早いね。」

「……ねぇ。」

「ん?」

「なんか、夢枕に神様が立ってて、ドロールのことに言及されたんだけど。」

「……え?」

 起きて早々、アリスの爆弾発言が飛び出した。

 

 

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