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19話

 釈然としない終わり方をした『悲嘆』のドロールとの戦闘。内心微妙な思いを抱いていたコウキは背後から近寄って来る気配に気付く。


 戦闘直後であり、警戒したまま剣を構えてコウキが振り向くと、

「お、おい。止めろ、止めろ!俺だよゼルスだよ!」

 剣を突きつけられて焦ったゼルスがいた。


「何だ、ゼルスか。てっきり、また敵かと……」

「いや、確かにさっきまでのことを考えればそうなるだろうけどさ。」

「ごめんね。……あれ?さっきまでどこに居たの?」

 戦闘の最中、コウキは全くゼルスの姿を見かけなかった。それ故の言葉である。


「え?そこの茂みに隠れてたんだよ。あんなのに見つかったらすぐに殺されちゃうからね。」

 そう言って指さしたのは、街道から少し外れたところの茂み。かなりの大きさで、人一人どころか熊でも隠れられそうであった。


「あー、確かに。アリスでさえ危なかったものね。」

「えぇ、もう少し今の体に思考がついていくように訓練しないと。」

「そうか。俺に何か手伝えることがあったら言ってくれ、同行させてもらってる訳だし。」

「そう、ありがとう。……ねぇ、ゼルスは彼女との会話は聞こえたの?」

「ん?そうだな、八魔将が何たらとか言ってるのは聞こえたぞ。」

「……そう。」

 ゼルスと話すアリスには、何か不思議と納得したような様子が見受けられた。


 それを不思議に思い、

「アリス?何かあったの?」

 コウキは聞いてみるも、

「ううん、何でもないわ。」

 結果、はぐらかされて終わるのだった。




 十分に休憩したコウキ達は、もう一度、街道を歩き始める。


「王都へと向かう街道沿いには、途中二つ村があるって話だったわよね。」

「そうだね。……一つ目の村は比較的近いから、今日中に着く予定だったんだけど……」

「無理ね。」

「無理だな。」

 現時点で日はかなり傾いており、後一時間もせずに暗くなるであろう。日が暮れるまでの短時間で村へと着くのは最早難しかった。


「あの戦闘と、その後の休憩で二時間近く経ってるだろうからねぇ。」

 少し遠い目をしながらコウキが言うと、アリスが気まずそうに笑う。

 それはおそらく、休憩時間が終わりそうになったタイミングでまだ動けないと申告し、休憩時間を延ばしてしまったからだろう。


「アリスのせいじゃないよ。そもそもアリスがいなかったら僕たちは今ここにいないもの。」

「あぁ、俺なんて隠れることすらできなかっただろうからな。」

 コウキとゼルスが励まし、アリスは少し安堵する。責められるのではないかと、内心不安だったからだ。


 そんなアリスを尻目にゼルスが言う。

「話を戻すが、今日は野宿になりそうなんだろう?」

「そうだね……ゼルスはテントは持ってるんだよね?」

「そうだな。ゲイルさんのところの研究者達から餞別だと言われて、貰った。」

 そう話すゼルスは、どこか嬉しそうで、同時に懐かしそうであった。

 コウキ達は、そんなゼルスに疑問を持つものの、話を再開する。


「そうなんだ。……あ、話を折っちゃったけど、何が言いたかったんだい?」

「……ん?すまない、何て言った?」

「野宿になるのか聞いてきたから、何が言いたかったのかな、と。」

 コウキは、自分の世界に入ってしまっていたらしいゼルスに苦笑しながらもう一度質問をする。


「あぁ、それか。いや、明るいうちに野営場所を決めておくべきではないかと思ったんだ。」

「確かにそうね。次に開けた場所があったらそこで準備をしましょうか。」

「分かったよ。」

 

 その会話をして数分後、コウキ達は野営が可能な場所を見つけ、そこで一晩明かすことが決定する。

 そこは川が近くに存在しており、僅かであるが野営の後が残っていたことから偶に人が使っているのだろうと判断できた。


 コウキ達はテントを張り、アリスの魔法で集めた木の枝に火を付けていた。


「ねぇ、折角川があるんだし、釣りをしない?」

「確かに。予定よりも日数が増えそうだし、食料は余裕を持って持ってきてるけど、現地で取った方が良いかもね。」

「釣り、か。俺はやったことないな。教えてくれないか?」

「勿論良いよ。……とは言っても僕らも村の近くの川で釣る程度だから、本職の人がどうやってるのかは知らないけど。」

「それでも、俺より経験があるんだからよほどマシだろう。」

 結果、周辺から丈夫そうな木の枝をもう一度集め、クモの糸を採取したりして、即席で簡易的な釣り竿を作るコウキ達。



 川は野営場所から徒歩で一分もかからぬ場所で、目視で人影がお互いに確認できるため、念の為ローテーションで一人残して残りの二人が釣りへ行くことになった。


「よし、コウキ。この後はどうすれば良い?」

 川に着くなりそう言ったゼルスにコウキは軽く驚きを覚えつつ、宥める。


「落ち着いて、ゼルス。まずは餌になる虫を探してから……」

 何故コウキとゼルスが二人で釣りの話をしているのかというと、ゼルスが釣りを楽しみにしていたので、ゼルスは最初から釣りをし、元々アリスよりも釣りが上手いコウキが教えることになったからである。

 そのままコウキがゼルスに教え続け、興奮するゼルスを釣れるのを待ちながら宥め、ようやく静かになった。


 引きを待ちながら水面を見続けるコウキに、ゼルスが話しかける。

「……なぁ、勇者の相棒って大変じゃないのか?」

「急にどうした?……確かにまだ時間は殆ど経ってないけど、大変だし大変になると思う。」

「そうか。……辞めたいとは思わないのか?」

「最初になった時は思ったよ。でも、色々あってアリスとのこの旅には付き合わなきゃいけないって思ったんだ。……あんまり気分の良い話じゃないから詳しくは言えないけどね。」

「……そうか。」

 その時、コウキの竿に引きがあり、質問は中断される。

 釣り上げた後でコウキがゼルスの方を見れば、彼は一人、釣りをしながら何かに想いを馳せているようであった。

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