15話
ギルドについたコウキ達を待っていたのは朝にもあったギルド職員と、秘書然とした女性であった。
「戻りましたか、ゲイルさん。それにアリスさんにコウキさん、ゼルスさんも。」
「サブマスターか。久しぶりに見たな……お前さんが出張ってくる程のことかい?」
秘書風の女性がギルドのサブマスターであることと、そんな人物に対しても平常運転で話すゲイルに驚くコウキとアリス。ゼルスは特に驚いた様子はないので、見たことがある光景なのだろう。
(この人、すごい顔が広いけどやっぱ強引でクセが強いからかな。)
などと失礼なことを考えているコウキも、会話に置いていかれないようすぐにその思考を霧散させる。
「それはそうですよ。今まで上位種なら説明の後に上位種と、亜種なら名前の後に亜種と、モンスターを鑑定すると出ていたと聞いています。それが変異種などというものが出て来たのですから……ギルドマスターも呼び戻しましたよ。」
「本当に大事だなそりゃ。まあ良い、報告はどこでする?」
「ではこちらの会議室にまた案内します。」
サブマスとゲイル、職員の会話に微妙についていけないコウキ達であったが、質問は後と思い直して会議室へ行く。
「さて、報告だ。あんたに言われた通り明らかに通常と違うゴブリンとエイプがいた。まだ解析はしていないがな。」
「あれ?そういえばコウキ。なんであの時解析しなかったの?」
「え?……あぁ!確かに、なんで最初からしなかったんだろ。忘れてたよ。」
アリスに言われ、何故ゴブリン達と会った時に解析しなかったのかと頭を抱えるコウキ。
「ん?ちょっと待て。どういうことだ?説明を頼む。」
「昨日も言ったかもしれませんが、僕は生きているモンスターも解析できるんです。」
「……確かにそんなことを言ってたな。」
「思い出した。コウキ、なんで自分で忘れてるんだよ。」
ゲイルとゼルスにジト目を送られ、少し目を逸らすコウキ。そんなコウキ達を見て、サブマスは咳払いをし、
「つまりコウキさんは生きているモンスターを解析することが出来るのに、それを忘れてわざわざ持って来たと。」
彼女からも送られ始めたジト目に、コウキは耐えられなくなり、
「あー、そういえばまだ名前を聞いてませんでしたね。よければ教えて頂いても良いですか?」
結果、露骨に話を変える。そんなコウキに苦笑いをし、サブマスは
「まぁ、いいでしょう。私の名前はラファニアです。以後お見知り置きを。」
そう言って、一礼した。
「では自己紹介もしたことですし、早速モンスターの死骸を見せて頂けますか?」
まるでアリスが空間拡張を使えることを知っているような物言いに驚くも、昨日の騒動と目の前の人物の肩書きから当然だと思い、背嚢からゴブリンの変異種二体とエイプの変異種を一体取り出す。
「これが変異種、ですか。解析をお願いします。」
「分かりました。鑑定“解析”」
「……え?俺、僕もですか?分かりました、鑑定“解析”」
すぐに鑑定を始めたコウキに、ゲイルに目を向けられたゼルスは共にゴブリンから解析を始める。
「やはり、変異種みたいです。」
「こっちも同じだ……それ以上の情報は出ないけど。」
そしてそのまま残りのゴブリンとエイプの解析も始める。コウキは解析の度に軽く頭痛がしてから大量の情報を精査するので、痛みを感じていなさそうなゼルスに驚く。
(痛みがあっても顔に出てないだけ?それとも情報があまり入ってこないから痛みはないのかな。)
そんなことを考えつつも解析自体は終わらせ、コウキは口を開く。
「どれも変異種のようです。」
「僕もそう出ました。」
その言葉は予想通りであった為、ゲイル達にあまり驚きは無い。
「そうか。これもやはり魔王復活の影響なのか?」
「どうでしょうね。少なくとも前回の魔王討伐戦の時の史料には載っていなかったと思いますが。」
「じゃあ、違うのか?だが、突然変異にしても集団発生はおかしいからな。」
考え始めたゲイル達に、不意にコウキは自分の中の好奇心が騒いでいるのを感じる。それは変異種の正体を知りたいと思うものであり、それなら今一番手掛かりになるのは魔王だ。と、そう感じたのだ。
「もし、これが魔王によるものだとしたら、少し不味いのでは?」
「そうだな。今回はゴブリンとエイプだった上、遠距離から魔法を撃って動きを止めていたから簡単だったが……フォレストウルフ並みのやつが出て来たらかなり厄介だな。」
「そうですね。というより、戦闘の報告もお願いしますね。少しは対策になるかもしれませんし。」
「なら、少しでも早く魔王討伐に動くべきでしょうか。少なくとも現段階でヒントになるのは魔王だけです。」
最後のアリスの言葉はコウキを見透かしたかのようであった。いや、実際見透かしていたのだろう。話している間アリスの目はコウキを捉え、仕方がないと言った顔をしていたのだから。
「……成る程、研究はこっちに任すから元凶かもしれない奴を叩きたいと、そういうことだな。」
「そうですね。僕たちにできるのは研究だけですし、適材適所ですか。」
「端的に言えばそういうことです。どうですか?」
アリスの提案はゲイルにとっても嬉しいものだった。何しろ彼は解析すらできないものの研究者としての興味は人並み以上にある。研究だけでもしたいと思ったのだろう。
「俺はいいぜ……ただ、一つ頼まれてくれねぇか。」
「え?別に出来ることなら。」
「嬢ちゃん達は王都に一度寄るんだろう?だからそのついでにゼルスの奴を連れてってくれないか。」
「ッ!王都ですか!?」
興奮し始めたゼルス。何故ゼルスが喜んでいるのか分からないコウキ達はゲイルを見る。
「王都にはとにかく物や人が集まる。だから鑑定士にとってあそこは最高の修行場なんだよ。」
「成る程……じゃあ出発はいつにする?ゼルス。」
「……あ、出発?今日は準備をするから明日の朝で良いかい?」
「了解だよ。」
かくして勇者の旅に少しの間だが仲間が加わるのであった。
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「なんだ?外に出した変異種共が戻って来たのか……ん?数が少ないな……迷ったとも考えられんし……ゴブリンやエイプだからな、どこかで倒されたか。」
中性的な声がして、何かが暗闇の中で動く。
「勇者にぶつけた成功作並みのはまだ安定しないか……失敗作ではまだ弱すぎる……いづれは古代生物達も任せてもらわねば……」
ぶつぶつと呟く何かは側から見ればただの恐怖の象徴である。何故見えているのかも分からない薬品を混ぜながらそれは考えに没頭していた。