14話
「お客さん?……お、僕の名前はゼルス=ルード、じゃなくてただのゼルスだよ。よろしく。」
一度名字を名乗った後でただの、と付け直したゼルスに胡乱な目を向けるコウキ達。
「あぁ、このゼルスは……」
「ゲイルさん、自分で説明する……僕は半年程前に取り潰しになったルード伯爵家の四男なんだ……とは言っても、他の貴族とも会ったことのないような気楽な身分だったんだけどね。」
それを聞き、納得するコウキ達。
(そういえば、村に商人が来た時に話してたな。ってあれ?)
「ねぇ、聞きづらいんだけど、ルード伯爵家の人間は殆ど殺されたって……」
コウキが思っていたことを聞くアリス。それに対する答えは、
「先程言った通り、僕は対して重要でもない四男だったので母達と共に見逃されたんだ。でも、母達も自分の家に戻るので精一杯で、どさくさに紛れて放り出されたって訳。」
自嘲した笑みを浮かべるゼルス。それは、笑みとは裏腹に悲しみを感じる為なのか、コウキに少し違和感を与える。
(人生経験の重さかな……)
「そうなのか。」
「気にしないでね、ゲイルさんに拾われて以降鑑定士として鍛えてもらってるし。今は幸せだから。」
そう言って笑うゼルスを大人に思えるコウキだった。
「えっと、そういえば君たちは?」
ゼルスの自己紹介が終わり、今度はコウキ達が自己紹介をすることになる。
「私はアリス。すぐに分かることだから言うけど、今代の勇者よ。」
「僕はコウキ。アリスの相棒で鑑定士だよ。」
「えっ、勇者?」
ゼルスは驚いたように見えるが、そこまで顔には出していない。
「こいつらはさっき俺が鑑定してな、宿が決まってねぇらしいから連れてきたんだ。」
「そうか……ですか。よろしくな、アリス、コウキ。」
ゼルスはゲイルに敬語を使おうとしているものの失敗しているらしい。先程から何度か言葉を訂正していた。貴族だったから癖になっているのか、と思いつつ、コウキは口を開く。
「うん、お邪魔します。」
「お邪魔します。」
「おう。早速でわるいが食事前に少し話を聞かせてくれ。」
「えぇ、勿論。お邪魔している身ですし。」
そうして、ゲイルによる質問が始まった。
「ふむ、成る程な。俺の時も情報が多すぎて断片的にしか読み取れなかった。これはかなり鑑定能力が高いから起きるのか。」
ゲイルからの質問はとても多く、途中でコウキやゲイルの部下を呼んで試しに鑑定したりと中々にコウキを、そしてアリスをも疲れさせた。……逆にゲイルは元気になっていたが。
そうして時間が過ぎていき、食事をとり、それぞれに部屋を与えられて眠る。
「ゲイルさん!アリスさんにコウキさんも!起きていられたら開けてください!」
朝、コウキは窓の外から聞こえる声に目を覚ます。一瞬、現在地点がどこだか分からなくなるも、すぐにゲイルの家だと思い出す。
「あんだよ、うっせーな。」
「朝早くすみません。ですが緊急の用が……」
外から聞こえたのはここまでであったが、十分にコウキの目を覚まさせる内容であり、それはアリスにとっても同じだったらしい。急いで部屋から出たコウキと、ちょうど部屋から出たアリスの目が合う。二人は頷き合い、玄関へと向かった。
「そうか。それで俺たちを。」
「何があったんですか?」
「ん?なんだアリスの嬢ちゃんか。変異種と思しきモンスターが出たらしい。」
ゲイルの説明に納得しかけたアリスだが、
「え?でもそれだけでこんな朝早くに?」
ふと疑問に思ったことを聞く。明るくなりはじめた空を見ると、今まさに太陽が顔を出そうとしていた。普通なら礼儀として訪ねるのはありえない時間帯。
「それだけのことが起きたのですよ。」
そう言った男を見て、昨日のギルド職員だと思い出すコウキ。その為、男を見ると、すぐ話しかけた。
「それは一体?」
「同じように異常なモンスターが何体かこの街へ向かっています。なので異常種かを確認していただければと。」
「……街へ向かっている、ですか?」
「はい、幸い脇目も振らず、というよりは進路は特に定まっておらず何となく来ているだけのようですが。」
「厄介だな。とにかくそのモンスターのうち一体でも倒して解析しなければな。」
絶句するコウキ達に面倒臭そうなゲイル。そこへゼルスもやって来たので、四人でそのモンスターが見える位置まで移動することにしたのだった。
霧の森と街とを隔てる壁。その上に四人は登っていた。因みにギルド職員はギルドに戻り新しい情報がないか確認している。
「あれは……ゴブリン?それにエイプ……なのか?」
思わず疑問形になってしまったゼルスのことを誰も責められない。皆それぞれ言葉を失っている為だ。
「上位種だとしても、明らかにおかしいね。変異種っぽいけど。」
「お……僕はその変異種を見たことないから分からないけど、聞いていた変異種の特徴とは一致するね。」
そう、ゴブリンとエイプにしてはおかしな点があった。例えば、大きさ。五、六匹ずついるが、全て大きすぎる。例えば、その筋骨隆々と言っても過言ではない身体。そんなモンスターなど報告例は、あったとしても極小だろう。
「とりあえず、攻撃するか。」
「えぇ、魔法で良いですね?」
「勿論。『雨よ、全てを押し流せ』」
「『金属よ、彼らを縛り上げなさい』」
次の瞬間、ゴブリン達の上に雨雲が広がり、雨が降り始める。その勢いたるや雨粒だけで筋骨隆々のゴブリン達が動けなくなり、押され、分断されるほど。そして次には地中からメタリックな輝きを放つ何かが出てきてモンスターを縛る。
ゲイルの水魔法とアリスの金魔法である。
分断され、動けないゴブリンやエイプ達はアリスやコウキに剣で切り裂かれ絶命する。だが、その短い時間に残りのゴブリン達は抜け出し逃げ出した。
「結局三体しか倒せなかったわね。」
そう言いながらもアリスは深追いはしない。
「まぁ、研究対象としては上出来でしょ。」
「そうね。」
「俺は解析はできんからコウキとゼルスに任せるぜ。」
「分かりました。」
「僕もです。」
そう言いながら、彼らはギルドへと歩いて行った。