7:剣のお姫様の退行
いつもありがとうございます。
もうしばらく実家編続きます、よろしくお付き合いください。
「…困りましたね」
夜の宴の前にフェルディナント国から、申し入れが来ました
『シアロゥラ・ブレイド国、【剣姫】クリステア・ヴェルデュール・ブレイド様の帯剣しての参加、拝剣した侍女の同伴をご遠慮賜れましたら幸甚に存じます』
そうなりますよね
殺ろうと思えばできますからね
それにしても、たかだか小娘一人が剣を一本持ち込むのが怖いのですかこの国は…情けない
「情けないついでです、滅ぼしましょう」
周りの侍女に官僚達がぎょっと顔を強ばらせる
長兄はため息をつき、レインは嬉しそうに「それでこそクレア様♪」と同意を全面に推してくれています
はやく、クレイスを出してください、奔放初公開の…私がクレイスとネポスを自由に全力で振るう姿をお見せしますよ
「落ち着きなさい」
これが落ち着いていられますか
「無理です」
剣姫である私から剣を取り上げようだなんて、天に唾吐くのと同じです。不敬です。滅ぼしましょう
「クリステア、君は何故そうも極端かな?」
本名呼びですね、長兄の底冷えのする眼差し、やりますか?殺りあいますか??
「クレア様それは流石にダメですよ?いくら秒殺出来るとしても」
背後から耳打ちされる。背後からだなんてレインでなければ今頃血の華が咲き乱れてましたよ?
…秒殺出来なかったレインが言うなら仕方ないですね。
「あの長髪は斬って捨てても害になりませんよね?」
こんな事言い出したのはカルマン王です悪です!切り捨てましょう!
「ここのところ凄く大人しいと思ったらやはり暴発してしまったか」
溜め息しかでない
今はレインが抑えてくれている、私と事を構えるとまで言うとは…
最愛の妹は剣姫になってから、若干精神が不安定なところがある
-無から有
その振り幅が大きい、普段大人しいので余計に苛烈になる
特に剣に携わることには顕著だ
「レイン、クレイスを出しなさい。こんな不条理を押し付けてくる国なんか取るに足りません。即刻あの長髪を切り刻んであげます!」
…すぐにこの部屋のこの空間だけ防音にしてくれたレインに感謝し、先程の発言も無かったことにしよう、私も秒は持ちこたえられる自負がある。秒単位なのが情けないが…
妹はどうもあの若き国王カルマンを本能的に警戒している、相変わらず恐ろしく鋭い。
何かあることは明白なのにそれがわからない
…仕方なく誘いに乗ったけど、まだ全容が知れない、厄介だ。
何か引っ掛かっているではなく、すべてが引っ掛かる
これからもこんなのを相手にするのか…妹の案に乗ってもみたくなる
「仕方ありませんね」
レインが言い募る妹に敗けた?
「ま、」
「クレイスなしで何処まで出来るか試しませんか?」
は?何を言っている
「クレイスを出したらクレア様の瞬殺は確定じゃないですか?」
「うん、秒もかからないと思う」
妹よ、穏便にいこう穏便に
「クレア様、それ弱いものいじめですよ?」
レインの言葉になにか重度の衝撃を受けている
この状態のクレアは年齢退行も起こしているらしく扱いは実は簡単ではある
「そうよね、弱いものいじめは良くないわ」
…一国の王を弱者にしてしまった
「でも、向こうは姑息なのよ?私から剣を取り上げるなんて?私から剣を取ったら何もないのよ?」
【剣姫】と呼ばれ育ってきた妹はひとつ重大な弱点がある
自己評価が著しく低い
剣がないとダメな人間と思い込んでいる
幼少期から剣姫をしてきた弊害だ、歴史上主立った剣姫、妹は多分塗り替えられることはない最年少剣姫であるがゆえに、剣を持っていない自分の評価が何事でも低い、これは剣姫と言う【呪い】だと言っても良い
今は幾分ましになっているが、希にこのような状態になる。
「アリオン様、提案を宜しいでしょうか?」
発言ではなく提案、レインには身分に関係なく発言できる許可を出している。それでも、提案と言うのは彼女なりの主従なのだろう
「許そう、教えてくれ」
「クレア様が夜会頑張りましたら、私のと同じ小物入れご褒美に宜しいでしょうか?」
欲しがっているのは知っている、あえて与えていなかったのは…
今回の様な時に、この妹なら剣を忍ばせてくるのは眼に見えている
魔法鞄はその持ち主登録した人間以外が使うことができない特性があり。複数で使える物は、人数に対して倍数ではなく乗数の価値となる。
その為、欲しがっていても与えていなかった…
監視の為に最低三人は使えないといけないからだ
レインの持つものの1割の容量のものならばと実は探している、更に製作できるものを当たっているが、レインの様な小物入れはなかなか作製するものがいない
「わかった、そうしよう」
また兄馬鹿と言われそうだが仕方ない、この状態の妹は殺る気だけは本調子以上なのだから
「レインとお揃い♪」
幼児退行しているが、妹の幼少期はこんな笑顔を浮かべることはなかったから、まぁ良いとしよう
「では、クレア様夜会に備えて綺麗にお色直ししましょうか?」
「する、髪何時もので纏めてくれる?」
剣姫となりはや10年以上、普通の貴族の娘、平民の子でさえ知る幸せも知らずに剣だけに生きている妹をこれ以上国の犠牲にはしたくないと新たに誓った
「ツルギのくれたカンザシがあれば頑張れるよ♪」
…聞こえなかったことにしよう
「…またやっていたのね」
黒檀でつくられた剣のようにも見えなくもない手のひらサイズの木の棒を見ていたら落ち着いてきた
「幼いクレア様可愛いかったですよ♪」
止めてほしい
「ストレスがかなり溜まっていたのね」
なかった筈の幼少期
剣を振るうばかりで子供らしいことをした記憶はあまりない
母と一緒に王宮に上がり、物心がついた頃の私には何もなかった
だからおじいちゃんを見つけたときは嬉しかった
私にも出来ることがあったと…
剣姫として国のために剣を振るおうと躍起になっていたから
「幼少期を取り戻したいのかしら?」
自分でもわからない
「私と会う前のお話ですからね、気にはなりますけど」
レインとも長いと言えば長いです、彼女も母と同じく年齢不詳なところがあります。
同い年の友達のような、姉のような、母のような、それでいて妹のような不思議な感じがしています。
それだけ手練れな証拠なのかもしれません
国の事を考えると私の侍女につけたままでいいのかたまに考えてしまいましたが、これから平和になるならこのままでいたいと願っています
執事?私を止められる有能な方は兄達の補佐をしてもらいたいです
ただでさえ有能な侍女をつけていただいているのだから
「落ち着きました?」
レインに髪を梳かしてもらうのは好きです、母にもしてもらっていた記憶があります。
「剣がない、と言うだけだあそこまで取り乱すとはまだまだです」
持っていた黒檀の剣のような髪飾り-ツルギの国でカンザシという-をレインに渡すと本来の使い方に倣ったやり方で髪をまとめて黒檀のものと白樺で作った私のお気に入りの剣を模したカンザシで飾ってくれた。
「クレア様は光の加減で髪色の印象が変わるので下手に凝ったものより、カンザシの方が映えますね」
解くのも楽ですし、私もできます
シニョンを侍女達より上手く纏める自信は私にはありません。
「やっぱり手際がいい…」
「私たちの本業ですから」
感心していたら、控えていた侍女の一人が苦笑いをしていた。
その手にあるものを見て
「え?先程の剣帯?」
式典時に着けていた、あの白地に蒼のではなく、白地に淡くうすい青みがかった紫、そして銀糸で飾られている。私の好きな感じが満遍なく出ています。
剣が持ち込めないと聞いて、製作途中のものを仕上げてくれたそうです。
『剣は持ち込めなくても別に剣帯はしていて良いのですよね?』と
…ドレスで剣帯している時点で仕立てる人間にも合わせる人間にも迷惑をかけていますけど
薄紫の剣帯をするとドレスの印象も変わりました、昼間のが昼の大空に届く光を思わせるものなら、これは私の大好きな夜空に流れる流星を思わせてくれます。
「ありがとう、なんとかなりそうな気分がしてきました」
剣がないのは心もとありませんが、心配させてばかりでは剣姫の名が廃ります
「今なら食事用のナイフでも一個中隊くらいならなんとかなりそうな気分です」
何事かありそうで
何事もない?
それで暴発しかねないのがクレアクオリティ
またよろしくお願いいたします。