4:剣のお姫様の国
今回もよろしくお願いします。
一気に人が増えますがお付き合いください。
朝
どこの世界においても訪れると保証されていると言われているもの
当たり前に享受出来ることのありがたさを知っている人間は少ないでしょう。
なんて言い出すと暗いですね
でも、私の国は少し前まで戦乱がずっと続いていたの。
剣の国なんて言われてると、他国からの牽制も多くなる。
友好国?先祖を恨みたくなるわよ、属国か敵国しかないって…ある意味全て敵よねそれ?
そして、ご先祖様は剣の力で全てを押さえつけてきたような覇王だったとしても、今現在の王族は…インテリ系なのよ?
古代の剣にも王剣にも見向きもしないのよ?
辛うじて現王、私の父は脳筋故に臣下の話を鵜呑みにする良い王で、チェス駒のごとくうまく使われているお陰でなんとかなっていた、
更に私の存在で仮初めとはいえ平和になった
兄達は本当人を使うのがうまくて怖い
そして、剣の国とはいえ平和になっては物騒な剣はいらない、だから私は異世界に来られた
これはそんな少し前の話
現王を旗頭として国民皆が頑張った、そして私も微力ながら頑張った。
一時とは言え平和になりつつある、そんなある日…
「という名目でいいかな?」
こちらで言うチェス盤を四面と駒を三組(王と王妃も三組ある)使用したチェス(語彙変換名称)の簡易版をしながら兄が言う、この兄相手では話している余裕はあまりない、向こうが手加減しているのが判るため余計に勝ちたいと思い余裕がなくなる。この兄なら話ながら三十六面四十組でも平気なのだから余計に悔しい。
「私に異存はないですが」
駒を動かす、兄が少し意外な顔をした
「まぁ、クレアは昔から渡り繋ぐ者の事と剣の事しか考えていなかったからね」
渡り繋ぐ者、ツルギの一族の様な者達の総称、世界を渡り繋いで行く、国や世界にとっては救世主だったり、神の使いとか言われたり、厄介者扱いされたりと環境や情勢で立場が全然変わるかなり面倒な役目
ちなみにうちの国では、渡り繋ぐ者は厄介者だが、ツルギは剣の強さがあったので受け入れられた、なによりこの国では爵位もある。現王が無理矢理押し付けたのだ、私が嫁ぎやすいようにと…
渡り繋ぐ者に爵位を授ける愚王と言われたが、ツルギはその剣の強さで騎士爵を国民にも認めさせ当時の何も出来ないただのお荷物姫だった私の嫁ぎ先の候補のひとつとなった
それくらいに当時の私はいらない姫であり、平和な今の国でもある意味また『いらない姫』に戻っただけ。
兄達も困るのだ私の扱いに、今チェス盤越しの長兄は未来の国王であり現宰相の一人だけど、よく「昔なら、クレアに国を奪われていたよね」と冗談めかしていた、私にそんな気がないのと、そんな事はさせない自信からの冗談には正直笑えない
ある意味次兄のように小心者で、妹に暗殺者を送るような馬鹿の方が対応がしやすくて助かる
「あ、向こうに行くのに私の剣達はどうなるのでしょうか?」
チェスに集中しすぎても、この兄は優しいので良いのだが、良かれと変な試練を出してくるので気が抜けない
「全部持っていけるなら持っていきなさい、あれは今のこの国には必要ないからね」
この国から私の痕跡を消していけと言うわけだ
「…そうですか」
未練がないと言えば嘘になる、片方の親が同じなだけの兄姉弟とはいえ片方は同じ血なのだから
「…すまない、今の言い方は違う、間違いだよ」
私が少しもの思いに耽ってしまったのに気づき兄は慌てて言い直した
「君が持っていきたいものを持っていきなさい、全ては無理だろうから、君用の保管庫はそのまま私の名前いや、この国の王の務めとして預かっておくから安心しなさい…たまには自分で管理に来るようにするといい」
兄は昔の兄のように、少し気恥ずかしく笑った、その言葉に安堵とともに駒を動かそうとすると
「あと、そこに置くとあと13手で詰むよ?」
ハンデをつけて頂いても勝てないのは本当悔しいのですが、本当に強い、でもこの時間は嫌いじゃない
「たまに帰りましたらまた盤を一緒にしてくださいますか?たまには全力で」
「何をおいても約束しよう」
そして、改めて駒を進め直した場所は、6手で詰むこととなった
国の事と剣の事は心配する必要も無いだろうと改めて思った
「あ、王剣はそれっぽいのを代わりに置いていってくれるかな?」
現王にも抜けなかった古代の剣
この国の本来の王剣、象徴としての王の証
そして『剣の叡知』
あまりにもシンプルで、思わず意識せずに抜いたがため私が現在の所有者になっている。
「お父様が好きそうなのでいいのかしら?」
浮かんだのは帝剣、大剣より更に大きい、盾にも出来る大きさを現王は好んでいる
「君や父上にしか振れないのは少し困るね」
やっぱり駄目ですか、盾としてお側に置いておいて欲しいのですけど
「何か見繕っておきます」
「欲を言うなら片手剣が嬉しいかな」
その言葉に思わず兄の感性を疑ってしまう、震える声で
「両手で持ってこその剣ですよ…?」
何を言っているのか信じられなかった、でも
「君達の常識、世の非常識だからね?」
きっぱり言い返された
お父様と一緒にされるのも少し複雑な気分ですが、まぁ、次兄に比べても均整のとれた長兄なら両手剣の方が似合うと思うのですけど
それをそのまま口にしたら
「ありがとう、でもねこれからの王剣は実用ではなくて本来の象徴としての役割なんだよ」
…兄は本当に平和な国を目指している、ここ数十年で民も剣の民だけではなくなった、属国と呼ばれた国はもうない。
本来は私も上の姉達に倣って他国への婚姻を受けた方がいいのですけど、この国唯一のロイヤルロマンスの体現者になってしまった身では他の国もおいそれ手を出せない、永く長く歴史と共にあった戦争も終わろうとしている
長く根付く争いの気持ちは、同じく長い時間をかけて解消させていくと兄は考えている
そんな国に剣を振ることしか出来ない私は国の為にもこの国を出る
「お兄様」
言うまいか悩んでいた言葉を
「なんだい」
あ、この人はわかってて私のために聞いてくれようとしている
「本来なら貴方の伴侶となる身の上の私の身勝手を長く見守り、そして許していただきありがとうございます」
そう、長兄は兄であり、将来の国王であり、そして決められた将来の相手の一人であった。
王族の近親婚はよくある話だけど
この国は古くから個人の王の資質ではなく、王としての血統の証である紋章に拘っていた。
身体に剣を意匠とした印がいつからか出るようになり、印を持つものが国を繁栄させると言われている、何処か遠くで血が別れ、属国に印を持つものものが現れてもその物を迎え王とはいかずとも重鎮とされ、王族との婚姻が執り行われ強固な後継ぎをと…本人に資質が伴う事が大半けど
生憎と剣の国、印持ちは極端な資質持ちが多いが、それをまとめると言われるのが紋章持ち
この時代、完全な紋章を持つのは現王
そして不完全ながら紋章を持つのが現在国の政を取り仕切る長兄を含めた一部の者達、そして、私。
印以外は女人には滅多に出ないと文献にも記されていた。
ありがたいことに国の大事の前触れとか、そういった過去がなかったお陰で忌み子として処分されたりすることはなかった。
しかし、より血を濃くするために王の伴侶とされてきたらしい
今の私はそれを拒む形になる、昔のこの国なら殺されていたか、無理矢理慰みものにでもされていただろうと脅されたこともあるけど…
私が類推するにそれはない。
大抵の場合は女王として収まっているのだ、他に確りとした紋章を持つものが現れなかったから。
あと、史実から読み解くと
殺されるような人には紋章は出ない。
私は幼少期、印はあったけど紋章の兆候は皆無でだった…そのままでは今の私には至らない。
「気にすることではないし、私は何だかんだと思いつつも、大事な妹としかみれないのだから」
だから、その妹の我儘もきくし、幸せを望んでいると
「まだ、先のはなしですのに…」
涙腺が急に仕事をしようとする
「そうだね、そろそろ頃合いだ話しはまたにしよう」
そう、退室を促してくれる兄に感謝をし部屋をあとにした
部屋の外で控えていたレインがそっとハンカチを渡してくれる
盗み聞きと言うより、この子には聞こえてしまうのだ、聞かれたくなければ「聞くな」と先に命じるらしい
気恥ずかしい思いをしながら宰相である兄の執務室を後にした
「あれで落ちないとか、やはり紋章の影響なのか?」
クレアが後にした部屋には新たな人物が
「下卑た言い方は嫌いだよ」
執務机に戻った宰相は、応接セットの先程まで愛すべき妹が座っていたソファに座る小物感しか漂わせていない男に目を向けずに答える
「我らが愛しの剣姫様の出奔の筋書きは着々と進んでいますよ」
やれやれと立ち上がり姿勢を正すと、小物感が消えた男にようやく宰相は目を向けた
「苦労かけるね」
「仕方ない、妹は可愛いけど、なにせ僕は嫌われているからね」
良く見ると宰相と男は何処かにている気がする
「子供の頃に虐めて泣かせるからだよ」
「どちらかと言うと、泣かされていた記憶の方が多いけどね」
この人物が剣姫が苦手としている次兄なのだろう
「お陰で強くはなれたけどね」
宰相より身長も低く、痩せて薄い印象がある、顔はかなり整っているので女子受けはかなりいいだろう、しかし先程の小物感といい今の王子様然とした姿といい正体が見えないのは兄である宰相と同じだ
「姉たちと歳が離れた分仲良くしようとはしていたのにね」
宰相が含みのある笑いをする
「兄さんに言われたくはないよ、いつも美味しいとこ狙ってたんだから」
「いつもお菓子を美味しそうに食べていた可愛い僕の弟にそんなことしないよ」
「兄さんが自分の分もとお菓子をくれたのは覚えているよ、それのせいで僕は丸かったんだからね…」
今痩せすぎな印象があるくらい痩せているのは過去が原因のようだ
「…どちらにしろ手回しはしておくから、任せておいて」
そう言うと、執務室の扉とは違う書架の影にある隙間からすっと出ていく
それと同時にドアがノックされる
「どうぞ」
ドアを開けると年齢不詳の侍女達とは若干違う服を着た人物がワゴンを脇に控えていた。
「セラ様、またそのような…」
この国の宰相、王族に様で呼ばれる年齢不詳の小柄な侍女
「アリオンくん?様はいらないって、いつもいつも言ってますよね?」
子供に確認するかのような物言い
「…セラ母さん」
「はいっ♪あれ?クレアちゃんは?ベスタくんも居た気がしたのですけど?」
ワゴンにはお茶とお菓子が…
「皆先程までいたのですけど」
積まれたお菓子は手作りだ、味は誰もが認める(正妻である王妃も餌付けされたと言われる美味しさ)
しかし、量が尋常じゃない
弟のベスタが肥ったのもお菓子が原因と思われている(実際は違う)
「じゃ、アリオンくんだけでもお茶しますか?」
…高身長のクレアとは真逆で若干低い為、自然と上目使いになる。
兄妹とも父親の血が濃くこの母との身長差は犯罪だと思う。
「えぇ頂きます…」
「お菓子は全然残してもらって構いませんからね?」
この母も子供をしっかり見ている、アリオンが菓子類をあまり採らないことを知っている。
(その分がベスタとクレアに行くのですけどね…)
クレアの分も奪うように食べていたベスタの不器用な優しさを思い出し笑う
「みんなでお茶できるのも少なくなりますね」
ワゴンを応接セットに横付けしお茶の用意をしながら寂しげに言う
兄も妹も彼女のお茶とお菓子で育ったようなものだ
恋に生きた彼女の娘もまた恋に生きようとしている、今生の別れではないにしても寂しいのだろう。
娘可愛さに一度離れた王宮に戻ってくるほどの溺愛ぶりなのだから。
「私でよければお茶くらいはお付き合いしますよ?」
ソファに腰掛け直し出されたお茶を口に運ぶ、先代の王妃、皇后の傍使いをしていたお気に入り侍女
確かな年齢を知るものはいないとさえ言われている伝説を持つ侍女
側妃でありながら侍女をしているという困った方でもある。
公務をしないから城で仕事をするのは当たり前との考えで、幼少期は子供達にも手伝いをさせるという教育方針は中々独特であったが
彼女がクレアを身篭り出奔するまでに育てられた子供達は皆彼女を『セラ母さん』と慕っている。
お蔭かクレアが彼女と城に来たときは誰もが歓迎ムードだったのだ。
『侍妃』と名前も生まれたが、後に日本語に触れたクレアが、母は私の母になるべくしてなった人なのだと確信したと言っていた
『侍妃』
そしてその意味を深く理解しているのは現王だけかもしれない
「クレアは幸せになれるのかしら?」
自分の生き方とは違う、しかしその目指しているものは同じな娘
「泣いて帰ってきたら存分に慰めてから、渡り繋ぐ者は国に入れませんよ」
この長兄なら本当にやるだろうと思わず笑ってしまった。
「そうならないといいわね」
「むしろなってほしいんですけどね」
ぼそっと本音を漏らす、この母の前では皆本音を洩らす。
次兄のベスタが苦手としているのはお菓子だけではない。
「クレアだけのお母さんとしてはちょっと複雑だけど、みんなのお母さんとしてはなるようになるのを見ててあげますよ」
こんな暢気なことが言えるのは平和になってきた証拠だった
お嬢のお母さんは「サムライ」でしたか?<違う
たまにこの組み合わせは出てきますのでよろしくお願いします。