1:剣のお姫様は日常の中にこそロマンスが欲しい
はじめまして
以前から頭の中だけで展開していた
藤瀧学園シリーズ
その中のひとつの物語を文字化しようと思いました。
よろしくお付き合いください。
「クレアさん、クレアさん、ここってどうすればいいんです?」
中休みに騒めく教室の中で、スマホを睨みつけての作業に区切りを付け少し伸びをしたところに級友の
「えっと、リアさんどうしたの?」
そう、リアーナ・・・リアーナ・ブレイズさんが可愛らしく駆け寄ってくる。
短く切りそろえた明るい緑髪をゆらし、明るい茶色の瞳をメガネを通してもキラキラとさせている。
(本当に可愛い・・・)
犬耳とか尻尾とかが付いていても不思議ではない可愛さだと申し訳なく思いつつも思ってしまう。
「これなんですけど・・・」
同じクラスではあるけれど、確か2歳年下と聞いている。
藤瀧学園特別科2年K組の教室。
私は学校に通った事がない為あまり詳しくはないが生徒50人が一緒に勉学に励む場所。
信じられないくらい透過率が高い透明ガラスを惜しげもなく使った窓は大きく、ツルツルに磨き上げられた床。
木と鉄を組み合わせて造られた軽くて丈夫な机と椅子。
鉄でできた棚、仕組みは理解できないけど音声伝達がされる箱と・・・
(黒板はこちらも向こうも同じらしいのよね)
ここは私のいた世界とは違う。
文明レベルはかなり進んでいて見るもの全てが真新しく興味深いものばかりだ。
道は綺麗に整備され、移動手段は多岐にわたる、それだけでも信じられないと思った。
そしてそんな世界で暮らす事になるとは思いもしなかった。
「クレアさん?」
リアさんの可愛らしさから少し現実を再確認していた。
「えぇ、ごめんなさい。スマホ見せてもらっていいかしら?」
スマートフォン-スマホ、彼女が両手で大事そうに持っているのは彼女の髪色より明るい緑の小さなアーティファクトで私も同じようなものを持っている。
この世界に来てしばらく経った頃渡された便利すぎる道具で、世間一般に流通してると聞かされただけでこの世界がかなり恵まれている事が判った。
「この、通信用の術式を立ち上げてからが・・・」
「これは普通の通話用のものと違うから少し勝手が違うのよ」
私に分かる範囲で教えてあげると嬉しそうに礼を言ってまた席に戻り紫の髪が印象的な異国の姫を思わせる級友に今教えたことを多分教えているようだ。
そんな姿を少し羨ましくも微笑ましく見ていると・・・
「クレアさん、あの少し教えて欲しいのですけど」
また新たな相手がやってくる。懇意な親友と呼べる相手はいないがこのように慕って声をかけてくれる級友はいる。
(この世界に来て1年か・・・)
私はクリステア・ヴェルデュール・ブレイド
この世界と繋がりのあるシアロゥラの一国ブレイドから来た、
対外的には欧州からの留学生となっている。
(おかげで英国語を覚えたのよね・・・)
この世界に来る時に最初に訪れた、又は接触した人間との意思疎通のため言葉が自動的に刷り込まれたから日本語には不自由していないけど、
正直英語それもクィーンズイングリッシュと呼ばれる言語は元の世界と文法方法が似ていたので比較的楽だったけど面倒だった。
(本来なら日本語が一番難しいから得と言えば得だったけど)
他の国から来た同じ境遇の方にもそう言われる、確かに言語が複雑に絡み同じ言葉で解釈が違うし外からの言葉も混じっている。
文字だけでも三種類が基本当たり前に使われている。
(だからこその先進国の中で一番の文明国なのよね・・・多分)
私はここに来る前、正確にはここに来ることが決まる前にこの地に訪れている為日本語にずっと親しみがある。
そう、ここは日本
そしてこの学び舎は世界にいくつかあると言われる異邦人を受け入れてくれる学園の一つ藤瀧学園の特別科。
生徒になって一年経ち2年生に進級している。
ここは普通科と特別科と別けて授業を行っている。
1学年はAから始まる11クラスがあり、その中のJとKの2クラスが特別科と呼ばれる留学生の為の教室となる。
基本2年からはクラス変えで特別科から普通科への転入は可能になるがあまり変化はない。
希望して学園側が大丈夫と判断すれば確実に普通科に行けるのだが・・・
「本当、クレアさんがこっちに残ってくれて助かります」
「いいえ気にしないで、気が楽ですから」
「クレアさんなら普通科に行かれると思ってました」
そう、実は私も普通科への転属を願った、しかし学園側から頼まれてこちらに残って級友や留学生の世話を焼いている。
私としても譲れない部分が有り、お世話になっているとは言え学園側との話し合いとなり
私が一年耐えに耐えた懸案を飲んでいただくことで、普通科への転属を取り下げ、事を収めることになった。
その懸案の内容を知るのはこの学園でもひとにぎりだ
そう知らないというのは怖い事よね
「ツルギ先生が・・・」
「・・・そうですよね」
世界が変わろうが国が変わろうが男が居て女がいれば良くある浮いた話だ。
「書物によると、先生に告白・・・」
(告白!!)
その単語に持っていた筆記具シャープペンシルという便利なものだが
-ミシリッ
と普通に物を書くために持っていたのに悲鳴をあげた。
些か強度が低いようです。
「!!??」
質問に来ていた女生徒の視線が一度私の利き手を凝視してから気まず気に宙を彷徨う。
(・・・しまった)
握りこむならまだしも指先だけで軸にヒビが入ってしまった
女生徒は気づかないふりをしてくれたのか目を逸らしたまま礼を言うと自分の席に戻っていく。
「なにしてんの?また怖がらせて」
残った一人が砕けた口調で呆れたように腕組みをして見下ろしてくる。
「・・・・」
罅が入った軸はかろうじて折れていないが使い物にはならないだろう。
気に入っていたのに
「あんたのお目付け役とは言わないけど、そういう所何とかしてくれないと私もこっちに来る事になりかねないんだけど?」
この学園、正確には特別科の生徒で唯一と言っていいくらい私に遠慮ない言葉を浴びせてくる女生徒は隣のJ組に在籍している。
褐色の肌に長い艶やかな暗柴の髪が特徴的な女性だ。
丁寧に話すことを諦めてるかのような物言いだが、他の生徒との会話は確りと丁寧に話す。
基本この学校の特別科の人間は丁寧に話すから。
定められているわけではなく、こちらに来た影響で話口調がそうなってしまう。
そのままでも全く問題がないので意識して変える人間は少ない、意識せず使い分けられるようになる人間は多いが年数が必要になる。
そう、目の前の女生徒日本語に触れてから長いのだ、私と同じように
-ディジエラ・ブレン
「もう、確りしなよ。剣のお姫様」
そう残すとさっさと自分の教室に戻っていった。
私が喜ぶ一言を置いて
-『剣のお姫様』
昔は関心のなかった言葉だが、今では私の主軸になると言ってもいい言葉だ。
この学園で好きな時間が今年になって増えた。
HRの時間だ。
「連絡事項は以上。何か質問はあるか?」
今年K組の担任になった教師
-渡 剣生
が教室を見渡す。
「はいっ!!」
数人が疑問を持ったらしく手をあげる、あげ方に若干特徴が出てきているのが面白い。
担任であるツルギもそう思うのかわかりにくい笑みを見せつつ応対していく。
わざと疑問を残して質問をさせている、ツルギらしいやり方だと思いつつ、私は質問をしなかった人間を注視する。
本当に疑問に思ってないか、他の級友に任せているのか、根本からわかってないのかを一応見なくてはならないからだ。
ツルギも基本は押さえているので疑問が出ないのは少し問題ではあるが、そこまでの問題ではない。
「まだ公共機関に慣れてない者もいるから、気を付けて帰るように」
生徒は返事をして帰宅準備を始める。
学園の敷地内に寮はない、宿舎はあるが簡単なもので普通の生活を送るものではなかったはずだ。
なにより敷地内に外来生約300名を迎え入れる土地がない。
学園に囲い込むことは考えられていないのだ。
この世界になれるためなのか、通学をする。
電車・バスと言われる乗り物を利用しての通学だ。
「さて、今日は残れないのよね」
学園から頼まれている頭の中の通学シフトを合っているかとスマホで確認する。
1年の部活組以外の生徒の帰りをフォローするのも頼まれ事の一つ、一緒に帰るのではなく、帰りつつフォローや注意をするのだ。
「今年の1年て昨年の私達より手に負えないのよね」
ため息一つついて、3年の先輩方もこんな気分だったのかと少し昨年の事を悪く思った。
うん、この世界に来れたものだから嬉しかったのよね、とにかく嬉しくて嬉しくて
(ストーカー扱いまでされたのよね・・・)
仕方ないじゃない、ツルギの世界に来れたのだから少しくらいハメ外しても、まぁ実際外したのは当時の2年の先輩の関節やらなんやらだったけど。
「おーいお嬢、帰るよ」
陽気な声でディジエラさんから声がかかる、私を「姫」と呼んだり「お嬢」と呼んだり忙しいですわね。
彼女と二人で組んでいるわけではないけどお決まりになっているのは昨年の私の暴走の結果だから仕方ない。
私、クリステア・ヴェルデュール・ブレイドは想い人である、渡剣生のいる世界に、剣生と同じ場所にいる
なのに・・・
なのに、ここ一年進展がない
本当は人のことになんか構ってられないのに
一年前の私、なにやらかしてくれてんのよ
まごうことなく私だけど
もうちょっと何かあっても良くない?
主に剣生からのアプローチとかお手つきとか
どうなのよ?
お読み下さりありがとうございました。