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ボクは馬鹿だった


 しかしある時、源太郎は重大な事に気がついた。


 それは、彼が三十八歳になった秋の事だった。

 ある日の朝、目が覚めた源太郎は大変重要なことを見落として居ることに気がついたのだ。


「何でこんな大切なことに気づかなかったんだ、ボクは馬鹿だ……」


 源太郎は自分の馬鹿さ加減に呆れ果て、部屋の柱に何度も頭をぶつけて悔やんだ。


「このまま一億貯めたって、魔法少女になんか成れるわけなんかないじゃないか!」


 六畳一間のアパートに四つん這いになって嘆く源太郎。


「どうして今まで気づかなかったんだ。こんな単純な事に!」


 畳を拳で叩きながら壮絶に後悔した。

 しかし、源太郎は顔を上げ、天井に貼り付けてある自分で描いた『魔法少女テリーヌ』の想像図を見ながら思った。


「でも、まだ間に合うかも知れない。確かにあれから八年も経った。お金だってまだ一億には足りていない」


 そう思い立つと、すくっと立ち上がり、足を肩幅程に開き、左手を腰骨の上に置いて右手を垂直に上げ、小指だけを立てた。


 そして、おもむろに、


「ちぇーーーーんじ、マジカル! テリーヌ、オン、ザ、ロォォォック!!」


 と腹の底から大声を出して叫んだ。


 その途端、隣の部屋から壁をどんどん叩かれて、


「ウルサイ! 何時だと思ってんだ、馬鹿か!!」

 と怒鳴られてしまった。


 そう、源太郎はテリーヌに変身する時の呪文を考えるのを忘れていたのだ。

 これはテリーヌになるために忘れてはいけない大変重要な事だった。

 どうしてそのポーズなのか、何故小指を立てるのか、そしてオン・ザ・ロックの理由、それは源太郎にしか分からない事だった。


 しかし、隣の部屋から苦情が来たため源太郎は、それ以上部屋の中で練習することが出来なかった。


 それからと言うもの、源太郎は早朝勤務の前と深夜勤務の後に、唯でさえ短かった睡眠時間を削り、近くの公園で変身するための呪文の練習をし始めた。


 更に、『魔法少女テリーヌ』になった後、悪の組織と戦うことが運命づけられている事は明白だったため、筋力トレーニングもするようになっていた。


 ただ、深夜練習時、変身する際に発する大声の所為で何度か警官に職務質問をされる事があったので、変身練習は早朝に小声で行うことにした。


 深夜は筋トレをしながら脳内でイメージトレーニングを行い、来るべき日に備えていた。


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