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少女は、探し物を手伝う



ざーざーと、滝のような雨が降っている。

トタン屋根が、ドタドタドタ と騒音を鳴らして、屋根の上を子供達が走り回ってるかのようだ。



私はスカートのポッケから、チューリップの刺繍が入ったお気に入りのハンカチを取り出す。

そして、それで濡れた服や髪を拭った。


反対側の駅のホームへ来るには、屋根の無い道のりを20歩ほど走り抜ける必要があったのだ。

だから、当然私はそのかんに、この滝のような雨に打たれてしまったという訳だ。




(普通、か弱い女子高生に手前のホームを探させるものでは?)




大変気の効かない男である。

反対のホーム上で必死にライターを探し回る男に、心の中で悪態をついた。

そもそも都合よくライターが落ちてる可能性は低いだろうから。

きっと、これは私の濡れ損になるに違いない。



私が今立っているホームの端の辺りから、向こうの端っこまではおおよそ40mほどしかない。

だから、ここからホーム上を見渡すことが十分可能である。

さらに、私は視力が両目とも1.5だから、どんな小さなものも見逃さないはず。



うーん……無さそうかな?

よし、これにて探索おわり。




「おーい、ちゃんと探せよ」




線路を二つ挟んだ反対側のホームから、雨音に混じって、男の声が聞こえた。

見ると男は、ホーム上に四つん這いになって、顔だけをこちらに向けている。

土下座をしている様にも見えて、なかなかに情けない姿だと思った。


男は先ほど待合室でもあんな感じで、ライターを探し回っていた。

今のところ、二足歩行してる姿より、四つん這いの姿の方がよく見る。



私は男に”はーい”と小さく返事をして、仕方なく、ゆっくりと歩みを進めた。

初対面の私にライターを探させといて、どうしてあんなに偉そうに出来るんだろうか。

甚だ疑問である。



きっと男の高校時代は不良生徒で、あんまり学校とか行ってなかったに違いない。

偏見極まりないけれど、そういう人なら、ああいう荒くれた物言いになるのも頷ける。


男の目は細長で、眉毛も薄くて細いし、少々怖い顔だと思う。

まあ、そこが多少なりとも【イケメン】に見えてしまう訳であるが。

うちのクラスの男子で言えば、滝沢たきざわに似てる気がする。



そんなことを思いながらホームの見回りを適当にこなす。

病院の待合室にあるような水色の3列繋ぎのベンチの傍までやって来た。

そのベンチの後ろの壁には、【竹井歯科医院】と書かれた古ぼけた看板が釘打ちされてある。



そのベンチの手前と真ん中の腰掛けの間にある3cmほどの隙間。

そこを見て、私は思わず”うわ”と声が出た。


まさかまさかの【ライター】を発見してしまったのだ。




(えー、嘘でしょ?)




緑の透明な外装で、コンビニで100円で売っているようなライターだった。

見てみると、中の液体もたっぷりと入っていて、それはほとんど新品に見えた。




「見つけたかー?」




男から声がかかった。




「はい、見つけました!」




私は雨音に声が負けないように、頑張って叫んだ。




「じゃあ、こっち持ってきてくれ」




男が、私に手招きをする。


私は何だか少し腹を立てていた。

なので、敢えてこのライターを男に渡さず、遠くにぶん投げてしまうのも面白いかも、と考えた。

女子高生を濡れネズミにして喜ぶ目つきの悪い成人男性にそろそろ制裁を与える時間だ。



まあ、実際にそんなことはしませんけども。




「やっぱり、俺がそっちに行くわ」




私が来る気が無さそうなのを見かねてか、男はそう、私に叫んだ。

それから、小走りでホームの上を走りだした。

ホームとホームの間、【滝のような雨に濡れてしまう区間】を前に、男は立ち止まる。



(さあ、濡れネズミになってしまえ。私と同じように)



そんな私の暗黒微笑が雨空に遠く浮かんでいる気がする。

しかし、私の祈りも虚しく、男は羽織っているベージュのコートを背中側から折り返して、それを傘替わりにして渡ってきた。




(あれが出来るなら、余計に手前側のホームを私に任せてくれたらよかったのに)




そんな私の心中など知りはしない男が、上機嫌そうに遂に、私の目の前までやってくる。




「そこです。ベンチの隙間のとこ」



「ん……あ、あった」




私がそう教えると、男はすぐにライターを見つけたようだ。

男はベンチの隙間に手を入れ、それを手にした。




「やっぱ、落としてたか」



「え、貴方のなんですか。それ」



「ああ。確かここに来てすぐこのベンチに座ったんだった。きっと、その時だな」




男はそう言いながら煙草を口に咥え、取り戻したばかりのライターを使って、それに火をつけた。

男は、天井を向いて煙を吐き出すと、満足げな表情を浮かべた。




「そういやぁさ」




男は私の顔をまじまじと見つめて、言った。




「君、誰?」


























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