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男は、目を覚ます



駅前は人通りも車通りも少なかった。

手持ち無沙汰で駅前の風景を眺めつつ、時折振り向いて、寝ている男が起きないかを警戒した。




(もし起きてきたら……仕方ないから雨の中を走って帰ろうかな)




家まではここから走っても10分以上かかる。

そんなことをしたら、きっとびしょ濡れで体調を崩してしまう気がする。




(もしかしたら、あの男の人がとてもイケメンの可能性があるかも)




そうであれば、少しはお話をしてあげてもいいのかもしれない。




「うーん……」




後ろから声がして、私は慌てて振り向いた。

男は少しだけ上体を上げて、今にも起きようとしているようだ。


私は濡れた前髪をパッパッと手櫛で整えた。

男はベージュのシルクハットを左手で顎の辺りまで下げると、辺りを気だるげに見渡した。




「あれ……?だれ、君?」




男は、全然開いてない目で私を見つめながら、そう尋ねた。

ぼさぼさの短髪が雨の湿気のせいなのか、くるくると無作法に曲がり散らしていた。

顔立ちからすると、20代後半か30代前半といったところだろうか。

けっこうイケメンだ。




「あ、えっと。私は、雨宿りしてて」




初対面で名乗るのも嫌だったので、それとない言葉を発した。

男は”ふーん”と呟くと、また寝る体勢になった。




――なんだ、そりゃ




私は、拍子抜けしてしまった。

そりゃ別に、楽しくお話したいとか言う訳でもない。

だけども、華の女子高生である私を見ておいてその態度は解せない。

もっと私に興味を持って然るべき。容姿にだって結構自信があるのだ。



……まあ、実際のところはこの無人駅で少し心細さを感じていた為かもしれない。

かれこれ20分くらいは、退屈な時間を過ごしていた。

そんな風に思いながら男を見つめていると、再び男は上体を起こした。

今度は勢いよくL字になって、シルクハットが男の膝の上にポトンと落ちた。




「あー、寝すぎたかな。こりゃ」




男はそう言うと、上着のポッケから煙草を取り出して、口に咥えた。

次に、上着に付いているポッケを手当たり次第にまさぐって、何かを探している様子を見せた。




「あー、お嬢ちゃん。ライター……なんか持ってないよね?」


「持ってないです」


「だよなぁ……」




男は”はぁ”とため息を吐くと、立ち上がって駅の構内を見渡した。




「嬢ちゃんも探してくれ。ライター、もしくはマッチでもいいから」


「は、はぁ」




私は男に協力することになってしまった。

まあ、どうせ退屈していたので、ライター捜しでもしてる方が有意義な時間の使い方というものだ。


ベンチの下や、ベンチの上の座布団の下なんかを覗いてみるが、そんなに都合よくライターは見つからない。

そもそもそんなに探すところもないので、30秒ほどで探す気は失せてしまった。




「ありませんね、ライター」




ベンチの傍で寝転がって探している男に話しかけてみるも、男には無視された。

やがて、大きなため息と共に男は立ち上がった。




「ホームの方も見てみるか……嬢ちゃん、悪いけど反対側のホーム頼むわ」




そう言うと男は自然に改札を抜けて、ホームの方へ向かった。




(え、切符も買わずに行っちゃった)




改札は自動化されていないので、簡単に通ることが出来た。




(えー、いいのかな……)




少し気が引けたが、別に電車に乗るわけじゃないしいいか、と気を改めて改札を抜けた。















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