第3話 フェアリーリング
伊藤巡査の無線が途切れた後、緊急配備で集結し、現場の山道口公園に到着した応援が見たものは、両手、両足が無くなり、対刃防護衣でかろうじて守られた胴体と頭のみの伊藤巡査の遺体と少し離れた場所から見つかった佐藤巡査部長と思われる遺体であった。
報告にあった獣は見つからなかったが、報告を疑う者は誰もいなかった。
直ぐに付近一帯は警察により封鎖され、地元の猟友会の会員が集まり、罠を仕掛けることとなった。
まだ誰も事態の本当の恐ろしさを理解していなかった。人を襲った熊や猪を捕獲するつもりぐらいの感じであった。
翌朝山に入るのは罠を仕掛けたり、猟銃を持った猟師数人と機動隊員数人の合わせて10人ほどが二組で、山道の入り口付近は20人ほどの機動隊が封鎖をしていた。
猟友会と共に山道に入った柊信巡査は緊張し、出動服の青い生地を汗に濡らし帯革の拳銃サックをしきりに触っていた。
柊巡査は機動隊員と言っても普段は交番勤務を行い、有事の際は出動する県によって名称は違うが山口県警察では、第二機動隊員と呼ばれる存在であった。警戒の範囲が広すぎる為に出動を命じられたがよりによって最前線の罠を仕掛ける猟友会員の警護に就くとは思ってもみなかったのである。
檻型の罠を仕掛け始めて20分ほどが経った頃だろう
か、「パキリ」と木の枝が折れる音を聴いた気がした。音のした方を見ると何かが飛んで来たのが見えた。
「危ない!」
咄嗟に出た言葉はそれだけだった。飛んで来た何かは罠を仕掛け中の猟友会員の老人の背中に突き刺さった。そう、飛んで来たのは矢だったのだ。
「ゴヴ一ッ」
矢が当たったことに対する歓喜の声だったのか耳障りな叫び声を上げて全身薄汚れた緑一色の小柄な生き物が草むらから次々と飛び出して来た。
「ゴブリン?」
柊巡査は子供の頃からの本好きから最近のファンタジ一系の本も多く読んでいた。そこから導き出された答えが異世界の怪物の定番ゴブリンだった。
「負傷者を連れて退避!」
その場を仕切っていた警部補が指示を出す。気の早い者は拳銃を取り出していたが止める者は居なかった。
パン、パン、パン
3発の銃声が鳴った。飛び出して来た3匹に対して腕に覚えのある機動隊員が1発ずつ発砲したのだ。警告は良いのかと思うがすでに1人生死に関わる傷を負っている。
これ以上の犠牲者を出さない為にも妥当と判断されるだろうと何処か冷静に考える自分(柊巡査)がいた。
だからこそ見えた、薄い黒い膜のようなものを貫いて弾丸がゴブリンに当たり傷付くのを、しかし、膜のせいで威力が落ちたのか致命傷には至っていないようで更に向かって来ているが足取りは先程より遅い。
その頃には皆逃げ出す準備は出来ており、走り出していた。
怪我人の老人も体格の良い機動隊員が担いでいた。自分も走り出していたこの訳の分からない場所から一刻も早く逃げ出したかった。
その時、ブンという風切り音がしたかと思うと足下に矢が刺さっていた。
すると驚いた拍子に足をもつれさしてしまい、山道から転げ落ちてしまいゴロゴロと勢いよく転がり落ちて行った。
「柊~!」
同僚の叫び声も遠くなっていった。
どれだけ落ちたか分からないが漸く平地で止まることが出来た。
そこは山の中にあって木が生えておらず広間のようになっており、秘密の場所のように感じた。
やっと起き上がり歩き出すと広間の真ん中に石や茸、草花で出来たマンホールほどの輪があった。
これもまた、本の知識から答えらしきものを考えた出した。
「フェアリ一リング?」
それは妖精達が踊り、舞った場所とされるおとぎ話だった。
「うわぁ!」
それと認識した途端熱い何かが身体中を駆け巡る感覚がして柊巡査は意識を失った。
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