第2話 災厄の始まり 2
「誰かそこに居るのか?!」
伊藤巡査の誰何の声に応えたのは、獣の唸り声だった。
「伊藤、逃げるぞ」
佐藤巡査部長が小声で、伊藤巡査に指示する。
懐中電灯の明かりで姿の見えない獣を牽制し、タイミングを図る。
「行け!!」
佐藤巡査部長が叫ぶと同時に、伊藤巡査の背中を押す。
合図と同時に伊藤巡査も走り出していた。
そんな2人を追うように茂みから3頭の緑色の狼のような生き物が飛び出して来た。
それは、後にグリーンウルフと呼称されることになる生き物達だった。
走り出したは良いが、獣がすぐ後ろにまで、迫って来ているのを佐藤巡査部長は感じ取っていた。
佐藤巡査部長は右腰に提げた拳銃サックからニューナンブ拳銃を取り出し、片膝を着いて、迫り来る獣に狙いを定めた。
「伊藤!!行け~!!」
その声で、伊藤巡査は、佐藤巡査部長が獣に1人で立ち向かって行ったことに気が付いた。
本来はしたことの無い、膝撃ちの体勢を取って初めて追って来る生き物の姿を目の当たりにして、佐藤巡査部長は息を飲んだ。
噂で、熊に拳銃弾5発を撃ち込んでまったく効果が無くて逃げた警察官を聞いたことがあるが自分は今、同じ状況にあるのではないか?
嫌、3頭という数の分、自分の方が危機的状況にあるのではないかと思った。
先頭を走る緑色の狼に狙いを付け、発砲した。
「ギャン!!」
先頭を走っていた狼は、鳴き声を上げて立ち止まった。
効いているのか?
しかし、その両脇を1頭ずつ新たな狼がすり抜けて来たことから、佐藤巡査部長は、1頭に2発ずつ発砲すると立ち上がって走り出した。
発砲の直後に鳴き声を聞いた気がするが、今はこの場所から離れるのが先だと、佐藤巡査部長は全力で走った。が、
「ガゥ!!」
いきなり、背中に鳴き声と共に何かが飛び乗った。イヤ、何かではない先程の狼だ。
「くそ!!離せ!!」
対刃防護衣のおかげで負傷はしなかったが、押し倒され為、振り払うのに佐藤巡査部長は転がり出した。
しかし、そこに別の狼が足に噛みついた。
「ぐわぁ!!」
佐藤巡査部長は、警棒で追い払おうと左腰に手を伸ばすが、その右腕にも別の狼が噛みついた。
手足を噛みつかれた状態で仰向けになり、何とか自由になる手足で振り払おうとするが上手くいかない。
ドッシリと胸の上に何かが飛び乗った。3頭目である。ソイツは佐藤巡査部長の喉を狙って来た。
必死で動く左手で防ごうとするが、上手くいかず喉に熱と痛みを感じた。
それが、佐藤巡査部長の感じた最後の感覚となった。
伊藤巡査は、走っている最中に背後から銃声を聞いたが、一刻も早く応援を呼ぶことが自分達の助かる道だと信じてPCまで走り抜いた。
県内系無線機のマイクを取ると叫ぶように、話し出した。
「至急、至急!!下関102から山口本部、下関」
「各局しばらく通話待て、下関102通話どうぞ!!」
「指令番号241情報の件。野犬ではない、繰り返す、野犬ではない。もっと巨体で2m近くある緑色の狼だ。」
「野犬ではないのは了解したが、緑色の狼?確実に現認したのか?どうぞ。」
「通報者らしき、遺体も確認した。相勤者の佐藤巡査部長も生死不明どうぞ!」
「再度、順を追って報告せよ。」
「さっきから言っているだろう!!化け物が居るんだよ!!機動隊なり、銃器対策課なりを・・・・嘘だろう!?」
「下関102報告は正確にせよ!」
「PCが、緑色の狼に囲まれている!!8、いや10頭は居る・・」
「山口本部より下関102車両内に退避せよ!!繰り返す、退避せよ!!」
「うわ~!!」
パン、パン、パン、パン、パン
銃声が5発したかと思うと獣の唸り声のようなものが聞こえて無線は途切れた。
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