『盗賊』の中の女王
「うわぁ!…ちょ、ちょっと、いきなり何するんですか?!」こんな細身の俺だが、
親がスパルタなので小さい頃から、
『空手』『柔道』『合気道』『キックボクシング』『ボクシング』『ムエタイ』『テコンドー』『剣道』そして、
『中国拳法』など格闘技系は色々習わされていた。
そのおかげで最初の一振りをかわすことができた。
「しまった、これはヤバイ奴らと出くわしちまった。
さて、どうするか。流石に素手でこんな人数、
長い間はもたないな。……おっ!こんなところに
人を殴るのにはもってこい!な、ちょうど良いくらいの長さの木の棒があるじゃないか。」
そうして木の棒を持った俺は構えた。相手が剣を振り上げる瞬間、そのたった一瞬の隙に喉をつく。これでなんとか対処できそうだ。
「今度こそ、貴様のその首はねてやるぞ!」
一振り目を見ても思ったことだが、たしかに何十回、何百回殺してきた威圧感は感じるが本当はその腕の太い強力そうな腕力に任せっきりで剣さばきは全くの素人同然だった。ただ単に力一杯振り下ろせば良いと
思っているのか、大振りの強烈な一発を俺にかましてやろうと真上に剣をあげた。その瞬間、先ほど考えた手順のように、隙を見て素早く喉に木の棒を突き刺す。するとその男は、口から血を垂らしそのまま気絶して倒れ込んだ。
「やはり、この一連の流れが通用したか。よし、
この調子で!」倒れ込んだ男から目線を前へと向けると、弓を持った奴らがこちらに構えていた。
すると、どこからか女性の声が聞こえてきた。
「あんたはもう、完全に包囲されてるぞ。
どう抗ったって無駄、さぁ、その木の棒を遠くへ放り捨て、勘弁して死にな!」
そう言うと、巨大な一本の木から何かが落ちてきた。
よく見ると、女性が落ちてきていた。
このまま地面に衝突すれば確実に死ぬと思っていた。
しかし、その女性は地面ギリギリのところで
華麗に回転して綺麗に着地した。すると、先ほどまで俺に弓を向けていた奴らも、その他の連中も全員揃ってひざまづいた。そのときにはもう、気絶させた男も意識をとりもどして俺から離れて同じようにその女性に対してひざまづいていた。
木から落ちてきた女性が言った。
「先ほども言ったがあんたはもう殺されるんだよ。…
だが、その赤ん坊は私が良い盗賊に育ててやるから下に置きな!」この時点でなんとなく気がついた。
この、『木から落ちてきた女性』と、先ほど聞こえてきた女性の声の主は同一人物であるということと、
もう一つ分かったことがあった。それは、この女性がこの『盗賊』の中で一番偉いということ。
「あぁ…分かったよ。」
そう言い残して俺は赤ん坊を下に置いた。
多分、この時俺はもう死ぬことを覚悟していたのかもしれない。せめてこの赤ん坊だけでも生きていてくれればと思った。
「ほおぅ?物分かりが良くて助かるねぇ。
おい!さっさと赤ん坊を回収しな!」
女性がそう言うと、一人の『盗賊』が赤ん坊をとりにきた。つまり、俺の足元に近づいてきた。
俺はこのとき何を血迷ったのかこう思った。
「せめて、せめて一人くらいは殺してやりたい。」
すると俺の体が勝手に動いた。
近寄ってきた『盗賊』が赤ん坊を抱えようとしゃがんだ瞬間、膝蹴りを顎におみまいして、地面に倒れようとしていたその『盗賊』の首に後ろから手をまわして俺はこう言った。
「あぁ。死んでやるよ。しかし、一人は何か嫌なんで
こいつも一緒にな!」そう言うと俺は、その『盗賊』の首を捻り、殺してしまった。もちろん、今まで人を殺したことがないのだが、なぜか俺は冷静でいられた。こんな手下一人殺したくらいではこの『盗賊』の連中には傷跡一つ残らないのだろうなと思いながら俺は目を瞑り死を待った。暗闇の中でどこからか赤ん坊の泣き声が聞こえる。目を開けると、俺が下に置いた赤ん坊が物凄く泣いていた。