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孤ノ影斗記 \ Anti-Dreams  作者: 鰓鰐
第α章 青嵐―Into the Blue ―
7/14

〈6〉

―6―



翌々日、目隠しをされたままで車に乗せられ、八神七斗が連れて来られたのは、どこかの施設の地下駐車場だった。父と共に、何重ものセキュリティチェックをされながら施設内に入ると、そこにはさながら映画のセットのような、広大な設備が広がっていた。大きな病院や、大学の施設を想起させる広い廊下を抜け、二人はエレベーターでさらに下層へと向かう。やがて扉が開いたその先、待ち構えていたのは、白衣を着た一人の女性だった。恐らくは、二十代の半ばだろうか。それにしては化粧気のない顔に眠そうな目と、寝癖らしき髪の跳ねを携え、彼女は頭を下げる。


「やあ、カガリちゃん。今日はよろしく頼むよ」


どうやら既知の仲らしく、父親が片手を挙げながら笑いかける。それを見て、八神七斗はその女性に向かって、頭を下げ返した。


「ごめんね、忙しいところに」


後頭を掻き、父親が申し訳なさそうな表情を浮かべる。しかしカガリと呼ばれた女性は、ゆっくりと首を横に振り、否定した。


「いえ、この手の仕事は我々の管轄なので」


「そう言ってもらえると助かるよ。身内の検査は第三者に、っていうのが原則だからね。それじゃあ、後の事を任せていいかな?」


そう尋ねられると、カガリは表情の少ない顔に、少しばかり意外そうな色を浮かべた。


「先生はご同行されないんですか?」


「そうしたいのは、やまやまなんだけどね。開発班のところに呼ばれてるんだ」


それを耳にした瞬間、カガリは何かを察したように、わずかに目線を下げる。


「例のシステムについて、ですか?」


「うん、まあね。カガリちゃんも知ってるって事は……」


「ええ。うちの班長も呼び出された一人なので」


それから彼女はわずかに躊躇った後、意を決したように尋ねた。


「先生は、どうお考えですか?あのシステムについて……」


「難しい質問だね。そりゃ、いい側面だけを見れば、あれほど戦闘の役に立つ物はないんだろうけど……実際にXeno(ゼノ)を使うのは隊員たちなわけだから。単に彼らの生存率が上がるなら諸手を挙げるけど、安全性の如何によっては、すぐにでも開発を中止すべきだとは思ってる」


話の内容は八神七斗には理解出来なかったが、それでもあまり明るい話題には聞こえなかった。彼はしばらく二人の交わしている議論に耳を傾けていたが、人の近付いてくる気配に気付き、顔を向ける。そこにいるのが、先日の一件で現場に駆けつけて来た男女の隊員だと分かると、その瞬間体が強張った。筋肉質な体をした大男と、明るい色の髪をショートカットにした若い女性。記憶が朧気ではあるが、彼らは確かに、八神七斗が意識を失う前に、一度目にした人物たちだった。


「あれ?鮫島くんたちがここにいるなんて、珍しいね」


父親がそれに気付いて声をかけると、二人はわずかばかり、ばつの悪そうな表情を浮かべる。それを見て、彼らがここにいる理由を、その場にいた者全員が何となく察していた。


「言うべき事言うとくんが、道理っちゅうもんじゃけぇ」


低い声と共に、鮫島はその巨躯を八神七斗の方へと向ける。


「あのお嬢ちゃんの事は、すまんかったの」


申し訳なさそうな表情で彼が言った瞬間、臓腑の奥に染み入るような寒気が、八神七斗を襲っていた。言葉にされてみて、初めて実感が湧いた。今、目の前に立っている男が、美原を殺した張本人なのだ。理解した途端に、整理のついていない感情が、胸の奥でざわめく。それでも、二晩を置いて幾分落ち着いたのか、一昨日よりかは分別がついていた。


「……いえ。助けていただいて、ありがとうございました」


極めて冷静を装い、そう答える。美原を殺すという行為が、被害を最小限に食い止める行為だったというのは、八神七斗にも理解出来ていた。故に、彼は感情を噛み殺した。目の前の男は責めるべき相手ではないと、自分の命を救ってくれた恩人だと、理性を総動員させて無理矢理に納得した。例え、あの場で吸血鬼になっていたら、自分も同様に殺されていたとしても、だ。


「ごめんね」


八神七斗の様子に何かを察したのか、鮫島の隣の女性が、憐憫の眼差しと共に、呟くように口にした。それ以上を言わないのが、逆に八神七斗の胸中を見抜いているようで、思わず彼は目を逸らす。


「ところで鮫島くん、今日は何でスーツなんだい?」


沈鬱な空気を変えようとしたのか、父親が話題を変えるように尋ねる。


「局長に呼び出されてのぉ。何でも、正装で来るように言われたもんで。何の用件じゃろうか」


「そろそろ昇進なんじゃないかい?鮫島くん、長い事ここにいるし。今いくつだっけ?」


「今年で52じゃが……」


言葉を交わす父の隣で、八神七斗は視線を下げていた。そんな様子に目を向けつつ、カガリが「お時間は大丈夫ですか」とそれとなく尋ねる。すると、腕時計を見た鮫島が、慌てたように後頭を掻いた。


「おっと、そろそろ行かんと。ほいじゃあ、わしぁこれで。モロボシちゃんはどうする?」


「え?あ、私?えっと……」


声をかけられた女性が、迷うように視線を泳がせる。それから彼女は、何か思いついたという表情で、八神七斗へと向かい合った。


「あのさ、私も身体検査についてっていい?」


「はい?」


自分が声をかけられるとすら予想していなかった八神七斗は、唐突な申し出に、戸惑いの表情を浮かべる。思わずカガリに目で問い掛けると、彼女はそれを許可するように頷いた。


「構わないけど、何でまた?」


「私、今日はフリーですし、何かお手伝い出来ればと。邪魔にはならないようにしますんで」


カガリの問い掛けに、女性が笑いかける。それから彼女は、カガリに向かって意味深に目配せをした。


「それに、まあ……適材適所って言いますかね」


「……なるほど。確かに、うちの粗雑な班員たちじゃ、そこまで気が回らないだろうしね」


何に納得したのか分からないが、カガリは女性の言葉に頷く。それからカガリは、八神七斗の父へと向き直る。


「それでは、息子さんをお預かりします」


「うん、頼んだよ。後で私も顔を出すから。それから、ミナミちゃんもありがとうね」


そこで父と別れると、八神七斗はカガリに連れられて、施設の奥へと歩を進める。横を見ると、隣を歩く女性がそれに気付き、口角を上げた。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は、諸星南心(もろぼし みなみ)。よろしくね」


「八神七斗です。えっと……諸星さんは……」


「南心でいいよ。それか、おねーさんでも可」


気さくな口調で、笑いかける。たった数言やり取りをしただけだが、彼女にはよく笑う印象があるように感じられた。




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