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携帯電話を耳に当てながら、土手沿いを走る。呼吸が乱れているのは、村山の家からここまで休みなしに走り続けていた為だ。その上、頭に残る鈍痛が、しつこく響いているせいでもあるだろう。
「くそ、やっぱり繋がらないか……」
携帯電話を折り畳みながら呟くと、再び襲ってきた眩暈に、足を止める。さすがにここまで無理をしすぎたせいか、深く呼吸をすると胃の中の物がせり上がってきそうなほど、酷い痛みが頭をしめつけていた。膝を押さえ、その痛みに耐えていると、付近を通りがかった老夫婦が、心配そうに覗き込んでくる。
「どうしたの?どこか悪いの?」
「あ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
傷を見られないように押さえながら、無理に笑う。多少は不自然に見られたのかもしれないが、それでも二人は言及してはこなかった。
「あの、つかぬ事を伺うようなんですけど、この辺で女の子を見ませんでした?これと同じ高校の制服で、赤いメガネをかけた……」
それを聞いた老夫婦が、互いに確認するように顔を見合わせる。それから二人は、そろって八神七斗の背後を指差した。それを視線で追うと、その先に、川の両端を結ぶ橋があるのが見て取れる。その橋の下に、制服を着た一人の少女が、俯きながら座り込んでいた。
「あ、ありがとうございます!」
どうにか頭を下げた後で、八神七斗は土手を駆け下り、橋の下へと急ぐ。もつれる足で駆け寄ると、美原はその気配に顔を上げた。
「八神くん……?」
「よかった、やっと見つけられた」
息を切らしながら笑いかけると、美原は泣き腫らした目をわずかに逸らす。
「あの、私……」
「……ごめん、ちょっとタンマ」
言いかけた美原の言葉を遮りながら、八神七斗は美原の隣に腰を下ろした。
「悪い、ここまで休まずに来たもんだからさ。運動部のくせに情けないけど、ちょっと休憩させて」
困ったように笑う八神七斗の顔を見て、美原は静かに頷く。それに礼を言うと、八神七斗は息を整え始めた。それから、数分経ってようやく彼が落ち着いてきた頃に、改めて美原は口を開く。
「ごめんね。八神くんが、助けてくれたのに……私、逃げちゃった。怖くなって……」
「俺の方こそ、ごめん。美原さんを、危ない目に遭わせた。怖い思い、させたよな」
その言葉を最後に、二人の間に沈黙が訪れる。水面を眺めたまま、しばらく黙っていると、次第に日が落ちて、周囲が段々と暗くなっていく。その時不意に、美原が片手を差し出してきた。
「ちょっとだけ、握っててもらってもいい……?」
答える代わりに、その手を取る。それから八神七斗は、彼女が泣き止むまで、傍らでそれを握り続けていた。




