部活動創設!!
「オカルト研究部?大学のサークルみたいな部活だね。」
担任の政田教諭はあくびを噛み殺したような表情で俺たちの書面を拝借していた。
俺と実羅は職員室の政田教諭の机の前で背筋伸ばして立っている。
「部活の活動内容について空欄だけど、どうするの?あと、顧問も付けないと」
「超常現象や心霊写真の分析、あと心霊スポット行ったり、遊ん―グフグフなど諸々考えています。顧問は………すいません、まだ誰にもお願いしていません。」
「じゃあ駄目じゃん。顧問の先生を探して来てからじゃなきゃ、部活の創設は無理だよ。あと、部活創設条件を満たす人数分は5人だから。あと3人は見つけないと。そこら辺まとめて来てからまた持ってきてね。」
政田教諭は書面を俺達に突き返してきた。その興味のないような態度に少しだけムカついたが、顔に出さずに「分かりました」と職員室を後にした。
誰もいない渡り廊下、静かな空間で実羅はようやく口を開いた。
「本当に部活を創ろうとするなんて、ビックリだよ。」
「俺の方がビックリだ。まさか先生の前で部活動創設の概要について一言も話さないなんて。」
フォローとかしてくれんのかと思ってた。なのに、まさかのつっ立ってるだけなんて、政田教諭よりこいつに対しての方がムカついたわ。
「いや、この段階で部活動創設なんて無理だとわかってたもん。」
「じゃあ教えてくれよ。」
「一応、聞いておいて損は無いかなと思ってたの。」
まあそれはいいとして、と実羅は俺に顔を近づけて訊いてきた。やっぱり可愛いな。なんて、思わせるその表情は狙ってやっているのか、定かじゃない。
「部活の規定人数、3人足りないけど。誰か宛はあるの?」
「ワンチャン賢吾がテニス部と掛け持ちで入ってくれるかもしれない。お前の方はどう?」
「いや~どうだろな…考えてみれば、こんな部に入ったらウチの外聞下がっちゃうよね。」
「はあ?これはお前の為の部活でもあんだぞ。」
実羅は目尻を寄せて、不満げな顔を作って俺に突っかかってくる。
「"お前"って禁止!一応彼女なんだから、この前みたいなみぃでもいいからさ別の言い方にしてよ。」
「そうだな。それと、俺のリア充プランなんだが、色々収まったらデートしてもらうからな。みぃが言う通り彼女なんだしな。」
「……別にいいけど…。」
「!!」
口を突っ張らせ、恥ずかしそうに実羅はそう言った。甘くて蕩けるようなその声は、俺の脳にひびっと電撃を走らせた。思わず、その新鮮で無垢な表情に俺も赤面した。
拒否られると思ったのに……そんないきなり誘惑するような甘いボイス出すなよ。
これも作戦の内だったとしたら、本当にやらしい女だな…コホンコホン。
「…とにかく、一緒に部員探すぞ!」
俺は連絡がつきそうな人間に電話をしようと、LINEを開くがそこで軽く絶望した。この学校に在籍している人間のLINEを2つしか持っていないことに。
"部活動創設"。それは勿論、怪奇現象や超常現象の研究を行う、という部活。名分上はそういった形でこの部活を作る予定だ。あとはパソコン、UFOの模型とかをここに寄越して、それらしく見せてなんとかする。
正直な話、そんなことはどうでもいい。これは実羅の死神の活動を綴がなく進めるための場所作りなのだ。
―――1日前。
「部活を創る?それが宗一の用件だったの?」
「ああ、粋な計らいだろ。」
「そんなことするんだったら、同棲する必要性無くなるけど?」
「…学校にも拠点を置いた方が良いだろうが。」
本当の所、実羅の言った言葉が正論過ぎて言葉に詰まった。
確かにその通りだ。部活創って、そこで今後の話をするとなると、同棲の必要性がほぼ無くなる。
だけど、何とかして同棲の話を通したい!
正直な話をしよう。俺が同棲を提案したのは、別に実羅をボディーガードに任命したかった訳では無い。
やっぱりさ、1年で死ぬんだったら、絶対叶わないような夢叶えてみたいじゃん?美少女と同棲なんて、モテない俺が一生かけても成し遂げれ無いような夢だ。なら、一生分の不燃物な夢をこの1年間に注ぎ込んでやる!
部活のこともそうだ。青春アニメのように部活を創ってみたい、ていう夢もあるから、部活動創設に関しても引き下がる訳には行かない!
俺の人生、悔いなくして大往生したいんだ。
「家並孝輔の件だってあるし、今後の方針について二人で話し合う必要がある。同棲は俺とみ…みぃのコンビには欠かせない条件なんだ。それに死神の仕事は沢山有りそうだしな、尚更場所は多く設けた方がいい。」
ぴくっと実羅の肩が揺れた。そして、少し困ったような様子で俺に問いかけてきた。
「どうして宗一が私の仕事に付き添う感じになってるの?」
「イヤだって俺とみぃはカレカノだから、喜びも痛みも共有したい――」
「あっ嘘なのは表情でバレてるから本音でお願い。さもなきゃ右腕1本死なない程度に引き抜く。」
「単純にそういうSF系青春に憧れてたんですごめんなさい。あと同棲も部活創設も俺の憧れです、すいませんでした。」
「そんなこと迄白状してくれるなんて、宗一くんは理解が高くて助かる!」
普段よりオクターブ高い声で実羅ははにかみながら言った。なんで俺が言いなりになってんだ!俺の方が上位にいなきゃいけないのに!
「でも、宗一の命令とあらば、逆らう権限は私には無いし面倒くさいけど受け入れるしかないかな。」
「ほんとに!?やったぁ、じゃあ交渉成立でお願いします。」
なんで俺サラリーマンが上司に諂うみたいな態度とってんの!?いつの間にか敬語で話してたし。
これ以上何かヘマをして俺達の身分関係が反転したら困るし一旦俺は咳払いして、冷静を装った。
「んじゃ、明日にでも部活動創設について先生に話をつけよう。」
―――――――という感じで現在に至った。
可決された俺の提案は今実行に移され、俺の青春時代は切り開かれようとしている。
冒険に出るようなワクワク感が激しく心を揺さぶる。多少の不安が無いわけでは無かったが、そんなこと気にならなかった。
これから起こる波乱について、知る由もなかっただろうに。
「部活ぅ?お前らが?」
「ああ、賢吾も参加してくれないか?本当にちょびっと来るだけでもいいから!」
賢吾の机の前に自分の椅子を持ってきて、俺は勧誘を開始した。クラスメイトの椅子勝手に使って、前陰口言われた以来俺は他人のものを使わないようになった。
賢吾は背もたれに体を預けてう~ん、と唸っていた。部活の掛け持ちの面倒さや忙しさを想像し、音を上げたのか彼はあのさぁ、と俺に呆れるような声で返答した。
「彼女のいるお前には問題ないかもしれないがな、俺は彼女なんて居ないし、その上オカルト部なんて入ったら女子から引かれちまうだろ。」
全く予想したものとは違う理由だった。
だが、頷けなくもない理由だ。確かにオカルト部に所属する男子は何考えているかわからない変質的な男子と見られてもおかしくない。
だが!俺はオカルト部から変えるつもりもない。オカルト部は確かにマニアックで人気のない部活だ。
でもそれは俺にとってはむしろ都合が良い。
俺の脳内で描かれた部活は大勢でワイワイするものと違う!
5人6人で談笑し、時に決裂し、仲直りしてより絆を強固にし、部内で衝突していた男女の距離が一気に縮まり恋人になる、そんな前途多難だが、穏やか且つソーダのように弾けた爽快な青春を過ごしたいのだ!
そんな絵に書いたような麗しい青春はそうも簡単に作れはしないかもしれない。
それならそれでもいい。もとより死神美少女と共に部活を過ごすなんて青春、もっと稀有なものではないだろうか?
でも、そこに個性溢れる仲間がいたら、尚更最高だ。鬼に金棒的な感じで、完璧なものになる。
賢吾もそのメンバーに加えたい!
「そこをなんとか!!マジでお願いだからぁ~」
俺は飛びかかってしがみついた。賢吾は一瞬「こいつ正気の沙汰じゃねえ」って感じで白い目を向けてから、暴れ始めた。
「やめろぉぉぉ!絶対拒否だ!」
「テニス部兼だったら問題ねえって!」
「ふざけんな!?テニス部兼オカルト部ってどんな混ぜ合わせだよ離せ!!」
「女の子も入ってくるって絶対ぃ!」
「いや無理があるだろ――」
「何なにぃ?部活作んの!?」
「そうそう、暇だったらどう――」
??
今知らない人の声が聞こえた気が…。
「詳しく聞かせてよ!その部活についてさ。」
俺の椅子に乱雑に腰をかけて、俺らの会話に割って入ってきたこいつは…えっと確か…。
三谷 茅那チャラチャラした、インスタ映え~系女子だ。
「え…ぇ?」
「は・や・く・!」
からかう様な仕草と香水の大人びた色気ある匂いに、俺の苦手な陽キャ系女子が脳裏に過ぎる。
軽くフリーズした。