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漆黒のヒロイン?



ストーカーを続けて1週間の俺。長峰宗一が得た、謎の美少女"霞浦実羅"のデータは次のようになった。


・毎日6時くらいに下校する(ほぼこの時間にずれが生じたことは無い)

・家は前の住宅街周辺

・三日に一度ほど住宅街を抜けた先にある古い神社へ行く(ここ最重要)


以上が要点を絞ったものである。

今までこの三項目目について深入りすることは無かった。実際、神社に行くという結果だけしか分かっていない。

だが、やはり物事の成り立ちはwhyが重要だろう。それがなければ一気に物事についての関心は失せ、whatに当たる結果さえも倦むことになるだろう。

さらに言えば、この逆は存在しないと俺は思う。理由さえ知れば何となく結果を想像することは容易な事だ。数学と同じだ。答えを出すより解き方を知る方が幾分大切なのだ。

そんな無駄なことを想起していた。


…何故だかこのストーカー生活が今日をもって終わるような気がする。

同時に踏み込んではいけない驚愕の何かがある気がして、気が進まなくなった。


どこから湧いてきた感情かは分からないが、何かの警告みたいに俺の心中にNo!と絶えず訴えかけて来ている気がする。"それ以上は行くな"と規制テープが目の前に立ち塞がったような感じだ。


なんだ、ビビっているのか?


今更やめてなんの意味がある。今までのストーカー生活を無駄にしないためにも今日成し遂げろ。そうもう一人の自分が耳打ちするのだ。かなりのツッコミ所がある話だが。

確かに今日やらなかったら今までの日々はただの徒労に過ぎなくなってしまう。そっちの方がやりきれない気持ちでいっぱいになる気がした。

少しの間、決めかねたまま、黙っていた俺だが彼女が住宅街を通る時には静かに溜息をつきながら、走り出していた。

握りこぶしの中には汗が溢れ、手のひらは湿ったい暑さを感じた。



苔の巻きついた石段を彼女はぐんぐんと歩く。

鳥居もすっかり侘しく、古びているので恐らく廃神社なのだろう。

階段は随分と傾斜が激しいが彼女は随分と楽そうに進んでいた。だが、その足取りとは裏腹にどこか沈んだ何かを感じる。

俺はその階段の下にある細い道から彼女の様子を伺っていた。彼女の家がある住宅街から少し離れた場所のこの神社の周辺も全体的に人通りが少なく、寂寥感を覚えるような場所だ。

同時に少し昭和っぽくて潰れ掛けの駄菓子屋、古めかしい電化製品屋などが立ち並び、レトロな雰囲気も漂っている。

それよか彼女に見つからないかが心配だ。告って振った相手がまさかストーカーしていたとなれば通報されてもおかしくない。

冷や汗をかきながら息を殺して見ていたが幸い、バレることはなく、彼女は階段を上りきり、姿を消す。

そして俺はそれを確認し、静かに階段を上り始める。


彼女はこんな場所で一体何をしているのか?疑問が俺を急かし、足早に行かせようとするがそこは冷静になるべきだと自分に言い聞かせゆっくりなペースを保ちながら歩く。


そして階段を上りきる。目の前には古びた祠が存在感を大いに放ちながら建っている。

どこか威厳を感じさせるその姿はやはり神が宿る場所なのだと再認識させた。


周りを見渡すが――――――彼女がいない―――――――


動揺するのは言うまでもないだろう。こんな少しの時間差で人は消えることなどありえないのだ。

血の気が引いていくような感覚に襲われる。一体どこに行ったんだ。

境内を見回したが特に異常を感じるものは無く、いたって変化も起きない。

もういいだろ、諦めて帰った方がいい。警告されているように思え、渋々俺は帰ろうとする。

瞬間、俺は探していないある場所を思い出したのだ。祠の裏にある小さなけもの道だ。

思い...出した!ここは小さい時に来たことがある。だから今、その時の記憶が蘇り、裏に小路があるなんてことも知ってたんだ。

なんで今それが浮かんだのかはさほどどうでも良かった。

途切れてもつれた記憶の中でその先には開けた場所があることも思い出した。もしかしたら彼女がいるかもしれない。

心の警鐘は鳴り続けているままだが自然と祠の方へと足が吸い寄せられていく。これで見つけれなかったら本当に帰るし、それでいいだろ。

祠の裏を回る。そこには砂利とかは一切撒かれてなくて神社の管轄外の土地だということが見て取れる。

土は乾きが悪いのかやけにジメジメとしていて、粘土みたいになっていた。

そんな場所に薮を切り分けたようなボロボロの道がまっすぐあったのだ。


あった。やはり、俺の記憶は正しかったんだ!歓喜に似た感情が湧き上がったが今は浮かれている時ではないと心を落ち着かせた。


ここら辺は虫とかも多そうなので小走りで路を抜けていく。

あらかじめこうなると知っていたら虫除けスプレーを準備出来たんだがな。薮の草むらの先で虫がはねる度にそう思う。

そして路を辿るとそこにはなかなかの広さの廃公園が横たわるようにしてある。なんでこんな所に廃れた公園が?それに考えを巡らそうとするがその巡らされた思考の糸は途中で絶たれた。


目の前に――彼女。霞浦実羅が立っていたからだ。――




"あっ"と声を漏らし、鉢合わせした事にまずいと思った。だが、俺はそれ以上に目を疑った。


彼女は大きな黒い鎌を持ち、目の前の人間を切り裂いていたのだ。


切り裂かれた人は後ろに身を投げるように倒れていき、地面にぶつかるまでに蛍みたいな丸い発光体が人体から無数に出てきて、ドサッという音が聞こえる前に人の全てがそれと化していた。


ただその姿を見て理解が追いつかない俺は呆然と彼女を見ていた。

勿論俺以上に動揺していたのは目の前の彼女だ。 ただひたすら驚愕していた。 そして、段々といつもの優しげのある表情は崩れさり、俺に対して明らかな敵意を投影した視線を向けている。

ま…まずい、殺されるかも―

とにかく、平然と話さないと…。


「かっ霞浦…こんな所で何してるんだ―」


いつの間にか彼女は空中を舞っていた。

飛翔する天使のように美しいその姿とは対照的に俺に目がけて大きな鎌を振り被っていた。

サンと小さな音を立て、地面に着地する。

彼女が地面に舞い降りたさなか俺は彼女の黒い瞳と視線がぶつかる。


――――――――見開いたその目は…殺人鬼のそれと同じに見えた。


脳が覚醒する!そして目の前の状況に血の気が引いた。

まずい。距離を詰められた。避けろ!―――――

反射的に弾けるようなスピードで後退したが彼女の横薙の払いは目の前に迫っていた。あ、しぬ。そう思った瞬間に鎌が俺を豆腐を斬るみたいに静かに断頭した。



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