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植物姫  作者: 歩共あるま
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偶然の現象

 アレルはまず道具を揃えることにした。大きな机、紙、鉛筆。リリーに紙とはどんなものかと説明すると、巨大な一枚の紙を作ってくれた。本人もこんなことができるとは思っていなかったらしく、三人で喜んだ。アレルは簡単な木炭を作り、リリーはそれを鉛筆の状態に作り替えた。机もすぐに完成し、アレルはまず地図を描き直した。葉ではほとんど見えず、不便だったため、地図が紙に描かれるとできるとかなり見易くなった。まだ完成までは程遠いが、アレルが調査したところはしっかりと地図におこされていた。


「俺が行ったのは島の左側だ。特に目ぼしいものはなかった」


あったのは覆い茂る森。そして


「ここに何か不思議なものがあった。コンクリートでできてて、トンネルみたいで、中には鉄格子の扉もあった」


コロウはそこまで聞いて、サッとアレルを見た。


「アレル! これって、アレルが船で見つけてたものでしょう? 何かに使えるかも」


リリーが手に持っていた密閉瓶を開けた、その瞬間、コロウが叫んだ。


「毒だ! 吸っちゃダメ!」


アレルはすぐに息を止めてリリーの鼻と口を塞ぐと、リリーが手に持っていた密閉瓶を遠くに投げ捨てた。そのまま自分も腕で鼻と口を覆い、リリーを家の外へと連れ出す。コロウは周囲を確認してから、羽をばたつかせて言った。


「もう大丈夫!」


コロウの声を聞いて、アレルは手を離し、リリーと共に息を吸い込んだ。


「ごめん。大丈夫?」


必死すぎて乱暴になってしまったかと思ったが、リリーは目をぱちくりさせてばかりいる。


「リリー?」


もう一度名前を呼ぶと、リリーははっと我に返ったようにアレルを見た。


「どこか痛い? ごめんな。俺焦っちゃって」


リリーは少し赤い顔で首を横に振った。


「ううん。大丈夫。ありがとう、アレル」


それから、リリーはアレルに抱きついた。


「わっ! どうした?」


「ふふ。アレルが守ってくれたの」


と、幸せそうにリリーは笑った。アレルは顔を真っ赤にしながら狼狽えるばかりだった。


 コロウはアレルが投げ捨てた密閉瓶を羽で挟むようにして拾うと、万華鏡を見るようにして中を見ていた。


「この密閉瓶にもう毒はないよ」


「何でだ? あの中には何も入ってなかったはずなのに……」


それもそのはずだった。サンプルを持ち帰るための密閉瓶に何か入っていては、実験にしようできたとしても信憑性は失われてしまう。アレルは二人に言って、しばらく一人で考えてみることにした。浜辺に寝転がって頭の中で分かっていることを整理してみる。


 密閉瓶には何も入ってなかった。にも関わらず蓋を開けた瞬間毒素が発生した。都会の空気に何かが反応したと考えるのが妥当だが、その何かが分からなかった。


 俺は何かを見逃しているのか? 都会の空気と反応したもの。都会になくてここにあるもの。でもここの空気は清浄だ。今、国は産業が凄まじい勢いで発展している反面、大気汚染が深刻な問題になっている。では、大気汚染と何か問題が?


 目の前に広がる大空の中に、ひょこっとリリーが現れた。


「アレル」


アレルが体を起こすと、リリーが笑顔で両手を差し伸べた。


「少し散歩しましょ」


それを聞いて、アレルは頷いて両手を出した。リリーが転ばないようにほとんど自力で立ち上がったアレルは、そのまま手を繋いで歩くリリーに胸がいっぱいだった。このまま時間が止まればとさえ思っていた。


「アレルの手を握ってるとなんだかあったかいの。でもね、握ってると胸が痛いの。でもそれもいいなって思うの。ふふ、おかしいでしょ?」


そんなことを顔を赤くして言うものだから、アレルはそれ以上に顔から火が出そうになった。リリーはアレルの隣をゆっくりと歩きながら言った。


「アレル、言葉を教えてくれたでしょう? 楽しくて、嬉しくて、もっと一緒にいたくって、ドキドキして、胸がいっぱいになる。この気持ちを好きって言うんでしょう? この言葉がアレルにピッタリなの」


アレルは頭が真っ白になった。アレルは一体何が起こっているのかよく分からず、脳内はパニックを起こしている。


「それにね、アレル、私が毒を吸わないように助けてくれたでしょ? なんだかね、あの時のアレル、とっても……」


そこまで聞いて、アレルはリリーの顔が真っ赤になっていることに気づいた。


「とっても、素敵だったの……」


アレルは一瞬心臓が止まったような気がした。


「なんだかおかしいの。コロウと一緒にいたいし、楽しくて嬉しいし、コロウも好きなんだって思うけど、アレルとは、なんだか違うの」


リリーは照れ臭そうに笑いながらアレルに一歩近づいて、一人分の距離を詰め、また赤い顔でにっこりと笑った。


「私、アレルの優しいところ好き。アレルのあったかいところも好き。私ね、アレルの全部が好き」


そこまで言われて、アレルはたまらなくなり、リリーを手を引き、抱き締めた。アレルの胸は幸せでいっぱいで今なら空も飛べるのではないかとすら思えるほどだった。


「嬉しいよ、リリー。俺も大好きだ」


恥ずかしくて照れ臭い気持ちで、アレルはリリーをさらに強く抱き締めた。


「アレル大好き」


リリーもアレルを抱き締めていたが、二人は自然と身を離してお互いの赤い顔を見てから額をくっつけて笑った。




 その晩、アレルはコロウに大気汚染の話をしていた。


「密閉瓶には何も入ってなかった。でも蓋を開けた瞬間毒素が発生した。ってことは、考えられるのは空気だ。俺が密閉したのはまさに病が流行っている街の中。その空気がここの空気と混ざりあったときに何か反応を起こした。汚染された大気に何かが反応した、と考えた。だけど、その何かが俺には分からない」


そう言うと、コロウは唸った。


「大気汚染そのものが病を引き起こしてるんじゃないのか?」


「もちろん、それも考えた。むしろ、最初、病の原因は大気汚染とまで考えられてたんだ。他の学者が大気汚染そのものが原因だと証明しようとして、俺は別のものが原因だと証明しようとした。で、結果的に俺が空気中に含まれる毒素を発見したんだ。本当に小さな粒子で、見つけたときは驚いたよ」


コロウは黙った。リリーもまたどこか心配そうな顔でアレルを見ており、時折コロウにも目線を移していた。


「だから大気汚染そのものは原因じゃない。つまり、何かが風に乗って運ばれ、汚染された大気と混じり、有毒化したってことだと思う。問題は、その何かが何なのか。そもそも液体なのか、個体なのか。それさえ分かればかなり絞り込めるんだけど」


「リリー……」


それまで心配そうな声など出したことがなかったコロウが、初めて不安そうな、うかがうような声でリリーの名前を呼んだ。リリーもまたどこか不安な顔でコロウを見て、小さく頷いた。


「アレル、君は何を知っても、リリーに乱暴はしないと約束できるか?」


それは、軽々しく返事してはならない真剣なものだった。アレルはそれぞれと目を合わせて頷いた。


「もちろんだ」


コロウはリリーともう一度顔を見合わせて、頷いた。


「アレル、君には真実を伝えようと思う。カヘナ島の毒素、ここにいた人達の研究も。アレルを信じるよ」


コロウはアレルに向き直った。


「島の右側に、案内したい所があるんだ」


アレルは二人を見て頷いた。


「わかった。案内してくれ」


コロウはその場で飛び上がり、島の右側へと案内を開始した。

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