エピローグ
数年後。アレルは一人机に向かっていた。手元をエルフィーが見ながらこうだああだと口を出している。それを笑顔で受け流していると、急に窓に何かがとまった。窓の側を忙しなくうろつき、時折羽をばたつかせて跳び跳ねている。植物をでたらめに寄せ集めたような奇妙な鳥。アレルはその姿を見ると、すぐに机を片付けて部屋の隅に置いていたトランクを手に取った。
壁には額に入れて新聞が飾られている。「完全学者アレルを仲間達が発見。船長アクシードの仲間への想い」と見出しがある。アレルはエルフィーを丁寧にポケットに入れてからトランクを持って部屋を出ると、ちょうど出てきた隣人に軽く会釈した。
「あら、お出掛け?」
「えぇ、大切な人に会いに海の向こうまで。アクシードが今度こそ送り届けるって聞かなくて」
「素敵ね。嵐なんて来ませんように。気をつけてね。いってらっしゃい」
誰もがアレルを知っていた。アクシードは船が大破する前に救難信号を出しており、それに気づいたアクシードの知り合い達が助けに来たのだ。救命ボート避難したはいいが、アレルだけが乗り損ね、アレルは死んだことになっていた。ルードやアクシードは最後までアレル捜索を申し出て、流れ着いているかもしれない島をとにかく探してくれていたのだった。死んだと言われても、アレルはまだ生きてると主張して捜索を続けてくれていた。
そして、リリーが新天地を探しに行き、アレルが国に帰る頃には、病は終息し始めていた。カヘナ島の研究室から、微粒子が人体に好影響をもたらすという資料を持ち帰り、微粒子の研究を進めた。エルフィーは微粒子を出しているため、また病を引き起こすかもしれないと考えられるので、隔離室を出られなかったが、代わりにアレルができるだけ多くの時間を過ごすようにした。それだけでなく、エルフィーを一目見たいと、完全学者の同士達はひっきりなしに訪れてはエルフィーと会話をしていたため、エルフィーが寂しい想いをすることはなかった。
また、エルフィーのおかげで微粒子の研究や開発も進み、微粒子が有毒化しない方法も徐々に明らかになっていった。やがて、「リリー」という名の空気清浄機も新たに開発された。難病に苦しむ人達の最後の希望となり、病院で重宝されることとなったのだ。
アレルは「リリー様」と書かれた手紙をチラリと見て、笑った。
「招待されてるなんて、リリーがびっくりするぞ」
エルフィーはアレルの肩に乗ってその手紙を覗きこんだ。
「そうね。なんたって国から呼ばれてるのよ? あたしだってびっくりしちゃうわ」
アレルは再会できることに胸を踊らせながら船着き場までようやくたどり着いた。そこには巨大な帆船が停まっており、勢いよくアクシードが降りてきた。
「やっときやがったかアレル! 今度の船はゲルーセント2号だ! はっはっは! こいつは前とは比べ物にならねぇぐらい無敵だぜ!」
と、大声で笑った。
「それは期待できるな。今度は頼むよアクシード」
アレルはアクシードと握手を交わして言った。
「ほらほら、さっさとアレルのかわいい彼女見に行こうぜ!」
そこへ、勢いよく肩に腕を回してきたルードが加わった。エルフィーは慌ててアレルの胸ポケットに移動した。
「惚れてもやらねーぞ」
と、一応アレルは言っておくが、ルードは
「救命ボートに俺を乗せて乗り損ねるような優男からはさすがにとれませんよ救世主様」
と言いながら深々と一礼した。アレルはあの嵐の日、船が大破するのを知って、救命ボートで避難しようとしていた。しかし、ルードが海に落下。嵐の中、なんとかルードを救命ボートに乗せたはいいが、荒れ狂う海に流されてしまったのだった。
「今度は乗り損ねないようにするさ」
アレルが言い終わるなりアクシードが声を張り上げた。
「ほらてめーら! アレルを乗せてそろそろ出発するぞ! もたもたするんじゃねぇ!」
船からは欠員のない歓声が上がった。
アレルとリリー。再会した二人が本土で暮らし始めたのはそれから数年後のことだった。
(完)
注意
この物語は西洋風ですが、世界観、時間軸共に現実とは関係ありません。
また、この世界特有の価値観などは筆者の考えということではありません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




