3 歴史都市レフィアン
トスカ地方を誇る都市レフィアンは歴史の息づく街だ。
ランドマークである大聖堂を中心に、赤い煉瓦屋根の建築物がその景観の多くを占める。
屋根のない博物館ともいわれるこの街。千年前から代々、街並みを変わらず大切に保存している。
所狭しと並ぶ建物たち、遙かなる時を生き続けたその建造物たちは見る物全てを感動させるだけの風格を持ち、今日も僕たち旅人だけではなく、街の住人たちさえも魅了し続けるのである。
この美しい景観こそが、あの、思い出すだけでもため息が出るほど長い街道を歩いてきた理由の一つ。
旅人、というよりもただの観光客。ちょっと気恥ずかしい理由ではあるが、美しい街並みに心躍らせることだって旅の大きな楽しみなのだ。
終末のこの世界に残された有数の都市。未だに人々の営みが残る場所。そんな都市に少しだけ、希望を抱くことは間違っているだろうか。
僕たちがレフィアンについた頃にはすでに夕暮れ時だった。
夕日のグラデーションが、煉瓦屋根の建物を赤く染める。ぽつぽつと街灯が灯り始め、石畳の陰影を深く刻み込む。
一日の仕事を終えた人々が家路につくころ。瞬く間に赤が紫にかわり、街中が夜の色に支配されていく。
日が落ちてもなお、賑やかな街。
人々の喧噪が心地よく、湿った空気に乗って体中に響く。
「綺麗な街。」
目を輝かせながら、そこら中をきょろきょろと見渡すルゥ。壮観な街並みの中にいれば、疲労で重い足取りも随分と軽くなるものだ。
初めての景色を写すルゥの瞳はきらきらと感動に満ちている。彼女の落ち着かない様子はまさに観光客そのもので、通りがかる人々は微笑ましげに彼女を眺めて過ぎ去る。
一方、彼女に少し遅れて歩く僕は、年長者として落ち着いた大人の振る舞いを装ってはいるが、にやけた表情を隠し切れている自信はない。正直、ルゥの胸躍る気持ちはよくわかるし、僕だって人の目がなければスキップでもしたい気分だ。
「この街、すごく気に入った。明日から、楽しみ」
普段から自由に旅を続ける僕たちは、それぞれの街の滞在期間を決めてはいない。気の向くまま好きなだけ楽しむ。そんな旅をしている。
ルゥはどうやらレフィアンをひどく気に入ったようだし、件の『オオトリ』のこともあり、今回はしばらくこの街に滞在することになるかもしれない。
「それはそうとルゥ、おなかすいただろ?約束通り、まずは夕飯にしようか」
うきうき気分で街を歩いていた銀色の少女は、その言葉を聞くと表情をがらりと変えた。
「おなかすいてるの、すっかり忘れてた・・・。思い出したら、すごくおなかすいた・・・。せっかく忘れてたのに。ロアのせい」
腹の虫が鳴く現状、責任の所在を僕に押しつけるルゥ。
恨めし顔で見上げる顔、膨らませた頬が小動物のようでかわいらしい。
「そっか、ごめんね。早いとこ美味しそうなお店に入ろうか」
「うん、なるはやで」
「いまいち古いのか新しいのかわからない略語を濫用するのはやめなさい」