こんな修羅場も悪くはない
あんなことがあったに関わらず、俺は懲りずにこの数日間迎えに行っては、咲と仲良く談笑し、その日の晩に咲良さんからシバかれる、という生活を続けていた。シバかれるのが習慣になってんのだけはどうにかしたい…結構切実に。癖になるとマジでだめだと思う。
だから平和ボケしてたんだろうな。咲が名家の子孫で、本家に連れ戻されようとしているなんてことも忘れて、ただただ普通の少女として接してたから忘れていた。
人通りの少なくなった通りを通る咲との帰り道、目の前に立派なスーツを着た男が立っていた。
「咲お嬢様、お迎えに上がりました。」
俺はその言葉を始める前に、とっさに咲を自分の後ろに回す。…怖いのだろか、俺の服を握っている咲の頭を安心しろとばかりに優しく撫でる。
「なんだてめーら!この娘をどこに連れてくつもりだ!ふざけてんじゃねえ!!」
言われたとおりに啖呵を切る、頼むから引いてくれ…。
「貴方には微塵も関係のないことだ、ふざけているのは貴方だろう。」
ド正論だった。
おいどうするんだこれ…全然引かないぞあいつ。いや引かないだろうとは思ってたけどさ…。
「邪魔をするなら容赦はできない。生憎こちらも仕事だ。」
気付けば鼻先に男がいた。世界が回る、と思った時には俺は地面に叩きつけられていた。衝撃が体を走る。後から顔面を殴られたことに気づいた。
「軍馬さん!いやっはなしてっ!」
咲の悲痛な声が聞こえる。おい…やめろよ…その娘を連れて行こうとするんじゃねえよ…。
予想以上の衝撃だったのか、まだ膝は笑っているし、視界だってはっきりしない。
だが、そんなことは知ったこっちゃない、俺は無理矢理体を動かして黒スーツ野郎にタックルする。
「逃げろ!咲!どこでもいいから隠れろ!」
――――――もう何度、殴られ、引き剝がされ、投げ捨てられたかもわからない、意識は朦朧としている。多分だけど頭はふらふらして視界は揺れるし、脚が重いから立っていることは確かだ。
「随分としつこいですね、貴方は。」
また衝撃が走る。もう力も無い…。咲はなんとか家に逃げれただろうか…。
「家の方でも待機している班がいるので、貴方のその踏ん張りも無駄なのですがね。」
「……………。」
畜生…。そりゃそうだよな…。あーぁ格好付かねぇ…。
「咲お嬢様は然るべき人生をお持ちの方です、あんな暮らし相応しく御座いません。」
あん…?今こいつなんて言った…?『然るべき人生』『相応しくない』だぁ?
あの咲の話聞いて、そんなこと思えるかよ。
あの咲の態度見て、『相応しくない』なんて言えるかよ。
沸々とこみ上げるものがあり足に力が入る、今だって立ってるつもりだが立ててるのかは怪しい…。最早それすら朧気だ。正直スーツ野郎の姿もなんか黒いだけの靄にしか見えない。
ただ、咲の姿は見当たらない。良かった…。本人がいたら今から言おうとすることなんて口が裂けても言えないからな。もう咲が連れていかれてるのは、おそらく確実だろう。俺がこうして粘る理由なんて無い。
無いんだけどさ…。
こいつにだけは言い返さなきゃならんことがある。
どんだけボロボロになってても、どんだけ不格好になってても、これだけは言わなきゃいけない。
こんなのは俺の我儘だというのは百も承知だ、我ながら相も変わらず情けない野郎だと思うよ。
だがこれを言わなきゃ、この我儘を押し通さなきゃ、きっと俺は見限られてしまう、過去の自分に、いつかの未来の自分に、自分自身を見限って死ぬのだろう、そんなのは真っ平御免だ。
堂々と二本足で立ち、下品ながらも中指を立てて、眼前の糞野郎を睨みつけながら全てを吐く。
「…め……さ……しっ…んだ…。」
「なんだ聞こえないな。」
「……テメエが咲のなにを知ってんだ!!!あいつの話を聞いたことがあんのか!!!あいつの笑顔を見たことがあんのか!!!ふざけてるだァ!?んなもんこっちのセリフだ糞野郎!!
『然るべき人生だ』?『相応しくない』?てめえがそんなことを決めてんじゃねえ!!!
『お前には関係ない』?あぁ!?確かにお前らの家系なんて俺には微塵も関係ねえよ!!!
だけどなぁ…俺や咲には関係あるさ!!!あいつの笑顔を知って無視できるか!!?楽しそうな話を聞いて見ない振りなんてできるか!!?あいつの幸せそうな態度見て関係ないなんて言えるか!!?」
「…支離滅裂で自分勝手な文句だな。」
「我儘な文句で悪かったな!!?ああそうだ!!!これは俺の我儘だ!!!あいつには絶対にあの幸せそうな面のまんま!あいつが楽しいと!幸せだと!そんな風に笑ったまんま幸せになってもらわねえと気が済まねえ!!」
「…只の一般人が何をほざく。」
「なめてんじゃねえぞ!!確かに俺の望むようにはならないかもしれないがな!!?命張って精々足搔いて喉元に食らいついてやる!!!あいつは絶対幸せにしてやる!!!」
「叶えきれない戯言を聞く趣味は持ち合わせていない。」
糞野郎が俺に手を伸ばしたその時、
「ははは!いい啖呵じゃねえか康介!!!いやぁ旦那の若い頃を思い出す!!!流石うちの娘だ!そこまでゾッコンにさせるとはな!!」
よくわからんことをほざきながらパイナポー暴力女が現れた。正直もう言いたい事も言ったので気力も無いし、視界も霞んできた。止めを刺されるまでもなく俺は地面に倒れる。
「時間稼ぎありがとう、おまえは…いや康介は立派にやってくれた」
やっぱ母親というより父親っぽいわ、あんた。そんなことを思いながら俺は意識を手放した。
ようやく咲回想編がおわりそうです。随分と長かったなぁ…。書きたいことを書いてるととても楽しいのですが、書き過ぎちゃうのも問題な気がします。
そして読んでくれてありがとうございます。
つたない文章なのにブクマがついててありがたい話です。
これからもよろしくお願いします