修羅場の先には修羅が住む
そう言えばなんですけど、俺、卵も一緒に2パック買ってたんで全てがおじゃんでした。
なんかもう生臭いビニール袋の口を縛り、燃えるゴミ置き場に突っ込みながら(別に時間とか曜日とかの指定はなく、そこに置いておける田舎特有のゴミ置き場)お隣さんにお邪魔した。
「と言う事は、あんたが最近越してきたお隣さんか。」
「ばい…。ぞうでぶ…。」
このお母さんの娘さんを、ぼんやりとみていた俺は『何見てんだお前は!!!』とその奇麗なお美脚を、見事に顔面に振り下ろされ、こんな喋り方になっていた。
その後、冷静になったのか部屋に上げてもらい、娘さんから手当てを受けている間に自己紹介をしているわけだ。
てかマジでこのお母さんからこの大人しそうな娘さんが生まれたのか?信じられねぇ…。
「私は宮内 咲良だ。で、こっちは娘の咲。さっきは悪いな、頭に血が上っててさ。」
頭を軽く搔き、申し訳なさそうに笑いながら謝るパイナポー女。最初の感想こそ美人だったけど、あんなことありゃパイナポー女呼ばわりもするわ…。
「もう痛みはどうですか?ぐんばさん」
「あー結構引いてきたよ、ありがとな。」
まだ少し痛むが丁寧な応急処置と、その心遣いが純粋に嬉しい。
軽く頭をぽんぽんと撫でると少しうれしそうに目を細める、おぉ可愛いな、てかおかっぱよりも少し長め位のきれいな黒髪がさらさらしてて気持ちいいなぁ。と思ってたら視界がブラックアウトした。
「なに気軽にうちの娘に触れてんだぁぁぁぁ…」
なんだ、アイアンクロー、されてたのか、足が浮いてる、せいで、死んだのか、と思ったぜ。
「で、込み入ったことを聞いちゃいますけどさっきの何ですか?」
頭に湿布をどう貼ったものかと咲ちゃんが悩みながら新たに貼っている際中に俺は聞く。新しい世界への扉が開きかけたのは忘れよう、碌な生活が送れなくなる。
話を聞くとおおよその話は大体予想通りだった。
「ねーちゃんが結婚できないからって、うちの娘を跡継ぎにしようとするなんてふざけやがって」
「あれ?でも咲ちゃんまだ結婚できないですよね?」
「ちゃん付で呼んでんじゃねえ!さんをつけろ!」
「あがががががががががががががががが。」
話が進まねえ…。
まあ要はあれだ、結婚できる年齢までに礼儀とか色々準備があるってことか。逐一しばかれてたらそりゃ時間かかるわ。ちなみに家名が途切れるから、名家の男性との婚約も厳しいらしい。あれ?じゃあ咲良さんは?と聞くと、
「家がいやだけど諦めかけてたら、うちの旦那がかっぱらってくれた」
と、まぁ幸せそうに惚気話を小一時間してくれた。
「まぁ今日は悪かったな」
「いえ晩飯もいただいたのでもう大丈夫ですよ。」
結果的に野郎の飯なんかじゃなく、かなり一級品の飯が食えたので儲かりもんだった。やっぱり家の育ちというやつは良いらしい。正直、この飯食うまでは信じてなかったぜ。
「こっちもいいスーパー教えてもらって助かったよ」
「妹にそう伝えときます。」
そのまま咲さんにも手を振って別れようとしたら咲良さんが耳打ちをしてきた。
「あのな、咲のことなんだがよ、外に出たついででいい、帰り道見かけたら一緒にいてやってくれ」
「へ?」
「家の奴らが無理に連れて行こうとするかもしれんからな。なに啖呵切ってりゃ勝手に逃げてくさ」
いやー…それ咲良さんだけだと思いますよ?
「あいつには決まり事とかで縛られた生活をして欲しくねんだ…。自由に、女の子らしく、色んなものを見てほしい、好きなものを目指して欲しいんだ…。協力しろよ?」
俺はそれほぼ脅迫ですよね?とは言えず、
「はいはい、分かりましたよ。」
と答えた。
口ではいやいや言っているが、内心では結構協力するつもりだ。正直、咲良さんも悪い人じゃないことはわかるし、娘を大切に思っているのもわかる、できる限りは協力するさ。
「ハイは一回でいいだろうが!」
いってぇ!?
読んでくれてありがとうございます。
ほかの作品もかいてるのでペースはばらけると思いますが、よろしくお願いします