俺の望む修羅場はコレジャナイ
皆さんは修羅場というものにどういう感情をお持ちだろうか?
『女性関係の拗れなんて最低!』
『ぐずぐずやっている方が悪い』
『刺されてしまえばいい』
『苦労で胃に穴が開きそう』
これらの感想は、確かに正論と言えば正論で反論のしようがない。実際、どの物語の主人公も苦労しているし、どうにかしてやろうと努力もしている。そもそも字面からしておっかない、修羅ってお前…修羅じゃねーか。
だが俺は敢えて、こう感想を抱こう。
「正直羨ましい、というか血涙が出るくらい妬ましい。」
だってそもそも可愛い子からだったり、美少女だったり、美女だったり、幼女だったり、エトセトラ。そんな娘たちから迫られてるから、修羅場が起きるわけで。
微塵も興味が無けりゃ、修羅場にはならない。しかもその上、修羅場になるってことは、その全員から強く好かれているというわけだ。
多分「縁がないから」「他人事だからそんなことが言えるんだ」と後ろ指を指されるだろうな。
そうだよ!他人事だよ!だからこそあこがれて悪いか!馬鹿野郎!
と、そんなことを考える平々凡々な俺の話だ。自己嫌悪がすさまじいぜ全く。気を楽にしてくれ。
冒頭でいきなり修羅場への思いを熱く語った俺だが、実は今修羅場の真っ只中にいる。
そこのお前、羨ましいと思っただろう?
正直俺もこんな修羅場の真っ只中にいるなんて、思いもしなかったし、夢にも思わなかった。
とりあえずは自己紹介か…。
俺の名前は軍馬 康介。
今年で19の大学1年生になる。私立に通うわけでもなく、高専に通うわけでもなく、公立大学に通うことになる大学生で、家族構成まで言うと、父親、母親、2つ下で高2になる妹の4人家族だ。
THE 平凡。
少々名前が厳ついくらいで、たいして目立つ特技なんかもない。見た目は髪の毛が太くて寝づらいので、水気を帯びた風呂上り以外は立っているような状態。芝生の様にぼさっというかわさっとしている黒髪だ。特徴がマジでそれしかない。不細工なわけではないがかっこいいという訳ではない。
…自分では顔面偏差値55くらいだと思っているが、妹に言わせると
『んー…なんか顔面自体うんぬんより全体的に偏差値45くらいだよね、お兄ちゃんて。』
らしい。割とこれを言われた時マジで泣きかけた。平均以下かよ…。しかも全体的に…。
…俺の話はこんなもんでいいだろ。てか、話すことが微塵もない、そのおかげか自己嫌悪が半端ない。この辺はどうでもいいか、つい現実逃避でいらんことまで考えちまったぜ。
簡潔に今の状態を言おう、ダイニングテーブルに手を突いて思わず立ち上がっている俺、その向かいには神妙な顔をした親父、はす向かいにはやはり微妙なそうな顔をしたお袋、部屋の入り口には妹である結実が俺を睨みつけている。室内にはもうすぐ3月の中旬も終わるだろうというのに、冷ややかな空気が流れる。
見ての通り、望んでいないような修羅場だ。意味が違うが、字面的に場違いという言葉を使いたくなる。
あん?原因がなんだかわからない?ダイニングテーブルの上を見りゃわかると思うぜ?俺は正直見たくない。……はあ…分かったよ、もう一度見てやるよ…。
俺がダイニングテーブルの上に目を向けるとカラフルな色をした表紙が目に入る。あーこういう誤魔化しはよくないな…肌色が多めの表紙が目に入る。いわゆるエロ漫画である、しかも結構厚め…ざっとページ数は400行くか行かないかくらいか?
まだこれくらいなら問題はなかったのだろう。両親だって『あぁ、康介は大人になったんだな…』くらいで済んだのだ。まあ問題はそのエロ漫画の副題である。
『妹スペシャル!!ソフトからハードまで妹であそぼ!』
先に言わせてもらおう、俺のではない。
そもそも俺はスマホがあるので、スマホで見る派閥である。こういった証拠品は出ない。ちゃんととあるサイトで課金して購入してあるので後ろめたさもない。胸を張って言える。
親父の方を見るとだらだらと冷や汗を流していた。
俺は男同士の秘密のアイコンタクトをとる。我が家では女性が強すぎるためこういった協力が不可欠なんだ。情けないとか言うな……分かってるから…。
『この本もしかして親父のか?』
『うむ、俺ので間違いない。』
『なんでこんなものを…。』
『たまには違う趣向がほしくなるが、母さんは母さんで譲れないものがあってな…。』
いや、息子に暴露することでもないだろ、てか気まずくなるからそう言うこと言うのはやめろ。趣向がほしくなるから、といって上司との付き合いという名目でそういう店に行くより誠実だけどさ…。
『で、なんでこれが俺のものみたいなことになってんだ?』
『…すまんな、お前の部屋に隠してたら母さんが見つけてきた。』
「なんでだ――――――――――っっっ!?!?」
「それは『なんでこのエロ本が見つかったのか?』という意味でいいのかしら。」
いいえ違います、お母様。『なんで俺の部屋に隠してんだ馬鹿野郎』という意味合いでございます。
実際問題『第一級取扱危険物』が親父のものと知れるのはかなりやばい。下手をすると、俺の春からのキャッキャウフフなキャンパスライフに響く。リビングが血の海に沈む。冗談も誇張表現も抜きで、見たままの文字通りの意味でな。
何故かと言うとこのお袋、見てるこっちがキツいくらい親父にベタ惚れなうえ、嫉妬するのである。買い物に行って女性店員と楽しそうにしてると拗ねるレベル。若いカップルならそれも微笑ましいが40代がやるのは…。いや人には人の愛があるから否定はしないが、そんなレベルである。親父もそんなお袋にベタ惚れで、子供からするとかなりきつい。
さて、そんなお袋がコイツの持ち主が親父だと知ったとしよう。下手を打てば、どころかかなり上手くやらないと死人が出かねない。いや出る。確実に第一被害者は親父であろう。
目撃者は勿論、俺と結実だ。
「にしても康介もなかなかやるようになったわね、正直偶然じゃなければ見つけれなかったわ。」
ん?そういえば親父はどこにエロ本を隠してたんだろ。生活してる俺が気付かないというのはすごい。
「まさかB4で印刷しなおして製本し、国語辞典をくり抜いて、その中に収納してからそれを国語辞典の箱に戻すとはね。」
俺の国語辞典で何やってんだ馬鹿野郎!?!?。そんな隠し方したら、俺がものすごいガチでシスコンこじらせてるみたいじゃねえか!!。
ん…?ちょっと待てよ?今の状況を確認してみよう…。現状スマホ派の俺の部屋に俺のエロ本は無い。あるのは親父がガチで隠した妹モノの広く深くカバーしたエロ本のみ…。これって傍から見たら…
「まさか康介が妹にしか興奮しない真性のシスコンだとはね。」
やっぱそうなりますよね…。なんか一周廻って落ち着いちゃったぜ、妹からの視線がさらに強くなった気がするが、そっちを向くのがとても恐ろしいので気にしないことにする。
「正直、このままじゃこの家に野獣と餌を同時にぶち込んでいるようなことになります。」
誰が野獣だ、誰が。実の息子に対して酷い言いようだな。まぁ客観的に見たらそうなるけどさ…。
「ということで折角近くの大学に通えることになったけど下宿してもらうから。」
「「は?」」「え?」
この「「は?」」というのは親父と俺で、「え?」といったのは結実だ。まあそりゃ驚くわな。
「いいわね?」
「で、でも母さん、そんなにうちには余裕がある訳じゃないぞ?それに折角勉強して近所の大学に受かったっていうのにそれはあんまr「黙りなさい。」」
冷えた空気が氷点下を超えた。
「あなたのお小遣いから出します。」
「え…。」
「何か文句でも?」
「…なにもないです。」
引き下がるなよ親父!?途中まで努力を認めてくれて尊敬しかけたのに!?
「文句はないわね?」
この有無を言わさない圧力に誰も何も言えなかった。
こうして俺の実家暮らしで、飯も作らず家事もせず、金に困らないという夢の生活は崩れ去り。面倒ごとの多そうな下宿生活が決まった。俺が求めてるのはこんな修羅場じゃない…。
まだ始まったばかりでハーレム要素は無いです。
これからどんどん書こうと思うので、アドバイスや感想があると嬉しいです。