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アヤメ  作者: 柊燈籠
3/3

リョウメンスクナ

 埼玉県秩父にある寺に向かって本作の主人公である『久本葵(ひさもとあおい)』は歩いている。ある理由からその寺で一人の女と知り合い、時間を見つけては酒を飲むようになった。恋人と言うわけではないが、気がないわけではない。この二人の馴れ初めはおいおい書いていくとして、まずはこの葵について話していきたいと思う。年は今年で26歳になる。現在は地元であるこの地で営業職に就いている。成績はそこそこでどちらかと言えば中の下くらいから、中の中くらいをうろうろとしている。彼としてはもっと成績を上げて認めて貰いたいと考えているが、如何せんその才能がないのか、伸びしろに限界がある。天井が見え隠れする。それでも何か自分でなにか向上できないかと上を向く。そして現実を目の当たりにしてまた下を向く。こんなことを繰り返しながら、6年の社会人生活を送っている。彼の面白いところは凡人でありながら、若い時に良くみられる自分は特別でいつか大成すると信じている。ここまでなら何のお面白みもないただの、本当の凡人である。面白いのはそんな傲慢な思想を持ち合わせていながら、心の中では凡人以上に凡人であると自覚がある点である。彼はいつか大成するとどこから沸くとも知れない自信を心の底に隠しながら、現実も目を逸らしながらではあるが見つめようと努力はしている。そんなところが面白くあり可愛げがあるのだと作者は思っている。凡人であるのは周りから見れば一目瞭然なのだから、そこに向上心があらば誰からも面白く思われるわけではない。人とは違う空気を嫌うものである。自分の領分をわきまえずに努力をしているというだけで、あいつはきっと長続きしないとか嫌味の一つでもこぼれてくるのもである。しかし作者としては3日坊主でも意味があると考えている。結局は挑戦するだけでもすごいのだ。今まで自分が知らない未知の世界に足を踏み入れる、これだけでもかなり勇気がいるものである。彼はそんな挑戦を続けているのだ。もちろんそこは凡人なのでさぼったり、怠けたりしながらも自分の殻を破ろうを努力している。


 そんな彼に最近転機が訪れた。アヤメと言う美しい女性と出会ったのだ。繰り返しとなるがそのなれそめについてはまたの機会に書いていこうと思う。とにかくこの半年間で彼は彼女と出会い奇妙な関係が続いている。いつも酒の肴は葵が用意している。酒はアヤメが用意することになっている。これはもともとあまり酒に強くない葵が酒の種類に疎い為である。何度か葵が酒を持ってくることもあったがやはりバリエーションに乏しく、よくわからない酒となってしまう。アヤメはアヤメで酒にはめっぽう強く酒には詳しいが肴に関しては疎い。と言うよりも葵に会う前まで肴を食べながら飲むなど全くしていなかった。葵に酒だけでは胃を壊すと言われ初めは葵に付き合う形で肴に手を伸ばしていたが、最近では葵の作る肴を気に入って、何を食いたいか所望するまでに好きになった。また葵も酒があまり好きでなく特に日本酒などは一切飲んだことなどなかったが、アヤメの用意する酒があまりにもうまいので最近ではほかの酒の席でも日本酒を飲むようになった。このような事があって2人には分担が決まっているのである。今日の肴は蛤の酒蒸しである。ねぎは九条の物を知り合いからもらったので、いつも使うネギよりも少し風味が違う。アルミホイルに生のハマグリを入れ、味付けはしてきている。あとは火にかければ誰にでも酒蒸しが出来るようにして持ってきている。これは熱々の料理を出来るだけ食べさせてあげたいという葵のやさしさである。彼にとって手料理で彼女が満足そうにするのが最近の楽しみであるのだ。


 「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」

門をたたくと美しい女性が葵を中へ案内した。誰が見ても息をのむほどの美しさだがいつも彼女がアヤメのもとまで案内してくれるので、最近では葵もその顔を何度も見たりはしない。初めあった時には彼もその顔にくぎ付けというか虜になりかけたのは言うまでもない。そんな彼女の背を追っていくと屋敷の中に案内された。いつもの長い縁側を歩くとその右手には山花が植えられた庭が見えてくる。山の一部をそのまま切り取ってきたかのような庭で、野花や木が植わってはいるがそこに統合性はなく荒れ放題にも見えるが、良く見ればある程度は手入れが施されているようだ。

「よく来たな。葵」

縁側に座る人影が葵に声をかけた、アヤメである。そろそろ来る頃合と読んでいたのかもう縁側には酒の盃が2つと酒が用意されている。美しい女性だ。年は葵とそう変わらないように見えるが女性に野暮な詮索は無用である。目は切れ長で肌は白い、口元にはあるか無しかの微笑を含んでいる。現代の美人と言うよりも、中国の楊貴妃をにおわせるような美しさである。まるで吸い込まれてしまいそうな魅力を年端もいかないこの女性は身に纏っているのである。服装は少し着崩れてはいるが赤を基調とし、金糸を織り交ぜた着物に袖を通している。

「少し遅くなってごめん。仕事は長引いてしまってね。携帯にメールはしておいたけど見てくれたかい?」

そう言って確認をするためか葵は携帯を開いた。アヤメは少し微笑しながらそれなら繭蟲に持たせている。と言った。いやいや…自分で持っていてくれないと意味がないわけだが、彼女にそんなことを言っても聞き入れてはくれないだろう。葵は若干諦めかけながら、繭蟲と呼ばれたあの美しい女性にアルミホイルに包んである肴を渡して調理方法を説明した。繭蟲はそれを静かに聞きいれ、かしこまりました。と軽く会釈をすると奥に引っ込んでしまった。


 ほろりほろりと酒を飲んでいる。もう瓶子が3本程空になってる。そのほとんどはアヤメが空けたものだ。5月の上旬、庭に何本が植わっている桜の枝からは緑色の葉が少しずつ顔を出している。まだ花びらも少し残っていて、散ったそれがたまに盃の中に落ちてくる。他にもさまざまな花がこの庭には咲いているが、その花がなんという花なのか葵には分からない。話題に対してもただ葵が話すのにアヤメは任せている。葵がその日にあったことを話し、アヤメがそれに耳を傾ける。いつもの光景であった。少しだけ違ったことがあるとするならば、話の途切れに思いついたようにアヤメが葵に話しかけたことくらいか。そう言えばと前置きをしながら先ほどの話題とは関係なく

「リョウメンスクナと言うのを聞いたことがあるか?」

葵に問いかけた。あまりないアヤメからの問いかけに少し驚きはしたが、それでも葵は嬉しくて笑った。それに聞きなれない言葉に感じるこの言葉も葵には心当たりあった。

「それはネットで読んだことがあるよ。古いお堂からミイラが出てきてそれが実はとんでもない代物だった!って話だよね?」

それを聞いてその通りだよと盃を口に運びながらアヤメはうなづいた。


話の全容はこうだ。解体工事の仕事をしている男の体験談として話は始まり、ある日古い寺を解体することになった。そこで人一人入りそうな木箱を見つける。お札が貼ってあったが所々敗れていて全容は分からなかったが、大正時代に何かを呪法で封じたとだけ分かった。木箱のふたには釘が打ちつけてあって、その不気味さから開ける気にもなれず、現場監督に報告をすると、とりあえず寺の管理人に聞いてみてくれとの事だったので管理会社に問い合わせると、元住職に話を聞いてみるとの事。次の日の朝この寺の元住職と連絡が通じたが、ものすごい剣幕でそれは明日うちが引き取るから絶対に開けるなと念を押されたと管理会社から連絡が入る。現場監督に連絡を入れようとすると、逆に連絡が入り、時はすでに遅くプレハブに保管しておいたそれを留学生アルバイトの2人組が面白半分に開けてしまい、状況は一変。その2人は頭がおかしくなり、病院に運ばれてしまったという。急いで現場に向かったが、もう5~6人の人だかりができていて、その中心にいたのが、その木箱と放心状態の留学生2人。箱の中身はシャム双生児のような頭・腕が2対ずつあるミイラでボクサーが構えるファイティングポーズのような恰好をしている。留学生2人を病院に連れていくかとなった時に齢80くらいの元住職とその息子が来るまでやって来て空けた2人はもう助からない、そしてそれを見た主人公を含める全員も長生きは出来ないと聞かされ、その場でお祓いをしてもらう。後日談としてその住職の息子からそのミイラの名前はリョウメンスクナと言って邪教徒が蟲毒と言う呪法を用いて作り出した即身仏であり、国家を呪うために作ったものであると聞かされ、話は終わる。


 この話の面白いところは、何もかもが解明されていない点にある。分かる点、分からない点がとてもバランスよく調節されていて、考察するの隙間をうまく作っている。また全くありえない話とも言い切れずどこかリアリティのある文面も興味をそそられる。葵は怖い話などをネットで読むのが好きで、こういうオカルト的な話題には結構詳しい。いつも寝る前には暗闇の中携帯でこんな調子の話を眠気が来るまで読み続けている。リョウメンスクナももちろん読んだことがあり、しかもかなり有名な話な為読んだ回数は1度や2度ではない。アヤメもこの事は良く知っているから聞いたのだろう。

「実はそのリョウメンスクナの件で話が来ているのだよ。」

アヤメは飲みほした盃を床に置きながら言った。すぐに繭蟲が空の盃に酒を満たす。葵はそれを聞いて驚かないはずがなかった。この話はその筋で言えばかなり有名な話ではあるが、実際の話であるとは思ってもいなかったからである。

「ま…まさか!あれは誰かが作った創作の話だろ?確かに面白い話ではあるけどあのミイラが存在するってこと?」

少し興奮しながらの問いかけに、その通りだよとアヤメはその顔に微笑を浮かべながら言った。

「確かに創作の部分も少し入っているだろう、それが招いた大災害の話などは全てでっち上げだ、それを作者がでっち上げたのか、はたまた住職の息子がでっち上げたのかは分からないがね。」

割愛をしてしまったがこの話の中でリョウメンスクナが全国を転々と移動していたことが分かるのだが、その先々で様々な不幸な事故、自然災害が起きていると語られるシーンがある。アヤメはこれを嘘であると言っているのである。

「今日の夜にこの話に出てくる80過ぎの和尚様が息子さんとここを訪ねる事になっている。」

「!?」

葵はさらに驚いた。突然話が進み過ぎて、何が何だか把握しきれていない。

「ちょっと待ってくれ!今日の夜って今19時だぞ?もう来るってことなのかい?」

アヤメは盃を手に取りながら小さくうなづいて見せた。驚きで動揺を隠せない葵とは裏腹にアヤメはすこしも動揺することなく酒を飲んでいる。葵の動揺を楽しみながらそれを肴に酒を飲んでいる様にさえ見える。

「おや、噂をすればなんとやらだ。ご到着のようだ。繭蟲やお通ししておくれ。」

繭蟲ははいと会釈をすると葵を案内した道をたどるようにしておくに消えていった。


「本日は遠方からよくぞお越しいただきました。」

葵が来た時とは打って変わって着崩した着物はしっかりとなおし深くお辞儀をした。お辞儀の先に2人の男が座っている。物語に出てくるそのままの2人なので葵は有名人にあったかのような気持にもなっていた。

美しい女2人にもてなされ、2人とも少し顔にゆるみが出来る。いつもの姿を知っている葵から見れば繭蟲はともかくアヤメに関しては猫を被っている様にしか見えない。

「繭蟲やお2人にも盃をお持ちしておくれ。」

繭蟲はまたお辞儀をしておくに消えていった。

「私たちは車出来ておりますのでお酒はちょっと…」

若い男性の方が察してお断りを入れてきたが、アヤメはすべてお見通しと言わんばかりの涼しい顔で何も答えない。繭蟲が盃を2人の前に置きそれに繭蟲が酒を満たしてからやっとアヤメは口を開いた。

「お2人とも今日はお泊りになってくださいな。この寺は部屋がたくさん余っておりますので。ずっと何かに追われてきたのでしょう?宿に泊まろうにも後ろにあるその大きな木箱と一緒では断れていた事は想像が出来ますしね。今日くらいはゆっくり休んで下さいな。」

そう言って断れない風に話を進める。その半場強引な言い方にお年を召した和尚は深くため息をつくと坂月に満たされた酒をグッと一気に飲み干した。

「おい…親父…」

それを見て息子は何をやっているんだと言わんばかりに和尚を咎めようとしたが、もう済んでしまっている事なので、どうしようもないことを悟ったのか、それ以上に何も言わなかった。

「お前もこの酒を飲みなさい。この人にはすべてお見通しなのだよ。この木箱の中身も、そして我々が何に追われているかもな。」

和尚の言うことが半場信じられないのか一度疑うようにアヤメを見たが、アヤメはその鋭い目線に眉の一つも動かさないで、会釈をするだけであった。

ええい…こうなりゃヤケだ!と息子も盃を一気に空にした。


『リョウメンスクナ』

その姿はボクサーのように構えた格好をした手が二対、頭が二対あるミイラの事である。

ミイラと言えばエジプトを連想するものが多いかもしれないが、即身仏と名前は変われど、れっきとした日本の文化でもある。僧侶などが生きながらにしてその体を仏の道に捧げミイラとなる事で、自分自身を仏としてまつってもらおうとする、現代では考えられないほどに狂った考えからである。このあたりがエジプトのものと大きく異なっている。エジプトでは死者の魂はいつか元の体に帰ってくると信じられていた為、その亡骸が腐らないように防腐処理を施し、ミイラとすることで魂の帰るところを残してやる。と言うのがそもそもの目的である。しかしながら日本の即身仏と言う考え方はまだ生きているままにミイラとなろうというのだ。まだその余生にそれほどの幸福が、どれほどの面白みがあるかも知れないのに、神のために生き埋めとなり絶命し、ミイラになろうというのだ。狂っているとしか思えない。全くもって常識とは恐ろしいものである。その時代に常識が存在するがそのすべてが正しいとは限らない、言ってしまえば間違えていることの方が多いのではないか?そんな時代に僧侶として生まれなくて本当に良かった。少し話が脱線してしまったが、ともかく自ら望み生きたままにミイラになった仏を即身仏と呼ぶのである。リョウメンスクナ大まかに分ければこの測人物に該当する。大まかにと言うよりも、ぱっと見はと言った方が賢明かもしれない。なぜならばこのミイラは望んで即身仏になったわけではないのだから。興味がある人はネットで調べてほしい。このミイラは現代で言うシャム双生児をミイラにした物で、決して死体をつなぎ合わせたりして作ったのもではない。出生について詳しい事は分かっておらず、見世物小屋で見世物になっていたものをある宗教団体が買い上げ、今の姿に仕上げたようである。その過程には非人道的なことが数多く行われており、同じように障害のある人間たちを洞窟に閉じ込め殺し合いをさせその死肉さえ食べなければ生きていけないほどに監禁してそのあとで即身仏とするために殺したようだ。この場合即身仏と言うよりも宗教の本尊とするいわゆる神格化の為、利用されたに過ぎない。その神格化されたこの禍々しいミイラは様々なところを転々としてこの住職の寺に落ち着いたらしい。ここに来るまでに色々な場所を転々としながら様々な災害を起こしていたとネットでは書かれているが、これに関しては年号が合わなかったりするので、嘘であるという推察が有力視されている。まあ今となってはそんな推察などせずこの目の前の男性に聞けばすべてわかる事なのだが。


 とにかく住職とその息子はこの日この寺に泊まる事となった。リョウメンスクナは二人が肌身離すわけにはいかないと言って今日泊まる部屋(1階の一番住みの部屋に木箱ごと移動させた。ミイラのためか見た目ほどは重くないようで、息子さんだけで軽々と担いでいた。)俺は今日家に帰る予定だったがこの二人に興味があったし、そもそも見ず知らずの男二人とアヤメだけにするのは何となく気が引けたし、俺から言い出さずともアヤメの方から「今日は泊まっていかないか?」と聞いてくれたので、なんとなくその場の雰囲気に流されて俺も泊まる事となった。幸い明日は休みである為夜更かしをしたとしても明日への心配はない。ただ心配事は一つあり、アヤメが住職と息子さんの部屋で寝ると言い出したのだ。これには3人とも驚いた。とにかく息子さんは少しにやけている気がしたし、住職にそのような心配はいらないと思うが、息子さんを止められるほど力があるとも思えない。思わず俺も一緒に寝ると少し感情的になりながら言ってしまったがそれを聞いてアヤメは本当に面白そうに微笑を育てるとお前は何も言わずともここに泊まることになっているよ。この二人に聞きたいことが山ほどあるのだろう?今日聞かなければもう聞くことはかなわないかも知れないからな。そう2人を見ながらつぶやいた。息子さんは少し嫌な顔をしたが住職はこれも予想していたのか、なにも言わなかった。この際の嫌な顔と言うのはリョウメンスクナについて根掘り葉掘り聞かれることに対してと、俺が同じ部屋に泊まる事も含まれている。寝るまではひとまず二人を部屋に残し、俺とアヤメは元の場所で酒を飲みなおした。


「お前はたまに突拍子もないことを言うから困る。」

ホロホロと酒を飲みながら俺は口を尖らせた。露骨に不満そうな顔をしているがアヤメに反省の色は見えない。

「それはすまなかった。しかしあれは今日中にどうにかしてしまいたかったのだよ。あの二人をこのまま帰すわけにも行かなかったしな…」

「帰していたらどうなっていたんだ?」

「あの二人は殺されてそのあとにたくさんの人間が死んでいたろうな。」

「…」

返す言葉が見つからない。と言うよりもそれが本当ならオカルトの域を超えてしまっている。やっぱりリョウメンスクナって相当やばい物なのか…おれは無意識に難しい顔をしていたのだろうか?それを見てアヤメははっきりと笑った。アヤメは二人の時でなければこれほどはっきりと笑うの事はない。そもそも笑うことが珍しいが…いやいつも微笑しているようにも見えるから、人によっては常に笑っている様に見えるのかもしれない。

「私の言うことを全て信じているのかい?普通こんなことを言われたって良くて半信半疑に信じるくらいのものだろう?そこまで鵜呑みにされてしまうと、私も迂闊に適当な事は言えないな。」

ってたくさんの人が死ぬってのは嘘かよ!思わずツッコミを入れてしまったが、アヤメはもうはっきりと笑うのはやめていつものように微笑をその顔に浮かべるばかりである。

「嘘ではないさ、しかしたくさんの人と言うのはいったい何人の事だ?」

その問いに俺はすぐに答えられなかった。確かにたくさんとか具体的な数を含まない表現方法だと人によって感じ方が様々である。

「例えば私はたとえ3人でも周りで人が死ねばたくさん人が死んだと思う。これは日本でまず相次いで人が死ぬなんて事がなかなか無いし、もしかしたら2人の人間が相次いで死ぬだけでも十分に珍しいことだからだ。」

確かにそうだ。100人とかそんな数でなくても少人数でも人が死ねばそれはたくさんになりえる。しかし突然なぜこんな話をはじめたのだろうか?

「私が言いたいのはリョウメンスクナがネットで拡散された時に災害規模の人に影響が出たと誇張されてしまったことが、少々話を面倒にしてしまっているということなのだよ。」

民衆の認識こそがこの類の力の源であるからなと一言添え、アヤメはその盃の酒を飲みほした。

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