式の神
式神とは、かの有名な陰陽師『安倍晴明』などが好んで使ったとされる物に宿る付喪神や、自然の精霊などを使役したものである。
それは元の姿から、人の姿となって陰陽師と呼ばれる人間の身の回りの世話や、守護を任されたとされる。
現代ではそれを扱える人間は極少数であり、数人しかいないとされ、それを認知している人間もひとつまみである。
久内謙徳和尚和尚もそれを扱える現代では、貴重な存在であり人の目が届かない所であれば、式神達に身の回りの世話をやらせたりもした。
謙徳和尚は、月華という美しい女の姿をした式神と、輪入道轟雷と呼ばれる筋骨隆々な男の式神を仕えていた。
そして、まだ卵ではあるが最近やっと『繭蚕』と呼ばれる式神をその手に入れる事となったのである。
もともと月華は月の世界とされる月天津に飛ぶとされる金に光る蝶である。
その鱗粉も金色に光り、美しい蝶であるがまず人が普通の一生を過ごす中で見ることなどない蝶である。
齢40を過ぎた頃に、謙徳和尚が月天津の恩を売る形となり、手に入れたものである。
輪入道轟雷、この先から轟雷と呼ぶが、こちらは明治時代の初期から乗られていた馬車の車輪に着いた付喪神と呼ばれるものである。
数々の伝承には、『付喪神』とは100年経つと物には命が宿るとされていて、諸説はあるが『九十九神』と表されることもあり、99年で命が宿ると伝承される事もある。
轟雷がいつ付喪神となったか定かではないが、謙徳和尚がまだ齢40を超えない頃に町で暴れまわる轟雷を鎮め式神としたのである。
輪入道と聞けば燃え盛る車輪の妖怪を連想するが、轟雷は読んで字がごとく雷を操る類まれな妖怪、いやもはや精霊と呼ぶのが相応しい。
なぜ輪入道でありながら雷の力を得るに至ったか、それを謙徳和尚がどう鎮めたのか、それは別の機会に書くとしよう。
そして最も苦労して手に入れたのが今はビーズほどの大きさしかない白い蚕『繭蟲』の卵である。
憑いた人の心の形によって様々な姿になる面白い式神だが、これが手に入れるのは容易ではない。
悟心鬼という鬼が唯一この式神の作り方を知っていて、その鬼から物々交換をして手に入れるしかないのだ。
まず鬼に夜中声をかけ、「わらしべと何かを交換しないか?」と尋ねる。
すると「それならこれをやろう。」と何かの種を何粒か渡される。それを育てる。必ず花の咲く種なので咲いた花をまた持っていく。
するとそれならと、また種を渡される。
これを99回繰り返さなければならないのだ。
どんな種かも説明されないので、その都度に根気よく何の種か調べなければならない。
また季節を選ぶ植物もある。鬼は不自然な時期に花を持っていけば機嫌を損ね、もう返事をしなくなってしまう。
そのため夏にしか咲かない花を秋に渡されれば夏まで待たなければならない。
謙徳和尚は根気よくこれを続けて、10年をかけやっと鬼から繭蟲の卵を手に入れたのである。
この繭蟲、ついた人間の背中に一週間ほど